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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第八章 いざ決勝戦
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チャプター75

〜王城 中庭竜王杯会場〜



「はぁ、はぁ……」

 家伝の剣技でひたすらに攻め続けるアルベルトに、明らかな疲れの色が見え始めていた。もちろん、それは受けるラインハルトも同様で……

「はぁ、はぁ……」

 武舞台から聴こえてくるのは、お互いの武器がぶつかり合う鈍い金属音と、二人の荒い息遣いばかり。観客たちも、いつしか歓声を上げての応援というよりも、固唾を飲んで試合の行く末を見守り始めていた。

「攻撃の勢い、落ちてきてるんじゃないですか?」

「そちらこそ、防御の手が緩んできているぞ? 先ほどから、少しずつ攻撃が通り始めている」

 事実、わずかずつではあったが、アルベルトの剣戟はラインハルトの防御を潜り抜け始めていた。受けるダメージは小さいものの、それが積み重なったら敗北のきっかけになるかもしれない。ラインハルトにとって幸運だったのは、アルベルトの疲労によって攻撃の威力そのものが落ちてきていることだった。まだ、どちらが優勢と判断できるほどの事態にはなっていない。

 そして、二人は互いに探り合うように、苦しい中で言葉を交わす。少しでも隙を見せた方が負ける。そして、少しでも相手の隙を引き出さねばならない。いかに言葉を弄するかということも、重要になっている。

「自慢の剣技、速度が落ちてますよ? その程度の攻撃なら、多少食らったとしてもまだまだ大丈夫ですよ!」

「くっ! 痛いところを。だが、いかに威力が落ちようとも、攻撃を受けている方が不利、私はそう思うけどね! このまま防戦一方では、勝機はないぞ!?」

 どちらの言い分も、相手には尤もらしく聞こえる。そこまで冷静に受け止めることができないでいることにも、気づいていない。引き続き、アルベルトは攻め続けなければと考え、ラインハルトは起死回生の一撃を繰り出さねばと考えていた。

「君にはもう、奥の手はないんだろう?」

「それはあなたもですよね!? さっきも、同じ話をしましたよ!」

 嘘ではないが、その一方で裏をかいてやりたいという思いもあった。お互いが、何か奥の手を繰り出せないかと、必死に頭を巡らせる。そして、ここまでの戦いではどう勝利してきたのか、かつての勝利のイメージを思い出し、今の戦いに活かせないかと思案を巡らせる。

「てりゃあっ!!」

 とりあえずこのままではいけないと、ラインハルトは攻撃の合間を掻い潜り、大きく槍を振りかぶった。これには、アルベルトも思わず飛び退る。これで、再び間合いが開き、わずかだが、お互いに暇ができた。

「はぁ……はぁ……」

「はぁ…はぁ…私の攻撃の合間を突いての攻撃、なかなかいい手だったぞ。だが、その程度では、私に一撃を与えるほどではないがな……はぁ……はぁ……」

 目的は攻撃ではなく、休息を入れる時間が欲しかっただけなので、咄嗟の作戦は成功している。だが、それだけでいいわけではない。これはあくまでも、戦況を自分に傾けるための最初の足がかりにすぎない。二人とも肩で息をしており、無理にでもすぐに攻撃を再開しようという空気はない。少しでも回復しようと、そちらに意識を集中させる。一方では相手に先に攻撃を再開されては困るため、どうにかして牽制しようと苦心する。形だけでも武器を構えておくか、それともまた会話を繋いで時間を稼ぐか。奇しくも、二人ともが同じようなことを考えていた。

「そっちの隠しダネの剣術は、もう続きはないんですか? 高速で動いて高速で剣を振り下ろすだけが攻撃じゃないですよね。もっともっと、かっこいい攻撃を見たいんですけど!」

「いい心がけだ。でも、いいのかい? すでに手の内を全て見せている君にとっては、これ以上の奥義を披露したら、敗北に直結してしまうぞ?」

 利害の一致を見た二人は、再び会話を続けて場を繋ぐことにした。それで少しでも体力が回復できれば、御の字である。そして、その『会話』を少しでも引き伸ばすため、お互いが挑発的な言葉を選び続ける。会話が途切れたタイミングが、攻撃再開の合図だからだ。

「そういう、みんなが驚くような攻撃を見切って一撃を加えて勝利した方が、かっこいい勝利になるってだけですよ! 俺の敗北は、まだまだ確定には程遠いですからね!」

「その強がりが、敗北を招くことにならなければいいけどね! 虚勢というものは、余裕があるときに張るものさ。今の君には、そこまでの余裕はない。違うか? 尤も、それはこちらも同じだが……」

 最後は小さく呟く。つい口を出てしまった言葉だが、今は少しでも余裕があるように見せたいのが本音なのである。これは、明らかに失言だった。いくら小声といえど聞き取れない距離ではない。こういう、小さくとも付け入る隙を見せてしまえば、そこから綻びが生まれるかもしれないのである。

 一瞬「しまった」と言ったような表情を見せたが、時すでに遅し。ラインハルトはニヤリとした表情を浮かべた。

「やっぱ、そっちも強がり言ってたってことでしたか! この後に及んで虚勢を張ってるのがどっちなのか、怪しいもんですね! さて、少しは休めたし、そろそろ攻撃を再開しますね!」

 「勝った」とまでは言わないものの、会話の流れを無理やり切ってでも自分から攻めていく流れに持って行けたことで、攻守逆転できたことだけは間違いないという実感があった。もちろん、まだまだ十分に回復できていないのだが、それはお互い様、であるならば、少しでも先に動き、相手の準備が整わないうちに少しでも優勢に立つのが重要であり、今取るべき作戦だと考えた。

「たぁっ!」

 重たい足に鞭を打ち、いつも以上に重たく感じる愛槍をなんとか振り回し、アルベルトの元へ攻めかかる。とにかく、この試合に勝ちさえすれば後はどうなってもいい。しばらく体が動かなくなってもいい。その一念が体を動かしていた。彼をこの場に立たせたのは、身体能力と技術だけではなく、こういった精神力の強さに依るところも大きかったのである。

「っ! まだ、回復が不十分なはず! それでこの動きか!」

 慌ててアルベルトも剣を構えるが、一歩遅かった。槍の最大の武器は、長いリーチだ。相手が剣を使っていれば間に合ったかもしれないが、槍はそれよりも数歩手前の時点で攻撃がこちらに届く。十分な防御体勢を取るよりも早く、その切っ先が鎧に強い衝撃を与えた。

「っ!!!」

(まだ、これほどの力を残していたとは! あの疲れた様子は、見せかけだったのか!?)

 声にならない叫びを上げながら、駆け引きで一歩負けたのかもしれないと考えてしまう。疲労の度合いはもはや同じくらいで、わずかに回復したとはいえ、未だ疲れ切っている体に鞭を打って攻めてきていることなど知る由もない。まだ余力がある。そう見せることが、今この場でのラインハルトの作戦なのだから。

「がはっ!」

 思わず、大きな声が出る。一般の兵士よりも強靭な鎧を身に纏ってはいるものの、ここまで勝ち進んだラインハルトの繰り出す突きは鋭く、衝撃が体にもしっかりと伝わってくる。これが本当に疲労の消えないからだから放たれているのかと、信じられない思いで頭の中は満たされていった。

 やはり、体力を温存していたのではないだろうか。疲れたように見せていたのは、ハッタリだったのではないだろうか。そうでなければ、説明がつかない。

「このまま、このまま押し切ってやる!!」

 精一杯の力を振り絞り、ラインハルトは攻撃を続けた。今ここで手を止めては、今まさに疲労を重ねているこの体は反撃に耐えられない。

 踏ん張りの効きづらくなっている右足に体重を乗せ、少しでもグリップが効くように、突きの合間に繰り出す旋回の動きも、遠心力で少しでも勢いよく振り回せるように、そうやって、一撃一撃が少しでも重く鋭くなるように、必死に攻撃を紡ぎ出していた。




〜つづく〜

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