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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第八章 いざ決勝戦
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チャプター74

〜王城 中庭竜王杯会場〜



「膠着状態、か。こりゃ、体力勝負になりそうだね」

「そうなの? すっごく動いてるように見えるんだけど。はっ! あたしの目って、もしかして、節穴?」

 試合の状況が動いていないことは、エルリッヒの目にも明らかだった。多くの観客は、フォルクローレと同じく激しい攻防に沸いているが、決定打に欠き、搦手を仕掛けているわけでもない今の状況は、見るものが見れば、すぐに伝わってしまう。決定打に欠けるが、かと言ってのんびり作戦を練っている余裕はない。だからこそ、このように激しく攻め続けるしかないのだ。

 攻める側も受ける側も、攻防の中で打開策を見出そうとしている。そんな戦いだった。

「い、いや、節穴ってほどじゃないから。ただ、派手な展開でわーって試合に決着がついて欲しいみんなには、地味な終わり方になるかもしれないね」

「そっかー。人生経験豊富なエルちゃんがそう言うんなら、そうなっちゃうのかもね。や、戦況に口を挟むことなんてできないから、なんとも言えないけどさ。それだけ、実力が近いってことでしょ?」

 身を乗り出して観戦しているフォルクローレにも、その辺りは十分に伝わっていた。決勝までの試合でも、実力が拮抗しているがためになかなか決着のつかなかった試合はいくつかあった。それは、装備で有利、流派でも有利な騎士たちが圧倒的に優位な試合を繰り広げるだろうという下馬票を覆すのには十分な試合運びであったし、観客たちも、そうして一般の兵士たちが活躍する展開に沸き立っていた。もはや、勇壮でかっこいい騎士たちだけが主役ではないと言うことをよく物語っている。しかし、見ている側としても、徐々に疲れてくることに変わりはない。だから、程よいところで決着がついてくれた方が、むしろ嬉しい側面もあった。

 しかし、今はまさに決勝戦。観客の多くは、たとえ陽が落ちようともその行く末を見届けてやろうという気概で臨んでいた。

「装備だけだと圧倒的に不利に見えるラインハルト君がこれだけ互角の戦いをしてるのは、やっぱり興味深いよ。すごいもんだ」

「でもさー、槍の使い手が決勝で頑張ってるのは、ゲートムントが喜んでそうだよね〜。あたしも、もしここに錬金術士がいたら誇らしいもん。ね、エルちゃんはそういうの、ある? この大会に出てたら嬉しい人とか、武器の使い手とか!」

 フォルクローレが思い描くのは、両手に爆弾を抱えて戦う錬金術士の姿。良くも悪くも、彼女の戦法は概ねそこに尽きるので、もしこの場に他の錬金術士が立っていたら、と想像しても、結局は爆弾魔のような人物のイメージに終わってしまう。当然、錬金術で調合可能なアイテムの中には、もっと搦手に特化した薬品もあれば、非力な者でも容易に扱える鋭利な武器などもある。だから、何も爆弾に頼らずとも勝機を見出すことは可能なのだが、フォルクローレは決してそのような手段をメインには据えない。あくまでも、爆弾による勝利への固執なのだ。とはいえ、一口に爆弾と言っても色々な種類があるため、その中では最大限に戦術を練ることはあるのだが、一方では長きにわたる研究の末にたどり着いた、全てを超越したような爆弾もあるため、近年は爆弾戦法すら大雑把になりつつあった。唯一あるのは、強力すぎる爆弾を使えない時にかつてのきめ細やかな爆弾戦法が帰ってくることくらいだろうか。市中で使う場合や、森や洞窟で使う場合である。

 そして、そうして爆弾で戦っている自分の姿や、余所の錬金術士が爆弾で戦う姿を想像する時、フォルクローレはとても楽しそうな笑みを浮かべるのだった。

「フォルちゃん、幸せそうだね。爆弾への愛が伝わってくるよ。ま、それはそれとして、私があそこに立ってたら嬉しく思う、か。そうだなぁ、やっぱり料理人が立っててくれたら嬉しいな。いつも言ってるけど、料理って、すごく力を使うんだよ。まして私みたいなお仕事にしてる人はね。だから、自然と腕力も体力もついてくるんだよ。女の子としては、複雑な気持ちだけどね。でも、だからこそ、そう言う人があそこに立ってたら、嬉しく思うんだ。お城の料理長なんか、すごそうじゃない?」

 今度はエルリッヒが目を輝かせながらその様を想像した。常識的に考えれば、爆弾を手に戦う錬金術士も、どのような武器を手にしていようと武舞台に立つ料理人も、どちらもあり得ない話なのだが、当人たちはいたって真面目に、そして真剣にそう言う様を想像し、瞳や表情を輝かせているのである。いかに自分たちの世界に深くのめり込んでいるのかが強く伝わってくる。おそらく、今この場にいる観客の中にも、同様に「鍛冶屋が戦ってほしい」だの「大工が参戦したら一番だ」だの、各々の職業を思い浮かべる者がいるに違いない。

「じゃ、最後は料理人と錬金術士の試合になったりして」

「あー、それ面白そう! でも、騎士団の武闘大会じゃなくなっちゃうね。それに、錬金術士が爆弾で挑んでくるんい、料理人は何で戦えばいいだろう。お鍋かな、フライパンかな。う〜ん……」

 荒唐無稽な話であると分かっていても、錬金術士陣営に負けない戦いをするためには何を武器にどう挑むべきか、ついつい真剣に思案を巡らせてしまうのであった。

 当然、明確な結論は出ない。

「それにしても、試合運び、動かないねぇ」

「膠着状態、だっけ? エルちゃんから見て、何が起こったら動くと思う? やっぱ、どっちかが疲れたタイミング? それとも、実は何か奥の手を隠し持ってたりするかな!?」

 二人に奥の手など残っていないであろうことは、エルリッヒの目にははっきりと映っていた。もちろん人の気持ちまで読めるわけではないので、「実は……」ということはあるかもしれないが、それを差し引いても、ちょっとした隙や疲労をついて起死回生を図ろうとしている段階にあることは見てとれた。

 観客からすれば、目を剥くような大技で締めくくってほしいところだが、現実はそこまで派手ではない。今アルベルトが披露している剣技だけでも十分なのだ。

「なんかこう、王宮に伝わる最高の奥義! みたいなのがあれば面白いのにな〜」

「いやいや、そう都合いい展開にはならないよ。私だって騎士団の人たちが使う流派について知ってるわけじゃないけどさ、ツァイネの剣みたいなの? あれは特別だって。確か、親衛隊にだけ伝えられてる門外不出の技術でできた剣と門外不出の流派でしょ? まぁ、ツァイネの場合はその後自己流でアレンジしてるみたいだけど。私たちがそういうのに触れる機会を持ちすぎてるだけだって」

 こう言う時、自分たちがいかに特殊な状況に置かれているのかを実感させられる。もっとも、エルリッヒの存在そのものが最も特異な存在なのだが、そこはついつい棚上げしてしまう。

「そっかー、そう言うもんかー。んじゃ、その辺は期待せずに見守ることにするよ。んでも、なんとか打開策がないと、二人とも辛いよねぇ。あたしも外で戦う機会が多少あるからわかるけど、こういうジリジリした戦いが一番辛いんだよね。この先、どうなるのかなぁ」

「ま、神聖な試合だし、見守るしかないよねー。もしかして? 本当に? 奥義! とか、我が家の流派の秘伝の極意! みたいなのがあるかもしれないし?」

 あんまり期待を持たせても悪いのだが、完全に期待を捨て去るのも違うので、軽く盛り上げるようなことを言ってみる。フォルクローレも、色々話を聞かされてある程度は割り切りつつも、そのワクワクに乗っかるのが一番楽しいのだと、この後の試合展開にも期待をかけてみることにした。

 どちらにせよ、今の状態を一番もどかしく思っているのは、間違いなく武舞台の二人なのだから。




〜つづく〜

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