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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第五章 第2回戦の攻防
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チャプター31

〜王城 竜王杯会場〜



 大会開始から一週間、試合は滞りなく進んでいた。二日目の八百長試合以降、不正試合は一件も確認されていない。一説によると、兵士や騎士たちの間で噂が広まったために自粛されているということだが、運営委員はその真相を追うことまではしていない。

 結果として正々堂々とした試合が続いているのであれば、こんなにいいことはないのだから、それ以上の労力を割くことに意味はない、という判断だった。

 一方、実力の足りない騎士の炙り出しは着々と進んでいた。人々の間で騎士が強いと言われているのは、果たして一般兵士より豪奢な装備によるものなのか、幼少期からの家での鍛錬によるものなのか。そういった神話や幻想を打ち砕くかもしれない議論にもつながっていた。

 即ち、兵士に負ける騎士が幾人も現れたのである。


 しかし、それは皮肉にも大会をより盛り上げる結果となった。なにしろ、観客の大半は一般市民である。兵士はあたかもその代表であるかのように応援されているのである。貴族代表の騎士に勝ったとあれば、その快哉たるやいかばかりか。

 貴族の中にはその風潮を反体制や革命の種ではないかと危険視する者もいたが、国王はそれを一笑に付した。古今、貴族と平民というのは格差のある身分なのだから、このような空気はこの国だけでなく他国でも変わらないということである。

 きっと、この議論は大会終了後に改めて論じられることだろう。


 兎にも角にも、魔物の襲撃もなく、一週間の間盛り上がることができていたのである。この日も、大会は滞りなく開催されていた。

「そういえば、この大会って何日あるんだっけ」

 来賓席に着いたフォルクローレが、おもむろに口を開いた。エルリッヒたち四人も、休むことなく観戦に訪れていた。大会期間中は王都全体の運営が止まっている部分も多いのだが、なにしろすでに一週間。日常生活を気にする者が現れるのも道理だった。尤も、フォルクローレはそこまで深い考えで口にしたわけではなかったが。

「そういえば。私もそれは気にしたことがなかったなぁ。誰かに訊いてみる? 何しろ人数が多いから、試合数が多いって言っても毎回違うし、大変といえば大変だよね」

「楽しいから最後まで追いかけるけどね! 例の八百長くんのリベンジ試合も気になるし。あれ、多分最後のエキシビジョンでしょ? 大会会期が単純に気になっただけだからいいんだけどね。正直な話、王都のみんながこの大会に釘付けでしょ? それに、呼ばれたからにはあたしらは観戦するのが義務だろうし」

 どこかで誰かにチェックされているのかといえばそんなことはないだろう。だが、やはり国からの正式な書状で招待されている以上、然るべき理由がない限りは欠席するべきではないだろう。これまでの一週間、そんなことは考えもしなかったが、改めて意識してみると、迂闊にはサボれないのだ。つまらない大会になっていなくてよかった。少なくともお店が立ち行かならないような蓄えがあってよかった。そう考えてしまう。

 もっとも、その蓄えは棚からぼたもちで得られたようなものなのだが。

「でも、他のみんなはどうしてるんだろう。毎日通ってる人もいることはいるよね。ここにいる限り稼ぎがないって考えると、なかなかにすごいことだよね」

「あれじゃない? 王都っ子は金より優先することがある! みたいな。や、あたしも王都っ子じゃないから、本当にそんな心意気があるのかどうかはわかんないけど」

 今『竜の紅玉亭』に尋ねてこられても閉店していて応対できないのと同じように、他のお店も臨時休業しているお店が増えているだろうし、職人たちの製作も止まっていることだろう。これは、王都全体にとっては大きな税収減につながるのではないか。そんな疑問をぶつけるとしたら、誰が適任だろうか。

 一介の市民にすぎない自分が気にすることではないのだが、ついつい気になってしまう。

「まー、その辺は気にしてもしょうがないよね。あたしもエルちゃんも同じなんだし。それより、今日の試合はどうだろうね。面白い試合があるといいけど」

「そろそろ2回戦になるし、面白くなってくるんじゃない? 一回戦を勝ち抜いた強者だし、みんな次の対戦相手になるかもしれない人の試合は観てるだろうし。だったら、対策はばっちりだろうからね」

 2回戦目ともなると互いの研究も最低限行われていることだろう。となれば、その分だけじっくりとした試合が行われる可能性や、電光石火でカタをつけようとする者が現れる可能性がある。そういう、1回戦目よりも手探り感のない試合運びに期待が持たれた。

「確かに! みんな、あれこれ考えてるよねぇ! あいつの得意な攻撃はこうだから、俺はこう対策しよう。みたいなのは渦巻いてるよね。う〜ん、そう考えると、ますます楽しみになってきた!」

「でしょう? でも、自分が参戦したくならないように気をつけてね」

 ルール上そういうことはできないのだが、万が一にもフォルクローレがうずうずしてしまったら、それこそ爆弾で暴れ回ることになる。そういう危険は魔物や獣相手に限定して欲しい。

「大丈夫だってば。暴れ回ったりしないから。というかエルちゃん、あたしそんなに信用ない?」

「信用っていうか、好戦的な部分はあるでしょ? でなきゃ、あんな爆弾のプロフェッショナルになんかならないだろうし。もはや爆弾マイスターじゃん」

 他の錬金術士の事情は知らない。だが、少なくとも王都ではフォルクローレは並ぶもののない爆弾作りの名手だ。そもそも、この街に爆弾という兵器を持ち込んだのもフォルクローレが最初かもしれない。火薬を固めた球に薄く延ばした鉄を被せる武器なんて、そうそう思いつくものではない。錬金術では一般的かもしれないものでも、その外の世界ではさほど知られていないのだ。

 300年以上生きてきたエルリッヒだからこそ爆弾の存在を知っていたが、平和な時代を生きる今の多くの人間には馴染みがない。目に見える脅威が取り払われた後、人間同士の争いが復活すれば爆弾も現役の兵器として使われ、改良され続けていたかもしれないが、エルリッヒが考えた以上に人間同士の結束は強くなっていた。以降、小競り合い以上の争いはどこの地域でも起こらず、爆弾は過剰な兵器ということでその存在を薄れさせることとなった。

 だから、爆弾作りの技術が連綿と受け継がれていた錬金術士の存在には、驚きを隠せないでいた。

「ま、まぁ、爆弾作りはね。アカデミーにいた時もこれだけはみんなに褒められてたし? えへ、えへへへへ」

「嬉しそう。やっぱり爆弾娘か。そのフォルちゃんが爆弾を持って暴れ回ったら、この会場だってタダじゃ済まないでしょ? どうせ、この後は遠くないうちに魔物の襲来があるだろうし、外に出れば今まで以上に危険な魔物がうろついてるんだし、爆弾はそういうとこで使ってよね」

 軽く釘を刺しつつ、会場に視線を移した。まだ今日の試合は始まっていないので、観客たちがざわついているのが良く見える。対する貴族席の面々は誰も彼もがどこか険しい。ルーヴェンライヒ伯爵のように直接関係している人たちは不正試合を見つけようと気を張っているから当然と言えるが、大会の運営には無関係そうな貴族たちもあまり穏やかな表情はしていない。やはり、直接の職務とは関係のないものに時間を取られて不服なのだろうか。

「あっちの貴族衆、つまらなそうな顔してるよねー」

「お貴族様には庶民の楽しみは理解できないってことでしょ。依頼で顔を合わせても、価値観違うなーって思うことが結構あるし」

 妙な温度差を感じつつも、大会2回戦目の幕が開こうとしていた。




〜つづく〜

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