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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第二章 竜王杯開始!
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チャプター18

〜王城 竜王杯会場〜



「お待たせしました! 試合再開です! 次の試合は──」

 ザルツラント侯爵が声を張り上げる。そして歩み出てきたのは、緑色の鮮やかな鎧を身にまとった騎士と、銀色の鎧を身にまとった騎士だった。どちらも、しっかりとしたバイザーのついた兜をかぶっており、顔は見えない。だが、仕立ての良さからどちらも上等なものだということだけはわかる。紛れもなく、貴族の子息だ。

「久しいな。こんなところで相見えようとは」

「こちらこそ。新兵訓練以来か。実力より家の爵位で小隊長を任されたような男にこの私が倒せるかな?」

 試合が始まる前から二人の舌戦が始まっていた。その声は、互いに兜を抜けて注目する慣習にも届いている。狭い組織の中の大会、互いに顔見知りということは十分にあり得ることだが、表情も見えず、この短い会話だけでは、二人について仲がいいのか、それとも険悪なのか、推し量ることはできなかった。

「何を言う。そなたこそ父君の名声があってこその今の地位ではないか。人のことを言えた義理かね?」

「ならば、お互い様ということだな。ま、騎士団の面汚しなどと言われぬよう、いい試合をしようではないか」

 二人は剣を抜き、互いに構える。遠目からでもわかる。この両者が持っている件も、かなりの上物だ。一体どこで仕立てたのか、装備一式にお金がかかっていることだけは試合開始前から十分に伝わってきた。

「それでは、両者尋常に、試合開始!」

 その声が響くや、さっそく激しいつばぜり合いを繰り広げる。実力伯仲といったところだろうか。それとも、どちらかが手を抜いているのか。この試合は面白いものになるに違いない。そんな予感が会場を包んでいた。

「なかなかいい踏み込みじゃないか!」

「そちらこそ! 地位にあぐらをかいて怠けているものだとばかり思っていたがな!」

 つばぜり合いの後、二人は互いに飛び退って距離を取った。そして、再び剣を構えると、今度は激しい打ち合いが始まった。多くの観客には流派がどうだとか、実力がどうだとか、そういうことはわからない。だが、一挙手一投足に無駄や手加減のようなものがないことだけは、しっかりと感じ取ることができた。

 口先では実力もないのに地位を得ているようなことを言っているが、そのような気配は見られない。顔なじみ同士の戯言だったのだろうか、それとも果たして……?

「なあツァイネ、あいつら結構強くね?」

「うん。鎧と声からすると、俺の知ってる二人だよ。ただ、あの二人は本当に親の七光りで地位を得たような典型的なおぼっちゃまだったはずなんだけど……」

 平民出身の一般兵士は貴族出身の騎士達と知り合ったり、その事情や実力について窺い知る機会はない。だが、親衛隊に抜擢されたツァイネは別である。顔見知りの記憶出身者も多い。中には平民上がりと見下す者もいたが、親衛隊という肩書きは伊達ではない。一目置く者も多かった。

「じゃあ、あんなに強いはずはねーってこと?」

「そう。あの二人なら地位を笠に着て誰かに代役を立てさせることもできるだろうけど、声が本人のものだったから、どうやらその様子はないんだ。俺が親衛隊を辞めてから多少時間が経ってるとはいえ、そんなに急に変わるものかな……」

 その疑問は剣を交える当人たちも抱いていたようだ。

「貴殿、いつの間にこれほどの実力を!」

「そなたこそ! 家名だけでのし上がった男が!」

 本来、騎士団は家名だけで隊長などの役職を得ることはできない。それでも、一部の大貴族ともなると、さすがにその声は無視できない。そのため、実力が伴わない子息でも小隊長などの地位につけてしまうのだ。これは騎士団が以前より抱えていた問題であったが、この100年は平和な時代だったため、解決しようという動きは起こらなかった。息子を騎士団で地位につけたいと考える大貴族の反発を恐れてのことでもあった。しかし、時代は変わってしまった。魔王軍の侵攻をきっかけにして、重要な問題が浮き彫りになった。それを、議論によって突きつけただけなのである。

「そうだ! 父の一声があれば小隊長どころかゆくゆくは将軍の座も簡単に手に入る! だがな、この王都に魔物が襲ってきたのだ!」

「っ!」

 緑色の鎧を着た騎士は剣を大きく振り払い、銀色の鎧を着た騎士を引き離した。

「目の前で、多くの部下が負傷するのを、止められなかった! 以前の私なら、そのようなことを気にはしなかっただろう。だが、あれ以来、兵士たちが負傷する様が、その時の私を見る目が、何度も何度も夢に現れる! だから、それを払拭するため、父に頼み込んで一から剣術を学び直している。それが、今の私だ……」

「……そうか。やはり、貴殿とは気が合うようだな。舞踏会や閲兵式で顔をあわせるだけの間柄ではなかったようだ。私もだ。二度に渡るのあの襲来が、家柄に甘えていた私を変えた……」

 二人は剣を下ろすと、つかつかと歩み寄った。そして、どちらからともなく、兜越しに頭突きを繰り出した。会場全体に教会の鐘のような金属音が響き渡る。

「〜〜っっ!!」

 しばしの間、頭を抱えてその場にうずくまった。

「……やはり、兜越しの頭突きは効くな。しかし、まさかお互いあの襲来劇で性根を入れ替えるとは、本当に気の合うことだ。とはいえ、今まで怠けていた分、まだまだ発展途上だがな。それは、貴殿も同じか。この街が、この国がなくなってしまえば、今の地位も、貴族としての安寧な暮らしも、全てがなくなってしまう。そのことに気づいたのだ。いや、それは正確ではないな。私も、部下が次々と負傷する中、隊長として、騎士として意趣返しをすることもできず、ただ見ているしかできなかった。自分への不甲斐なさはもちろんあるが、部下たちに申し訳ないという思いが湧き上がった。今まで、こんな感情を覚えたことはなかった。不思議な気分だったよ。でも、今まであぐらをかいていた自分が恥ずかしくなった。貴殿もそうか?」

「ああ。まるで見てきたようだな。しかし、そういうことなら予想外の実力を身につけたことも理解できる。さて、戦いの続きをしようではないか。観客たちも見守っているようだしな」

「そうだな。我らがしっかり民を守れるということを見せつけてやらねばならん。それが、貴族の務めゆえな」

 三歩後退し、再び剣を構える両者。次の瞬間、間合いを詰め、二度目の打ち合いが始まった。

「おおっ! あいつら再開か!」

 鈍い金属音が響く様を、特別席のゲートムントは身を乗り出さんばかりの勢いで観戦している。一方、ツァイネは少しだけ冷静に観戦していた。

(あの二人、魔物襲来がきっかけで変わったのか。そういう人は他にもいそうだけど、そこで変われたんなら、救いがあるのかも。問題は、あれを踏まえても変われない連中だよね……)

 ツァイネから見ればまだまだ未熟な二人だが、一般の兵士よりは強く、光るものはあった。貴族の中でも武門の家はだいたい一族に伝わる剣の流派を持っている。今まではおそらく遊び半分だったのかもしれないが、今真面目に学び直しているのであれば、結果はついてくるはずだ。

 民を守るためにも、いい指揮官でいるためにも、大切なことだ。上を目指すという野心が消えていないとしても、心根を入れ替えて実力を伸ばしたのであれば、本来の選考基準で選任される機会も出てくるだろう。

「なあ、あの二人、どっちが勝つと思う?」

「わからないね。ああいうのを実力伯仲っていうんだ」

 同じ武器で動きも似ている。おそらく、何か源流があるのか、流派としては近いのだろう。見ているだけでも面白いが、ツァイネの目をもってしても、どちらが勝つかを見極めることは難しかった。

「あっ!」

 一瞬の隙をついて、緑色の鎧の騎士が剣を薙いで相手の剣を弾き飛ばした。

「……降参だ」

 丸腰になった銀色の鎧の騎士は、何もかもを悟ったような声で降参を宣言した。最後まで兜は被ったままだったが、おそらく、爽やかな表情をしていたのだろう。そう感じさせる、降参だった。

 二人の健闘に、歓声が沸き起こる。




〜つづく〜

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