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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第四章 八百長疑惑を追及せよ!
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チャプター26

〜王城 剣の間〜



 ルイズは狼狽える様子を見せることもなく、落ち着いた様子のままだった。

「ツァイネ、君が私のことを知っているというのは、親衛隊にいた頃の話だろう? 君も言っていたじゃないか。あれから数年と。確かにあの頃は訓練から逃げ、名ばかりの騎士だったことは認めよう。でもね、親の七光りで就いた役職ではダメだと気付いたんだよ。それ以来、訓練に身を入れるようにしたんだ。と言っても、急に努力する姿をみられるのも恥ずかしいんでね、主に屋敷に帰ってからだったが。そうこうしていたら、あの魔物の襲来だ。あれで、ますます力を入れるようになったというわけさ。おかしなところなんてないだろう?」

「ということですが、伯爵はどう思いますか?」

 言っていることに粗はないが、当時のルイズを知るツァイネはその言い分を初めから信じていない。自分だけで判断するようなことはせず、より長くルイズのことを知っているルーヴェンライヒ伯爵に見解を求めた。それは、彼だけが運営委員のメンバーであるという事実への配慮でもあった。

 あくまでも、自分たちの立場は見学者に近いものだということを肝に銘じていた。元親衛隊という肩書きがあればこそ、今この場にいるのだ。ゲートムントも、現役のギルドの戦士だからこそこの場にいることが認められている。それを思えば、エルリッヒとフォルクローレの二人はおまけのような立場に近いが、いるのといないのでは、やる気がまるで違う。だから、細かいことを追及して退席させるようなことにはならないよう気を付けていた。

「確かに、辺境伯の言っていることは筋が通っているように思えるが? 我々も、上官とはいえ屋敷の中での過ごし方までは把握していないからな。それに、所属部隊も違うゆえ、普段の働きもいくばくかの伝聞でしか知り得ない」

 長年勤め上げてきた棋士としての直感は、彼が八百長試合を行ったと告げている。だが、言い分には筋が通っているのでこれ以上追求するのは難しそうだと判断せざるを得なかった。悔しいことだが、こればかりは仕方がない。

「……だそうだ。ツァイネ、君一人を悪くいうつもりはないが、このように悪者扱いされたのでは、いい気はしないぞ? そもそも、先ほどの戦いの何を見て八百長だと疑ったのか、そこを聞かせて欲しいね」

悪びれる様子もなく、何かを隠す様子もなく、本当に濡れ衣かのような受け答えをされると、やはり彼は悪くないのではないかという不安が過ぎる。一方で、自分たちの直感が信じる通りに八百長が仕組まれていたとしたら、かなりの胆力である。少しも動揺したところを見せないのだから、騎士団ではなく外交の仕事に就いたほうが役に立てたのではないかという気すらする。

「少なくとも……」

 伯爵は慎重に言葉を選びながら話し始めた。こんな状態で自供に持ち込めるのかどうかは全く分からなかったが、成り行きに任せるしかないと腹を括る。

 その様子は、そばで見ているエルリッヒたちにも伝わってきた。

「私の目にはあの試合が出来すぎているように見えた。不自然に思われないよう相手の見せ場も用意した上で試合に勝利し、相手の健闘を讃える。あまりに綺麗な展開だ。そこに違和感を覚えた」

「そんなこと、さっきも言いましたよね。彼は健闘したって。一般の兵士にも実力のある者がいた。それだけのことです。それを、私は勝者として、騎士として讃えたまでのこと。そんな試合、他にもあるんじゃないですか?」

「綺麗すぎるのが問題なんだけどね。やるからには疑われないような試合運びを考えたんだろうけど、ちょっと綺麗すぎて不自然だったよね。とはいえ、これは伯爵と俺の勘でしかないから、そんなものを証拠に糾弾しようなんてことはないよ。それよりも、さっき言った話。心を入れ替えて修練に励んだってところだよ。俺は確かに親衛隊を辞めてから何年か経ってて、その後の君のことは知らない。でも、当時の君の実力は、覚えてるつもりだよ。もちろん、大した実力じゃない。それがたかだか数年でそんなに変わるかな。基礎もなってなかったよね? あと、一番疑わしいのは、そう簡単に心を入れ替えるとは思えないってところ。親の七光りじゃダメだって気づくのに、一体何があったのかな」

 これはこれで具体的な証拠を突きつけたわけではなかったが、ツァイネの言葉は明らかにルイズの態度を変えた。ここまでの受け答えを見れば、こんなことで化けの皮が剥がれるようなことは考えにくい。それでも表情を隠し切れなかったのは、格下のツァイネに指摘されたからだろうか、それとも、そこまで想定していなかったからだろうか。それを今この段階で推し量ることはできない。

 ツァイネも伯爵も、今はまだ淡々と追求を続けるのみ。

「そ、そんなの、決まってるじゃないか。周囲の仲間との実力差を感じたからだ。周りの連中はしっかり訓練していて、家名に恥じないように努力していた。だから、負けないように努力しなくてはと思ったんだ。それの何がおかしい?」

「大いにおかしいよ。それなら、もっと早い段階で気付けるはず。それにさ、自分がそうだったからわかるんだけど、そう簡単には強くなれないんだよね。俺は平民の出だったから努力に努力を重ねて、親衛隊入りを認められるだけの実力を手にした。親衛隊を辞めてからは冒険者としてこの街の外で色んな実践経験を積んできた。そうして今の実力を手にしたんだ。それって、お屋敷で努力した程度じゃ、到底辿り着けないんだよね。だからさ、わかっちゃうんだ。さっきの戦いが全て仕組まれた者だって」

「ツァイネよ、それくらいにしておけ。それは確たる証拠ではないからな。だが、言い分も尤もだ。実力は嘘を付けぬものだ。なんなら、ツァイネと手合わせしてみるといい。そうすれば、先程の試合の真偽がわかるだろう。もちろん、公衆の面前でとは言わぬから安心されよ」

 伯爵の言葉に、ルイズも黙ってはいなかった。表情を変えぬまま、言葉を紡いでいく。いつまで続くかわからないこの応酬、まだどちらも根負けするつもりはなかった。

「確かに努力を続けたとは言いましたが、親衛隊出身の彼ほどの実力はありませんよ。いくらなんでもそんな手合いと剣を交えたのでは、どう考えても不利。それで実力を推し測られたのでは、たまったものではありません。違いますか?」

「ってことらしいんだけど、ツァイネ、どうなんだ?」

「ゲートムント、無理に口を挟まなくても……でも、相手が強いかどうかは関係ないから安心していいよ。お互い本気で剣を交えれば、相手の実力がどれくらいのものなのか、おおよそは分かるよ。どうする? 君がさっき見せた戦いが本当の実力だったのかどうか、確認してあげるよ?」

 ともすると一方的な敵意すら買ってしまいそうなほどの無邪気な笑顔。多かれ少なかれルイズを試す意味合いを込めて作った表情だったが、予想以上に効果的だったらしい。

 どういうわけか、伯爵の問いには平静を装って答えているが、ツァイネが口を開くと、感情の蓋が開いてしまうらしい。それはつまり、平民と見下していた相手がかつて自分を飛び越えていった事実への苛立ちだろうか。

 騎士団内部には、ツァイネに対してこういう感情を抱く貴族出身者も少なくない。だから、特段珍しいことではないのだが、生まれながらに人の上に立つ、という役割を課せられている王侯貴族にとあっては、あまり感心しないのもまた事実だった。

「……いいでしょう。そこまで言われて黙っていては貴族の名折れ。先程の試合が八百長でないことをしかと証明して見せましょう。なんなら、観衆の前で披露してもいい」

「辺境伯、それで良いのだな? 観衆の前ということは、陛下もご覧になる御前試合でもあるということだ。この場にいる者だけで確認する模擬戦でもよいんだぞ? 大々的なエキシビジョンマッチとして組むかどうかは、君自身に任せる。ツァイネ、君もよいな?」

「ええ、どちらでも」

 どちらであっても面白い試合になる。そう考えただけで、ツァイネは密かに心が沸き立っていた。一方、大見得を切ってしまったことを自覚しているルイズは内心の動揺を隠すことに必死だった。

「それでは、試合は後日行うこととする。辺境伯には、明日中にどちらの形式で試合をするか私か運営委員に伝えるように。では、下がってよいぞ」

 感情を込めずに伝えられた伯爵の言葉を受け、ルイズは静かに席を立ち、「では、本日じっくり考えることといたしましょう」とだけ吐き捨てるように告げてから剣の間を出て行った。




〜つづく〜

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