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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第六章 熱狂の準決勝
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チャプター48

〜王城 竜王杯会場〜



「てやああああ!!!」

 目にも止まらぬ早業で攻撃を繰り出していく。これこそがノイマンの真骨頂。重量において圧倒的に有利は短剣を利用しての攻撃だ。まるで閃光のようだと観客の間でも話題になっていた。

 ツァイネが注目するだけのことはあるのだ。

「速い! 狙いも正確だ。くっ、これでは!」

 確実に鎧の隙間を狙ってくるとわかっていても、なお対策をとるのは難しい。一言で鎧の隙間と言っても、肩に肘に膝にと、狙えるポイントはいくつもあり、狙いを絞ることが難しいからだ。攻撃が素早いだけに、切っ先から狙いを見定めることができない。これが、普通の速度で繰り出される攻撃であればどうにでもなったのだが。

「盾を置いてきたのは失敗だったかな……」

 アルベルトの鎧には、セットになる盾があり、腕に装着して使用したり、手持ちにして使用したりできるようになっているのだが、重量と攻撃時の機動力を考えて装備してこなかったのだ。あれがあれば、相手の攻撃ももう少し考えたものになっていただろう。だが、そうはなっていない。あくまでも、あくまでも、たらればの話にはなってしまうわけだが。

「剣で受けるだけで手一杯だとは、情けない!」

 自らの不名を恥じながら、その不甲斐なさを噛み締めるたびに、胸の内から力が湧き上がってくる。鎧に着られているだけの状態でいいのか。鎧に頼らなくても勝てるくらいでなくてはいけないのではないか。ならば、防御力に甘えているわけにはいかない。

「せいっ!」

「うわっ! すごい力だ!」

 アルベルトが薙ぎ払い一閃、ノイマンの攻撃を弾き返した。短剣が飛ばないようにと気をつけながらでは、自分に有利な体勢などと考えている余裕はない。

「これが、騎士様の力か……武器が軽いことは不利にもなるからな、気をつけないと」

「見切りが早いね。伊達にここまで勝ち上がってきてないか。でも、鎧の隙間を狙って攻撃してくることは想定済みなんだよね。さて、どうするのかな?」

 狙いが見透かされているところも想定済みではあったが、改めて宣告されると、いい気はしない。ノイマンの表情に苦いものが混じる。

 その変化を見て、アルベルトは表情が緩む。これは心理戦でもあるのだ。相手の出足を挫くことには大きな意味があり、攻めにくくすることで自分に勝機が生まれる可能性が高くなるというわけだ。

「全く……攻めにくいな……」

 額を垂れる一筋の汗が、ノイマンの焦燥感を如実に表していた。



「なあ、お前ならどう攻める?」

 来賓席で見ているゲートムントがツァイネに問いかけた。先ほどの逆だ。

「それ、さっきの仕返しのつもり? でも、そうだなぁ。彼の短剣はどうしたって軽いし、スピードだけじゃ勝てないからねー。誰が相対しても攻めにくいと思うよ? だけど、俺だったら……いや、俺でもやっぱりやることは同じじゃないかな。スピードで押し切って鎧の隙間を攻撃して、相手の腱を切る」

「スピードで押し切るったって、あいつのあの剣技も見てるだろ。めっちゃ堅実だぜ? 実際、短剣のスピードじゃ押し切れなったみてーだし」

 ゲートムントも、戦況分析を行う時には冷静になる。今、目の前でノイマンがツァイネが語った通りの戦術で挑み、通用しなかった一部始終を見ている。ゲートムントよりも冷静で正確な見立てをするツァイネが今目の前で失敗した戦い方を奨めるというのは、さすがに疑問が消えなかった。

「言ったでしょ。俺だったらって。俺は、彼よりも素早い。だから、あの程度の攻撃に遮られることなく攻撃を通すことができるってわけさ」

「お前なぁ。気持ちはわかるけどな。んじゃ、お前があいつだったらどう攻める? この訊き方ならいいだろ?」

 呆れ半分理解半分。自分が相対するという前提なら、確かに予想外の回答が返ってきても無理はないし、同じ武器同じ戦術でも勝てるだろう。隣にいる相棒は、そういう男なのだ。騎士団でも親衛隊に抜擢される者は実力、王国への忠誠心、家柄、全てが揃っている必要がある。その条件のうち、決して軽くはない要素である『家柄』を持ち合わせていないのを飛び越えて一般兵士から推挙されたツァイネの実力は伊達ではない。そこに加えて、街の外での実戦経験は野盗、獣、魔物、果ては魔族と、多岐にわたっている。今のツァイネが前提なら、確かに勝利など容易いだろう。しかし、前提条件がノイマンだったら? それが今一番訊きたいことだった。

「お前なら、じゃなくて彼なら、てことだね? そうだねー、それはちょっと考えちゃうね。戦術は悪くないんだけど、あの剣術を突き抜けるほどのスピードは備わってない。今までの相手には通用したみたいだけど、準決勝まで来たらそうも行かないってことだよねぇ。となると、リーチが短くて軽い短剣は対等に立ち向かう武器としては不適格だ。鎧の差も大きい。重量には寄与するだろうけど、安心して無茶ができるのは頑強な装備があってこそだ」

「じゃ、体術はどうだ? あいつ、武器がなくてもつえーじゃん」

 第二回戦以降も、ノイマンはその体術で対戦相手を圧倒する機会があった。その度に会場は沸き、対戦相手は虚を突かれる形になって隙を晒してしまう。この大会をエンターテインメントとしてみれば盛り上がる展開と受け止めることができるが、それは武器が軽く、弾き飛ばされることが多いということも表していた。

「体術は未知数な部分もあるからなんとも言えないけど、少なくとも、相手も研究してるんじゃないかな。アルベルトくんだっけ? 彼、すっごく警戒してるよね。なんなら武器を鞘に収めて体術に切り替えることもできるわけだし。ここまで来たらよっぽど上手くハマらないと体術で勝つのは無理じゃないかなぁ」

「じゃ、どーするんだ?」

 どれだけ考えても自分が戦うわけではないのに、ついついこういう話をしてしまうのが戦士の性分だった。

「どーするもこーするも、ここまで来たらどんな作戦で勝利を狙うのか、見守るしかないよ。どっちが勝つとも限らないしね」

「結局、そういうことか。さーて、どうするんだろうな」



 二人が話している間も、試合は続いていた。ひとしきりノイマンの戦術が打ち返された後、今度はアルベルトの手番だった。攻撃は素早さを伴ったものではないのだが、重さは比較にならない。アルベルトの手にした剣も、彼のこれまでの戦い方のように、遠目にわかるような美しい装飾はないが、幾人もの対戦相手を圧倒してきた業物だ。短剣で受け続けるのは流石に限界がある。

「くっ! 腕が!」

「そうだろう? この剣は、一見ただの長剣だけど、我が一族に伝わる逸品でね、他の者には扱えないものなのさ」

 攻撃を続けながら語るそれは、ハッタリなのかこの武器固有の秘密なのか。ここへきて、またしてもノイマンに不利と思われる話が出てきた。どこから見ても特殊な武器には見えないのに、一体どのような秘密があるというのだろうか。そもそも、魔法の失われたこの時代に特殊な武器など、おとぎ話もいいところだ。

「我が一族は固有の剣術を持たない。貴族に広く伝わっている剣術を修めるのみ。だが、それでも実力を認められ、騎士団で出世を続け、今こうして勝ち続けているのは、ひとえにこの剣のおかげでもある」

「その、その剣の秘密っていうのは?」

 ハッタリには聞こえないが、一体どんな秘密があるというのか。教えてくれるとも限らないが、作戦立案にも関わる話と、あえて質問してみた。

「では、一時休戦だ。この剣を触らせてやろう。それで、秘密を見つけたまえ」

 アルベルトはおもむろに剣を足下に置いた。持ってみろというのである。

「わ、わかりました」

 休戦という言葉を信じて短剣を鞘に納め、足元の剣を手に取る。柄を握る限りは、なんの変哲もないただの剣で、よく見ると鍔にささやかな装飾が施されていることが確認できるだけだった。

「この剣の何が……んっ!! これっ!」

 なんと、ノイマンはその剣を持ち上げることができなかった。




〜つづく〜

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