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正夫と蛍  作者: 富幸
3/15

真族の町

 松の木の場所から少し歩くと山が開き辺りが広々としてきた。川幅も大きくなり両側に水田が広がり街道が水田の中を真っ直ぐ伸びている。水田の向こうに一軒家が見え出した。

 僕達は、手を繋ぎ、取りとめのない話をしながら歩いていたが、僕がこの世界に来て他の家を見るのは初めてだった。


「蛍さん、ほら家が見えて来ましたよ、」

「あのお家を過ぎると町が見えて来るわ、後少しょ」

 僕は、女の子と手を繋いで歩く事がこれほど楽しい事だとは、思わなかった。家を出てから此処までの道のりは、相当あるのに、長く歩いた。と言う実感は、無かった。

 家が近くなると蛍さんが僕の顔を見ながら手をそっと放した。ほんのりとほおを染めて

「手を放して歩きましょうね、誰かに見られたら恥ずかしいから」

「うん」

 その家を過ぎると、次々とあちこちに家が見え出した。蛍さんが指差して

「あれが真山の町よ」

「えっ町、あれが町なの、家が少ないよ」

「そぉぉ、家は沢山あるでしょ」

「うーんあれが町なの、どこか寂しい村見たい」

「貴方の世界とは大きく違うみたいね、こちらでは、この真山の町は、此の辺りでは一番大きな町なのよ」

「うーんそうだろうね、確かに一軒一軒は、大きな家だものね、町に付いたらどうするの、お金持っているの」

「お金なんて持っていないわ、交換所に行って品物か交換券を貰い品物と交換するのよ」

「エッ君、お金持っていないの、お金はどうするの」

「此処では、お金は必要としないのよ、物々交換で品物をやり取りするのよ、だから私が織った反物を交換所に預けて、その反物の分で他の品物を貰うか交換券を貰うのよ」

「ふーんお金は、ないんだね」

「そんな事無いわ、お金はあるけど」

「えっじゃーなぜお金を使わないの」

「だってお金は、金貨と銀貨しかないのよ、銀貨一枚あればお家が買えるのよ、私金貨は勿論銀貨だって二三回しか見た事無いわ、それに交換券で他の品物も交換出来るのよ」

「だったら交換券がお金の代わりになるんだね」

「そうね、少ない品物と交換したり、お礼の時に使うからお金と言えばお金ね」

「だったら交換券を貯めればいいのに」

「だって交換券は、全国で使えるけど貯める訳にはいかないのよ、交換券は、引き換え期限があって、過ぎると無効なのよ」


 僕は、彼女の話を聞いて僕の居た世界との差が比較出来ないと思った。お金が無くても彼女は、不平や不満どころか、不安も感じない。むしろお金なんて必要ないと思っている。僕が居た世界では、ありえない事だ。お金が無かったら生活が成り立たない世界なのだ。それがこの世界では、お金が無くても生活出来し、悪く考えれば、お金を貯める事が出来ない様にもしている。

 この差は、なんだろうと思うと、なぜ・なぜばかりだ。僕が立ち止まって考え込むと、彼女が

「どうしたの後少しだから行きましょ」

 と僕の手を取って促した。町に入るとさすがに家は、多いい。彼女は、僕に

「この家は、鍛冶屋なのよ、鍬や鎌などを作っているのよ、隣の家は、石工屋さんよ、ねぇっ色々在るでしょ」

 と得意げに僕に説明してくれた。僕は彼女の気持ちを思うと苦笑するしかなかった。


 真山の町は、時代劇に出て来る江戸時代の宿場町に良く似て居ると思うし、町を歩いている者もまばらであるし、風体も僕とそんなに大差ない。僕達が歩いていると後ろから


「蛍ちゃん・蛍ちゃん」

 と呼ばれた。すると彼女は、後ろを振り向き

「マァー叔母様どうしたの、町に来るなんて」

 僕は、彼女の側で黙って会釈をした。すると叔母と呼ばれた女性は、蛍の袖を引っ張り僕から離れて行き二人で、ひそひそと話をしだした。

「叔母さんね、今日町に出てきたのは、昨日都に出ている旦那から、都で戦が始まるらしい。と連絡があってね、心配して町に出て来たのだけど別段変りなくてホットしている所に蛍ちゃんを見かけたから、ねぇー蛍ちゃんとこの、父さんか母さんから何か連絡があった。」

「いいえ、家には、何も連絡ないわよ」

「そぉー連絡して来て無いのね」

「叔母様、戦ってどうして」

「叔母さんも良く知らないんだけど、なんでも皇太子同士の戦いらしいよ、兄弟なら喧嘩なんかしなくて仲良くすれば良いのにねー」

「そぅ皇太子同士で、戦になったら、父様と母様が心配だわ」

「そうだねー蛍ちゃんとこは、夫婦行って居るんだものねー、姉さんも如何しているのかねー蛍ちゃんも心配だね、所で蛍ちゃんあの子誰なの」

「あの人は、訳あって今家で預かっているのよ」

 蛍の話を聞いて叔母は一段と声をひそめて

「蛍ちゃん、人と関って大丈夫かい。人と分れば警手に連れて行かれるんだろぅ」

「分かればそうなるのかも知れないわ、けど叔母様、お婆様は、大喜びなのよ、正夫が来てくれて楽に成ったと」

「そうだろうね、蛍ちゃんとこは、糸作りもしているから男手が無いと大変だね。所で今日は、どんな用事で町に出て来たの」

「あのね叔母様、一人増えたらお米が少なく成ったのよ、だから力持ちが居ないと家までお米を運ぶのは大変だから」

「そうね、じゃーこれから交換所に行くんだね」


 僕は、ふたりから少し離れた所でぼんやりしてふたりを見ながら、ふと母の買い物にスーパーに付いて行った時の事を思い出した。

 確かあの時も母が知り合いの女性と入口付近で、長話をした事を思い出した。全然別の世界なのに同じ様な風景に遭遇した事が可笑しくて僕は思わず笑ってしまった。この世界に来てから笑うなんて初めてだと思った。

 僕が笑っているのを見て居た彼女が叔母と僕の側に来て

「正夫さん、どうしたの、何が可笑しいの」

「ごめん・ごめん別に大した事じゃないんだ」

「そおぉ、正夫さん紹介するは、叔母の幸よ」

「僕、蛍さんの所にお世話になっています。平田正夫といいます」

「よろしくね、蛍の母方の叔母の幸です」

「叔母様も交換所に行くんでしょ、一緒に行きましょ」

 僕達は、町の中央に在る交換所の前まで来ると大勢の真族が集まって居た。

 蛍は、僕達より先に行き知り合いの女性を見つけると

「叔母さん此の騒ぎは、何事なの」

「あぁ蛍ちゃん、大変だよ、明日からこの交換所が閉まるんだって、なんでも戦が始まるって」

「本当に、交換所が閉まるとどうなるの」

「私にも分らないよ、でも物がなくなるのは、本当よだから、みんな品物を交換に来ているのよ、蛍ちゃんも早く換えて来た方がいいよ」

「はい分ったわ、有難う叔母さんすぐ行きます」


 僕達は、交換所で、お米と鎌と手鋏は、交換出来たが鍬は、交換出来なかった。品物がもう無かったのである

 僕は、こんな騒ぎに出会うのは、初めてだった

 戦が起きると言う噂が広がると大衆は、まず初めに品物を確保する行動を取る。


「蛍さん、鍬は、どうしょう」

「そうね、まぁなんとかなるでしょ、今どうしても必要と言う物でもなし、お米さえ交換出来ればよしよ、それより叔母様は、どうしたかしら」

「先程まで食料品の方に居たよ」


 僕達が食料品の交換場所に行くと彼女は幸に

「叔母様、良い品物が有りましたか」

「あぁ蛍ちゃん、見てよ食べ物は、全然無いのよ」

「そうでしょうね戦が始まると食べ物が一番ですもの」

「蛍ちゃんは、交換出来たの」

「お陰様で、お米は交換出来ました。鍬があればよかったんですけど」

「本当に戦など、しなきゃいいのに、蛍ちゃんもこれから帰るんでしょ、婆様によろしく言ってね」

「分かりました、叔母様も元気でね、じゃーこれで帰ります。さようなら」


 僕達は、町を後にしたが、帰る道中蛍さんは、元気が無かった。

 さすがに戦が起きるかも知れないと聞けば都に居る両親を心配するのは、当然の事かも知れない。

 家に帰り夕食の時に、蛍さんは、婆様に

「お婆様私、相談が有るのだけど」

「なんじゃな」

「都で戦が始まるかも知れない。との噂だけど、私、父様と母様が心配で都に行って見ようと思います。けど婆様が一人残るのが心配で私如何すればよいか迷っているんです」

「なんじゃ、そんな事か、蛍や、自分がこうと思ったら、その気持ちに素直に従わないと後日後悔するぞえ、婆の事は心配する事はない。自分の思いに素直に従えば良いだけ、だがお前だけで行くつもりかえ」

「うーん無理を言うけど正夫さん、私に付き合って呉れるかしら」

「僕、僕はいいよ、蛍さんに付いて行けばいいんだね」

「正夫や蛍に付き合って呉れるかい。都で戦に巻き込まれるかも知れないんだよ」

「それでも蛍さん、行くんでしょ、女の子だけ行かせる訳には、いかないでしょ」

「御免なさい私の我儘で」

「僕は、大丈夫だよ、それに真族の都にも興味があるしね」

「婆からも、お願いするよ、正夫が付いて呉れれば、しかし都までの道のりは、遠いいぞえ、この家から百里の先じゃてい。お前達の足でも十五日は、掛るぞえ、しかし正夫が付いて居て呉れれば、この婆も安心して待つ事が出来るじゃて」

「僕でも頼りになりますか」

「当たり前じゃ、お前さんも、この世界に来て逞しく成ってるからのー」

「それはそうと、蛍さん何時都に行くの」

「早い方がいいの、出来れば明日出発したいの、婆様いいでしょ」

「そうじゃのー、思い立ったが吉日というからのー」

 翌日朝早く起きた僕達は、蛍さんと旅仕度をしていると婆様が僕達の前に来て

「正夫、お前これを身につけておいき」

 と言って僕に小さな、お守り袋のような物を手渡してくれた」

 それを見た蛍さんが

「まあーお婆様それは、この家の守り神様じゃないの」

「そうじゃよ、だから正夫に持っていて貰おうと思っとる」

「僕にそんな大切な物を預けていいの、僕より蛍さんに持って貰った方がいいのでは」

「そうじゃなー、でものー正夫が蛍に付き合って都まで行くのに、わしらに出来る事は、これぐらいしか思いつかなかったんじゃよ、それになーよそのさまの子をあぶない目に合わせる訳にもいかんからのー」


 そぉ言って婆様は、僕に丸い守り袋を渡してくれた。普通お守り袋と言えばお札なのに、これは小さくまるで巾着袋を首に掛ける様にしている。僕は母のネックレスを思い出した。


「ねー蛍さん、守り神様って何が入って居るの、持った感じ堅い物が入って居る様だけど」

「それわね、この家に代々伝わる。蛍の涙と言う宝石なのょ」

「そんな大事な物を、僕に、どうして」

「それは、お婆様が決めた事よ」

「お婆さん、僕でいいの」

「先程も言ったが、お前さんが無事ならば、蛍も無事だと言う事じゃからじゃよ」


 その時僕は、婆様や蛍さんから信頼されている。

 と思った。この家に代々伝わる大切な家宝を、種族の違う人間の僕に託す事に驚くよりも感動したのだ。


 真族と人間という種族が違うものが、その違いを乗り越えて理解し信頼する事が出来るのに。

 なぜ同族が二つに分かれて争わなければならないなんて、僕には理解出来なかった。

 僕は、彼女に

「ねぇー蛍さん一つ聞いていい」

「なあに」

「お婆様は、何故、人間の僕に家宝を託す気持ちになったんだろう」

「私にだって分らないわよ、お婆様にきいてみたら」


 僕は、囲炉裏端に居る婆様に

「ねぇお婆さん、どうして僕に家宝を預ける気になったの」

「そうさなーそれは、正夫が男だからじゃよ、お前様なら蛍を守れると思うからじゃよ」

「うん僕も蛍さんは、必ず守るよ」

「そうそう正夫も男じゃからのー、それでいいんじゃよ」

 僕は、また奥の部屋にかえり旅支度をしている蛍に

「ねー蛍さん僕その、蛍の涙と言う宝石を見てみたいけど」

 すると蛍は、あっさりと

「いいわよ、開けて見たら」

 僕は、袋を開き中に在るビ―玉より、少し小さな青い玉を取り出した。その玉は、多面体の深いブルーの玉だった。僕は、ビー玉の様だと思ったが、その玉を袋に仕舞いながら彼女に


「これどうして、蛍の涙って言うの」

「それはね正夫さん夜になると分るわ」

 と謎めいた事を言いい

「さあ私の方は、用意が出来たわ、正夫さんは」

「僕の方は、何時でもいいよ」

 そのときお婆さんが

「正夫や此れを持ってお行き、途中で交換券に換えて宿代にあてる様にのー」

 すると彼女は、それを見て

「まぁお婆様それは、いざと言う時の物では、だめよ、それを使ったら食べ物に交換する物が無くなるわ」

「ええんじゃよ、それに昨日正夫が持ち帰って来た米が残っているからな」

 僕達は、婆様に

「お婆様それでは、行きますから」

「気を付けてな、正夫くれぐれも蛍を頼むからのー」

「分かりました僕約束は、守ります。だからお婆さんも元気でね」

 挨拶をして僕は、籠を背負うと彼女と共にお婆さんに別れをつげた。

 都への旅立ちだった。


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