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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第五章 第2回戦の攻防
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チャプター32

〜王城 竜王杯会場〜



「みなさん、お待たせしました! 熱狂の大会はいよいよ二回戦に突入です! 一回戦を勝ち抜いた猛者たちによる試合は、きっとますます激化することでしょう! 片時も見逃すことのないように! しかとお楽しみください!」

 司会の貴族も二回戦の始まりということで、昨日までよりもテンションが高い。どういう人選でこの舞台に立っているのかはわからないが、この様子からすると、嫌々任命されたというわけではないのだろう。二回戦でこの様子なのだから、3回戦以降の試合となったら、果たしてどれだけテンションが高くなるのか、想像するだけでも楽しい。

「ここから先、現れるのは一回戦で顔も戦い方も知っている者たちばかりです! 手の内を知る者同士でどのような戦いを繰り広げるのか、楽しみですね〜! さあ、私がいつまでも語っていては、試合も始まりません! 早速最初の戦士たちを呼びましょう!」

 司会の呼びかけに応えて、二人の男が現れた。一回戦の第一試合の勝者と第二試合の勝者だ。観客は熱狂する割にその氏素性はほとんど気にしておらず、会場の入り口に掲出されているトーナメント表を見ている者、ましてその中で名前を覚えている者は少なかった。大切なのは目の前で行われる試合を楽しむことであり、自分達がどれだけ熱狂できるかであり、それ以上のことはどうでもよいのだった。

「おっ! あの二人の試合、どうなるのかなー」

 氏素性を気にする数少ない一人がツァイネである。第一試合の勝者である長剣使いの兵士と第二試合を沸かせた短剣使いの兵士。まだまだ年若い二人のことをツァイネも知らない。しかし、この大会で一度でも勝利したことは大変な栄誉になるはずであり、機会があれば是非とも直接話をしてみたいと考えていた。

「確か、最初の試合のあいつは特徴のない兵士だった気がするんだけど、ツァイネはどっちが勝つと思うんだ?」

「そうだねー。多分、みんな第二試合で活躍した彼の方が勝つって思ってるんじゃないかな。でも、俺はそうは思わないね。そもそも、あの時の勝利は半分まぐれみたいなものだったし、今回の場合も相手は長剣、リーチじゃ不利だ。素早さで有利な短剣と言っても、近づけないんじゃ意味がない。それに、一族に伝わる奥義みたいなものもないだろうし。だけど、ここで俺が熱く語っても野暮だよ。試合ですぐに結果は出るからね」

 つい熱く語ってしまったツァイネは自分を律するように会場に目線を移した。隣で意見を求めたゲートムントも、ツァイネの解説はもっと聞いてみたいところだったが、確かに答えは試合の場で出るものだと同じように視線を移した。果たして、どのような結果になるのか。



 一方その頃、女性陣の席では。

「ねえ、あの二人ってどんな試合してたっけ」

「え、そこは覚えておいてあげようよ。確かに、第一試合のあの人はちょっと特徴なかったけどね。この試合でいい感じの試合をして欲しいよね」

 試合自体は楽しみにしているものの、試合運びや武器捌きなどにはあまり関心がなく、どちらかというと一般の観客と同じような観点で大会を楽しんでいた。

「ほらやっぱり特徴のない人だったんじゃん。それじゃあ仕方ないって」

「フォルちゃん、その言い方は気の毒だよ〜。それにさ、今回は相手の手の内が多少わかってる戦いなんだよ? しかも、兵士と騎士みたいな不公正な戦いじゃなくて、兵士同士の戦いだよ? 一回戦でも何度もあったけどさ、対等な立場の戦いの方が、白熱しそうじゃん。ほら、フォルちゃんお手製のインゴッドで作られた武具だよ!」

 少しでも関心を持ってもらおうとするのは、自分達が招待客だからということもあるが、フォルクローレが思いのほか関心薄げな様子だったことでむしろ触発されてしまった、という側面があった。やっぱり、フォルクローレは性分から一回戦の試合を見ているうちに自分が参戦したくなってきたのかもしれない。少なくとも、参戦の要請があるまでは一観客として繋ぎ止めておかなくては。関心を持ってもらわなくては。

「そ、そっか! あの人たちの武具、全部あたしの調合したインゴッドじゃん! そこ一番大事なとこなのに忘れるとこだった! フォルクローレ印の特製インゴッド、ファイトだー!!」

 その声は歓声にかき消され、武闘場に届くことはなかった。もっとも、こんな声援、エルリッヒとしては聞かれたら恥ずかしくてたまらないのだが。

「さぁ、普段は同僚として働く二人、己の栄誉をかけて戦います! 手の内を知り尽くした二人がどう戦うのか、注目です!」

 ザルツラント侯爵は第二回戦でも司会を務めている。今となってはすっかり人気者で、彼が出てきただけで観客席から大きな歓声が上がる有様だ。

 どういう経緯で彼が司会進行になったのかは窺い知ることができないが、今の様子を見る限りは最良の人選だったようだ。きっと、この人気は今後の彼の出世にもいい影響を与えることだろう。

「第二回戦第一試合、開始!」

 二人が武器を構えたのを見て、試合開始の合図が告げられた。いよいよ本当の意味での第二回戦の始まりである。

「まさか、こんなところで剣を交えるなんてな!」

「本当にね。でも、勝ち続けていけばどこかのタイミングじゃ同僚と戦う機会があるかもってことは、頭の片隅にはあったでしょ? ま、第一試合であんな立派な騎士様に勝てたのは、本当に幸運だったけど! いつも一緒に鍛錬してて手の内は分かりきってるけど、始めようか!」

 長剣と短剣。個性の違う武器を構えた二人は、観客が見守る中、勢いよく駆け出して刃を交えた。刹那、歓声を打ち消すほどの鋭い金属音が響き渡る。鍛冶屋や武器屋など、聞くものが聞けばその音が一般的な武器に使われる鉄とは違う金属であることがわかるだろう。

 もちろん、この金属を生成した張本人であるフォルクローレは、その音を聞き分けることはできない。

「やっぱ! その短剣だと不利じゃないのか!?」

「そうかもね! でも、これのおかげで素早く動けてるからね! 前の戦いだって、今だって!」

 勢いよく振り下ろされた剣を短剣で受け止める。武器としての個性は違うが、強度は同じなので短剣が小さいからといって一方的に打ち負けることはない。少しの間受け止めていたが、すぐに身をかわして攻撃から逃れる。振り下ろした勢いがいなされたことで、体勢を崩しそうになるが、咄嗟に立て直して身構える。次の攻撃はどう来る? 素早い短剣での攻撃にどう対処すればいい?

「せいやっ!」

「っ! 横か!」

 瞬間的に想定しうる攻撃パターンをあれこれと考えていたのが功を奏したようで、確かに不意打ちであった横からの一撃をすんでのところで躱すことができた。と言っても、右腕に軽い一撃を負ってしまう。これが騎士の身につけるようなフルアーマーなら軽い衝撃だけで済んだのだろうが、自分達兵士はどうしても軽装にならざるを得ない。まして、相手は常日頃から軽くて取り回しの効く短剣を愛用し、その個性を活かすべく鍛錬を積んできた同僚なのだ。スピードにおいては一日の長がある。

「流石に、攻撃の手際がいいな」

「当たり前だよ。何しろこっちはみんなと同じ長剣の装備を義務付けられていた時でさえ、厨房で余ったナイフをもらってきたり、武器庫にあった短剣を使わせてもらったりして、日々鍛えてきたんだからね。家を出る前、身を守るための唯一の道具だったのがキッチンにあった包丁だったんだ。仕官する前からの熟練の技だよ」

 まだ若い身空で”熟練”などというのはいささかおかしいのだが、若い兵士が多い中では、幼少期からの経験は意外と侮れない。まして、まともに剣を振るったのが兵士になってから、という者も少なくない中では余計に。

「さ、栄誉のためにも報酬のためにも、第三回戦に勝ち上がらせてもらうよ。今のうちに本気を出しておいた方がいいんじゃない?」

 挑発めいた一言に乗ることなく、彼は長剣を構え直した。

「付き合いの長い俺には、そういうのは通用しないっての。でも、確かにこのままやられたんじゃ、二回戦進出の名が廃るってな!」

 ジンジンと熱を持って鈍い痛みを発する右腕に鞭を打つように、剣を構える手に力を込めた。




〜つづく〜

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