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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第二章 竜王杯開始!
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チャプター16

~王城 竜王杯会場~



「そなたたち四人から見て、これまでの戦いはどうであった? 率直な意見を聞かせてもらいたい」

 その言葉に、エルリッヒ以外の三人は顔を見合わせた。確かに、兵士や騎士たちの実力については自分や周囲の冒険者と比較してあれこれ考えながら見ていた。だが、こんな場所でこんなフランクな感じで話してしまって良いのだろうか。

 ここであまり率直な意見を言うのも憚られるというのが、三人の共通認識だった。

「あの、陛下、それはもうちょっとちゃんとした場所の方がいいんじゃ……」

「何を言っておる。この場だから良いのではないか。あまり大々的な場で語られては、騎士団の面子を傷つけるやもしれぬし、士気が下がるやもしれぬでな。これまで幾多の魔物と戦ってきたそなたらだからこそ感じることも多いだろう。ギルドの冒険者たちは皆そうかもしれぬが、だからと言ってあまり知らぬ者たちをこの場に招くのも問題があるのでな、今回はそなたらを招待するという形をとらせてもらったのだ。さ、休憩時間が終わらぬうちに忌憚ない意見を聞かせてくれぬか」

 国王自らがこう言うのでは、反論はもはや無意味だ。ここは腹をくくるしかなかった。フォルクローレはともかく、王都の外で多くの実戦経験を積んでいるゲートムントたち二人は、語ろうと思えばいくらでも語る言葉を持っていた。

「じゃあ、俺からでいい? 先に俺が話した方がゲートムントも話しやすいでしょ。率直に言うと、あの新人ぽい子以外はいい線行ってるとは思ったよ。でも、それは対人戦闘の場合。相手は魔物だから、それを考えたらまだまだだね。こないだも、幸い人的被害は少ない状態で退けられたけど、どうも相手の出方が手ぬるい気がしてたんだ」

「小手調べってことか? それは確かに俺も思ったな。ありゃあ数は多かったけど、そんなに強い奴らじゃなかった。二度目に来た時の指揮官は別だったけどな」

 二人は無意識に目配せをする。多くを語らずとも意見の一致を見るのは、一緒に過ごしてきた時間が長いからこそだ。お城の兵士たちには手強い相手だったかもしれないが、少なくともギルドの冒険者たちにはさほど苦戦する相手ではなかった。それというのも、近年の魔物の凶悪化が原因ではあるのだが。

 徐々に強くなって行った魔物と戦ううちに、冒険者たちもまたその実力を高めていくことになったのである。もしこれが、一気に凶悪化したり、突然まるで別の邪悪な魔族が現れるようなことになっていたら、ギルドは壊滅の憂き目に遭っていたかもしれないが、おそらく魔王の復活の影響を受けてのことだろうその現象は、冒険者たちに実力をつけるだけの猶予を与えることとなった。

 しかし、外の状況とは無縁の兵士たちにその話は関係がない。定期的に外の魔物退治を行う部隊は、選りすぐりの精鋭たちで編成されており、やはり多くの兵士は徐々に強くなっていく魔物の脅威に晒される機会はなかった。

「小手調べか。その話は初耳だな。多くの者から意見を聞いたが、あの襲撃をそのように語ったものはいなかった。やはり、広くギルドの者たちからも意見を聞くべきか?」

「いや、陛下がそこまでする必要はないよ。そういうのは俺たちの仕事です。でも、あいつらは大して強い魔物じゃなかった。それは事実だから……」

「ああ。確かに、空は飛ぶわ魔法は使うわ、俺たち人間からしたら規格外だったのは事実だけど、思った以上に弱かったのは事実だ。もしかしたら、俺たちのことをバカにして油断してたのかもってのは考えたけどな。っとと! 俺、王様の前でなんて口に聞き方してんだ! です!」

 慌てて居住まいを正すゲートムントに、フランツとゾフィーは笑みを浮かべる。国王も特に気にする様子は見せていなかった。無礼講とまでは言わないにしても、忌憚のない意見を聞こうという場であまり礼儀にこだわるのは違う、というのが考えだった。

「それではゲートムントよ、そなたも彼ら兵士の戦いぶりを見て、魔物と戦うにはまだまだ実力不足だと感じた、ということで良いのかな?」

「は、はい! あいつら、みんな頑張って戦ってて、盗賊退治をしたり、よその国が攻めてきたら、しっかり守ってくれるのは間違いねーって思います。でも、魔物相手にあんなに苦戦してたんじゃ、もっと強いのが襲ってきたら、たぶんあっという間にやられちまうと思います」

「でも、だからこその装備強化でしょ? それ自体はいいことだと思うけど」

 話に口を挟んだのはフォルクローレ。装備品の強化を直接担当した彼女には、ここだけは意味があったと強く言っておきたかった。魔物が襲ってきた時の生存率を高めるための手段なのだから、決して間違ってはいないのだ。兵士が弱いという話に終始してしまうと、己も一枚噛んだ功績がなかったことにされるような気がして、そして、全体の展開が暗くなってしまうような気がして、口を挟まずにはいられなかった。

「そうだ、その通りだ。装備品を刷新したことで、兵士たちの士気も上がったようだしな。ここに関しては、全くまちがっていなかったと考えておる。して、フォルクローレよ、爆弾の名手と名高いそなたはどう見る?」

「あ、あたしもその辺りは同じです。少なくとも、爆弾持参で参戦できるんなら、いい線いくと思いますし。魔物が魔法を使うなら、そういう相手が参戦するのもありっちゃありですよね? もちろん、それで死者を出したら元も子もないですけど」

 それは暗に自分の方が強いと言っているのである。騎士団には名だたる名士も所属しているが、爆弾による無差別攻撃の方が、単に勝利すれば良いだけの場合は有利、ということだ。そして、フォルクローレには爆弾だけではなく、不可思議な道具も多数控えている。これらの「何が出てくるかわからない」相手に対し、一方的に有利に戦うのは難しい。

「そなたのことは良いとしてもだ、やはり、魔物相手に優位に立ち回るには、まだまだ実力不足ということか……」

「だからこその、この大会なんじゃないかな。俺はそう思いますよ。これは、事前に条件を揃えた模擬戦じゃない。だから、相手が誰で、どんな攻撃や立ち回りが得意かはわからない。そういう条件で戦うっていうのは、魔物相手ほどじゃないけど、いい訓練になるはずだから。普段の稽古だと、どうしてもそこまで追い込みきれないしね」

「あー、それはわかるわ。ついつい馴れ合いになっちまうんだよな。そういうのがないだけでも全然違うって。思います!」

 緊張しながらの回答はとてもすっと入ってくる。もはや、これが総意だろう。これ以上話を聞くことに何の意味があるのかといった感じだ。

「そういえば、エルちゃんの意見は? 今更聞かなくても大差ないとは思うんだけど。って、エルちゃん?」

 フォルクローレが話しかけるも、エルリッヒは何か考え込んだまま、こちらの話を聞いていないようだった。眼の前で手を振ってみても、軽く揺さぶってみても、反応がない。

「おーい、エルちゃ〜ん。どうしたの〜? おーいってば〜!」

「えっ? あぁ、フォルちゃん。えと、どうしたの?」

 上の空だったエルリッヒは、大きな声でようやく我に返った。こんなことはなかなかないので、みんな一様に心配する。一体何をそんなに考え込んでいたのか。

「どうしたのじゃないよ。さっきからずーっと考え込んでて、どうしたの?」

「ん、別に、大したことじゃないよ。それより、何?」

「あー、やっぱり聞いてなかったんだ。陛下が、今の戦いを見てどう思ったかを聞きたいんだってさ。特に、魔物と戦うことを想定した時に」

「そういうことだ。意見、聞かせてくれるな?」

 国王の言葉に、エルリッヒは人差し指を唇に当てて数秒考えた後、笑顔でこう答えた。

「強すぎる魔物が現れたら、私が倒すから大丈夫ですよ」




〜つづく〜

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