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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第一章 大会前夜の賑わい
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チャプター2

〜コッペパン通り 竜の紅玉亭 夜〜



 夜の営業でも、やはり竜王杯の話題で持ちきりだった。しかも、今日はゲートムントとツァイネが揃っている。観客席に入るためにあれこれ思案しているみんなからすれば、大会側に招待されているという羨ましいほどの身分の二人だ。周囲の嫉妬すら集めている。

「いいよな〜。なんにも気にしなくても観戦できるんだから」

「またそれかよ〜。俺たちだってねだったわけじゃねーんだし、そういうのはお城の人に言ってくれって。それに、俺たちだけじゃなくてエルちゃんもだろ?」

「ばーか、エルちゃんにこんな嫉妬みたいなこと言えるかっての。でもよ、なんで二人は招待されたんだろうな。なんかすごい功績でもあったのか?」

「そこなんだよねぇ。ツァイネはともかく、俺はあいつからしたらおまけみたいなもんだからなぁ。戦士としては負けてねーけど、それとこれとは別だろ? ギルドには他にも腕の立つ連中がゴロゴロしてんだし。謎なんだよなぁ」

「ゲートムント、この話の流れで張り合わなくてもいいから。今回呼ばれたのって、多分ルーヴェンライヒ伯爵の差し金じゃないかなぁ。言い出しっぺの一味ってことで、参加させたいんじゃない? 何か暴動みたいなのがあったら俺たちにも鎮圧に動いて欲しいとか、兵士たちの動きに意見が欲しいとか、考えられる目的は色々あるよね。まぁ、丸腰で来るように言われてるから、大方予想はつくけど」

「それ、あれだろ? 兵士の連中と同じ武器で戦わせるってやつ。昼間もみんなでその話をしてたんだよ。もし本当にそうなったら、全力で応援すっからな!」

 ゲートムントたちのテーブルには、いつしか人だかりができていた。みんな、自分たちが観戦できるかどうかについては切実な嫉妬を覚えているが、一方でこの二人がエキシビジョンマッチに駆り出されるとしたら、その時は全力で応援するつもりなのだ。この感情は、決して矛盾や二律背反ではなかった。

「みんな、盛り上がってるなぁ。ま、騎士団だけのうちうちで開催されても面白くないし、一般市民の目があった方が悪だくみはやりづらいってのもあるだろうけど。今頃、どんな準備をしてるのやら。っとと、はいはいお待ちどう。野菜とお肉の盛り合わせだよ! 今日は外国のスパイスが手に入ったから、ちょっと使ってみたんだ。感想、聞かせてよね!」

「お! 待ってました!」

 『竜の紅玉亭』には決まったメニューがあるが、適当に注文することもできた。あまり曖昧な頼み方では断るしかないが、今回は「みんなで肉と野菜をたくさん食べたい」というような注文だったため、このような形になった。みんな、すっかり出来上がっていたため、お酒が進むように味は濃くしてある。そこに異国のスパイスだ。

 それなりに値の張るものだったので少しではあるが、味見した限りではしっかりとその主張を感じることができた。問題は、この酔っ払いたちにそれが分かるかどうかだ。

「どれどれ? なんかもう、匂いからして食欲をそそるよ!」

「んー、本当だ! じゃあ一口。……おっ、こりゃうまい! 少し辛いけどそれがまたいいねぇ!」

「なんか、舌がしびれる感じがするな。これが外国のスパイスって奴?」

「俺、辛いの好きだから嬉しいねぇ!」

「好評みたいで嬉しいよ。新しい食材とかスパイスとかって、結構使うとき気を使うからさー。って、誰も聞いてない! ま、お店が盛況なのはいいことなんだけど。さてと、まだ他の注文もあるし、厨房に戻らないと」

 エルリッヒが厨房に戻って行ったことにも気づかず、男たちは酒を片手に皿の上の料理を取り合う。これがなんとも嬉しいひと時なのだった。だから、あれこれ言っていても、表情は緩みっぱなしだった。

 やはり、せっかく作った料理にせっかく仕入れたお酒だ、美味しく飲み食いしてもらってこそ活きるというもの。料理人冥利に尽きるとはこのことだ。

「よし、また美味しい料理を作るぞー!」



「で、二人に聞きたいんだけど、もし本当にエキシビジョンマッチなんてのがあったら、勝算はどうなんだ?」

「あ? 誰に向かって訊いてるんだよ。俺は名うての槍の名手、ゲートムント様だぜ? こいつは元騎士団親衛隊所属、負ける理由はどこにもねーって!」

 テーブルでは、相変わらず竜王杯が話題の中心だ。異国のスパイスが顔を覗かせる肉を頬張りながら、ゲートムントが誇らしげに胸を叩いた。

 その様子に、酔っ払った勢いもあってみんなが笑う。

「みんな、飲み過ぎだよ、まったく。それに、名うての槍の名手ってそれ、自称じゃん。調子いいなぁ。でも、実際に勝てるかどうかを考えると、誰が勝つかによるんじゃないかなって思うよ。丸腰で会場入りするってことは、こないだ新調した武具を使うことになると思うんだけど、大貴族の子息たちは名工の作とか代々伝わってる名剣とか、すごい武器で臨んでる可能性があるしね。実力だけで勝てる相手ならいいけど、こればっかりはわからないよ。わからないから、面白いんだけど」

「お前、何真面目に解説してんだよ。そういうところ、面白くないよな。ま、そのおかげで何度も助けられてんだけど。つーか、俺はちゃんと槍を使わせてくれるんだよな? 俺まで剣を使えって言われたら、ちょっと困っちまうぞ?」

 ゲートムントは剣の扱いにはいまいち自信がない。剣術があまりうまくいかず、槍に持ち替えたところ実力が伸びるようになった、という過去があるため、今でも剣と聞くと少し腰が引けてしまうのだ。

「それは大丈夫でしょ。わざわざ支給対象の全兵士に得意な武器を聞いてから作ったくらいだし、槍使いには槍を支給してくれるはずだよ。当たり前だけど、どの武器にも予備はあるしね」

「それならいいけどな。まあ、魔物相手に戦おうって時に、みんなに剣を使えって押し付けるのはおかしいって話か」

「てことは、本当に勝っちまうかもな! いやー、そうなったらここの常連組としちゃ、嬉しい限りだ!」

「だな!」

「でもよ、騎士団ってのはそんなに槍を使う奴がいるところなのか? 俺たちみたいな一般市民が大半なんだろ? 訓練の時にも色々武器が選べる、とか?」

 そんな疑問を口にしたのは常連客のヨーゼフ。彼の疑問は尤もだった。この中で騎士団の内情に明るいのはツァイネだけだ。だから、この手の質問はいつもツァイネに向けられ、ツァイネが知りうる限りの情報で答える、というのがいつもの流れになっていた。

「さすがにそんなことはないよ。みんな、一律で剣が支給されて、一緒に訓練を受けるんだ。だから、基本的には剣を使うんだけど、その辺を歩いてる兵士は剣も提げてるけど、槍も持ってるでしょ? だから、剣の次に槍をやるって感じ。それが終わると、一般兵士の配属が始まるんだ。ただ、そこまでを修めると、欲が出ていろんな武器を使ってみたいと思う人が出てくるんだよねー。そうなると、空いた時間に武器庫を漁って好き好きに武器を引っ張り出してきて練習するわけ。騎士団としても、それが戦力向上につながるからって特に問題視はしてなくてね。で、そういう人が、今度は後輩を指導したりなんかして、非公式な武器鍛錬も、なかなか面白いよ」

 長い解説を終え、ツァイネはグラスを空ける。飲んでいるのは弱い酒だ。彼は基本的にあまり強い酒を飲まない。酔いたいわけではなく、好みの味の飲み物を求めているだけなのだ。

 しかし、そうして喉を潤してくれるお酒は、いつもより美味しく感じられた。

「はぁ〜。騎士団てのも案外気楽なとこなんだなぁ」

「外から見えてるよりは、ていう程度だけどね。そもそも、おじさんたちは多少内情を知ったところで騎士団を目指さないでしょ?」

「まぁ、確かにな。言われてみりゃそうだわな」

「俺も、騎士団に入ろうとは全然思わねーしなぁ」

「ゲートムントがこう言ってるんだ、俺たちが目指すわきゃねーな! あっはっは!」

 またしても豪快な笑いが巻き起こる。幸いなことに、周囲の客もこのどんちゃん騒ぎに眉をひそめることなくそれぞれの食事を楽しんでいた。

 「コッペパン通り」を中心とした狭い世間のなせる技だろう。

「みんな、騒ぐのもいいけど、他のお客さんの迷惑にならない程度にね。それと、もう少しでオーダー締め切るから、それも忘れないでよね」

 エルリッヒが釘を刺しに現れる。それでようやく少しだけではあったが、場が静かになった。

 ここ最近は、いつもこんな調子だった。それだけ、みんなの期待が高まっているのである。




〜つづく〜

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