チャプター22
〜王城 竜王杯会場〜
幾つかの試合が終わり、休憩時間が訪れた。さっきの気になる試合について、動き出すのは今しかない。エルリッヒは席を立ち、フォルクローレを連れてツァイネの席に赴いた。
「ツァイネ〜」
「わっ、エルちゃん? 休憩時間、どうする? どこか移動する?」
「そうじゃなくて、二人はさっきの試合、気にならなかった? ほら、綺麗な鎧を着た騎士と斧使いの試合。あたしたち、あの試合のことで話をしに来たんだけど」
「あぁ、あの試合か。あの斧使いの奴、よかったよな」
ここまで、斧を使う兵士は彼一人しか現れなかった。だから、”斧”というキーワードだけで十分に伝わる。少なくとも、ゲートムントは純粋に試合を楽しんだらしかった。しかし、ツァイネの様子はどうだろう。フォルクローレがゲートムントに水を向けたのを見て、女性陣は表情が少し硬くなったことに気づいた。
やはり、そうか。
「フォルちゃん、その話、エルちゃんとした上での話題なんだよね?」
「もちろん。ね、エルちゃん」
「そういうこと。ゲートムントはともかく、ツァイネは仮にも”ここ”にいたんだから、気づくものもいろいろあるだろうと思って。で、どう思った?」
細かいことは言わない。それだけで十分に伝わるような気がしたから。それはもちろん、自分たちに対するゲートムントの態度も同じで、表情一つで概ね同じ感想を抱いたということが伝わってきた。
ツァイネは席から立ち上がると、奥に聳える王城を見据えた。
「それで、二人はどうしたいの?」
「んー、どうしたいっていうか、どうするのが一番いいのかなーって」
「そ。あたしたち、ていうか、気づいたのはエルちゃんだけど、エルちゃんが気づいたんなら、他にも気づいた人はいるだろうと思って、それならあたしらが動く必要はないんじゃないかっていう気がするし、でも、同じ意見の人の数が増えた方がいいんじゃないかっていう気もするし、て考えたら結構頭ぐるぐるになっちゃって」
「え、何、あいつらイカサマしてたん? そういうののあぶり出しだって話は聞いてたけど、まさか実際にやらかすとはなぁ、大胆な奴らだぜ。で、どうすんの? 俺たちが密告するしないって話だろ?」
彼らの戦いに何も怪しいところを感じていなかったゲートムントも、一気に食いついてくる。ツァイネに覆いかぶさるようにしてエルリッヒたちの前に立ちはだかった。普段人間関係のドロドロや宮廷政治のような話は一切興味を示さないが、この手の話は大好きだった。
「ちょ、ちょっとゲートムント! でもまぁ、エルちゃんたちの言いたいことはわかるよ。俺たちがわざわざ言わなくても、誰かは気づいてそうだよね。さて、どうしたものか」
「あ、ねえ、その話ぶりだと、ツァイネはさっきの試合がイカサマだって断定してるってことでいいの? 一応、私の中だとまだそこまでは断言はできないかなーって感じなんだけど」
腕を組み、首をひねる。怪しいと言っても、一見するとイカサマだと確定させられるだけの情報は読み取れなかった。あくまでもエルリッヒの見立てでは「怪しい」というレベルなのである。フォルクローレは説明を受けても全く判断できなかった。それは、ゲートムントと同じだろう。
だからこそのツァイネに相談なのである。騎士団出身者ならではの見解があるだろうと踏んでのことだ。
「そうだね。俺は一般兵士から親衛隊に成り上がったから、必然的にいろんな人たちと出会ってきたから、あっちの騎士の方はちょっとは知ってるんだよね。実力は俺が辞めた後に修行したかもしれないっていう可能性もあるけど、性根が数年やそこらでそんな簡単に変わるとは思えないから」
「てことは、嫌な奴なんだ」
「えー? 貴族の家柄を鼻にかけちゃうタイプの奴なの? やっぱいるんだねぇ、そういうの」
「がっかりだな」
こういう、性格を知ってる人間の見解はとても役に立つ。これでこそ聞いた甲斐があるというものだ。ツァイネの話を聞くと、簡潔に「正々堂々勝負をするようなタイプではない」ということが伝わってくる。
「それで、私たちはどうしたらいい? 結局はそこなんだよねー」
「そうだね、伝えるのはいいと思うんだ。だから、とりあえず城内に行ってみよう。下手するとこの後の試合見られなくなるけど、いい?」
「う〜ん、俺はちょっと嫌だな」
「じゃ、ゲートムントは見てたらいいよ。全員いないのも怪しまれそうだし。あたしはこっちのゴタゴタの方が面白そうだし、ついていくよ。三人でも十分でしょ」
四人揃っていないのは少し寂しかったが、これも一つの選択だろう。ゲートムントをこの場に置いて、三人で城内にあるだろう事務局へ向かうことにした。
〜城内〜
「すみませ〜ん。大会の関係者の方に会いたいんですけど〜」
城内に入ると、適当に出会った貴族に声をかけた。もちろんそれは、ツァイネの役割だ。文官と思しき貴族は勝手がわかっているのかいないのか、戸惑ったような表情をしている。
相手が平民だからと言っていきなり尊大な態度に出ないのは良いことかもしれないが、少し頼りない気もする。
「え? あぁ、中庭でやってる大会のことか。君たち、見たところ貴族には見えないが、入城の許可は取っているのか? 確か、入り口に衛兵がいたはずだが……」
「一応、俺たち大会の招待客なんで、その辺は問題ありません。あ、なんなら招待状見せましょうか」
質問されようが怪訝な目を向けられようが、ツァイネは臆することなく受け答えを返していく。これが元親衛隊の経験だ。城内で貴族と話す機会も多かったのだろう。
相手もそれ以上質問する気は無かったのか、信じる信じないを答えるより前に、関係者のいる方角を指差して教えてくれた。事務局のような形で関係者が詰めているらしい。
「まあ、私は全然関わっていないから、今誰がいるかとか、君たちの用事を済ませられるかはわからないけどな」
「いえ、十分です。ありがとうございます」
手短に会話を済ませ、三人は案内された部屋へ向かう。大まかな方角だけで行くべき部屋の当たりをつけられるのも、「ここ」が職場だったツァイネがいてこそだ。何度か足を運んでいるエルリッヒでも、さすがにそこまでの見当は付けられない。
女性二人は何も考えずにツァイネの後をついていくだけでよかった。こんなに楽なことはない。
「さーて、多分ここでいいはずだよ。中に入ろう」
「ここまで迷わず来たよね。さすがだよね」
「ほんとほんと。ていうかさ、あの人、もっとしっかり案内してくれたらいいのにね。多分あれでしょ? この部屋もなんか洒落た名前がついてるんでしょ? 薔薇の間とか白鳥の間とか。そういうのを教えてくれたら一発なのにね」
愚痴ってもしょうがないが、まずは扉を開けてここで正解なのを確認しなければならない。遠慮がちにノックすると、返事を待たずに扉を開けた。この辺りの無遠慮さも、ツァイネならではである。
「すみませ〜ん」
「なんだ君たちは。いや、君は元親衛隊のツァイネ君。どうしたんだね。確か、君は今頃観客席にいるはずではないのかね?」
「伯爵、今は休憩時間ですよ」
「そうは言っても、ここは見学可能エリアではないぞ? おいそれと入っては来られないはずだが……」
「仮にも元親衛隊員で、今回の招待客の一人なんです、ここへとまでは言わずとも、城内に立ち入ることはあり得るでしょう。で、どうしたんだね? いくら元親衛隊員だと言っても、招待客だと言っても、ここは城内でも見学可能エリアにはなっていない場所だ。理由いかんによっては、問答無用で追い出すぞ?」
中にいた幾人かのスタッフと思しき貴族たちは、一様に戸惑いを隠せない。しかし、ツァイネの目はしっかりと彼らを見据えていた。
落ち着いた口調で一言だけ発する。
「手短に言います。観客席にいるはずのルーヴェンライヒ伯爵につないでください」
その言葉に、室内の空気が変わるのが感じられた。
〜つづく〜




