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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第六章 熱狂の準決勝
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チャプター46

〜王城 竜王杯会場〜



 休憩時間も終わり、いよいよ準決勝の第二試合が始まる。こちらも注目の試合だ。会場に現れたのは、第二回戦で善戦を繰り広げた短剣使いの兵士とこちらも貴族出身の騎士だ。こちらの騎士の鎧は赤い。相変わらず、何か特殊な金属を用いて作られているのか、そのように塗装しているだけなのかは判然としない。ただ、修飾の金色が映える、目に鮮やかな鎧だ。

「なあ」

「何?」

 ゲートムントがポツリと尋ねる。

「親衛隊は出ないのか?」

「そりゃそうでしょ。親衛隊は陛下を守るのが仕事だから、たとえトーナメント制でも試合にはでられないよ。ま、陛下はそこにいるわけだけど。ついでに教えておくと、騎士団の規則でどれだけ大貴族の出身でも、鎧を青くするのは禁じられてるんだ。青い鎧は親衛隊の特権ってことになっててね」

 ツァイネが特別に着用を許されている親衛隊の青い鎧は、その色そのものが親衛隊員であることの証であり、これ自体も騎士団秘蔵の技術で作られている、少し特殊な鎧なのだ。その技術は門外不出と言われており、何らかの事情で親衛隊を辞する際には、剣ともども返却しなくてはいけない決まりになっている。一説によれば返却されたそれは鋳潰して次の団員のための武具として再生されるそうだが、真偽の程は確認されていない。そんな噂が立つほどに、厳格に管理されている物だからこそ、ツァイネが騎士団を退職する際に私物として下げ渡されたことには大きな意味と衝撃があったのである。

「そういや、青い鎧のやつはいなかったな。っつーても、緑と赤が選ばれがちって感じだったな。そこには何か意味があるのか?」

「さあね。単純に色として美しいっていうのもあるだろうけど、着るのが指揮官クラスなら目立つことも意味はあるだろうし、黄色じゃ可愛いし、黒だと夏場に暑い、みたいな理由はあるかもね。あと、元々そういう色の金属を使って作られてるっていうケースもあるんじゃないかな。その辺りも、それぞれの事情によると思うけど」

 鎧にしろ武器にしろ、意外と鉄が使われるケースは少ない。鉄はありふれた金属で相場も安く、素材としての強度もしっかりしているので使い勝手は良いのだが、そこは金に糸目をつける必要のない貴族衆、少々高くても産出量の少ない金属を使ってより強くて見栄えのする武具をあつらえようとする者が多い。

 生来、目立ちたがりなのかもしれない。

「参考になるなー。じゃ何か? 銀色の鎧のやつが少ないのも似たような理由か?」

「多分ね。鉄であれなんであれ、そういう色の金属なら塗装して見栄えを良くしちゃうだろうし、銀色の鎧を着てる人たちでも、結構装飾や浮き彫りみたいなのが細かかったでしょ? あれが貴族っていう人たちだよ」

 内情をよく知っているからこそ、貴族に対しては平民特有の羨望や卑屈な目線とは少しずれた視点を持って見ていた。いい面も悪い面も、騎士団で身分の壁を越えて出世していくと目の当たりにする機会が多かった。そういう貴族社会との軋轢も、退職を選んだ理由の一つだった。

「しっかし、特殊な金属かー。いいよなー、そういうの。金がありゃ俺だって武具に活かしてみてーよ」

「まあまあ。ゲートムントの槍なんて、特殊な金属の最たるものじゃん。竜殺しの力を宿した黒い金属。あんなのを武具に使ってる人は流石にいなかったよ。尤も、竜殺しの力は人間や魔物相手には効果が低そうだけどね。特殊な金属といえば、エルちゃんのフライパンの材料も特殊だよね。あれはもっとありえないかな」

 見た目は普通のフライパンだが、その実常人では持ち上げることすら叶わないほど重たいという、特別なフライパン。一般的な鉱物よりはるかに比重の重たい鉱物で作られているため、ほぼ専用の調理器具と化している。

 本人曰く「熱伝導がよくどんな料理にも相性抜群」で、「殴っては武器によし」「防いでは盾にもよし」ということで、万能のアイテムとのことだが、そもそも世人には扱うことができない。それすらも、「料理人として重たいお鍋を持ったりお肉の塊を持ったりしてきたから身についた腕力」と語って聞かない。自分が人ではない別の存在だからこそ持ちえている身体能力の賜物、ということを否定したいとか、隠したいとか、そういう意思すら感じさせず、あくまでも料理人としての矜持のみを強くアピールしている。それこそがエルリッヒという人物なのである。

「あのフライパンなー。俺も随分鍛えたつもりだったけど、いまだにあれを軽々とぶん回すことができないもんなー。きっと、何で戦ってもエルちゃんには勝てねーんだろうなー」

「だよね。多分、誰かがあれを同じように振るえたとして、もしこの大会に参加してたら、優勝も狙えると思うよ。あんな重くて頑丈な素材を突き通す武器は少なくとも騎士団には存在しないし、あんなもので思い切り殴られたら、大方の鎧はタダじゃ済まない。鎧が壊れるだけならいいけど、中の体に来る衝撃も相当なものになるんじゃないかな。さっきのラインハルトくんが見せた戦い方をもっとすごくしたようなものだからね。それはそれで、面白いから見てみたいとも思うけど」

 フライパン片手に奮闘する戦士がいたら、会場でも注目の的だろう。なんなら笑いが巻き起こるかもしれない。ツァイネが見てみたいと考えるのも、ゲートムントにはとても共感できた。

「っとと、話してたらもう試合開始だ」

「だな。いつものお貴族様が出てきた」

 選手たちに遅れて、ザルツラント侯爵が現れた。両者の顔を見遣ると、その名前を高らかに叫ぶ。

「城内警備第一分隊所属、ノイマン・ミュラー! 対するは、狼旅団所属第三中隊隊長、アルベルト・フォン・ゲッツェンマイヤー! 両者、一歩前へ!」

「よろしく。疾風のナイフ使い君」

「よろしくお願いします。って、そんなあだ名で呼ばれてるんですね。とにかく、よろしくお願いします」

 二人は手短に挨拶をすると、侯爵が右手を上げた。

「両者とも、正々堂々とした試合を。いいですね? それでは、試合、はじめ!」

 右手が振り下ろされたのに合わせ、両者は勢いよく飛び退る。ここでもやはり、いきなり鍔迫り合いのような試合展開にはならない。

 誰もが、素早く巧みなノイマンのナイフ捌きに一目置いており、警戒していた。アルベルトはといえば、こちらも豪奢な鞘から剣を抜き放ち、しかと構える。誰が見ても値段の高そうなその剣の装飾は、兵士としての支給品ではあるものの、質素な武具に身を包んだノイマンとの対比のようになっており、身分の差を否応なく見せつけていた。



「ねえエルちゃん」

「何?」

 試合開始直後、来賓席のフォルクローレが口を開いた

「騎士団の武器をあつらえた時さ、親方たちにもっと装飾にも気を配れって言うべきだったかな」

「何急に〜。貴族の人たちの武具が華やかで気になっちゃった? 騎士団の支給品は税金で発注されるからねー、そう言うところにはお金をかけられないんだよ。や、分かってて言ってるんだろうけど、こればっかりはしょうがないんじゃない? 確か、支給品だって分かるように、王国の紋章が刻印されてるんだっけ。装飾とは別だろうけど」

 所在を厳密に管理される騎士団の支給品といえど、団員の不法な売却や紛失を無視することはできない。出来るだけ性善説で管理したいと言うのが本音だが、一方で最低限考慮する必要があるので刻印を入れて分かるようにしている、というわけだ。

「うん。あたしもその辺は知ってるんだけどね。だってあれ見てよ! 鎧も綺麗だし鞘まで綺麗なんだよ? 大差ないの刀身だけじゃん!」

「うんうん。気持ちは分かるよー。刀身まで豪奢なのは、流石に伝説の剣くらいかなー。外国の騎士団との戦闘を想定した入れ替えじゃないんだし、見栄えについては諦めなよ。それで税金増額されても困るでしょ? それより、試合を見なきゃだよ。あっちの兵士くん、ツァイネのお気に入りなんだし」

 未だ不服そうなフォルクローレの頭を舞台に向け、無理矢理試合に意識を向けさせた。準決勝第二試合はまだ始まったばかり、互いに刃を交えてすらいない。




〜つづく〜

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