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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第六章 熱狂の準決勝
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チャプター45

〜王城 竜王杯会場〜



 準決勝の第一試合が終わり、休憩時間になっていた。観客はこの時間にお手洗いに行ったり、観客用にあつらえられた屋台で食事を楽しんだりする。もちろん、ザルツラント侯爵の休憩時間でもある。そして、それは来賓席も同じだった。

「いやー、すごい試合だったね〜。思わず見入っちゃったよ」

「あの人、ゲートムントの応援してた人でしょ? 今頃すごく喜んでるだろうね。こういう大会だと、応援する人がいるといいよね〜。もっと楽しめそう」

 今の所、女二人には応援している選手はいなかった。だから、どの試合もフラットな気持ちで楽しめる反面、勝敗に対する強い気持ちは味わえないでいた。元々の性分のせいもあるだろうが、少しばかり損をしているような気持ちになった。

「その辺はしょうがないと思うなぁ。あたしは自分で戦う方が好きなわけだし」

「フォルちゃん、過激だねぇ。素材集めのためにやむを得ず、みたいなスタンスじゃなかったの?」

 錬金術士のことはフォルクローレしか知らないが、好意的に捉えるのであればそういうスタンスでやむを得ず戦っているはずであったし、依頼のために爆弾を作っているはずであった。しかし、フォルクローレのそれは明らかにそのような殊勝なものではない。戦いが好きという言葉は嘘ではないし、爆弾作りも自ら進んで行っている。錬金術アカデミーにいる頃からだったのか、この街に来る道すがらだったのか、それともこの街で商売を続ける中でなのか、とにかくフォルクローレは爆弾作りが好きで、その腕前も一流だった。

 もともとこの街に爆弾を作る職人はほとんどおらず、鉱山の採掘や最低限の攻撃アイテムとして生産・所有しているだけに留まっていた。かつての魔王誕生以前であれば、国同士の争いにも用いられていたが、魔王討伐以降は需要も減り、各地での生産量はもちろん、性能の向上も鈍化していたのである。製法が同じかどうかは全くわからないが、錬金術士が伝えているのは重要なことだった。

 少なくとも、長い時代を過ごしているエルリッヒの目にも、フォルクローレの作る爆弾は多彩で強力だった。

「これは、錬金術アカデミーでの話になるんだけど、みんな最初は嫌々魔物と戦うんだよ。危険な外に出て魔物退治をしなきゃ素材は手に入らないし、作ったアイテムの性能実験も建物の中でするわけにはいかないからねー。でも、何度も何度も戦っていくうちに、段々強くなってきて、好戦的になっていく生徒がいたんだよ」

「なるほど、フォルちゃんもその一人だったってことだね?」

 もしかしたら前にもこのような話をしたかもしれないが、武闘大会の会場で聞くとまた一段と心に響く。フォルクローレの快活な笑顔からは、一切の否定の意志を感じない。

 一体アカデミーという組織はどのような組織なのだろう。どこにあってどれほどの生徒を抱えており、世界中にどれほどの錬金術士を輩出してきたのか。

「だけど、くどいようだけどこの大会じゃあ爆弾は使えないからね?」

「わかってるよ〜。どのみち参加できるわけじゃないし、それは初めから期待してないからさ」

 諦めているようでもあり、悔しさも感じられる。実際爆弾で参戦すれば並みいる参加者たちを一網打尽にできるだろうが、これはそういう大会ではない。もし参加するとしても、普段の武器である杖の装備が必須となれば、流石に勝ち目はないだろう。

「爆弾はともかくさ、杖と爆弾以外の攻撃手段は? 爆弾っていうか、便利なアイテム以外の攻撃手段を修めているかどうかっていう話なんだけど」

「んー? あぁ、一応、学ぶことは自由だったよー? 調合の時は杖でかき混ぜることが多いから、みんな杖は絶対持ってるんだけど、それだけじゃ危険に立ち向かえないからねー。素材を手に入れるときにナイフや鎌で素材を採取することも多いし。剣とか斧とか、その辺りは男子たちが喜んで勉強してたよ。どっちにしろあたしたちは全然腕力がないんだけどさ」

 学者肌でありながら危険な採取活動も厭わないあたり、明らかにフィールドワーク重視の研究者に近いのだろうが、それが身体能力とは結びついていないらしい。フォルクローレを見ていても、体力はあるようだが、腕力は一般的な女の子相当という印象だった。

「じゃあ、フォルちゃんは何か学んだの? 話を聞く限り、女の子たちは他の武器を学ぶことが少ないように聞こえたけど」

「それはあるねー。男子たちが腕力も足りないの剣や斧を振ってる間、あたしたちはひたすら調合したり参考書を読んでたしね。ほら、そもそもさ! 腕力とか筋肉なんて不要でしょ! そこはどれだけ錬金術を修めたとしても捨てられないこだわりだよ!」

 ということは、戦闘能力はやはり爆弾頼りということか。こういう大会に参加しないのであれば、それで一切問題ないと言うのも十分に理解できる。

 そもそも、武術の大会に参加すること自体がレアケースなわけだが。

「一応、武器を作る機会もあるからさ、最低限手にして振るうことはできるんだけどね。重いのは無理だし、軽かろうと武器として盗賊相手に戦ったり魔物退治をしたりってのは無理だね〜。前にいた王国で参加した武術大会じゃ、ある程度は爆弾の持ち込みもできたから、いい線行ったんだけど」

「え! 爆弾、使っていい大会がある……の? 正直私の人生でも聞いたことがないよ」

 可愛くおしゃれした今日のフォルクローレが言うと、一層過激に聞こえる。これまでの平和な時代に爆弾を持ち込んでもいい武術大会とは、一体どんな大会なのだろうか。

 武力で名を馳せた国家だろうか、それとも、主催側がとても緩い大会なのだろうか。

「うーん、世界は広いねぇ。私ですら想像の外の世界っていうのは……」

「すごいでしょ。あそこはかなり過ごしやすい国だったよ。ま、人生の旅には長居するのもぬるま湯かなって思って旅立ったんだけどさ。いつか機会があったら案内してあげたいなぁ。観光目的で行ってもいい国なんだよ」

 旅から旅の人生を過ごしてきたフォルクローレの話はやはり面白い。錬金術士という未だ全貌の見えない世界を生業にしているだけでも面白いのに、自分とは違うルートを通ってこの国に落ち着いたというのも興味が尽きない。

「フォルちゃんの旅の話も、もっと聴きたいなぁ。すごく面白そう」

「そ? ま、エルちゃんほど長くは生きてないけどね。でも、それなりにはいろんな経験をしてきたよ。それを言ったらエルちゃんの300年の旅路ももっと深く聴きたいし。だけど、お互い別々の時間を別々のルートで歩んできて、この国この街に落ち着いて、こうして出会った。不思議だよね〜」

 フォルクローレから人の縁のような話を聞かされると、むしろそちらの方が不思議な気持ちになる。この金色の髪の娘は、少なくとも、表面上見えているよりもずっと多くの物事を考えているのだ。

「うん、不思議だね」

「でもさー、あたしは思うんだ。さっきこのアクセサリーをつけた時にも思ったことなんだけど、できれば今までエルちゃんが出会ってきたどのお友達よりも深く付き合っていきたいって。嫉妬とは違うんだけど、先輩の意思を継いで、より強く友好を結びたいよ。少なくとも、正体を知ってしまった友達はあたし、ていうかこの街の人たちだけなわけだしね」

 思いがけずかけられたこういう言葉にはとんと弱いエルリッヒ。今まで、何年経っても外見がほとんど変わらないことで怪しまれたりしないよう、一つの場所に長居することを諦めてきたから、それを真っ向から否定できるような想いを表明されてしまうと、ついつい心が揺り動かされてしまうのだった。

「〜〜〜っ!! フォルちゃん! ありがとう!!」

「わわっ!」

 思わず、隣のフォルクローレに強く抱きついていた。




〜つづく〜

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