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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第九章 決勝のあと
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チャプター78

~王城 中庭竜王杯会場~



 武舞台に戻ってきたザルツラント侯爵。これからいよいよ表彰式なのだと、観客席が静まり返る。

 ゆっくりと舞台中央まで歩みでた侯爵は、会場をぐるりと見回すと、仰々しく咳払いを一つして、喉を鳴らして口を開いた。

「会場の皆様。いよいよ最後、表彰式の時間です。それでは、まずはこの大会の主役、決勝を戦った二人を呼びましょう。優勝者、アルベルト・フォン・ゲッツェンマイヤー! そして、準優勝、ラインハルト・ハインツ!」

 決勝戦の開始と同様に、侯爵の名乗りを受け、割れんばかりの歓声と共に二人が武舞台に戻ってくる。二人の装いは、先ほどとは異なり、立派な服装に身を包んでいた。貴族であるアルベルトは正装なのかもしれない。ラインハルトは一般兵士であり、貴族のような正装は支給されない。おそらくは、このために支給されたのだろう。決勝戦が決まった時点で騎士団が保管している身体データを元に、最も近いサイズの服を調達したのかもしれない。少なくとも、一から仕立てていては間に合わないはずだ。

 その証拠に、見事に着慣れている風のあるベルトに比べ、ラインハルトの様子はいかにも着慣れていない様子で、居心地悪そうにしている。側から見れば微笑ましい光景だが、当人としてはいかにも着心地が悪く早く着替えたいことだろう。

 それでも、表情は明るい。このハレの舞台を準優勝という立場で踏めること自体は嬉しいのだろう。

「この大会を素晴らしく彩ってくれた二人に盛大な拍手を!」

 武舞台中央に歩み出た二人を歓迎するように、三方向からの拍手が包み込む。

「盛大な拍手、ありがとうございます。主役の二人の表彰の場に馴染んだところで、これより国王陛下のお出ましです。一同、ご起立ください!」

 その声に、沸き立っていた観客たちの表情がこわばる。流石に国王が現れるとなれば、緊張も走る。これまでの大会でもずっと国王は観戦していたが、なにぶん一般の観客席からは離れた、それも高いところに王室用の席が設けられていたため、視線を向けることもなく、日々の試合開始と終了の際に軽いスピーチを行うだけだった。それが、今まで以上に距離の近い武舞台に現れるというのだから、緊張するなという方が無理である。

 だが、それはラインハルトも同様のようで、途端に表情が固まり、嫌な汗が流れ始めた。

(えっ! 王様がここに来んの? ちょっと、洒落にならないって!)

 しかし、隣に立つアルベルトはそれを見逃さなかった。決勝を共に戦い抜いた仲、それくらいのことはもはやしっかりと伝わってくるのである。

「ラインハルトくん、そんなに緊張することはないよ。何かあっても私がフォローするから。一応、貴族として何度か陛下には謁見してるしね」

 と、小声で耳打ちをする。

「助かりますっ。俺、王様に会うの初めてなんスよ。表彰式に出るならもしかしたらとは思ってたんスけど、いざその時が来ると急に緊張してきて」

 まるで地獄に仏と言った様子で言葉を返す。緊張で堰き止めていた感情が、アルベルトから差し伸べられた言葉によって、溢れ出てきたかのようだった。

「最初はそんなものだよね。私もそうだったよ。おっと、陛下のお出ましだ、首を垂れて」

「は、はい」

 アルベルトのアドバイスに従い、ぎこちない動きで視線を下げて国王の入場を待つ。すると、静寂を縫うように足音が近づいてきた。ラインハルトには耳馴染みのない、足音だ。当然それが国王であることはわかるのだが、顔を上げるわけにはいかないので、直接確認することができない。だが、突然観客の歓声が湧き上がる。

「二人とも、顔を上げるが良い」

「は、はいっ!!」

 国王は顔を伏せたままの二人に、優しく声をかけた。アルベルトは何度か謁見していることもあり自然な所作で顔を上げるが、ラインハルトはやはりぎこちなく顔を上げた。だが、彼らの声は歓声にかき消されて観客たちには聴こえない。

「そう固くならずともよい。気楽に構えて居ればよいのだ。侯爵、例のものを」

「はっ」

 ザルツラント侯爵は懐から何やら小箱を取り出した。それ自体のしつらえもしっかりした上等のものであることがわかるが、薄い長方形をしている。アルベルトはその中身にある程度思い当たる節があるような表情をしているが、ラインハルトはそれがなんであるか見当もつかないと言った様子だった。何かがもらえるのだろうと考えた時、一番素直に思いつくのは折り畳まれた賞状のようなものだろうか。紙は貴重なので、もしそこに国王の自筆ででも健闘を讃える文言が認められていたのであれば、その価値は値千金だ。

「では、アルベルト・フォン・ゲッツェンマイヤー、余の前へ」

「はっ」

 国王の呼びかけに、アルベルトが正面に立つ。そして、例の箱を開け、中の物を取り出す。それは、アルベルトにとっては予想通りの物、『勲章』だった。家の壁には父祖が代々拝領してきた勲章が飾られているため、決して初めて見る物ではないのだが、まだまだ若輩のアルベルトにとっては自らが拝領するのはこれが初めてのことだ。

「其方は第一回竜王杯にて見事優勝の栄誉を勝ち取った。よって、この功を評し、ドラッヘンケーニヒ勲章を授与する。まぁ、名前はまんまではあるが、このために新しく創設した勲章である。その授与第一号の栄誉、是非とも受け取るがよい」

「ありがたく拝領いたします」

 国王は一歩前に歩み出ると、アルベルトに勲章を付けていく。本来勲章の授与はこのような場所で行うことはなく、謁見の間で厳かな空気の中行われるものだ。だから、民衆が見守る中の授与というのは異例中の異例である。だが、堅苦しいことが好きではない国王にしてみれば、このまたとない機会というのは非常に価値のあるものとなった。いっそ、これからもずっとこの様に国民の見守る中で授与したいくらいだとすら考えていた。

「次に、ラインハルト・ハインツ、余の前へ」

「は、はい!」

 今度はラインハルトが呼ばれる。慣れた所作だったアルベルトとは異なり、こちらはとてもぎこちない仕草だ。同じ騎士団所属と言っても、この様な儀礼に慣れている貴族出身者とまるで縁のない平民出身者とでは、踏んできた経験が違う。ぎこちないのも無理はない。この様子を見守っている観客も、表彰式の様子を温かい目で見ており、ラインハルトが恥ずかしさやいたたまれない気持ちを覚えることがないのは幸いだろう。それ以上に、国王による直々の表彰を、平民出身者でも分け隔てなく受けることができるこの大会の意義こそが重要だった。

「其方も、騎士たるアルベルトに一歩も引かぬ手並みを見せ、よく戦ってくれた。平民出身の兵士の中にこれほどの使い手がいること、余は心強く思っておるぞ。おそらく、この後も魔物の襲来はあるだろう。その様な時に、頼りになるのはそちら騎士団の者たちなのだ。これからも精進を怠らぬ様にな。さ、其方にも勲章を授けよう。こちらは準優勝の者に授けるために創設した竜騎士勲章だ。ドラッヘンケーニヒ勲章を持つ者を補佐する者としての意味合いを持たせておる。其方ら二人には、いずれ来るであろう国難に、先頭に立って立ち向かってほしい」

 強い思いを乗せて、国王はラインハルトにも勲章を付けていく。どちらにも竜の意匠が浮き彫りであしらっており、まさにこの大会の優勝と準優勝に相応しい逸品だった。

「さ、二人とも、観客にその勇姿を見せてやるがよい。長きにわたるこの大会を見守ってくれた者たちだ、彼らの感慨も一入だろうて」

「「はい!」」

 促されるまま、二人は誇らしげな姿を観客席に向けた。陽の光を受けて輝く勲章は、観客たちの目にもとてもかっこよく映った。そうだ、自分たちは今この瞬間、この二人を歓声で祝福するためにここまで付き添ってきたのだ。そして、今日この観客席に入れなかった仲間たちにこの勇姿を伝えるために、今刮目しているのだ。そう実感させるだけの力があった。

「さあ、観客たちよ! 今この場の主役は国王たる余ではない! この二人である! しかと盛大な拍手と声援を贈るが良い!」

 こうして、表彰式の盛り上がりは最高潮を迎えた。




〜つづく〜

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