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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第三章 大会二日目の思惑
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チャプター21

〜王城 竜王杯会場〜



 大会二日目の開会も、段取りは初日と同じだった。観客が全て入ると武舞台にザルツラント侯爵が現れて挨拶と諸注意を行い、それが終わると国王たち三人が入場する。観客一同はそれを歓声と拍手で出迎え、国王が二日目開始の短い挨拶を行うと、いよいよ試合開始だ。

 第一試合と第二試合は一般兵士同士の戦いで、双方互角と言える戦いが観客を沸かせた。目を惹くポイントは、剣だけでなく槍や両手に持った短剣など、お仕着せでない武器を装備するものがいたことだった。騎士団の寛容なな姿勢を表していると同時に、メインで修練を行う剣以外の武器を積極的に自主練習で極めようとする兵士が相当数いることを表している。それでも槍は騎士団の訓練メニューに含まれているというが、それ以外の武器は各々が自分で適性を見出すものだ。少なくとも、これまでエルリッヒが暮らしてきた諸国ではこんな騎士団の有り様は見聞きしたことがない。

「みんな、面白いね。普段は剣と槍をす買うのに、いざ自由な武器でいいって言われたら、いろんな武器を持ちだしてきてて」

「それそれ。あたしも鍛冶屋のみんなと同じことを話してたんだよね。意外といろんな武器のリクエストがあってさ、みんなどうやってその武器が向いてるって気付いたんだろうね。面白いよねー」

 武器、といえばそれぞれフライパンと杖でぶん殴るのが主たる攻撃手段の二人が語り合う。料理人らしい武器といえばやはり調理器具だろうということでフライパンを手にしたエルリッヒと、錬金術士といえば杖しか選択肢がないとまで考えていたフォルクローレ。しかし、兵士たちは違う。騎士団では剣と槍という選択肢しか与えられていないのに、自由な武器を選んでいる。

「後でまたツァイネに訊いてみよう」

「そうだよね。よくよく考えたら詳しい人がいた! っとと、次の試合が始まるね」

 第三試合は騎士と兵士の対戦だった。騎士は豪奢な銀色の鎧を身に纏っており、兵士は支給された武具を身につけているが、得物は剣でも槍でもない。斧だった。それも、盾を付けておらず、代わりに斧を両手で持っている。

「これは珍しいね。斧は初めてじゃない?」

「言われてみれば。あれか、木こりだったのかもね」

 彼の出自は不明だが、木こり出身というのは一番しっくりくる話だ。木こりを生業にしていたが、そこで鍛えた体を活かし、より安定した収入を目指して騎士団に入る。ありえない話ではない。

「これはちょっと期待できるんじゃない? わざわざ好き好んで斧を選ぶなんて、生半可な話じゃないよ」

「うん。斧はどうしたって重たくなるしね。あたしがたまに雇う冒険者の人たちでも、あんまり見ないんだよね」

 普段から近隣の森や滝など、一人でも爆弾を手にあちこち出かけるフォルクローレだが、より危険な魔物のいる山や奥地の森などにはさすがに冒険者を雇ってから赴くことが多い。そのフォルクローレが言うには、やはり武器としての花形は剣なのだそうで、次に多いのがゲートムントのような槍使いなのだそうだ。他の武器を使う冒険者もいるにはいるが、少ないのだとか。とはいえ、そのバリエーション自体は豊富で、弓を使う狩人のような冒険者、ムチを使う奇術師のような冒険者、短剣使いでもそれを手に手数の多い攻撃を繰り出す者から投げて使う者まで、使用者の少ない武器とその戦い方を挙げていくと、なかなかにバラエティ豊かなようだ。

「中には、槍を投げて使う人もいたよ。あの人、元気かなぁ」

「槍を……投げるの? う〜ん、想像つかない」

 フォルクローレの説明によれば、軽く作ってある特別製の槍を数本持ち歩き、投げた槍は戦闘中でも折を見て取りに行くらしい。使い捨てにするようなものでないのは想像しやすいが、投げ切ってしまえば丸腰になることを考えると、わざわざ戦闘中に回収しなければならない危険との釣り合いが取れていないように感じられた。有り体に言えば、効率の悪い武器種なのではないか、というのが率直な感想だった。

「個性的な人ではあったねぇ。戦い方も人柄も。ギルドに出入りしてれば、再開できるとは思うけど……」

「そっか、それは可能性あるよね。おっと、そろそろ試合が始まるみたいだよ」

 騎士は恭しく礼を取り、兵士もつられて頭を下げる。そして、二人は各々の武器を構えた。自信満々に剣を構える騎士に、少し遠慮がちに斧を構える兵士。かすかに兵士の手が震えているのが見えた。

「ねえエルちゃん。どっちが勝つかなぁ」

「わかんないねー。あっちの騎士の人、立派な盾も持ってるし。それに、兵士の人、手が震えてるから萎縮してるのかもしれないし。やっぱさー、相手が騎士だったドキドキしちゃうのかな」

 二人はもちろん、会場全体が見守っている中、試合開始の号令が響いた。

「やあああああっ!!」

 いきなり、兵士が駆け出す。手にした斧を大きく振りかぶり、騎士の目の前で勢いよく振り下ろした。しかし、騎士は余裕を持った様子で盾を掲げ、それを受け止める。この場には二人の経歴を知るものはほとんどいないが、経験の差だろうか。確かに、兵士の行動は見え透いているようだった。

 だが、兵士の攻撃はまだ失敗というには早いようだった。騎士に受け止められて尚、その勢いを止めてはいない。まるで盾ごと真っ二つにせんばかりの気迫だ。騎士はついに膝をついた。盾も、両手持ちで防ぐのではなく、あくまでも左腕に装備した状態なので、片手で食い止めている状態だ。これでは、よほど腕力に差がなければ防ぎきれない。

「すごいね。このまま一発で終わっちゃったりして」

「……それはないんじゃないかな。なんか、今の攻撃お仕着せみたいに見えた。多分、騎士の人は反撃するよ」

 相変わらず騎士は盾を装備した左腕で斧による攻撃を受け止めているが、確かに剣を手にした右手は自由だ。フォルクローレがそれに気づいた時、騎士の剣は兵士の横っ腹を薙いだ。鎧を打つ音が、教会の鐘のように鳴り響く。

「あっ!」

 その場でうずくまる兵士。斧を杖のように支えにしているが、相応のダメージが入ったことは誰の目から見ても明らかだった。騎士は立ち上がると、侯爵の元に歩み寄った。そこで何かを話しているようだったが、声が小さいのか、会場からはよく聞き取れない。

「あの日が何言ってるのか、聴こえる?」

「さすがに無理。結構小さい声で話してるみたいだし」

 何となく、嘘をついてしまった。人並み外れた聴覚を持っていることを、半ば勝手に期待されながらも確証を持ってほしくないと、つい思ってしまった。

 こんなに信頼している相手にですら、つい、そう思ってしまった。

(悪い事しちゃったかな……)

 侯爵たちが話している内容も、当たり障りのないもので、「あの様子では試合続行は難しいだろうから私の勝利ということでもう終わらせてやれないか」という提案だ。隠すような要素は何一つないというのに。

「あ、貴族の人が出てきた!」

「ザルツラント侯爵ね。なんだろう」

 おそらくは騎士の提案に対する回答がなされるのだろうが、そこまでの話はしていなかった。結局のところ、この後侯爵が何を話すかは誰も知らないのだ。先ほどの騎士の言葉が聴こえてもいなくても、同じだったということになる。

「えー、只今の試合ですが、見ての通り、えーと? カイネ・エステンくんを試合続行とみなし、ルイズ・フォン・マルクト辺境伯の勝利とします!」

 直後、湧き上がる歓声。カイネと呼ばれた兵士はまだ苦しそうにうずくまっている。

「あの一撃、そんなに強かったのかな! あの人、なかなかやるじゃん!」

「そう……だね……」

 つい、歯切れの悪い返答を返してしまうエルリッヒだった。この試合、何かがおかしい。




〜つづく〜

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