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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第八章 いざ決勝戦
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チャプター64

〜王城 竜王杯会場〜



 四人が会場に入ると、そこはすでに異様な熱気に包まれていた。決勝戦ともなると、観戦希望者の数も多く、抽選も大変だっただろうが、どうやらそれはもう終わっているらしく、会場には観客が詰めかけていた。おそらく、入場口ではまだ人でごった返していることだろう。

「うひゃー。やっぱりすごいねー」

「最終日だもんね。そりゃ見逃したくないよね」

 元々1日たりとも満席でなかった日はなかったのだが、今日はいつにも増して混んでいるような印象がある。人の入りは変わらないと言うのに、これはどう言うことだろうか。やはり、観衆の熱気がそうさせるのだろうか。

「この混みようを見ると、この大会の意義を思い知らされるよねー」

「えー? 意義? そう言う難しいことはあたしゃよくわからんよ。でも、みんなが楽しんでるってのはすっごく伝わってくるよね。きっとあれでしょ。抽選に当たった人は帰った後自慢げに話して、行けなかった人は悔しがりながらもその話を楽しみにしてて、次の日は立場が逆転したりして。確かに、そう言うのもお祭り感があっていいよね」

 それこそがまさに『意義』なのだが、フォルクローレは分かっていて難しいことはわからないと嘯いているのか、それとも、本当に分からずに意義について語ってしまっているのか。こう言うところ、フォルクローレの頭の中は、いまだに推し量るのが難しい。

 ただ一つ言えるのは、楽しそうに碧い瞳をキラキラと輝かせながら観客席を見回している姿にも、今この場に連れてきていることの十分な意義を感じる、ということだろうか。

「魔王が復活して、この街も2回も襲われたしね。暗い時代になりつつあるから、こう言うイベントごとの開催は、本当に大きな意味があると思うよ」

「あぁ、そう言うこと! それならあたしの頭でもわかるよ。そういえば、決勝の後って、あのイカサマした人が潔癖を証明する試合をするんだっけ。いや、潔癖の証明じゃないか。あれは、汚名返上って言った方が近いのかな? とにかく、やるんだよね? 盛り上がりに水を刺さないかなぁ。それとも、本当にゲートムント達が試合することになって、そっちで最後に盛り上げるのかな。なんだかんだ言っても、明かされてないから気になるよね」

 そいえば、そうだった。エルリッヒも忘れかけていたが、汚名返上試合が予定されているのと、ゲートムント達にエキシビションマッチをさせるという勝手な想像があったのだった。平民上がりの元親衛隊員として、少なくとも騎士団の一般兵士からは絶大な知名度と人気を誇るツァイネ。そして、市井の戦士でありながらそのツァイネと互角の実力を持つゲートムント。どう言う対戦カードであれ、彼ら二人が戦うのであれば、それは相応の盛り上がりが約束されるだろう。

「今頃、二人もそう言う話をしてるかもね。いつ呼ばれてもいいように、心構えだけはしてるかもしれないし」

 真相がどうであれ、二人に対し、わざわざ「丸腰で来るように」などと言う注意書きを添えて観戦させるくらいだから、そこには意味があるように思えてならない。

 もちろん、武道大会の観戦だからと言って槍を背負い剣を佩いて観戦するとは限らないのだが。それに、武器の有利不利を埋めるために規定の武具で挑ませると言うのであれば、それ以外の日はどのような武装でも問題はないはずだし、エキシビションマッチの当日も持ち込んだ武器を使用させなければいいだけだ。わざわざ書く理由がわからない。機会があれば問いただしてみたいとは考えていたが、それだけを理由にエキシビションマッチを予定しているのかも、と推測するのは早計だったかもしれない。

「ん? エルちゃん、何考えてるの? 難しい顔してるよ?」

「え? そんな顔してた? ごめんごめん。本当に二人にエキシビションマッチをさせるのかなーって思って、考え込んでたんだよ。色々考えるとさ、どっちとも取れるなーって思って」

 難しい顔をしているなどと指摘されたのは少々驚いた。確かに考え込んでいたのは事実だが、わざわざ指摘されるほど考え入っていたとは。自覚がないと言うのも恐ろしいものだ。

「どっちともって、最後にあの二人に試合のお呼びがかかるかもしれないしかからないかもしれないってことでしょ? んでも、それ言ったらキリがないきもするけど?」

「そうなんだけどさ、丸腰で来いって指示があった理由を考えたら、どっちも考えられちゃって。まー、私たちはどっちであれ観戦するだけなんだけどね」

 あれこれ考えても仕方ない、という結論には違いないのだが、ついつい考え込んでしまった。隣で能天気な空気を醸し出しているフォルクローレを少しは見習いたいものだが、こればかりは性分もあるのでなかなか難しい。

「エルちゃん、そんなに難しく考えてちゃ長生きできないよ? って、こりゃ意味ないか。とにかく、もうすぐ決勝戦も始まるし、あれこれ考えるのは意味ないって」

「そうだね〜。まさか、フォルちゃんに長生きできないとまで言われるとは思わなかったよ。長生きはしてきたけど、まだ死ぬ予定はないからね。それにしても、そろそろお客さんはみんな入ったかな? あ、あっちは伯爵だ。盛り上がってきたー。こういうお祭りってあんまりないもんねー。みんな、すっごくいい表情をしてる」

 遠巻きに見える観客達の表情は、誰もが皆楽しそうで、今か今かと開催を待ち侘びている様子がよく伝わってくる。この熱気こそ、今必要なものに違いない。

「いい表情かー。それって、さっき言ってた意義って話?」

「そ。この大会の一番の目的は、騎士団の強化と家柄だけで指揮官やって威張り散らしてるような人を排除することだけど、こう言う催しにしてみんなが観戦できるようにしたのは、王都中の人に娯楽を与えたかったからだよ。一介の食堂主にすぎない私が言うのもおこがましいことこの上ないけどね。でもさ、いいじゃん? こういうの。本当なら、もっと平和な時代にもやりたいところだよね。今だって、いきなり魔族が襲ってこないとも限らないし」

 今が平和な時代ではなくなってしまったからこそ実感する、悠長に武道大会を開くことのできるありがたさ。できることなら、このままこんな時間をいつまでも享受できる日常であってほしいと、願ってやまないのであった。

「やっぱ長くいきてると違うね〜。あたしはそんな立派なこと考えられないもん。だけど、もし今この街に魔物が襲ってきたら、戦ってくれるんでしょ?」

「ま、そりゃあね。頑張って戦いますよ。究極的には世界平和、みたいなのも大切だけどさ、世界平和とかどうでもいいっていう思いもあるからね。この国とこの国で暮らしてる人たちが笑って暮らせる世界を守りたいってだけだから。大好きな自分の居場所と大好きな人たちを守るためなら、頑張れるでしょ? 私じゃなくても」

 この街、この国、そしてそこで暮らす人々。それが今のエルリッヒが守りたい全てだった。もちろんどこまで守り切れるかはわからないし、騎士団の面々も頑張ってくれるだろうが、本格的に魔族が襲ってきたら犠牲者が出る可能性は非常に高い。それでも。それでも。

「お、今度は妙に晴れ晴れとした顔になったね。でも、思ったより狭い世界を守りたいんだね」

「んー? そりゃまーねー。当たり前だけど、私がどれだけ頑張っても限界があるんだし。だから、この手で守れそうな範囲だけ守る!」

 少し気恥ずかしい宣言に乗っかるように、少し大袈裟なガッツポーズを取る。なんとなく、自分に言い聞かせることで思いと覚悟をより強く自覚できるような気がしたからだ。

「うんうん、いいんじゃない? そういうの。あたしも応援するよ。主に爆弾で、だけど」

「あはは、それは心強いよ。っとと、会場に誰か出てきたね」

 観客の入場が終わったのか、会場には一人の男が立っていた。身なりからすると貴族のようだが、いつものザルツラント侯爵ではない、知らない顔だった。

 いよいよかと、それまでざわついていた観衆が会話をやめ、会場が静かになる。それを見計らうかのように、貴族の男が声を上げた。

「国王陛下のお成りである!!!」




〜つづく〜

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