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やおよろず生活安全所  作者: 森夜 渉
一章 やおよろず生活安全所
12/62

11/中庭

「家庭科室っ!」

廊下に向かって叫び、家庭科室へ戻ると冷蔵庫にしまったタッパーを取り出した。

それを持って命の姿を探す。

異空間を探して、走って、見つからず、息を切らせながら思いついたあの場所。

「中庭へ行きたいっ!」

そして、いた。

昼間に犬威と来た渡り廊下の中庭。

空を仰ぎ、木にもたれる命がそこにいた。

蓮美はサンダルを履くと外に出る。

「命君……」

聞こえている筈だが返事はなかった。

「お昼のお供物、味を変えて作りおいて置いたの。宿直室の部屋でカップ麺の容器を見たんだけど、あれだけじゃ夜にお腹がすくんじゃないかと思って、命君のお弁当用に。お昼はドリンクだけみたいだったし、よかったら夕飯に食べてくれないかな?」

「……」

「食べてくれるとうれしいな」

すると木から離れ、彼が彼女に近づいた。

「あの……」

だが横をすり抜け、受け取らないまま渡り廊下へと向かう。

「命君っ」

片手を掴み、タッパーを無理やり持たせようとした。

「これ……」

「さわるなっ!」

振り向きざまに怒鳴られる。

初めて聞いた、彼の大きな声だった。

驚いた弾みでタッパーを地面に落とす。

きちんと閉じていなかったのか、蓋が開いて中身がこぼれ出た。

「あ……」

命が一言、声を漏らす。

明確な拒絶をされ、蓮美の心で警報が鳴った。

ダメ。

ダメ、ダメ。

ダメダメダメ。

泣くな、私。

思い出すな。

「……」

大丈夫。

私は大丈夫。

怒っていないし、悲しくもない。

今の私は幼い日のあの私ではないのだ。

だから大丈夫。

大丈夫。

「命君、ごめ……」

強引に渡そうとした事を謝ろうと、彼を見た。

「……命君?」

様子がおかしい。

ブルブルと震えている。

小刻みに体を震わせ、歯を食いしばっていた。

「みこ……」

異変に気付く。

彼の数メートル上。

青い火花を放つ稲妻のような物が見えたからだ。

稲妻は目を凝らさないと見えない程小さな物だったが、やがてはっきりとした、龍の様なうねりとなって彼の頭上から放たれ始めた。

「あぁあああっ!」

中庭の空に向かって絶叫する。

所内に響き渡る程の、喉が張り裂けそうな叫び声だった。

よほど苦しいのか両腕でシャツの胸元を掴んでいる。

「命君、どうしたのっ!」

「あぁあああっ!」

声がかき消される。

近づこうにも状況がわからず、怖くて動けない。

「あぁあああっ!」

「み……」

恐怖を振り切って一歩近づいた時。

彼がパカリ、と。

上空に向かって口を開けた。

「検索結果、ガ、見ツカリマセン」

その口から。

無機質で抑揚のない。

機械的な声が絞り出される。

「検索結果、ガ、見ツカリマセン」

繰り返す声は彼の物ではなかった。

冷たく、感情のない、

おかしなトーンの人工音声だった。

「うぅうううっ!」

今度は地面に転がり、足をバタつかせる。

その時だった。

「命っ!」

中庭に犬威が飛び込んできた。

「切れっ、回線を切るんだっ!」

「うぅうううっ!」

犬威は指でくうに何か書くと、その手を転がった命の額に押し当てる。

そして片方の手で暴れる彼を押さえつけた。

「たかあまはらにかむづまります、かむろぎ、かむろみのみこ……、命っ、聞こえるかっ、回線を切れっ、今すぐ切れっ!」

「あああっ!」

命は体をのけぞらせる。

食いしばった歯から血の混じった泡が見えた。

「すめみおやかむ、いざなぎのおおかみ……、いいかっ、お前が知ろうとしているのは唯の情報であって心ではないんだっ、聞けっ、聞くんだっ!」

「あぁあああっ!」

「命君っ!」

蓮美は駆け寄ると暴れる彼の手を握った。

そして祈った。

神様。

彼を助けてください。

お願いです。

お願いです、どうか。

そう一心に祈った。

「うぅ……」

すると力が抜け、ぐったりとする。

「命……?」

犬威は様子を見ていた。

落ち着いたのを見届けると手を離し、額の汗を拭う。

「犬威君……」

悟狸の声がし、振り返ると渡り廊下に職員が集まっていた。

叫び声を皆が聞いたらしい。

「狐乃、命を医務室に運ぶ。すまないが手を貸してくれないか」

「はい……」

狐乃が犬威と彼の肩を担ぎ、中庭から出て行く。

去り際。

手のかかる後輩だよお前は、と、小さく聞こえた。

三人が去っても蓮美は動こうとはしない。

じっとしたまま動かないでいた。

「蓮美、人間のあなたはそろそろ終業時間だわ。帰る支度をしましょう」

和兎が近寄り、肩に手を置く。

「……帰る、誰が?」

「あなたがよ」

「……帰るって、どこへ?」

彼女の瞳は和兎ではなく別の方向を見ている。

今のショックからか、正気を失っていた。

「悟狸さん、蓮美が」

「いや、これはいかんっ、彼女も医務室へ!」

和兎に連れられ、蓮美も医務室へと向かった。


皆さん、こんにちは。

こちら二回目、校正後のコメントになります。


この回も短いので早く終わりました。

次の展開に進むべく、目指すは一章の手直し終了を目指して……。

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