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正夫と蛍  作者: 富幸
4/15

武器

 僕達は、一路真山の町を目指した。

 途中僕と彼女が初めて出会った。あの松の木の下で休憩した。

「ここを通るのも二回目だね、僕がこの世界に来てどのくらいたったんだろう」

「そうね一ケ月は、過ぎたわ、まだ前の世界に帰りたいでしょうね」

「そうだね帰りたくないと言えば、嘘になるからね。でも帰れないからって絶望しないよ、だって今の僕には、蛍さんもお婆さんも居るからね」

「私達は、一つ屋根の下に暮らす家族ですものね」

「家族か、こんな僕でも家族だと思っていて、くれている人が居るからね」

「あら私は、人では、ないのよ」


 その言葉を聞いて僕は、はっとした。そうだ彼女は、真族で人では、無い。でも彼女は、僕を家族扱いしてくれる。この異世界に来た人間を理解し受け入れてくれた。

「そおだね」

 僕は、何も言わなかったし、言えなかった。感動して言葉が無かったのかも知れない。僕が考え込むのを見ると彼女は

「そろそろ行きましよ」

 と言って彼女は、立ち上がった。僕も考える事を止めて彼女の後を追った。

 僕達は、真山の町に入った。

「ねえ蛍さん一応交換所に行ってみない」

「でも昨日来た時封鎖すると言ってたのよ、しまっていると思うわ」

「でも家を出る時お婆さんが持たせてくれた反物を交換券に変えなかったら僕達お金を持って居ないんだよ」

「大丈夫よ品物さえあれば何とかなるわ、それより先に行きましょう」

 僕は、改めて彼女の楽天ぶりに驚いた。お金も持たないで旅に行くなんて、どんな心臓をしているんだろう、一回その音を聞いてみたいと思った時、何故か婆様の顔が浮かび、初めての夜に婆様から言われた。淫らな心を思い出し僕は、ひそかに赤面した。


 僕達は、交換所に寄らず都への道を急ぐ事にした。

「蛍さん次は、どこの町になるの」

「次は、少し遠いけど井坪の町よ」

「その町大きい町なの」

「真山の町より小さいわ」

 僕達が井坪の町に来た時は、日が落ちて夕闇が迫っていた。

「とりあえず今夜泊まる所を捜さなきゃ」

 僕達は、宿を見つけ交渉した

「今夜泊めてもらえますか」

 すると宿の主人は

「今日は、あいにく部屋は、空いておりませんが納屋の板場なら泊まれますが布団は有りませんよ」

「弱ったな―泊まる所は、此処だけでしょ、そんな部屋しか無いの、僕は良いけれど蛍さんどうする」

「私なら大丈夫よ、部屋が空いてなければ、仕方ないでしょ」

「ご主人、宿代は、安いんでしょ、納屋で板場で布団無しなら」

「勿論ですよ、でも、むしろは、沢山有りますから自由にお使い下さい」

 僕は、唖然とした。どこの世界に泊まる所で、むしろに寝なさいと平然と客に勧める宿が在る事に

「宿代は、どのくらい」

「代価は、交換券ですか品物ですかな」

「反物ですが」

 僕は、お婆さんから渡された反物を一巻取り出し主人に渡した。それを見た宿の主人は

「これは、こんな高価な物は、受け取れません、第一お釣りにする交換券が足りませんよ」

「困ったな僕達これしか持って居ないけど」

「困りましたね、私の方でも納屋に泊めて高価な物を受け取る訳にいかず、お客様こうしましょう宿代は、後日支払うと言う事で、どうです」

「そうしてもらえます」

「いいですよ、お所とお名前をお聞きします」

「蛍さんお願いします」


 と僕は、彼女に振った。僕の住所を言っても不振に思うと言うより人間だと思わればれる恐れが在る。しかし旅の初日からむしろの上で寝る羽目になるとは、思わなかったし宿代に付けがきくとは、さすが異世界

 僕達は、板場に、むしろの布団で一夜を過ごした。

 朝食は、宿の台所の片隅だった。僕と彼女が朝食をしていると宿の主人が来て

「すみません、この様な所で食事をして頂いて、それはそうとお客様は、どちらまで」

「都まで行きます。彼女の両親が都に居ますので」

「お客様は、都まで、よけいなお世話ですけど、おやめになったら、今都では、戦が始まりそうですよ、それに道中も強盗が頻発しているそうですよ、見た所お客様は、剣も武器もお持ちでないようですが」

「そんなに危険ですか」

「そりゃもぅ、こんな田舎まで伝わって来るぐらいですからね」

「でも御主人僕達は、どうしても都に行かなければなりませんので。一つお聞きしますがこの町には、交換所は在りませんか」

「この街には、在りませんが隣町に在りますよ」

 僕は、主人の話を聞いて、不安になった。怖いとか恐ろしいとかの気持ちでなく、今の自分で、はたして彼女を守り無事に婆様のもとに帰る事が出来るのか不安になったのだ。

 僕達は、宿を出発し隣町の久町に入り交換所にやって来ると、交換所の前には、大勢の群衆でにぎわっていた。

「蛍さんこの交換所は、えらくにぎわっているんですね」

「正夫さん、にぎあうより、皆さん必死のようよ」

「どうして」

「これから戦が始まる、と言う噂が広まったからよ、ほら先日の真山の交換所と一緒よ」

「そうか僕達も早く行って交換券に引き換えなきゃ、それにね蛍さん、僕一つ欲しい物があるのだけれど」

「なあに、何がいるの」

「僕、剣が欲しいのだけど」

「えっ剣って正夫さん剣をどうするの」

「うん、宿の主人の話を聞くと都の周辺は、治安が悪そうだから万一を思うとつるぎでも持っていれば、と思って」

 彼女は僕の言葉にしばらく考え込んでいたが

「ねえ正夫さん、私達が剣を持つのは、止めましょうよ、私達が剣とか武器を持つ事は、争いや戦に巻き込まれる恐れがあるのよ、私嫌よ貴方が巻き込まれる事は」

 僕は、彼女の言い分を聞いて、納得した振りをした。しかし心の中では、一番大切で愛しいものを守り抜く為には、力の元である武器は、必要だと

「分かったよ蛍さん、もう剣が欲しいとは、言わないよ」

「有難う私貴方に、あんな物を持って貰いたくないの」

 僕は、彼女の気持ちを思うと何故か、せつない様な、嬉しい様な気持になった。彼女を守る術が無い事と彼女の気持ちを思うと心が乱れたのである。


 僕達は、久町の交換所で持ってきた反物を交換券に引き換えると久町を離れた。剣も武器も購入せずに先を急ぐ事にしたのだ。先を急ぐと言っても所詮は、徒歩である。一日中歩いてもその距離は、しれている。

 僕の居た世界との差は、歴然としていた、次に泊まった勝町でも都や周辺の治安の悪い噂を聞くと僕の心は、武器を持つか持たぬかで千路に乱れた。

 僕は、心の整理がつかないまま旅を続けた。

 都に近ずくと治安の悪さが噂でなく実例として耳に入る様になると僕は、武器の購入を彼女に相談しなければ、との思いが強くなった。

 しょせん武器は、身を守る道具でもあるが人を傷つける物でもある。

 僕達は、峠の麓の江町に宿泊した。明日は、峠越えなので早めに宿に入った。

 次の日僕が宿代を支払っていると、宿の主人が

「お客様今日の出発は、見合わせた方が宜しいですよ」

「どうして」

「宿の風呂番をしている老人が、今日昼過ぎから嵐になる、と言っていますので」

「こんなに天気が良いのに」

「あの老人は、天気を見る事が出来るんですよ」

「でも僕達先を急ぎますので」

「じゃせめて雨具の用意は、された方が宜しいですよ」

「有難う、雨具は、用意していますから」

 僕達は、宿を出発した。ゆるい坂道の街道が峠の方に真っ直ぐ伸びている。夏の強い日差しに周りの風景が揺らめいている。僕と彼女は、黙々と歩いた。

 峠の中腹にかかった頃には、空は、黒雲に覆われて居た。

「こりゃ、ひと雨来るかなー蛍さん雨具を用意しょう」

「わかった。かして」

 僕は背中の籠を降ろし雨具を取り出した。雨具といっても油紙のかっぱだ。

 彼女が雨具を付けたのを見た僕は、思わず吹き出し笑い転げてしまった。

 まるで女の子のテルテル坊主だと思ったからだ。僕が笑い転げて居ると彼女は、僕を見てキョトンとしていたが

「どうしたの正夫さん、なにが可笑しいの」

「御免・御免笑ったりして、君の格好がテルテル坊主に見えたんだ」

「まぁ失礼ね、私坊主じゃないわよ」

「坊主じゃないよ、テルテル坊主だよ」

「なに、それ」

「君、テルテル坊主をしらないの」

「知らないわ」

「うーん知らないか、人形・人形だよ」

「テルテル坊主て人形なの、どお似てる」

 と言って彼女は、にっこり笑いながらクルリ・クルリと回った。その姿を見た時僕は、心に誓った。

 この子は、絶対僕が守る、否守って見せると。

 僕達は、今にも泣きそうな空を見ながら又歩き出した。道は、勾配が強くなり、街道の周りに広がって居た田畑が少なくなり辺りは、畑と森が混じり合う中を街道が伸びている。

 峠の頂上近くまで来た時には、遠雷が響きポツリ・ポツリと落ちて来だした。片側に山畑が広がり反対側は、森が続いている。

 後少しで峠を越える所に来た時僕達の目前で杉の大木に大音響と共に火柱が上がり二つに裂けた。雷が落ちたのだ、

「キャア―」

 と彼女が大きな声出し僕にしがみついた。僕は、抱きしめながら

「大丈夫だよ、雷が落ちただけだよ」

 と平気な顔で言うと彼女は、僕の顔を見ながら

「貴方、カミナリ様が怖くないの」

 と不思議そうな顔をする

「今のは、神様じゃないよ、雷と言う自然現象だよ」

「自然現象て何なの」

「うーん説明すると長くなるし難しいし、後でゆっくり説明してあげるよ」

 と言って抱いている彼女を両手で話すと、彼女は、僕に抱かれていたと思ったのか顔を赤らめた。

 それにしても雷を神様扱いをする。彼女は、学校という教育機関のない世界で育った為自然現象であっても理解出来ない事は、神様として納得する。

 僕の居た世界でも伝えなければならないものを切り捨てて来たが、学校教育の大切さが、身にしみた。

 僕は、彼女の手を引きながら道を塞いだ木を除け進むと道の下から

「誰か、誰かおらんか助けてくれ」

 と弱わ弱わしい声が聞こえた。僕は彼女の手を離し下を覗くと、溝の中に籠を背負ったまま老人が倒れている僕は、背中の籠を彼女に預けると下に降りて行き

「お爺さん、大丈夫ですか」

 と声を掛けながら近ずき老人の顔を見て吃驚した

 老人の顔には、ミルクを掛けた様に白くなっている。

 僕は、初めて真族の血を見たのだ

「助けてくれ、足が足が動かん」

 僕が、老人の傷の状況を見ると顔の傷は、擦り傷程度だったが右足が異様な方向を向いている。

 一目見て脛の骨が折れて居ると思えた。僕は老人の籠を外すと身体を持ち上げそのまま道まで持ち上げた。

 その頃から雨が強くなりだした。僕は老人を担ぎあげると

「蛍さん、向こうに御堂が見えたからそこまで行こう」

 僕達は、御堂に着くと縁側に老人を降ろし

「蛍さん籠の中の手拭いを取ってくれる」

 彼女が、籠の中から手拭いを取り出すと

「はい、これでいいの」

「有難うもう一つ出してくれる」

 僕は手拭いを老人の顔の傷に押し当て結ぶと御堂の横に積んである薪の中から平たい板を二枚選び老人の足元に来ると

「お爺さん少し痛いけど辛抱してね」

 すると僕の様子を見て居た蛍さんが

「正夫さん何をするの」

「うんこのお爺さん足の骨が折れて居ると思う此のままだと足が使えなくなる恐れがあるから、うまくいくか僕にも分らないけど応急処置だけはしておかないと、お婆さんも言っていたでしょ、お医者様は、居ないって」

 僕は老人を縁側に寝かせると異様に曲がった足を持つと伸ばしながら両側に板をあてると手拭いを巻きつけ固定した。雨は、なかなか止まない。

「これでよしっと、お爺さん痛かったでしょ」

「ああ死ぬかと思ったわい。ずきずき痛むけど」

 僕は老人の処置が済むと御堂の格子戸を開け中に入ろうとすると老人が

「中に入っては、いかん、呪われるぞ」

「お爺さん、どうして、何が呪われるの、僕、大丈夫だよ」

「いかん、いかん、その中には、人間の亡霊が出るんじゃよ、四十年程前に人間が死んだからな―」

 僕は、そう聞くと中に入らず格子戸を閉めた。雨も小雨に成ったので

「お爺さんのお家は、近いんですか」

「わしの家は、ここから少し行った所に在るんじゃ」

「僕が家の者を呼んで来ましょうか」

「行っても無駄じゃ家には、婆しかおらんでな」

「うーんここに何時までも居る訳にもいかないし、僕がお爺さんを背負うから蛍さん籠をもってくれる」

「いいわ、これを背負って行けばいいのね」

 僕達は、小雨の中を歩きだした。しばらく行くと大きな屋根が見えてきた。僕は背中の老人に

「お爺さん、あのお家なの」

「ああそうじゃ」

 僕達は、老人の家に付くと

「こんにちは、誰か居ませんか」

 すると、奥の方から

「どなた様ですかのー」

 と老婆が出て来た。すると背中の老人が

「婆さん、わしじゃ、わしじゃ」

「あれまー爺様どうしただ、若い者におわれて」

「お婆さん話は後で、お爺さんは、ずぶ濡れだから」

 僕は、背負ったまま家の中に入り老人を降ろし

 一息つくと老人が

「あんた達には、お世話になった。今夜は、ここに泊まって行ってくれ、この先は泊まる所は、遠いでなー、まぁ

 何もないがのー」

「有難う、蛍さんどうする」

「そうね、泊めて貰いましょうよ、それにお爺さんも心配だし、私、正夫さんに付いて来てもらって良かったは、私一人じゃとても助ける様な事出来なかったわ」

 僕達は、老人の家に泊めてもらう事にした。夕餉の時に僕は、老人に

「お爺さん一つ聞いて言い」

「何じゃな」

「あの御堂に入ると、人間の亡霊が出て呪われるって言っていたけど、あれどういう意味なの」

「あれか、それには御堂が何故あんな所に建てられたか話さなければのー」

 と言って老人は僕達に話しだした。

 あの御堂は、今から五百年程前に、あそこに人間の鬼が出たのじゃよ、それはのー

 ある日村の者が歩いて居ると何かにぶつかったそうな、その者は、飛ばされて道に転げたそうだ、前を見ると鎧かぶとを着た大きな人間が立っていて

「ここはどこだ、わしは、何故こんな所に居る、おいそこの下郎、返答せい」

「ここは真族の里です」

「何魔族じゃと、わしは、魔物に取り憑かれたのか、するとお前も魔物だな」

「私は、百姓ですお助けを」

「問答無用だ、魔物は、そこになおれ」

 と言って逃げる村の者を切り殺した。村の者は、人間が出て村の者を殺したと言う事で集団で剣や槍を持ち山狩りをして人間と戦かい。これを倒したが人間は、強く村の犠牲も大きく五名切り殺され三名が怪我をしたそうな。

 人間が出た。と言う事で都から大臣が来て、人間の剣や甲冑を持ち帰った。その時人間を倒した褒美として金貨を頂きそれで御堂を建てたそうだ。

 僕は

「でも五百年も前の亡霊が出るんですか」

 老人は、少し考えていたが意をけっした様に

「それわな、わしが誰にも言わなかった事だが、お前達には、嘘はつけん。実は、四十年前にも人間が出たんじゃ」

 老人によると

 わしがまだ青年の頃、山畑で野良仕事をしていると今日の様に雨に会い、わしが御堂の縁側で雨宿りをしていると、ふいに格子戸が開き帽子をかぶった若い男が出て来たんじゃ、わしゃなー人間が出たと思ったら吃驚するやら恐ろしうて腰が抜けてしもぅてなー縁側に頭をこすりつけ

「おたすけ、お助け下さい」

 と命ごいをすると、出て来た人間は、わしの手をとり

「頭を上げて下さい。お聞きしたい事があります」

 と言ってわしの手をとり起こしたのじゃ、その手の温もりは、忘れ難いもんじゃった。わしが顔を上げると、その人は

「ここどこですか、私、確か御寺の側の路地を曲がったのですが、何故この様な所に出たのか不思議で」

 わしは、その人間に説明したが人間は、信じようとはしなかった。

 わしも話をしている内に、この人間は、優しい人だと思ったが、まさか家に連れて帰る分けもいかず、その人間を置いて帰ると、わしは親父様に相談した。が

「お前人間と、かかり合うのは、止めておけ」

 と言われたが三日も立つと、あの人間の事が気になってしかたがない。

 もう一度親父様に相談して二人で見に行く事にして、御堂まで来たが人間は、見当たらないし返事もないので御堂の格子戸を開けて中に入ると人間は、御堂の梁に首をつっていた。

 わしらは、吃驚したが、ほおって置く分けにもいかず、不憫でもある、それに親父様が

「仏には、罪は無い。わしらで、ほおむって、やらねばならんのー」

 と言って二人で身柄を降ろすと、親父様は、わしに

「お前、家にかえって白い布団に掛ける布と風呂敷を持ってこい」

 わしが、白布を持って来ると二人で白布に包んで御堂の横に帽子と一緒に埋葬したのじゃよ、あれは、今の状況に絶望して覚悟の自殺だったのじゃろうなー。


 僕は老人の話を聞くと他人ごとでは、無い。僕は幸い蛍さんやお婆さんに出会ったから最悪の道を選ばなかっただけかも知れない。と思った。

「お爺さん、何故覚悟の自殺と思ったの」

「そりゃお前、死に行く者が、自分の大切な持ち物を揃えて在ったからの―、わしが人間の物を持とうとすると親父様がのー」

「お前、さわるでないぞ、それは人間の持ち物で持てば呪われるぞ」

「と言って風呂敷に包んで持ち帰り、そこの上の戸袋の奥に仕舞いこんでいる」

 お爺さんの話を聞いていた。お婆さんが

「お爺さん私しゃ、ここに嫁に来て初めて聞きますぞえ、その様な、人の呪いのかかった様な物を置いてあるなんて気持ちが悪い。早く捨てて」

 僕は、お爺さんに

「お爺さん、僕にその持ち物を見せてくれる」

「ああええじゃろ、婆さんもああ言うとるしな」

 僕は、戸袋の奥に置いてある風呂敷包みを取り出し全員が見守る中で風呂敷を開いた。

 そこには、警察手帳・拳銃・手錠・笛と鍵があった。僕が手帳を手に取ると一枚の写真が落ちた。

 お爺さんは、その写真を見ると、怯えたように

「その人間じゃ、首をくくったのは、四十年もたつのに、まるで今日の様な顔じゃ」

 僕は、写真を手帳に挟み置くと拳銃を手に取った。僕は、その黒くずっしりと重い質感これはまぎれも無く武器だと思った。

 手入れが良かったのか錆一つ浮いて居ない。するとお爺さんが

「それは、なんじゃろうな道具じゃろうが何に使うもんじゃろうな―」

「僕にも、分りません」

 僕は、拳銃を置き、風呂敷を包むと

「お爺さん、これ僕に分けて呉れませんか」

「ええけど、お前さん大丈夫かい」

「僕この様な物に興味在りますから」

「婆さんええじゃろ」

「ええとも・ええとも、わたしゃ呪いのかかっている様な物が家に在るだけでも嫌じゃ」

 僕は、風呂敷包みを背負い籠の底に仕舞いこんだ

 僕と彼女は、奥の客間に泊めてもらい布団に入ると

「ねぇー正夫さん、人間の持ち物が何か分ってるんでしょ、呪いの掛った物をもらうぐらいだから」

「うんあれには、呪いなんかかかって居ないと思うよ、だってあれは身を守るものだから」

「そうなの、でもあんな小さな物で身が守れるの」

「うんその点は、大丈夫だよ」

 僕は、あえて彼女には、あれが、ここの世界では、最強最悪の武器だと言う事を、事実僕もあの銃を手にした時震えが来た。

 プラモデルの銃とは、質感、重量感がまったく違っていたからだ。銃は、身を守る事も殺人に使う事が出来る。所持する者により正にも邪にもなる代物である。    つまり持つ人の資格を問われるのである。

 その資格が僕にあるのだろうか、いずれにしろ僕は、最強の武器を手に入れたのだ。

 僕達は、次の日朝食を頂くと老人夫婦に別れを告げて都えと旅立った。

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