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正夫と蛍  作者: 富幸
8/15

仲間

 次の日朝一番で事務室に行き倉庫担当の倉吉の所に行くと

「おはようございます、ご用は、何でしょうか」

「おお、来たな今日は、俺の仕事を手伝え」

 と言って机に、ぶ厚い物品出納帳と達筆で書かれた帳面を五冊出して僕に

「お前ソロバンは、出来るか」

「はい、少しなら」

「上等・上等この帳面を品目別に積算してくれ、机はそこを使え」

 と言われて僕は、出納帳を開けてみると綺麗な文字で記帳されている。が内容は、品目も数量もバラバラである、僕は、これをソロバンで計算すればどのくらい時間を無駄にするか解らない。

 僕は帳面別に物品の一覧表を作成し、その表で計算した。

 作業は昼前に済ませ倉吉に提出すると倉吉は

「嘘だろう、五冊全部計算したと言うのか」

 と事務室に響く様な声を出した。僕が出納帳別の表を見せて倉吉に説明すると所員全員が集まって来て説明を聞くと全員が納得した。

 すると倉吉は、僕に

「お前は、やはり魔法を使うんだな、こんな事は、誰も思いつかないぞ」

 僕は、この時とばかりに、

「倉吉さん、お願いがあるんですが」

「何だ、俺に出来る事か」

「はい、実は倉庫に在る伝言板を使わせて頂きたいのですが」

「何に使うんだ」

「はい、雑務室に置き勉強をしたいと思います」

「お前、それだけ出来るのにまだ勉強するつもりか」

「僕じゃありません、雑務手の同僚にして頂くのです。ただし仕事の手抜きは、絶対しない事が条件ですけど」

 これを聞いた倉吉は、しばらく考えていたが

「何だ仲間の為か、よし分った持って行け、ついでに紙と筆も用意してやろう」

 と言って倉吉は、勉強できる環境を手伝って呉れた。僕は、詰所に掛けた伝言板に当日練習する文字や加減乗除・数式を書き込み全員がそれを自習すると言う、寺子屋方式を取った。雑務学校の始まりである

 学校が軌道に乗り僕は、又掃除を始めると、雑務の仲間達が手伝って呉れる様になりだした。僕は雑務手の仲間に

「僕から君達に一つお願いがあるのですが」

「魔法の先生どんな事ですか」

「うん、今この皇城で起きている事を僕に教えて欲しいのだけど」

「僕達そんな難しい事は、分らないよ」

「難しい事を頼むのじゃないよ、単なる噂とか立ち話でも良いんだ」

「何だそんな簡単な事か、良いよ」

「皆も協力してくれる」

 すると雑務手の全員が協力をしてくれる事に成った。こうして僕は、十名の耳と目と口を持つ事が出来たのだ、この日から僕の元に集まる情報は、飛躍的に成った。

 そんなある日倉吉が

「おい正夫ちょっと一緒に来てくれ」

「はい、どこに」

 僕が連れて行かれたのは、東の兵士所だった。東の

 兵士所は、東の城門を出ると東街道に沿った北側に在り兵士所の裏手は、兵士の練兵場となっていて広大な広場と成っていた。

 倉吉は、兵士所に僕を連れて入ると、事務室に居た男に声を掛けた。

「おい松吉、この間話しをした雑務手を連れて来たぞ」

「有難い、俺の所も出納に大変なんだ、君だね物品の出納一覧表を作ったのは、俺の所もその表を作ってくれないか」

「僕に出来ますか」

「こら、正夫謙遜するな、松吉騙されるな、こいつ若いくせに魔法をつかうからなー」

 松吉と呼ばれた所員は、倉吉の言葉を聞きながら相槌を打っていた。

 僕は、松吉に付いて東の兵士所の倉庫に入り物品を調べると、ここも内務所と同じ出納帳で管理している。そうなると事は簡単である。倉吉に渡した一覧表を松吉に渡せば良い。違うのは品目だけだから

「松吉さん、この表の品目を記帳して書き出せばすぐ積算出来ますから」

「なるほど、この表を使えば倉庫の管理がすぐ出来る、有難い。一つ相談だがこの表を西の連中にも教えてもかまわないか」

「いいですよ、ただし一つ注意する事があります」

「どんな事だね」

「それは、この表は、絶対部外者には、見せない事です」

「どうしてだね」

「この兵士所の倉庫管理は、主として武器類等、軍勢に関係する物品の出納が主な仕事と見ました」

「そりゃそうだ兵士所だもの」

「だからです、もし万一敵の参謀がこの表を見たら、この軍勢の勢力を推測出来ます。そんな敵と戦っても勝てるどころか、負けるのが関の山ですよ」

「なるほど」

 と言うなり松吉は、しばらく黙りこんでしまった。

「まあ、松吉さん、そんなに心配は、要りませんよ、この表一枚では、軍勢を推測は、難しいですし、使い方次第では、相手に打撃を与えるものにも使えますから、ただし松吉さんが使う時は、記帳は正確にしないと、一つでも間違えれば数字が合いませんからね。それに西の倉庫担当に教えても構いませんが大丈夫ですか、今西とは、睨みあっているんでしょ」

「ああそのことか、あれは上の方がごたごたしているだけで下っ端にゃ関係ないよ」

「本当ですか」

「本当だとも、第一元々東も西も無かったんだから、それを皇王様が病気だと言う事で国軍を東と西に分けたのだから、皇王様が統帥している時は参謀長が国軍をまとめて居た為、今は北の館に引き篭もって居るが東と西の兵士所長は、参謀長の忠実な部下だったんだぜ。これは此処だけの話だが参謀長は、皇子達の見張り役として兵士所長を推薦したのだと言う噂だ

 それに皇城の宝樹澱で開かれる御前会議に出入り出来る連中が揉めているだけで、わしら倉庫担当者は、東も内も西も仲がいいもんだ」

「そうですか、上が乱れると下は、迷惑を被りますね」

「そう言う事だ、しかしお前さん倉吉が言う様に、本当に魔法を使うんだね、東の軍参謀でもあそこまで考えないぞ、お前雑務手なんぞ止めて東の兵士所に来ないか」

「だめです、僕は、大事な用事がありますから」

「そうか残念だな、まあお前を引き抜くと倉吉に恨まれそうだからな、まあ西の連中には、俺から良く言って置く、それから問題が起きたら又教えてくれるか」

「僕で良かったら、何時でも連絡頂ければ」

「頼むぜ、俺や西の奴は、倉吉と違って難しい事や数字は、苦手と来ている。本音は、お前みたいに魔法の使える奴が欲しいんだ」

「これは魔法でも、なんでもありません只の計算表ですよ、それに僕ならいつでもお手伝いします」

「これからも頼む事がある時は、来てくれるか」

「はい」

 と言って僕は東の兵士所を後にしたが東の城門は通らず、大島屋に足を向けた。

 大島屋の裏門から蛍さんを呼びだすと彼女が台所から出て来た。先日とは違ってニコニコして出て来た。僕はその様子を見て彼女は、この店に受け入れられて居るのだろうと思った。

「御免なかなか来られなくて」

「うぅん、いいの正夫さんも忙しいのでしょ」

「うん、まだ良い知らせは無いんだ。それよりお勤めは、どうなの」

「私の方は、大丈夫皆良い方ばかりよ、それから正夫さんが来た次の日関さんが見えて、俺達は、東の練兵場の先に在る屋敷きに居るが、分けあって俺達は、軟禁状態に置かれているんだ。俺は、良いんだが問題は、鈴なんだ。俺も当分これないから魔法屋に良く言って呉れ、と言って帰って行ったわ」

「そうか関さん達も問題があるんだな―」

「そうらしいわね、鈴さんだって言っていたけど何でしょうね」

「僕にも分らないけど関さんは、鈴さんの事は話さなかったからね」

「そうね、みんな色々事情があるのね、私も頑張らなければいけないわね―」

「そうそう元気出してね、君の顔を見たら安心したから、僕もそろそろ帰るよ」

「うん、又顔を見せてね、待っているから」

 僕は、大島屋を出ると大路門に行き門衛に

「今用事を済ませ、内務所に帰ります」

 挨拶をすると門衛は、一言

「ご苦労さん」

 と言って、すんなり通してくれた。大路門を通るのはこれで二回目だけど時々大路門の付近まで掃除をしているので顔を覚えて居るのだろうと思った。

 この事が会って僕は、お城の内外に何時でも出入り出来る様になった。

 しかし僕の目的である北の館には、中々近づく事が出来なかった。しかも北の館の情報は、雑務手仲間からの話だけでは、雲をつかむ様なものだった。

 只宝樹殿の中で対立している事は、僕にもその概要が薄々理解出来た。

 宝樹殿では、この国の皇王の病気に伴い、第一皇子と第二皇子の玉座をめぐる争いに右大臣と左大臣がそれぞれ後ろ盾となり、もう一つは、皇王が所持しているという金貨をめぐる争いが表面化し、権力と財力を得ようと醜い争いが起きて居るのだ。

 皇王は、元々一つの国軍を東と西の二つに分けそれぞれ皇子に統帥させたのである。皇王の真意は、わからないが軍を二つに分けた事で、戦が始まる。

 と言う噂が広まったのだろう、それにしては皇王が病気とはいえ北の館にひきこもる意味が判らない。今この国は、国としてうまく回っていない様に思えた。

 そんなある日内務所の事務員が雑務室に来て

「今日は、全員で宝樹殿の清掃をする様に」

 と作業指示をしてきた。僕は、太一に

「ねぇ太一君宝樹殿で何かあるの」

「ああ正夫君は、初めてだね、御前会議があるんだよ」

「でも御前会議だって皇王様は、病気なんでしょ会議に出られるの」

「そんな事僕には、分らないよ、でも皇王様が病気だと言って北の館に引き篭もってから初めてだよ」

「皇王様は、出るのかな」

「僕にも分らないよそれより正夫君行こうよ」

 僕達が内務所に行くと内務所の事務員も出て宝樹殿に入った。

 正面の大会議室には、大きなテーブルが置かれており正面の一段高い位置に玉座があった。僕が大会議室に足を踏み入れた時

「ああ、ここがこの国の国会だ」

 と理解した。僕と太一は、女性事務員五名と大会議室隣の皇王の執務室に入り清掃する事に成った。

 僕が皇王の机を拭いて居ると机の上が一部変色している、僕は太一に

「ねぇ太一君此処に来て見てくれない」

「どうしたの」

「この沁みどうしても落ちないのだけど、これどうしてだろう」

「僕にも分らないよ、事務員さん来て見て下さい」

 太一が事務員を呼ぶと

「それはね皇王様の血の後なの、拭いても落ちないのよ」

「何故皇王様は,けがをしたの」

 女性事務員は、顔を見合わせ

「此処だけの話よ、それは怪我でなくて、吐いたのよ」

「吐くって病気だったの」

「違うわよ、毒、毒を飲まされたのよ」

「えっ毒殺」

「まだ死んでないけどね、それからよ皇王様が北の館に引き篭もったの毒殺を恐れたのと体調を崩してね」

「毒を入れたのは、だれなの」

「それが判らないのよ、只料理を運んだ賄い所の娘さんが、ほらそこで殺されたのよ、それっきり誰が毒を入れたか、不明よ」

 と事務員さんは、入口付近を指差した。僕達が雑巾で拭おうとすると

「無駄よ落ちないからその位でいいわ」

 と言って部屋を出て行った。僕と太一は、大会議室に戻ると雑務室の仲間達と詰所に帰った。

 詰所に帰ると仲間同士で御前会議の話に花が咲いた。

「おい聞いたか明日の御前会議に皇王様は、出ないと言う事だぞ」

「じゃー誰がこの会議を開催するんだ」

「皇子が手を結んだと聞いたぞ」

 等々、色々な話が僕の耳に入って来るがどれが信じられる情報か分析出来なかった。いずれにしても、近日中に会議が開かれる。その時になればはっきりする。

 それから三日後雑務詰所は、ざわめいていた

「太一君おはよう、騒がしいけど何かあるの」

「ああ正夫君、今事務室から今日会議があるんだって、それで雑務手を三名給仕として出る様に連絡があって、誰が行くかでもめているんだ」

「誰が行く事になったの」

「それが決まらないから揉めているんだ、正夫君行くかい」

「僕が、僕でも良いのなら出るよ」

「本当かい、へたを打つと罰せられるよ」

「良いよ、失敗したからと言って殺される事は、無いだろう」

「それはそうだけど、正夫君が行くのなら僕も行くよ」

 三名が決まり揃って事務室に行くと女性の事務員が三名居て雑務手と事務員とのペアになった。

「事務員さん僕は、何をすればよろしいか」

「あなたが魔法を使うと言う正夫さんね、私定と言うの、定と呼んで呉れれば良いわよ」

 僕達六名は、宝樹殿の給仕室に行き飲物を用意しテーブルに並べ準備を済ませて控室に待機していると内務所の所長が来て

「本日は、ご苦労さんくれぐれも粗相のない様に頼むよ」

 その後各所長が次々と会議場に入って来る、僕と定さんが扉の側で会議室の中を見て居ると、不意に後ろから肩をポンと、叩かれ振り向くと賦役所長が笑顔を見せながら

「おい坊主、元気にやっているか」

「はい、その節は、有難うございました」

「まあ達者で居れば問題ない。大島の爺さんも心配していたからなー」

「有難いと思います。気に掛けて頂いて」

「ああ、そうだなーまあ爺さんには、俺からよく言っててやろう」

 と言って会議室に入って行った。すると定さんが僕を扉の陰に引っ張って行き

「あなた、何故多田所長と知り合いなの」

「えっ僕あの所長とは、知り合いではありませんよ」

「じゃー何故多田所長が貴方に声を掛けるのよ、あの所長から声を掛ける事は、珍しいのよ」

「そうなんですか、僕は内務所に入る時に面接を受けただけですよ」

「えっ貴方、あの所長から直接面接を受けたの」

「はい、賦役所の奥の部屋で」

「貴方、貴方の身内にお偉いさんでも居るの」

「とんでもない、絶対居ませんよ」

「そう不思議ね、まさか貴方あの所長に魔法を掛けたのじゃー無いでしょうね」

「僕は、魔法使いでは、有りませんよ」

「だから不思議なのよ」

「どうして」

「だってあの所長が、身元も知らない少年をわざわざ面接する事自体が判らないのよ」

「そうなんですか」

「そうなのよ、あの所長は、切れ者で通っていてね、日頃から、俺の目は、千里眼だと言うのが口癖らしいそうよ、面接を受ける事は、その眼にかなったと言う事なのよ、それは此れから先の出世を約束された様なものなのよ」

「僕は、雑務手ですよ、それに出世なんか興味ありませんから」

「貴方、出世する事に興味ないの、珍しいわね、誰だって目の前に出世と言う餌をぶら下げれば飛びつくのに貴方は、ひょっとして金貨の方なの」

 定さんの言葉を聞いて僕は、苦笑いをしながら

「僕は、そのどちらでもありませんよ」

「本当に、私だったら両方欲しいわ、貴方欲が無いのね、やはり魔法を使うからかな―」

 僕と定さんが話をしている間にも、次々と出席者や各大臣と皇子が入り、どのような席順かは、分らないが左右に別れて全員が着座したが正面の玉座は空席だった。

 まもなく正面の扉が閉められた。この国の最高意思決定機関が動きだしたのだ。

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