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竜の翼ははためかない10 〜血の色よりも濃く淡く〜  作者: 藤原水希
第二章 竜王杯開始!
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チャプター10

〜王城 西門前〜



 大会初日、大会会場である中庭につながる西門の前では、朝から行列ができていた。誰も彼も座席を確保しようと必死だ。席数を超える観戦希望者が予想されたため、事前に希望者に数字の書かれた札を配り、その中から抽選で観戦者を選び、当選の数字を貼り出す、という方式が採用された。抽選対象の整理札は希望者全員に配られる。だから、急ぐことはないのだが、なんとなく早い番号の方が当選しやすいような気がして、みんな朝早くから並んでいた。

 今日は、どこの店も仕事を休みにして大会に備えている。たまにはそんな日があってもいいだろう。なにしろみんな楽しそうな顔をしている。魔王が復活しようと日常を過ごすしかないのだが、その中で少しでも娯楽があった方がよい。

「整理札を欲しい方はいませんか〜! もう締め切りで〜す!」

「あー、俺にもくれ〜!」

「こっちも〜!」

 受け付け係はいつもの衛兵だ。城の兵士は全員参加の大会と聞かされている。ならば、衛兵ももれなく参加ではないのかと思うのだが、どうやら受付は衛兵が担当するらしい。

「なあにいちゃん。にいちゃんは大会には出ないのか?」

「出ますよ。僕は明日なんです。衛兵は持ち回りで通常業務と兼務なんですよ」

「なんだ、そりゃ気の毒な話だね。大会に参加するんなら不利じゃないの?」

 事情を知って、同情的な声が寄せられる。しかし、これが末端兵士の宿命だ。参戦する日と通常業務の日が分けられていることが不幸中の幸いだろうか。

「不利にならないように、僕に手間をかけさせないでくださいね。それじゃあ、整理札の配布を終了しま〜す! この後、抽選で中に入れる番号が決まったら張り出しますから、見に来てくださいね! それと、当落確認の時に札は返してくださいね〜」

 言うべきことを伝え終わると、衛兵は城内に消えていった。抽選待ちの時間もまた、楽しい時間だ。

「当たるかな〜」

「さあな」

「今日がダメでも明日は当たって欲しいよね」

「だね。今日当たった人は明日外れるとか、そういう配慮があるといいけど……」

 みんながそんな話をする中、それを横目に見ながら堂々と正門に向かう二人組がいた。

「あ〜、俺もあの中にいたかもしれないんだな。なんだか知らねーけど、招待枠に感謝だな」

「ゲートムント、感謝が薄くない? それに、この招待状は厄介ごとへの招きでもあるんじゃないかと思うんだけど。それを考えたら、手放しでは喜べないよ。ギルドの依頼で外の魔物退治でもしてた方が、気楽で楽しかったかもよ?」

 現れたのはゲートムントとツァイネだ。抽選待ちの一団に顔見知りがいないことを願うばかりだったが、さすがにそれは難しいようだった。二人が招待枠として呼ばれたことは知り合い中に知られているので、いらぬ嫉妬を買うことはないが、それでもすでに十分な嫉妬を買っている状態なので、さすがに気まずかった。それはすべて、優越感の裏返しである。

「変なこと言われないうちに中入っちまおうぜ」

「何言ってるの、エルちゃんたち待つんでしょ? フォルちゃんと一緒に来るっていうから、多分時間がかかるんじゃないかなぁ」

 二人は辺りを見回す。跳ね橋の付近は人通りも多いので、人探しは大変だが、赤毛と金髪の娘二人を見つけるのはそう難しいことではなかった。手をつないで、楽しげに話しながら歩いてくる。

「おーい!」

 ツァイネが手を振り呼びかける。それに気づいたのか、二人はこちらに向かって駆けてくる。

「あぁ、二人とも、待たせた?」

「いや〜、予想通り起きられなくってさ。エルちゃんに起こしに来てもらって正解だったよ〜」

 一応は悪いと思っているのか、申し訳なさそうに手を合わせる。そんなフィルクローレの様子を見せられては、誰も怒るに怒れない。

「二人はちゃんと招待状持ってきた?」

「当たり前だろ? そこまでおっちょこちょいじゃねーって」

「だねぇ。あ、二人ともゲートムントが忘れそうって思ったでしょ。その辺は俺も心配だったんだけど、信じてよかったよ。きっちり持ってきてくれた」

 そこまで言われて黙っているゲートムントではないのだが、言い返せるほどしっかりしているわけでもないので、今は黙っておくことにした。結果、言われたい放題ではあるのだが、それを許しているのは四人の仲の良さがあってのことだろう。もし、他の相手に同じことを言われたら、大人気なく声をあげていたかもしれない。

「それより、フォルちゃんとこに来た招待状はなんか書いてあったか?」

「なんか? なんかって?」

「ほら、俺たちのところには丸腰で来るようにって書いてあったでしょ? そういうの」

「あー、そういうこと。それは何もなかったなぁ。さすがにフォルちゃんのことは戦力としては見てないんじゃない? だって、爆弾がないとさすがにお城の騎士達とは戦えないしねぇ」

 懐から、フォルクローレ宛の招待状を取り出して見せる。確かに、そこには『丸腰で来るように』との一言は添えられていなかった。

「本当だ」

「じゃあ、何かあるとしたら俺たちだけってことか」

「そういうこと。もちろん、だからと言って武器を携行してるわけじゃないけどね。そこは私もチェックしてるから大丈夫」

「爆弾を隠し持ってるなんて物騒なマネ、するわけないからねー。それより、早く入ろうよ」

 跳ね橋の前で談笑する四人組はとても目立つ。一見すると城に用があるのかどうかもわからないのだ。正門前の衛兵もこちらをずっと見ている。それも怪しむ瞳で。

「あー……そういうことか」

「俺たち大手を振って入れるんだし、行こうぜ」

「だね」

「じゃ、行きますか! 衛兵さん、これ、今日の大会の招待状なんだけど、ここから中に入ればいいの?」

「えっ? あぁ、そういうこと。ずっとそこで立ち話をしてるから何かと。ええ、ここから入ってください。招待客は入ってすぐ受付があるから、そこでお名前を書いてください。照合するらしいんで」

 衛兵の案内に促されるまま四人分の招待状を見せて城内に入っていく。何度も訪れたことのある王城なのに、毎回毎回緊張するのはなぜだろう。いや、無理もない話なのである。もともとここで働いていたツァイネはともかく、後の三人は本来ここに足を運ぶ機会すらないような立場なのだ。

「受付、あそこじゃない?」

「あぁ、そうかも。すみませ〜ん」

 城内に入ってすぐ、簡素なテーブルと、その前に置かれた椅子に座る文官と思しき男たちが目に入った。なんだか、暇そうにしている。

「あのー、俺たち大会の招待客なんですけど」

「あぁ、はいはい招待客ね。こんな若い男女が招待客だなんて、珍しいな」

「いや、ミュラー伯、よく見ろ。彼は元親衛隊のツァイネだ。呼ばれるのも無理はないんじゃないか? 何しろ、親衛隊は今大会の参戦免除だ。元親衛隊も陛下の護衛に回すとか、そんなとこじゃないのか?」

 男たちは勝手にあれこれ話しているが、それらは全て憶測に過ぎない。だから、ツァイネが一言加える。

「あの、俺一応観戦の招待を受けてるんだけど……」

「あぁ、そうだったね。まあいいや、それじゃあとにかく名前を書いてくれる?」

「はい」

 四人は記帳台に名前を書いていく。当然、この二人はツァイネ以外は知らない。だから、いったいどういう面子なのかとあれこれ想像を巡らせる。きっと、四人が会場に移動した後でその話に花が咲くのだろう。

「ツァイネは知ってるとして、そっちのお嬢さんがエルリッヒ、そっちのお嬢さんがフォルクローレ、て、あのフォルクローレ?」

「ハルト伯、知ってるの?」

「ども〜。錬金術士のフォルクローレです。貴族の依頼を受けることもあるから、あたしのことを知ってる人がいても不思議はないよね。ということで、そのフォルクローレです」

 恭しく挨拶をしてみせる。ハルト伯爵とやらも、名前は知らないながらもかつて依頼を受けたことがあるという。だから、これをきっかけにミュラー伯爵とやらも依頼をしてくれたらいい、という打算があった。

「さて、最後のそっちはゲートムントだね。それじゃ、会場は中庭だから。ツァイネは知ってるでしょ? 案内してあげてくれ」

「はーい。じゃ、俺についてきてね」

「おう!」

「任せたよ〜」

「頼もしいねぇ」

 三人はツァイネの先導についていく。薄暗い城内を向けると、そこに待っていたのは、中庭に設えられた立派な会場と観客席だった。


いよいよ、大会の開始である。




〜つづく〜

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