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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第二章 竜王杯開始!
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チャプター19

〜王都 中央通り〜



 夕暮れ時、この時間の日没は遅く、まだ日はそれなりの高さで街を照らしていた。通りでは、遊びまわる子供の元気な声が聞こえる。

 竜王杯は1日目が終わり、帰宅の途につく観客たちがぞろぞろと歩いていた。エルリッヒとフォルクローレも、その中にいた。途中でゲートムントたちと別れた二人は、竜の紅玉亭に向かっていた。翌日の観戦のことも考え、朝から一緒に行くために泊まっていくことを提案したのである。

「いやー、なかなか楽しかったね。みんなすごく頑張ってて。つい手に汗握っちゃったよ!」

 当初あまり乗り気ではなかったフォルクローレだったが、思いの外楽しめたようで、未だに興奮が収まらない様子だった。隣を歩くエルリッヒは、その話をやわらかな笑顔で聞いていた。

「やっぱ、騎士同士、兵士同士の戦いの方が見ててもわくわくするよね! 騎士と兵士じゃさすがに試合になってないケースも多かったし。……ん? エルちゃん? どうしたの? もしかして、やかましかった?」

「ううん、そんなことないよ? 楽しかったよね!」

 作り笑いに生返事のような受け答え。付き合いの長くなってきているフォルクローレが気づかないわけがない。もちろん、その原因にも。

 王女ゾフィーに言われた「何か」が原因なのは間違いなかった。今に至るまで、何を言われたのかは教えられていないでいた。

 それはせっかく楽しんでいるところに水を差すまいとする遠慮だったのだが、それがむしろフォルクローレに気にさせる結果になっていた。大会はもちろん楽しんでいたが、頭の片隅にあったのは間違いない。ではなぜゾフィーはあんな露骨なことをしたのか、ということは疑問なのだが、これ見よがしにささやくことで、何か伝えたいことがあったのかもしれない。

 それに、一度目の休憩の後、王室席が何か騒がしかった。おそらく、そのことについて何か話をしていたのに違いない。それなりに高さがあるので詳しい内容までは聞き取れなかったが、まず間違いなく当たりだろう。他に目ぼしい話題もない筈なのだ。

「エルちゃ〜ん? そんな態度でこのあたし相手にごまかし切れると思ってるのかな〜? 王女様に何か言われてから、ずっと変だよ? 二度目の休憩からは王様達も降りてこなかったし、何も言わなかったけどゲートムント達も心配してた。あんな目の色が変わったエルちゃんほとんど見たことなかったから。ねえ、何言われたの? あたしにも言えないこと?」

 一歩前に進み出て、エルリッヒの顔を覗き見る。やはり、少し影のある表情を浮かべている。

「えっと……後でね! まだ帰らなきゃいけないから!」

「そう。まぁ、教えてくれるっていうんならそれでいいけど。ごめん、あたしズケズケ入り込んでる? 何か気にやむことを抱えてるんなら、少しでも力になりたいって思ってるんだ。だから、一緒に乗り越えて行きたいな」

 そっと手を取り、優しく握る。

「フォルちゃん……ありがと……少しだけ元気出た」

 少なくとも、フォルクローレには頼っていいし甘えてもいい。何なら泣き言を言ってもいい。そう思うと、少しだけ心の中のモヤモヤが晴れたような気がした。

 精神的に少し依存しすぎかとも思うが、”あんなこと”を言われた後は、少し強く頼らせてくれるくらいの相手が心地いい。それも、できれば男達でなく、同性がいい。

「とりあえず、帰ったら美味しい晩御飯作るから、楽しみにしててね」

「なんですとっ! それは楽しみに決まってるではありませんか!」

 少しだけ話題を変えつつも、繋いだ手はしっかりとそのままに、二人は家路を急ぐのだった。




〜竜の紅玉亭〜



「さ、お待ちどう。晩御飯ができたよ! 全然動いてないけど、結構お腹減ったでしょ?」

「うん! みんなの戦ってるのを見て、自分も戦ってるような気になってたのかも。いつもながら美味しそうだなぁ」

 エルリッヒ自慢の料理には、近所のパン屋で買ってきた黒パンと井戸から汲みたての水が添えられる。この黒パンが、スープをよく吸って味わいを引き立てるのだ。むしろそのために硬いのではないかというくらいの取り合わせである。

「お店は休みにしたから、自分用の材料で作ったけど、まあ十分でしょ」

「十分なんてとんでもない。十分すぎるよ!」

 料理をテーブルに並べると、二人は向かい合って座る。二人の時はカウンターで並んで食事することも多かったが、今は顔を見合わせていたい。二人とも、そんなことを考えていた。

「それじゃ、いただきますかね」

「うん、どうぞ〜」

 料理に没頭していると気がまぎれる。自分一人のために作るときでも研鑽だと思えば真剣になれたし、美味しく作れた時の満足感は十分だったが、食べてもらう人がいるというのはまた格別だ。そのために食堂を営んでいると言っても過言ではない。だから、少し沈んだ気持ちの今は、余計にフォルクローレの存在がありがたかった。

 たとえ、何も手伝いをしてくれなかったとしても。

「ねえ。これ大事な話なんだけど、食べながらさっきの話しても大丈夫? それとも、片付けまで終わってからのほうがいい?」

「どっちでもいいよ。フォルちゃんの話したいタイミングで。今がいい? それなら話してあげるけど。あんまりいい話じゃないから、泣き言言っちゃうかもしれないけど、それでもいい?」

 こんな弱音を吐くなんて珍しい。そう思ったが、フォルクローレとしてはその程度のことは想定内だったし、頼られれば頼られるほど嬉しくなってしまう。全く気にしないと伝えた。

「……ありがと。じゃあ、話すね。あの時、王女様から言われたのは──」




☆☆☆




「ちょっと! いくら王女様でもそんなこと言っていいわけ? 許せない!」

 憤るままに勢いよく席を立ち、机を激しく叩くフォルクローレ。皿の上の料理が少しだけ跳ねた。

「フォルちゃん、落ち着いて」

「落ち着けるわけないよ! いくら自分たちの理解を超えた存在だからって、偏見の目で見るかもしれない、差別するのはこっちの都合って、そんなこと言っていいわけ? 見てもいないうちから」

 代わりに怒ってくれる人がいるとむしろ冷静になれる、とはどこで聞いた言葉だろうか。まさにその通りだと実感する。今、フォルクローレが怒ってくれていることで、むしろエルリッヒは冷静になれた。言われたことは気にしていたし、気分も沈んでいたが、冷静に考えられるだけで全然違ってくる。

「むしろ、見ちゃったら余計に石を投げる人が出てくるかも」

 悲しいけど、そんな言葉が口をついて出た。

「エルちゃんまで何言ってるの! 自分のことなんだよ? 化物呼ばわりされたとして、そんなの許せるの?」

「許せないし、悲しいよ? でもさ、見たこともないようなドラゴンが現れたら、普通じゃいられないと思うんだ。でも、私のために怒ってくれてありがとう。実際どうなるかはまだわからないけど、フォルちゃんがこうして怒ってくれたから一歩引いて見られたんだよ。とはいえ、本当に石を投げられたら、この街を出て行かざるをでないよなぁ。う〜ん、それは残念だぞ。うぅむ……」

 腕を抱えて悩むそぶりを見せる。少しでも場の空気が軽くなるようにとわざとらしく振る舞ってみたが、フォルクローレの怒りも少しは収まったようだった。

「じゃ、その時はうちのアトリエに隠れ住めばいいよ」

「それはそれでどうなの? 外にも出られない生活はさすがにいやなんだけど。しかも、生活を支えてもらうわけでしょ? それはそれで申し訳ないし」

 フォルクローレのアトリエでの隠遁生活。おそらく、衣食などを支えるのは自分の役割になりそうだったが、生計という意味ではお世話になりっぱなしになるわけだから、どうしたって遠慮が出てしまう。そもそもそんな話にならないことを願うばかりだったが軽く想像してみただけでも受け入れられるものではなかった。

「どうせ一緒に過ごすなら、私も自由に振る舞える環境がいいよ」

「やっぱりそうか。いい案だと思ったんだけどなぁ」

 どこまで本気かどこまで冗談か、さっぱりわからない。それでも、こういう軽口が出てくるだけでも嬉しかった。気にかけてくれることも、怒りが収まったらしいことも、どちらも。

「それよりは、この街で暮らし続けられる未来を模索したいよ」

「そりゃそうだよねぇ。そのあたり、何かあったらいつでも力になるから、遠慮なく頼ってよね!」

 力強い笑顔を向けると、再び料理に舌鼓を打った。大丈夫だ。こんなに心強い友人がいるのであれば、何があっても乗り越えられる。

 そんな予感めいたものがあった。




〜つづく〜

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