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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第六章 熱狂の準決勝
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チャプター41

〜王城 竜王杯会場〜



 ザルツラント侯爵は準決勝を戦う相手を呼び出す。呼び出されたのはゲートムント一押しの槍使いの兵士と、緑色に輝く鎧に身を包んだ騎士。

「お! あいつ俺のお気に入りのやつだ! ツァイネ、あいつのこと知ってるんだよな!」

「一応ね。彼が入ってきた時にはもう親衛隊の所属だったから、同じ任務にあたることはなかったけど、平民の兵士たちは自分にとっても仲間意識の強い後輩だしね。でも、本当に顔と名前が一致する程度だけどね」

 来賓席で見ていたゲートムントは興奮気味に槍使いを指差した。お気に入りの兵士が準決勝進出を決めたことには大喜びだったのだが、それがまさか第一試合に組まれるとは思っておらず、興奮もひとしおだった。

 一般的なトーナメントの試合では、表の上から試合が行われることも多いのだが、この大会では、そこもシャッフルで試合を行い、観客を飽きさせないよう工夫していた。

「いやー、それにしても槍使いがベスト4に勝ち残ってるってのは嬉しいよなぁ! しかも平民出身! このまま優勝してほしいね! で、俺とエキシビジョンマッチしてぇ!」

「ゲートムント、彼が勝つ度に同じこと言ってるじゃん。全く……。エキシビジョンマッチは俺たちが勝手に予想してるだけだからね。実際にはなーんにもないかもしれないし。あと、これ言っちゃうと興醒めしちゃうかもしれないけど、騎士の人たちって基本的には槍は使わないんだよ。だから、槍使いは平民出身者ばっかりだね」

 その裏話に、ゲートムントは「なんで!」と言わんばかりの表情でツァイネの顔を見つめている。興醒めした風でないのは良かったが、何がそんなに驚くことなのかと、むしろツァイネが驚いてしまう。

「いや、なんでなんだよ。槍、一番いいじゃん! リーチは長いし叩いてよし、突いてよし、最高の武器なのに!」

「それはゲートムントの主観でしょ。貴族ってさ、実利より体面が大事だからね。剣技は磨くけど、槍は一部の家の流派にあるだけなんだよねー。それはそういうもだと思ってもらうしかないね」

 こればかりは誰に文句を言うこともできないので、諦めてもらうしかない。

「何にしても、さすがにゲートムントと戦ったんじゃ勝負にならないと思うよ? お城の面々は魔物や獣相手の実戦経験はないからね」

「ま、そうだよなぁ。でも、俺も人間相手に戦う機会は滅多にないしなぁ。そこはトントンな気もするけどな」

 城の兵士は魔物と戦う機会こそないが、犯罪者相手に戦う可能性はあるので、人間相手の立ち回りについてはしっかりと鍛錬している。となれば、魔物との戦いが多いゲートムントが不利になる場面もあるのかもしれない。そんなことを考えるだけでワクワクするゲートムントなのだった。

 まるで子供のように一人で勝手にあれこれ考えてテンションを上げている様子を見て、ツァイネの胸にも温かいものが去来するのだった。

「お、そろそろ試合が始まるみたいだよ。話はここまでだね」

「ああ。んじゃ、大人しく応援するとしますか」

 二人は視線を舞台に移す。舞台中央に立つ二人を見遣ったザルツラント侯爵が大袈裟に咳払いをする。


「西城門守護隊所属、ラインハルト・ハインツ! 対、竜騎兵所属、フォルクス・フォン・ディードリッヒ!」

 高らかと名前が呼ばれると、二人はゆっくりと歩み寄った。

「君があの番狂わせの槍使い君か。よろしく」

「こちらこそ。あなたの見事な剣さばき、いつも感心しています」

 相手は貴族なので、機嫌を損ねないよう最大限の配慮をしながらの受け答え。こういう場面では、いつも気を使うのは兵士たちだ。普段は紳士的に振る舞ってでも、平民が対等な素振りを見せれば途端に態度を変えて不機嫌さを露わにする者がいる。そして、誰がそういう相手かわからないので、ラインハルトは平等に下手に出ることにしていた。これは、この騎士団で得た処世術の一つだ。平民として日々を過ごすだけなら不要なテクニックだったが、騎士団は基本的に指揮官が貴族出身者なので、いやでもそう言う気遣いを身につける者が多い。

 と言っても、この時の言葉に偽りはなかった。彼はトーナメント表を確認して、いずれ対戦相手になりうる相手の試合は極力確認するようにしていた。だからこそ、フォルクスの剣さばきは侮れないと考えていたのだ。

「ま、いい試合をしようじゃないか」

「はい。胸をお借りします」

「それでは、両者とも準備は良いですね? 試合、はじめ!」



 試合開始の合図を受け、二人は飛び退る。ラインハルトは己の得意な間合いで戦うため、フォルクスは相手の得意な間合いからさらに遠ざかるため。槍使いにとって恐るべきは懐に入られることなのだ。一方、スタンダードな剣士にとって恐ろしいのは、自分の間合いの外から攻撃されることなのだ。だがしかし、槍の間合いよりも遠くに距離を確保できれば、優れたリーチも活かせない。槍使いのような長い間合いを得意とする相手への対処もある程度は訓練を積んでいるため、間合いを詰めることを重点的に訓練してきている。

(さすがにお互い間合いを意識した立ち回りから始めるか……面白い)

 ゲートムントも、冷静に状況を見ていた。間合いを離すだけではまだ試合展開としては序盤中の序盤で、結果を占う材料にすらならない。それでも、セオリー通りの動きをするのがまずは定石だ。

(フォルクスさんは素早い割に力強い剣技を放つ。間合いを詰められたら終わるし、あの鎧を突き崩すのも生やさしいことじゃない。さて、どう攻めようか……)

(あの槍の得意な間合いで攻められると防戦一方になりかねない。まずは懐に飛び込まないとならないが、そう易々と危険な間合いは明け渡してくれないだろう。伊達に番狂わせを演じてきたわけじゃないだろうしな。やはり、油断できる相手ではないか……)

 それぞれが次の一手をどう繰り出すか、じっと睨み合ったまま思案している。お互い準決勝まで駒を進めて来られたのは決してまぐれなどではない。ならば、膠着状態になることもあれば、一瞬で勝敗が決することもありうるだろう。有効な一手は欲しいが、攻め入る隙は与えたくない。都合の良い状況にどう持っていくか。得物が違うだけに難しいところだった。

「あの二人、どう出っかな〜」

「睨み合ったまま動けないでいるね。俺たちが模擬戦してる時もあんな感じになることがあるよね。結局、どっちかが意を決して攻めて行かないと試合は動かないんだけど」

 槍と剣という組み合わせは、まさしくゲートムントとツァイネの得物でもある。だから、お互いに攻め方が難しいことをよくわかっていた。これが、観戦の醍醐味でもある。

 当事者の気持ちをそのまま体験できてしまうのだ。

「俺だったら自分から動くね。今の距離感ならお互い攻めようがないわけだし、自分から動いたほうが主導権が取れて、得意な距離をキープしたまま攻められる」

「でも、近づいてきてくれたら、その分懐に入るのも楽になってくるんじゃない?」

 一般的な剣士であれば、槍の間合いに入ることはそう簡単なことではない。だが、スピードに自信があるツァイネは別だった。相手の間合いに入ることも難しく感じない程度のスピードを身につけている。フォルクスも、レベルの差こそあるかもしれないが、同様にある程度の自信があるに違いなかった。それでも、自分から懐に入りに行かないのは、ラインハルトの実力を警戒してのことだろう。

 ジリジリと、時間だけが過ぎていく。それでも、これまでの試合を見てきた観客たちは、強者同士の睨み合いにますます興奮を高めていくのだった。




〜つづく〜

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