チャプター38
〜コッペパン通り エルリッヒの部屋〜
「それじゃ、とりあえず色々出していくね。気に入ったのがあったら言って?」
「ん、わかった。ていうか、ずいぶんたくさんあるんだね〜。意外……」
エルリッヒは道具箱の中からジャラジャラとアクセサリーを取り出していく。センスの良し悪しは信頼しているものの、普段あまり飾り気がないので、アクセサリー類はさほど持ち合わせていないものだと思い込んでいた。これは、今から一段オシャレにしてもらおうという中では嬉しい誤算である。
「意外とは心外だね。私だって一応は女の子だよ? 人間社会にやってきた時に、女の子は可愛い格好に憧れる人が多いって教えてもらって、ずーっと頑張って磨いてきたんだから。それは、人間の女の子も同じでしょ? 赤ちゃんの頃からいきなりオシャレに興味があったわけじゃないんだから、それと同じ。でも、年季は違うよ。と言うわけで、これはこれまでの暮らしの中で出会ってきたみんなとの、思い出のアクセサリーたちだよ」
「え、それって、大事なものじゃないの? あたしが借りちゃっていいの? みんなの想いが詰まってるって言うんなら」
エルリッヒが永い永いこの世界での暮らしの中で、自分で買い集めたアクセサリーというのであればまだわかる。がしかし、その間に出会ってきた人たちとの思い出の品と聞かされては、おいそれとそれを自らに飾り付ける気にはなれない。今一番親しい同世代(?)の同性は自分かもしれないが、だからと言ってそう気安く使わせてもらうのは悪い気がしてならない。
何より、おそらくその過去の人々は、すでに……
「フォルちゃん、深く考えすぎだって。これはね、継承だと思えばいいんだよ。今まで出会ってきたみんなから、フォルちゃんへの継承。なんの? ていうのは、私との友情の。みんな、私の正体を知らないままに別れたから、こうしてそれを知ってるエルちゃんに受け継げるのは、すごく嬉しいんだ」
「そういう……もんなの? 普通の寿命を生きてるあたしにはよくわからないけど……」
どういう形であれ、この先フォルクローレとの別れもやってくる。エルリッヒたち竜王族からすれば、もう100年経ったとしてもそれは人間にとっての一年にも満たない時間の経過だ。実際に過ごす年月は同じでも、生涯のうちに占める年数の違いはまるで異なる。
「そうだよ。少なくとも、私がこれでフォルちゃんをもっと可愛くしようって言ってるんだから、素直に可愛くなっちゃえばいいんだよ。それに、向こう300年の歴史のあるものだからね。中には今のセンスに合わないものもあるだろうし、今の格好に合わせるっていう前提だと使いづらいものもあるだろうし、もっと気楽に考えていいんだからね。たかだかって言い方はしたくないけど、アクセサリーはアクセサリーなんだから」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて、身につけさせてもらうとするよ。念のために確認しておくけど、思いがこもりすぎて呪物になってるのとか、魔王時代の魔法の力が込められた、戦いに有利な効果のあるアクセサリー、みたいなのはないよね」
こういう一言を挟んでしまうのが、性格的にも職業的にもフォルクローレらしかった。しかし、錬金術アカデミーではそういったアイテムへの注意喚起も授業の一環で行われており、気にしてしまうのも無理からぬ話だった。まるで生徒たちを脅すかのような勢いでやれ「怨念がこもっており身につけたものに不幸をもたらす」だの「魔力が込められており、かつては身につけたものの力を増幅させる効果があった」だのと実物を前に説明されてしまうと、信じてしまうし意識もしてしまう。
「……そこに関してはノーコメント」
少しだけ間を置いての返答に、流石のフォルクローレも固まってしまう。返答に時間があったことも気になるが、何より名言を避けたことも気になる。一体どういうことなのか。これは詳しく聞き出さねば安心できない。
「ちょっとそれどういうことか教えて欲しいんだけど、なんでノーコメントなの? なんで即答しなかったの? い、いや、ありますって即答されても怖いんだけどさ」
「んー、なんて言うの? そう言うことを訊かれるとは思ってなくて。想定外の質問って、即答しづらいでしょ? それに、思い出は克明に覚えてるけど、謂れだの曰くだのの類までははっきり覚えてなくてね。一応内訳を簡単に説明しておくと、アクセサリー屋さんで買ったやつはそう言う心配はないはず。お値段も高くなかったし、安すぎもしなかったし。でも、手作りのものはわからないね。少なくとも、作ってくれるからには想いは込めてくれてるわけでしょ? 職人さんが作るのとは違って、その子たちから私への。それが何かしらの力を与えてしまったとしても、ありがたいことだし責められないよね。それと同じで、魔王時代は魔力を持った人たちがたくさんいたから、そんな子たちが作ってくれた時に何かの力が宿ったとしても、不思議はないと思うんだ。ただ、私が身につけた時には、特に何の効果も発揮されなかったことだけは断言するよ」
長い説明を終え、ひと息を吐く。昔のことを思い出しながら話すのも、たまにはいいものだ。今を生きてはいるけれど、間違いなく過去を生きて来たのであり、当時出会った人たちがいたからこそ、今の自分があるのだから。
「と、とりあえずこのアクセサリーたちがエルちゃんにとってあったかいものだって言うのはわかったよ。いや、でも、それだけに、身につけた途端に『あたしのエルに手を出すな〜! お前が身につけるな〜!』みたいな感じで締められる、なんてことにはならない……よね?」
「あはは。それは保証できないって。でも、私の出会ってきた人たちは、自分が作ったアクセサリーを私が今の友達に貸したとしても、決して怒ったり恨んだりするような子たちじゃなかったよ。フォルちゃんだって、そうでしょ? もし私に道具を作ってくれたとして、100年後にそれを誰かその時の友達に貸したとして、それを天国から見てたとして、その友達を恨んだり呪ったり、する? しないよね? それとも、しちゃうの?」
流石に自分ごととして置き換えてみると、ある程度は杞憂であることが実感できる。確かに、フォルクローレであればそのような場面をあの世から見ていたとしても、絶対に喜ぶはずなのだ。長い時間大切にしてくれていたことや、人に勧めてくれたことなどについて。もちろん、将来に渡って自分が友達の座についていたことを覚えてくれていることも嬉しく思うだろう。過去の友達たちも似た心境でいるような人たちなら、確かに安心できる。
「守ってくれることはあっても、恨むことはないから安心していいよ。まあ、想いとは別に魔力みたいなのがこもっちゃったのがあれば、それはやっぱり保証できないけど」
「あー、またそういうことを言う〜。せっかく少し安心しかけてたのに。でも、エルちゃんの言葉を信じるよ。今は、先輩さんたちとの思い出に胸を借ります! ってわけで、何が合うかな〜。あ、このペンダントなんてどう? 今は見ない紋様だし、彫刻も細かいし、邪魔にならないけどうるさくもない存在感で、すごくいい!」
まさかこんなやり取りでこんなに時間を食うとは思いもよらなかったが、まだ十分に時間はある。二人はアクセサリー選びを続けるのだった。もちろん、フォルクローレは少しだけ魔力のこもった呪物でないことを用心しつつ。
〜つづく〜




