入学試験1
セッターは、傭兵育成学校『アロンダイト』の入学試験を受けるため、都『ファークラス』へと向かっていた。
『ファークラス』そこは、海に面した貿易都市。
様々な情報が行き交う、とても賑やかな街だ。
その道中の事だった。
「で? 何でついてきてるんだ?」
振り向かずにひたすら歩き続けるセッター。
「まぁ、気にすんな。この姿なら使い魔と言えば誰もが納得するだろ?」
そう言ってセッターの後ろをトコトコと追いかける珍妙な鳥、オズマ。
セッターは深い溜め息をひとつ吐き、足を止め振り向いた。
「邪魔だけはすんなよ?」
少し照れくさそうにセッターは言った。
ずっと人里離れた所で暮らしていたため、人と接する事が苦手なセッターは、口では鬱陶しいと言いながらも、内心では少し安心していた。
「ほれ、ファークラスが見えてきたぞ」
オズマは指差した。
今は鳥の姿だから手は無いのだが、、、。
「あれが、ファークラスかぁ、、、」
草原の向こうに沢山の建物が有り、その先には広大な海が広がっていた。
「ところで、何で俺をアロンダイトに入れようだなんて思ったんだ?」
なんとなくオズマに聞いてみたかった。
今まで隠れながら生きてきたのだから、当然と言えば当然か。
「お前にこの世界の闇を見せたくてな、、、」
その言葉の意味は分からない。
でも、それが何なのかアロンダイトへ行けば分かる気がした。
「なぁ、オズマはファークラスに行ったこと有るのか?」
「あぁ、何度かな」
はっ! と何かに気付いたように目を大きく開くオズマ。
「ちょい待てーぃ!」
「ん? どうした?」
「どうしたもこうしたも、俺をオズマと呼ぶのは何かとマズイんじゃないか?」
確かに一般の人がオズマと聞くと驚くかもしれない。
こんなんでも、世の中では英雄として名が通っているのだから。
ましてや、天界では裏切り者の立場なのだから名を伏せるのは当たり前の事だろう。
二人はオズマの呼び名を歩きながら考える事にした。
「オズマだからオーちゃん?」
ネーミングセンスの無いセッター。
「鳥だからピーちゃん?」
オズマもたいして変わらない。
そんなやりとりをしながら歩き続けていた。
「、、、着いちゃった」
結局、何も決まらずにファークラスの入り口まで来てしまった。
仕方なく、とりあえずアロンダイトに向かう事にした。
そんな時、大きな声でーーー
「オズマ!!」
ビクッと驚き、恐る恐る二人は振り向いた。
すると、、、
「オズマ! お手!」
犬にむかってオジサンが手を出していた。
その他にも、あちらこちらでオズマという言葉を耳にした。
「うちのオズマちゃんはここのご飯が大好物ですの」
「オズマや、そろそろおうちに帰ろうか」
どうやら、今、都ではペットにオズマと名付けるのが流行っているらしい。
まさに取り越し苦労だったのだ。鳥だけに。
「なんか、急に疲れたんだけど、、、」
セッターがぼやく。
「あぁ、俺もだ、、、」
オズマもうなずいた。
二人が街に流れる川沿いの通路に置かれた椅子に座り、一休みしていると ーーー
「あの、お尋ねしたい事が有るのですが、、、」
セッターと同じくらいの年の少女が話し掛けてきた。
ゴールドのしなやかな長い髪、青く澄んだ大きな瞳、雪を思わせる様な白い肌の、とても大人しそうな人だった。
少女が続けて話そうとしたその時ーーー
「きゃーーーっ!! 誰かその人を捕まえて!! ひったくりよーーー!!」
近くで老婆が地をはって叫んでいた。
どうやら荷物を奪われた時に転んだらしい。
老婆の先には荷物を抱え、走る男の姿があった。
セッターはすぐさま男を追いかけ走り出した。
逃げる男に追い付くまで時間はかからなかった。
男の服に手をかけ、そのまま男を投げ飛ばした。
「くそっ!」
男は荷物をはなし、すぐに起き上がり腰からナイフを取り出しセッターに襲いかかってきた。
セッターはナイフを持っている手を片手で軽く弾き、男の顔面を思いっきり殴った。
男はそのまま地面に倒れて気絶し、セッターは荷物を老婆の元へ持って行った。
「ありがとう、助かったよ。 イタタタタ」
倒れた時に腰を強く打ったらしい。
「お婆ちゃん、ちょっと待ってて」
そう言って先程話し掛けてきた少女が駆け寄り、老婆の腰に両手を添えて目を閉じた。
少女の手から光が現れ、すぐさま消えた。
するとーーー
「おや、腰の痛みが無くなった。ありがとう」
と、驚きながら礼を言った。
「どういたしまして」
と、少女は微笑んだ。
老婆を見送るとセッターは少女に話し掛けた。
「そういえば、さっき何か聞きたかったみたいだが、、、」
すると少女は口に手をあて「そうだった」と思い出していた。
「私、道に迷ってしまって、、、アロンダイトという場所を探しているのですが、ご存知ないですか?」
どうやら少女も目的地は同じみたいだった。
「これから俺も向かうところだ。一緒に来るか?」
「本当ですか? 良かったぁー」
セッターが誘うと、少女は満面の笑みを浮かべ、胸の前に手を組んで喜んだ。
アロンダイトへの道中、少女は話した。
「私、回復術しか使えないけど誰かの役に立てたらなぁって、入学試験を受けようと思ったんです」
先程の手の光は回復術だったようだ。
「そうか」
どう接すれば良いのか分からなかったせいで、目を逸らし素っ気ない態度をとってしまうセッター。
今までオズマ以外の人とまともに会話などしたことは無かった。
ましてや、同い年くらいの女の子なんてもっての他だ。
少女はセッターの少し前を歩き振り向くと、腰の後ろで手を組んで前かがみになりながら言った。
「そういえば、自己紹介まだだったね? ルシア、私ルシアって言うの」
ルシアはセッターに微笑みかけてきた。
セッターは顔を赤らめ顔を横に逸らした。
黙りこんでるセッターの顔をルシアはのぞき込んできた。
「ねぇ、君は何て名前なのかなぁ?」
「、、、ター」
ボソッと小声で答えるセッター。
「ん? もう一回」
セッターの声がよく聞こえず、聞き返した。
「セッターだ!」
ふてくされ気味にセッターは答えた。
ルシアはクスクスと笑いながら言った。
「宜しくね、セッター」
これがルシアとの出会いだった。
「俺も居ることを忘れないでもらおうか?」
チョンチョンとルシアの足をオズマは羽でつついた。
ルシアはオズマを見て抱きかかえた。
「わぁ、可愛いー」
珍妙な鳥を見て可愛いと喜ぶルシアを見て変な奴だとセッターは思っていた。
オズマの方は満更でもない様子。
とうとう街の中心に有る目的地、アロンダイトへと到着した。
敷地に入ると人が大勢集まっていた。
「受付はこちらでーす」
その声を聞き、受付へ行くと、受付に居る女性が言った。
「ここに来る途中、困っている見知らぬ女性を助けた。よって、第一試験合格とする」
この街に足を踏み入れたその時から、試験は既に始まっていたのだった。