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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第七章 決勝前夜のできごと
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チャプター60

〜コッペパン通り 竜の紅玉亭〜



「あ〜、美味かった〜!!」

「いつもありがとう。美味しかったよ」

 城を後にした四人は、エルリッヒの誘いのままに竜の紅玉亭で昼食の時間を過ごした。一時的に居候しているフォルクローレはともかく、男二人は多い時は毎日のように通っていたと言うのに、ここ最近は大会観戦のために休業していたため、久しぶりのエルリッヒの料理に舌鼓を打った。当然、昼食自体は他の店で済ませていて、それ自体にいつもは満足していたのだが、やはりどの店の料理が一番美味いかという話になると、二人は口を揃えて『竜の紅玉亭』と答える。

 単にエルリッヒのことが好きだから、という浅い理由もあるにはあるが、どこか満足度が高く、味の好みにおいても一番なのだ。一番通っている店だから舌が馴染んでいる可能性もなくはないだろうが、そのように味気ない理由だとは考えたくないのが二人の心情だった。

 せっかくだからとテーブルを囲むように座っての食事は、やはり楽しいひと時だ。

「いつもみたいに、お金を取るようなレベルの料理じゃないけどね。それでも、満足してくれたならよかった」

「いやいや、十分だよ。いいなぁ、フォルちゃんは今毎日エルちゃんの料理が食べられるわけでしょ?」

「俺たちも一緒に暮らしたいもんだぜ」

「ちょっとー。それは行き過ぎた発言だぞー。あたしは、女の子同士だから許されてるの! ははは、いいだろう」

 自慢げなフォルクローレの様子に、すかさず釘が刺される。

「フォルちゃん? 何度だって言わせてもらうけど、フォルちゃんをうちに泊めてるのは、朝起きられないからっていう、とーっても情けない理由だからね? 威張って言えることなんて何もないってことだけは、よーくその胸に刻み込んでおくように。いいね? いやいや、現時点でしっかり刻み込まれてないとおかしいことではあるんだけど。どっちにしろ、その事情を抜きにして話さないようにしてよね」

「は、はーい」

 これには流石のフォルクローレも意気消沈といった様子だ。もちろん怒っているような言い回しはしておらず、ある程度冗談めかした空気は込めたつもりだったのだが、思うところがないわけではなかった、と言うことだろう。気に咎めるところがカケラでもあるのであれば、釘を刺した甲斐もあったと言うものだ。それに、フォルクローレとの同居生活は、家事全般を自分が受け持っているという事実を差し引いても、それなりに楽しく、大会が終わって元の生活に戻ることを少し寂しくすら感じていた。

 だから、あまり強い言い方はエルリッヒとしてもしたくないのである。

「ま、まあ、女の子だから泊めてるって言うのは確かだけどね。二人のうちどっちかが同じくらい朝が苦手でも、うちで面倒見ようとは思わないし、そんな申し出もしないから……」

「そこはやっぱりそうだよなぁ」

「いいよなぁ。女の子に生まれたってだけで俺たちより距離が近くて」

「そこ、変な話をしない。生まれは選べないんだから、まして性別なんて、文句言ってもしょうがないでしょ。それに、二人は男だから私と出会えたのかもしれないじゃん? もし女の子として生まれてたら、全く違う人生を歩んでたんだし。それはフォルちゃんも同じなんだし。フォルちゃんが男の子だったら、やっぱり違う人生を歩んでたでしょ? 錬金術士の道が同じだったとしても。私だってそうだよ。もしかしたら、私が王位を継ぐことになって故郷を離れられなくなってたかもしれないんだし」

 そう考えるとゾッとする。生まれてからおよそ百年ほどは過ごしてきた故郷だが、それこそ百年に一度くらいの頻度で里帰りするくらいでちょうどいい。そこから離れられないと考えると、そんな生涯は何も面白くなくて、溜まったものじゃないだろう。

 生まれた性別が異なっていたとしても、この身に宿る魂が同じだったとしたら。

「おおこわ。私は女の子に生まれて正解だったわ。あと、末っ子だったのもよかった。みんなだって、そんなもんだよ。生まれてから今までの全部を踏まえた上で、最新の出来事か今こうして話してるっていうことなんだから」

「まぁね。それは確かにそうかも。ところで、もし男だったら王位を継いでたかもって言うのは、どういうことなの? 確か、お兄さんがいるんだよね?」

 この話題にツァイネが食いついてきた。よもやとは思ったが、確かに男の子が好きそうな話題ではある。これは迂闊だった。

 隠すことではないので話すのはいいのだが、また下手に奉られたりしないかだけは気になる。

「そ。兄様が次の竜王なんだけど、両親から受け継いだ力は、私の方が上だったんだよね。多分、一番上質な卵で生まれたんじゃないかな。でも、竜王族っていうのは古いところがあって、基本的に男が王位を継ぐのね。だから、私は王位継承からは外れたってわけ。ま、兄様に何かあったら、流石に私にお鉢が回ってきただろうけど。姉様は性格が悪いばっかりであんまり力を受け継いでなかったし」

「へぇ。その辺は人間社会とあんまり変わらないんだね。興味深いよ。それに、人間の場合生まれ持った特殊な力なんてないから、基本的には生まれた順とか国王に対する血筋の濃さとかで継承順位が決まるけど、そっか、ドラゴンともなるとそれだけじゃ決まらないんだね」

 流石にこの手の話はあまり興味がないのか、ゲートムントとフォルクローレは黙って聞いているが、流石に王宮に仕官していただけのことはあり、ツァイネは積極的に話題を広げてくる。

「まーね。お母様も血筋は遠いとはいえ王族だったから、親戚もいるにはいるけど、やっぱり直系が一番力を受け継いでるっていうのもあって、あんまり継承順に絡んでくることもなくって。あ、でも、兄様も決して弱いわけじゃなくて、お父様や私に比べたらっていうだけなんだけどね。歴代にはもっと力の弱いご先祖さまもいただろうし。あと、人間の姿になった時は流石に私よりも背が高い。蒼い髪が綺麗で顔も整ってるんだけど、ひたすら無愛想だからあんまり褒められないけど。あれでいい王様になれるのかどうかは正直怪しいね」

「さっきから話を聞いてると、なかなかに身内に手厳しいね。お兄さんとお姉さん、そんなに折り合いが悪かったの? 感じの悪い兄姉の下で育ったようには思えないんだけど」

「だなぁ。俺たちはみんな兄弟がいねーから、そういうのは想像するしかねーけど、感じの悪い兄貴や姉貴がいたら、もっと性格が悪くなってそうなもんだけどな」

「きっと、それだけ心が綺麗で強かったんだよ。それがあたしたちのエルちゃんなんだよ!」

 さっきまで黙っていた二人も会話に参戦して、勝手に盛り上がっている。人格形成について自己分析をしたことはほとんどなかったが、自分としては、あの感じの悪い二人がいたからこそ、今の性格になったのでは、という思いは確かにあった。『他者には優しく』の精神である。兄は意地悪ではなかったが、正論しか言わない上に無愛想なタチで感情の疎通というものが難しかった。姉は底意地が悪く、ちょっとでも自分の価値観に合わないことは徹底的になじられてきた。何の根拠もなく古い価値観や人間を見下す選民思想を押し付けられたのでは、たまったものではない。少なくとも、二人の存在は強烈な反面教師になっていた。

「二人とも、何言ってるの。そんなに褒めても何も出ないからね?」

 全く、この二人ときたら。悪い気がしないどころか、気恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。心が誤れてるつもりはないが、心が綺麗だと自負できるほど純粋でもないと思っているのだから。

「さ、食器を片付けちゃうから、三人はここの掃除をお願い」

「え! 何それ!」

「お代替わりってことか?」

「二人とも、つべこべ言わずにやろうよ。お昼をご馳走になったんだから、三人で掃除すること考えたら、安いくらいでしょ?」

 入り浸っているだけあって、勝手知ったる『竜の紅玉亭』、ツァイネは三人分の掃除道具を取り出すと二人に手渡し、背中を向けて食器を洗い始めたエルリッヒに恥じないよう、早速とばかりに掃除を始めるのだった。




〜つづく〜

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