第一章2
さて、前回はどこまで授業を進めたかな。
あぁ、そうか。”魔震”の名称がでたところで終わったのだったね。
二十三年に発生した大規模な災害、そう”魔震”と名付けられたそれだ。
今現在、日本が北部、南部を両断されるに至るこの災害についてだが、これは未だに原因の解明には至っていない。
ただ、研究者たちによれば大量の”魔力”が噴出したことによるものだとは考えられてはいるがね。その明確な発生源がわからないといったところだ。
発生当時には、魔力という概念がなかったわけだが……
そして魔震の復旧の為に建造されたのが、君たちが今住むこの人工島”神無島”だ。
もともとは日本の領土を再び、繋げるための小さな基地だったのだよ。島として名前を戴いたのは、さて何時だったかな。
そう、十六年前。君たちが生まれてきたのとそう変わらない時期に過ぎない、まだ新しい名前だ。
まぁ、名称についてはまたの機会にしておこう。
さて、領土復旧の為に建造された基地でありながらその役目は果たせず、未だに日本が分断されたままだ。
それは何故か。
――手を上げた生徒が答える。
予習はしっかりしてきているようだね。よろしい。
そうだ。
今彼が言った通り、魔導災害の発生だ。
当時、基地で勤務していた作業者たちの間で発生した急激な人格の変動。脈絡もなくその性格を攻撃性の高いものに変えるという不思議な現象が連続して起こるようになったのだ。
その発覚には数年の遅れが生じている。初期段階ではあまり重要視されていなかったわけだね。だが、症状が進むにつれ、発症者の中から不思議な力を発現するものが現れ始めた。
今ならそれが魔法と言えるわけだ。
当然だが、そんなものは当時で言えばテレビの中のフィクションの中の話でしかなかった。誰も理解できなかった、ということだね。
そんな時に周囲の人間がどうするか、ということだが。
こればかりはどうしようもないのだが……人というのは自分の理解を超えたものを排他しようとする。ましてや、その性格は攻撃的なものに変わっているわけだ。
君たちのような年頃の子の前でこういうのもなんだがね。
私刑だよ。彼らは力づくでそれを排除した。ただ、発覚するまでは、あくまで作業中の事故として扱われていたんだ。
――生徒が手を上げ質問する。
ん、どうして発覚したかって?当然の疑問だね。
簡単だよ。本土へと返還された遺体が、動いたんだ。基地と本土、二度も死亡が確認されたそれがね。それは大騒ぎになったもんだよ。
黒ずんだ遺体が、不思議な力を伴って動く。まぁ、遺体が動いた時点で不思議だけれども。これは多く被害が出てしまってね。遺体を引き取ろうとした家族や病院関係者などだ。
これは当時の警察機構による実弾により処理される。まだ、魔導災害としては初期段階だったから通常の弾丸でもどうにかなった、と。
この事件により、この人工島における不思議な現象が露見することになる。
原因解明のために多くの研究者が、この島へと押し寄せたよ。誰もが知らない未知の力に引き寄せられるみたいにね。また、誰もが……ただの一般的な国民も含めて興味津々でもあった。
そこから”魔力の発見に至る経緯”というのは公表されていない。
非人道的な実験もあったろうからね。そこに関しては今後も公表されることはないだろう。大事なのは研究の成果として魔力というものが、人体に影響に及ぼす、という事実だ。
さて。
ここまではいいかな?質問があれば受け付けよう。
なければさらに授業を進めるとしようか。
では、魔導災害についてだが、これは魔力の発見当時にはそのようには呼ばれていない。事象自体が極一部のものであったからね。原因が魔力であったことが分かった時点だ対応は可能なものであったということもある。
最初期段階であれば、発症者の離隔で抑えれることも確認できたことから、中毒症状のようなものだと判断されている。動く死者に関しても研究は進められてはいたが、この時はまだ再現性もなかったんだ。
だからまだこの時には領土の復旧という作業自体も止まってはいない。
魔導災害と呼ばれ出したのは、魔力の研究が進んでからの話になる。研究者というのは……ここだけの話だよ。先生が言ったなんて口に出さないように。研究者というのは、どこかイカれてるんだろうね。
人体への悪影響を確認しつつも、その力をエネルギーとして利用しようと考えたわけだ。誰も知らなかった未知の力をだよ?そう研究者が判断してからは早かった。すぐさま見えない力”魔力”を数値による可視化に至るまでね。
君たちもよくテレビなどでも耳にはするだろ?
魔力濃度というやつだね。
可視化が可能になった時、この島は魔力の産出地といってもいいような場所ということが確認された。本土に比べれば数倍の魔力量を海底から発生している……海底というのもおかしいか。そこにはもともと日本の国土があったのだから。まぁ、今は海の中ではあるが。
とにも可視化が進んでしまえば、そこから保管方法やエネルギーへの転換利用までとんとん拍子に進んでいる。これにはどこかから技術貸与があったと噂話程度には上がっているが、眉唾ではあるね。それまで確認されていなかったはずなのに、技術が先にあるなんてことは。
保管や転換利用が可能になり、国も全力で事業として乗り出すことにした。
今までエネルギー資源を輸入に頼ってきた国としては、自国産のエネルギーというのは喉から手が出るほどほしかったんだ。少しの弊害なら目をつぶるほどにはね。
そこからは君たちも知る通り、様々な分野で活用され今やこの国ではなくてはならないほどへと成長しているわけだ。
ただ問題もまだ多いのも事実で――
――日本中央区・神無島
神無学園初等部・四年四組
歴史教師・赤城 隆文による授業風景――