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エリミネーション・ウィッチ  作者: くるたま
~魔女は狂気と踊る~
4/5

第一章1

 時刻は午後一時を回ったあたりで、太陽は高くに在りただただ地上を照らしつけている。

 学校だろうか、巨大な敷地に、それに見合った建物がいくつも立ち並ぶ。見渡す限りでも学生服を着こんだ少年や少女が、昼食を済ませた後の他愛のない噂話に興じていた。

 そんな姿を窓から眺め、同じく学校指定の学生服をだらしなく着崩した少年は、大きなため息をついた。

 取り立て特徴のある少年ではなく、ありふれたごく一般的な高校生。ただ、夜更かしでもしたのか、目元には気だるげさが滲みだしていた。

 何度目かのため息をついた後に、部屋の中にある生徒会長と律儀にフルネームで「此花このはな 絵美莉えみり」と書かれた札が立て掛けられた机の後ろに座る少女に視線を送る。

 少女は少年とは真逆に一分の乱れもない学生服、きれいに肩先で切りそろえられた真っ黒な髪に切れ長の目、端正な顔立ちに細目の眼鏡のせいで、冷ややかな…ありていに言えば”キツめ”の雰囲気を醸し出している。

「そろそろ、用事があるなら話せよ。絵美莉」

 少年は昼食後の時間を潰された苛立ちを隠しもせず少女に声をかける。

 わざわざ校内放送をかけてまで呼び出され、友人とのダべりを切り上げてまで部屋に来たというのに呼び出した当の本人、絵美莉は挨拶以外に声を出していない。

 また、ため息がでそうになったところで、絵美莉は決心したように口を開いた。

「真弥、お前は魔女を信じるか?」

 普段なら透き通るような声色の絵美莉が、今は絞り出すように声を出す。

 あまりにも唐突な質問に真弥と呼ばれた少年、御守みかみ 真弥まやは驚いた。

 この世界で、今を生きている以上は話にくらいは聞いたことがある。それは、きっと初等部に通う少年少女であったとしてもそうだろう。

 ”魔女”。

 彼女たちはただそう呼ばれている。

 科学力を持って魔力を制し、魔法を行使することが日常に浸透した現在でも彼女たちは特異な存在であった。

 魔法とはそれを行使する大多数の者、通称”魔導士”にあっては”魔装具”と呼ばれる魔導媒体を使用し、魔力を制御する後天的なものだ。

 しかし魔女たちはそれを自らの身体と意思だけでそれを可能にする、生まれながらの魔法使い。

 そして魔装具を使用する魔法というのは魔装具に付与される魔導制御機構による単一の効果の発現であるのに対し、魔女の魔法というのは言葉通り――魔法なのであると。

 その魔法使いたちははすべからず女性に限定されている。

 それ故に”魔女”なのだと。

 だが、話に聞いたことがあるといってもそれは都市伝説として話されるレベルのことで、それを信じているかと言われれば真弥はノーと答える。

「なんだよ、その急すぎる話題はよ」

 真弥は絵美莉の真意を掴みかねていた。

 昔からの付き合いで幼馴染ともいえる関係で、ある絵美莉の性格はある程度はわかっているつもりでいる。生真面目で無駄な話題をふるような女ではない。

 「これを」

 そういって絵美莉は机の中から数枚の写真を取り出した。

 真弥が覗き込むように写真をみると、一枚は黒髪、残りは銀髪と対照的な少女が二人。

「見合い写真なら間にあってるぞ?」

 軽い冗談を口にした真弥を、絵美莉は視線だけで人を殺せそうなほど睨みつける。

「何故私がお前に女性を工面してやらねばならんのだ。写真をよく見ろ」

 黒髪の少女は高い位置で纏めてさえ腰まで届くその髪、まだ幼さの残る顔立ちに大きな瞳。年で言えば真弥たちよりも二つ三つは下に見える。低めの身長からして下手をすれば初等部くらいだろうか。全身を黒のロングコートで覆い、露出した肌といえば白みの強い顔だけという姿。表情らしきモノは読み取れず、精巧な人形だと言われれば信じてしまいそうだった。

 銀髪の方はなんとも奇抜…と、いうのだろうか。ピンク色のレースやフリルをふんだんに使用したドレスを纏い、やさしく微笑む少女。癖の強いふわふわした銀色の髪が膝下にまで伸びている。先の少女に比べれば幾分にも人間味を感じることができた。

 よくよく見れば、二人には共通した特徴が見て取れる。

「どういうことだ?」

 真弥は思わず息を飲んだ。

 それは都市伝説として語られる”魔女”たちの共通した特徴、”金色に輝く瞳”。

「どうもこうもない、見た通りだ」

「いやな、まぁ、見た通りなんだろうけどさ……それが、問題でもあるのかよ」

 あくまでも写真は写真。写っているのが魔女と思わしき少女たちでだとしても、それが自分に対して関係性や問題はあるとは思えない。

「問題か。ああ、大問題だよ、真弥。黒いほうはともかく、銀髪がな」

 そう言った絵美莉は背もたれに身体を預けながら、大きなため息をついた。

魔導士連盟ユニオンによる識別呼称はマリス。世界中で手配されている……そうだな、テロリストといったところか」

「テロリスト?」

「あぁ。世界各地で起きた大規模な魔導災害のその現場周辺で、彼女の姿が確認されている。ただ、直接的な関与を確証するものは何もないそうだがな」

「ちょっと待てよ。確証がないのにテロリスト扱いはひどくねーか」

「一般の人間ならそうかもしれないが、相手が魔女となれば話は別だ。毎度毎度、何かがあった場所で、写真に残っているともなれば、そんな偶然などありはしない。当然、話の一つも伺いたくなるだろう?」

「どうだか。できれば関わり合いにもなりたくないね」

 言って真弥は肩をすくめる。

「そう言うな。私たちにとっての問題はここからだ」

 絵美莉はコンコンと何枚かのうちの一枚を細い指先でたたく。そこには見覚えのある場所が写し出されていた。何度も施設見学として足を運んだことがある。

 それは島の南部にある、この島の唯一の出入り口である港だった。少女を写す角度からして、どうやらそれは港に設置された監視カメラによるものらしい。

「二週間前に取られたものだそうだ」

「ってことは、魔女がこの島にいるってことか?」

「そういうことになる。もちろん、入島の書類などには彼女のものとみられ物は何一つとして見当たらないそうだがね。それに二週間前となれば何か思い当たらないか」

 絵美莉は上目で真弥の顔を見上げる。

「……事故率が急激に上がった時期か。だけど、なんでそんな写真もあるのに今まで誰も気づかなかった?一応は危険人物に指定はされてるんだろ」

「もちろん、管理局の人間とて無能ではないさ。むしろ優秀なのはお前も知っているだろう。それでも、このカメラに写された一枚に気づいたのがつい先日だそうだ」

 絵美莉の言う通り島への入島は限りなく厳格に管理されている。島どころか今は日本に来ること自体も今となってはかなり厳しいだろう。そんな中わざわざ――カメラに映るよに佇み、レンズに向けるように微笑む銀髪の少女。

 それに誰も気づかなかった。

 その事実に真弥は背中に寒気が走るのを感じた。

「で、結局のところ――俺に何をさせたいんだ」

「ふむ。魔導災害対策局からの特務命令だ。この望まれざるお客人の捜索、目的の調査と……その目的がいかなる理由であってもご退去願えとのことだ。手段についてはすべて不問だともお達しが出ている」

「退去……か、随分簡単そうに言うな。それを学生に押し付けるってのは、どうかしてるだろ」

「そう言うと思ったよ。それで今度はこちらだ」

 絵美莉はマリスと呼んだ少女の写真をコンコンと叩いていた指先を、黒髪の少女の方へと移す。

「名前は神代かみしろ 真紀那まきな。昨日付けでこの学園の中等部に転校してきている。北部、南部連名の推薦状も届いている」

「転校?」

「そうだ。推薦状には”夜会”からの派遣だと書かれていたよ」

「夜会ってのは?」

「魔女たちの相互連絡を目的とした組織……だそうだ。まぁ、私も聞いた話でしかない。つまるところ――彼女の方も本物だということだろう」

 にわかには信じがたい話のオンパレードである。都市伝説として語られるだけだった魔女。

 従来ならば姿を見せることの無かった魔女たち。それが急に二人もこの島に現れるというのは、どんな理由があるのだろうか。もちろん、魔導士であっても魔女ではない真弥にはその理由など思いつくはずもない。

「対策局の方からは、彼女をうまく使え。それだけ言われている」

「とりあえず、聞いてはみるけど。他の生徒会の連中は?」

「あぁ。間の悪いことにな、全員出払っていてな。帰りもいつになるかわからんそうだ。そういう訳でな、今私が何かを頼めるというとお前しかいないのだ。よろしく頼んだぞ、真弥」

 淡々と告げる絵美莉から視線を外し、真弥は窓から見える景色を眺めながら――

 この部屋に来た時と同じように――大きなため息をつく。

「もう一つ、言い忘れていたがな。神代 真紀那に関しては――すでに問題を起こしている」

 もう一度つこうとした、ため息を切り上げ、真弥は頭を抱えた。

 窓の先にある太陽はまだ高くに在り、ただただ地上を焦がさんと輝きを強めていた。

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