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やおよろず生活安全所  作者: 森夜 渉
二章 やおよろず生活安全所
17/62

15/命の変化

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「咲枝さんっ!」

蓮美は叔母、咲枝の背中に向かって叫ぶ。

「私、就職が決まったよ、不思議な所で職員の人も……」

背を向けていた彼女は振り向くが、蓮美を見て不安げな表情を浮かべている。

口元は何かを伝えようと動いていた。

「何、聞こえないよ?」

喜んでくれないの。

どうしてそんなに悲しそうな顔をするの。

「咲枝さん……」

そこで蓮美は目を覚ます。

「……夢」

おかしな夢だった。

寝返りをうつとカーテンから光が漏れこんでいる。

目覚まし時計を見ると朝の6時、出勤の支度をする時間だ。

「起きないと……」

モソモソ身を起こし、朝食の準備をしながらテレビのニュースを付ける。

「あ……」

画面の上でテロップが鉄道の遅延を知らせていた。

「またかぁ……」

それも今日から通う勤務先、やおよろず生活安全所に向かう路線だ。

理由は車両システムの停止とある。

今朝のも悟狸から聞かされたマガツカミの一つ、バグの仕業だろうか。

交通機関に群がる人込みを想像してうんざりする、急がなければ。

食事を終え、リクルートスーツに着替えると叔母の写真に声を掛けた。

「いってきます」

部屋の鍵を閉め、小走りで歩く。

慣れない革靴でかかとを気にしながら。

「うわ」

駅の中は混雑を極め、勤務に慣れたら職場近くへ引っ越そうか。

そんな事を考える程に電車内ではもみくちゃにされた。

路線を乗り継ぎ、バスを降り。

異世界に迷わず、無事にやおよろず生活安全所へと辿り着く。

今日はどんな一日になるのか、そんな風に考えていたら。

「ん?」

誰かが玄関前にいる。

現世の神こと、命が膝を抱えて座り込んでいた。

彼は昨夜、流星となって空を飛び、社会のシステムを守る為にマガツカミであるバグと戦った。

まだ彼が神という存在である事を信じられずにいたが。

「おはよう命君。どうしたの、こんな所で」

「おはようございます……」

命は声を掛けると立ち上がり、一緒に玄関内へと入った。

彼の住まいは所内の宿直室である。

外に出てくる必要はないので、そのまま職員室へ向かえば済むはずなのだが。

揃って無限の廊下を進んでいくが、命は一言も話さない。

「もしかして命君、私が来るのを待っててくれたの?」

内部は異空間で迷子になる場合もある。

それは昨日、身を持って体験していた。

「所の門や鍵を開けるのは僕の係なので、それに蓮美さん、まだここに慣れていないと思って……」

ボソボソ独り言の様に話す。

初日での互いの隔たりは埋まらないと感じていたが、幸い狭まりつつあるようだ。

「ありがとう」

礼を言うと彼がグルンと首を向け、ジリジリと彼女ににじり寄った。

「み、命君?」

近い。

「命君っ」

近い。

近い。

にじり寄った命は蓮美を廊下の端まで追いやり、壁ドンをした。

「ですか……?」

「は、はい?」

「臭いですか、僕、昨夜は沐浴して頭と体を洗いました……」

「う、ううん臭くないっ!」

「そうですか、おや……?」

鼻を近づけてスンスンと彼女の髪を嗅ぐ。

「蓮美さんはいい匂いが……」

「蓮美ちゃあぁあああんっ、おはようおぉおおおっ!」

絶叫と共に狐乃が走って現れ、命の頭を鷲掴みにして床に思い切り転がした。

「俺も今来た所でさ、まだ誰も、誰も来てないみたいだね。二人で職員室へ行こうか、二人でっ!」

命は眼中にないといった感じだ。

転がされた命は起き上がると、狐乃に掴みかかる。

「おはよう、蓮美!」

二人がもみ合う中、和兎が出勤してきた。

「朝から元気がいいわね、あんた達。蓮美、一緒に職員室へ行きましょう」

「は、はい」

和兎が二人を受け流して職員室へと向かう。

向かいながら昨夜連れて行ってもらった居酒屋の豆狸、あそこの料理は絶品だったと話しした。

店のメニューで盛り上がっていると悟狸、犬威、猿真も出勤して来る。

「おはよう蓮美君、今日から改めてよろしくね」

悟狸がニコニコしながら言うと、犬威、猿真も笑顔でよろしくと挨拶する。

「よろしくお願いします」

蓮美は三人に向かって一礼した。

「そうそう、さっき命君と狐乃君が廊下で取っ組み合いをしていたよ。若いしエネルギーが有り余ってるのかな」

「すみません、命には言っておきます」

犬威が謝ったので悟狸が慌てる。

「いやぁ、嫌みじゃないんだ。僕はもう年だから、あんな風にはしゃげて羨ましいと思って。たまにはガス抜きも必要だし、そっとしておいたんだけどね」

悟狸が笑って言うと、荒れた風貌の命と狐乃が遅れてやって来た。

「お前が蓮美ちゃんにいちいち奇抜な行動取るから悪いんだ。俺は助けに入っただけだ」

「僕は悪くないです……」

「フン。ねえ、蓮美ちゃん、今週の金曜日の夜に飲みに行かない。行きたい夜景スポットがあれば連れて行くよ」

狐乃は身だしなみを整えながら彼女の机まで来る。

「朝から堂々とナンパか……」

和兎が玉露のお茶を入れながら呆れた。

悟狸がおいおい狐乃君と声を掛け、犬威もやめないかと止める。

頭の中が仕事モードでいた蓮美は彼の誘いに戸惑った。

「え、えっと……」

狐乃は周りの視線を憚らない。

自分に自信があるのだろう。

「花の金曜だよ、仕事も大事だけど遊びも学ばなきゃ。花の金曜、花金、花金」

「あの、でも……」

「なんですか急に、意味がわかりませんっ!」

ムッとした口調で命が割って入ったので、皆がおやっと三人を見た。

「は、花の金曜日っていう、明日は土曜で休みだから羽目を外して金曜の夜を楽しもうっていう略語だよ。略して花金、昔に流行った言葉が元だよ」

向けられる視線が痛いのか、彼女は取り繕うように説明してやる。

「ふぅん、そういう意味ですか……」

命が憮然としながら答えた。

「なんて聞こえたの?」

蓮美が聞く。

「狐乃パイセンがタマキン、タマキンって言ったように聞こえました……」

「ブフゥn!」

和兎が飲んでいたお茶を吹いた。

「なんでタマキン連呼してんだよ。頭おかしいだろ、いやお前が」

狐乃が命を睨んだが、再び彼女を見る。

「蓮美ちゃん、ど……」

「蓮美さんっ」

言いかけた所で命が大きな声を出した。

皆が二人を見る。

「うるせーよ、蓮美ちゃ……」

「蓮美さんっ!」

また大声を出した。

「なんなんだよっ、もしかして焼き餅焼いてんのか、お前?」

「餅なんか焼いてませんっ!」

命がドンッと机を叩いた。

「その餅じゃねえよ」

皆が狐乃、命、狐乃、命と視線を移して交互に見る。

「ま、まあまあ狐乃君、蓮美君は入所したばかりでまだ仕事に慣れてない。お誘いはもう少し時間が経って落ち着いたら申し込もうか。命君も落ち着いて」

悟狸が宥めると、二人は同時にフンッとそっぽを向いた。

「そうだ蓮美君、お昼のお供物だけどね、もし今後も担当してくれるようなら献立を作る時間とか、一日のスケジュールの進め方を君専用に立ててもらおうかと僕は考えていて……」

「蓮美さんっ、僕は今日のお昼はうどんがいいですっ!」

ここでもまた、悟狸の言葉を遮って命が叫んだ。

「み、命君、どうしちゃったの?」

「そうよ、急に大声出して変よ?」

昨日までの無口な彼とは態度が明らかに違う。

熱でもあるんじゃないのと和兎も心配した。

「待て、命。お前今なんて言った?」

しかし犬威だけは冷静だ。

「お昼はうどんがいいです……」

「もう一回言ってみろ」

「お昼はうどんがいいです……」

「もう一回」

「麺は讃岐、出汁は利尻の昆布、具は瀬戸内で取れた大アサリをのせたうどんが食べたいです……」

最後にうどんのグレードが上げられた。

「ハハ、お前、初めて自分の食べたい物を自分で言ったな……」

途端に犬威が目元を抑え、肩を震わせ泣き出す。

「自分で食べたい物を……」

「うーどーんっ、うーどーんっ!」

「なら俺も蓮美ちゃんに手作りの稲荷寿司を作ってもらっていい筈だ!」

咽び泣く犬威。

うどんコールを叫ぶ命。

稲荷寿司を主張する狐乃と、カオスな展開に蓮美はどこから回収するか困った。

「朝、朝霧君……」

涙を浮かべた犬威が先らしい。

「は、はい!」

「すまないが昼はうどんを作ってやってくれないか、命に……」

「讃岐の麺は国産小麦でっ!」

命がグレードを更に引き上げる。

「麺は国産小麦ので頼む……」

「わ、わかりました」

「じゃあ俺のシャリは宮城県産コシヒカリだあぁあああっー!」

狐乃も負けじと稲荷寿司のグレードを上げた。

「すまないねぇ……」

悟狸が謝ったが、これも仕事ですからと蓮美は苦笑いで答える。

「それにしても驚いた。命君が大声を上げて自分の意思を示すなんて、この方なかったものね」

和兎が言うと悟狸も猿真もうんうんと頷く。

「うぅっ、ぐふっ!」

その言葉に犬威の嗚咽がますます激しくなる。

手塩にかけて育てた彼の変化に感極まったらしい。

「蓮美ちゃんはお前の召使いじゃねえぞ。犬威さんが甘いからって調子に乗るなよ」

狐乃が命に釘を刺した。

「召使いだなんて思ってませんっ!」

声を荒げ、ムキになって言い返す。

「じゃあなんだよ」

「蓮、蓮美さんは……」

和兎、悟狸、猿真が命を見つめる。

「蓮美さんは……」

蓮美も命を見た。

「僕の友達ですっ!」

「えぇええええええええっ!」

悟狸、和兎、猿真が驚きの声を上げる。

「うぉおおおおおおおんっ!」

犬威の嗚咽も号泣に変わった。

やおよろず生活安全所、勤務二日目。

この日は蓮美にとって、波乱の幕開けとなる序章に過ぎなかった。



皆さん、こんにちは。

先日、海外、トンガ王国付近で噴火がありましたが津波の影響の方は大丈夫でしたでしょうか。

海沿いの方では影響があったと聞きました、また、トンガ王国や他の国々でも影響が及んでいるとの事で、現在の状況など心配しています。


状況が少しでも落ち着けばと願っています、どうかしばらくは何事もありませんように。

※ブログを書く予定でしたが、今回は控えさせて頂きます。






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