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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第二章 竜王杯開始!
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チャプター13

〜王城 竜王杯会場〜



 第一試合は十分の後に終了した。剣と槍による激しい打ち合いが繰り広げられたが、槍使いが次第にへばってきたため、徐々に形勢不利になってしまい、最後には一本取られてしまった。

 少なくとも、この二人の間では身軽な剣の方が継戦能力に分があった、ということなのだろう。王室席を挟んだ向こうからは、ゲートムントの「かーっ! なっさけねーなー!」という声が聞こえてきた。曰く、全体が金属でできてる槍が重たいのは確かだけど、それを他の武器を扱う人間と同等の持久性で振るえて初めて一人前の槍使いなんだそうだ。そして、そういう事情を考慮して生み出されたのが、柄が木でできているより軽量な槍なのだという。

「ねえ、今の話本当? 長く生きてるエルちゃんなら何か知ってない?」

「いや〜、少なくとも聞いたことないねぇ。それに、木を削って柄を作ったら、それってもう武器になるでしょ? そこに石を削った穂先をつけたのが槍なんじゃないかって思うんだよね。逆じゃないかな」

 少なくとも一流の槍使いであるはずのゲートムントの言説より、エルリッヒの説明の方が自然だった。もちろんエルリッヒとて歴史ある槍の発祥の物語などは知らない。だが、エルリッヒ自身もフォルクローレも、全体が金属でできている槍が先に生み出されたとは到底思えなかった。

「あいつ、本当に知ってて話してんのかな。その場の思いつきで適当なこと言ってただけじゃないの?」

「まあまあ。その辺は後で確認しようよ。それより、第二試合が始まるみたいだよ」

 第一試合に勝った剣使いの兵士は国王の前で恭しく礼を取ると舞台を後にした。ザルツラント侯爵の呼びかけで次に現れたのは、両手に短剣を装備した兵士と……

「嘘……」

「これはちょっとまずいんじゃない?」

 相対するは豪奢な鎧に身を包んだ、貴族と思しき騎士。赤く塗られた鎧は縁が金色に装飾されていてとても美しい。そこに、鳥のような紋章が小さくあしらわれている。この家の家紋だろうか。武器はスタンダードな長剣だが、こちらも細かい装飾でもされているのか、護拳部分が日の光を受けてキラキラと輝いている。それどころか、刀身にも金色の装飾が入っており、とても美しい。わざわざそんな装飾性の高い武器で挑むのだから、おそらくは実用性も確保されているのだろう。支給品以外でも、常日頃利用している武器なら使用して良いという規則になっているのは理解しているが、貴族出身者は官給品を使用せず、私財をはたいて手に入れた素晴らしい武器を使用することが多い。これはいささか不利ではないだろうか。

「さすがにあの兵士、負けちゃうかな……規則は知ってるけど、実際に目の当たりにしちゃうとちょっと考えちゃうよね。もうちょっと公平な規則にできなかッタのかなって」

「いや、それはどうかな? あたしが調合したインゴッドが、職人通りの意地に賭けて作り上げた武器たちが、そうやすやすとお高くとまった武器に負けるとは、思わないでほしいな! 二人の実力差は全くわかんないけど、少なくとも、武器の質は、負けちゃぁいない! もちろん、鎧もね!」

 自信満々のフォルクローレの様子から、もしかしたら意外といい試合になるのでは、という気がしてくるから不思議だ。確かに彼女たちが作り上げた武具は、並大抵の代物ではない。

 後は、各個の実力次第ということになる。

「それでは、互いに一礼。準備は良いな? 第二試合、始め!」

 侯爵の叫びが響き渡り、二人は武器を構える。しかし、先ほどの試合とは違い、二人とも動こうとはしない。見たところ、兵士の方がこわばっているようだ。

 無理もないだろう。相手がどういう階級でどういう立場なのかはわからないが、一般兵士と騎士では、違いがありすぎる。それは武器だけでなく、おそらくは実力も。

「どうした。かかってこないのか?」

 赤い鎧の騎士が声をかける。会話は禁じられていないはずなので、心理戦というのもありなのだろう。事実、魔物も言葉を話すことができるので、理屈の上では心理戦に持ち込むことも可能なはずだ。

「あ、あの……俺……」

「遠慮はいらん。私は君の実力を受け止めるつもりで今ここに立っている。もし、君が私以上の実力を持っているのなら遠慮なく倒せ。だが、そうでなければ、私が二回戦に進ませてもらう。それとも、武具の差に怖気づいているのかな? だとしたら、それは野暮というものだよ。それなりに高品質に見えるぞ? それにだ、騎士団の流派ではそのような双剣を扱う術はないはず。わざわざその得物を手にここに立っているということは、それなりに自信があるということではないのかな? この場に立っている以上、身分の差も気にすることはない。何も遠慮はいらないんだ。さあ、かかってこい!」

 この男はなかなかの人物のようだった。立場も身分も自分の方が上だろうに、相手を見下すこともなく攻撃を促している。もちろん、それらすべてが演技という可能性もあるし、作戦という可能性もあるのだが、誰もが固唾を呑んで見守る中、こうして語りかけられたことで、兵士の中に決意が生まれたようだった。

「ありがとう……ございます!」

「よし、決意は固まったな? 我が一族に伝わる流派で迎え撃とうではないか!」

 少々外連味の多い話し方ではあったが、この後の試合展開を期待させるには十分だった。兵士は改めて武器を逆手に構えると、勢い良く駆け出した。そして、間合いを詰めると流れるような連撃を繰り出す。

「おおっ! いい腕ではないか! 速度も勢いも十分。並の相手なら、受け止めるだけでも精一杯といったところだろうね!」

 騎士は右手に握った剣を巧みに振るってその連撃をことごとく受け止める。やはり、短剣の一撃は軽いのだろうか。それにしては金属音が大きく響く。

 ゲートムントたち二人は、この様子を注意深く見ていた。

「あの二人、どっちが勝つかな」

「さあな。一見するとあの赤い鎧の男が勝ちそうだけどよ、あの双剣使いの必死な顔、て、表情ははっきりとは見えねーけど、あれ見てると、どっちが勝ってもおかしくねぇって思うね」

 しばらくは一方的だった。双剣使いは激しい攻撃を繰り返すものの、騎士の剣を超えられない。虚しく鳴り響く金属音だけがこだましていた。しかし、徐々に騎士の顔色が変わってきた。

「っ! これは!」

「たあぁぁぁぁぁ!!」

 本来ならばさすがにスタミナが切れていてもおかしくなさそうな頃だというのに、まだ当初の勢いのままで攻撃を作り出している。一方、騎士の方は防戦一方になっていたが、相手の攻撃を受けるのも当然体力を消耗しないわけではない。次第に腕の動きが鈍ってきた。

「なんという持久力だ! 相当な鍛錬を積んできたのだな。ならば、こちらも体力が残っているうちに反撃せねばなるまい。ていっ!」

 相手の攻撃を一方的に遮るように、大きく剣をなぎ払う。そして、その勢いで大きくバックステップを行い、間合いを取った。いよいよ、この立派な武具を身に纏った騎士の攻撃が見られる。そのことに、観客の注目が集まった。

「これはいい! このような衆目の中で我が奥義を見せることができようとは、何たる幸運! それでは、いくぞ!」

 剣を水平に構える。そして、腰を落とすと一点、相手を強く見据え、次の瞬間、勢い良く駆け出していた。

「っ!」

 掛け声すらないその一撃は、鋭く兵士をなぎ払った。かに見えた。

「何、手応えが、ない? なっ!」

 剣は空を切った。当たれば相手を大きく吹き飛ばしていたであろう強烈な一撃に、皆の期待が高まっていただけに、この驚きは大きかった。では、彼、双剣使いの兵士は一体どこに。

 その答えは、騎士の表情が物語っていた。

「い、一体いつの間に!」

「咄嗟にです。これ、降参を要求するのに値しますか?」

 確かに、奥義と呼ばれただけあり、その一撃はかなり素早かった。それなのに、咄嗟の判断で大きく身をかがめ、剣戟の死角に入り、今は短剣の切っ先を相手の喉元に突きつけている。

「……あぁ、降参だ」

 その一言に、歓声が沸き上がった。




〜つづく〜

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