プロローグ2
先日、天界からの使者の襲撃に合い、なんとか生き延びる事が出来たオズマとセッター。
また、いつ新手が来るか分からない。
そこで、小屋を捨て、転々と住処を変える生活をしていた。
オズマはセッターの身を案じ、己の全てを授ける事にした。
「いいか? まず一番大切なのは相手との間合いだ」
「、、、間合い」
互いに向き合い、剣を構えるオズマとセッター。
「そうだ。武器が変われば距離も変わる。背の高さや腕の長さでだって変わってくる」
そう言いながらセッターの顔すれすれに剣を振り下ろすオズマ。
「だが、その為にもまずは武器の事を知らなきゃいけない」
ニヤリと不適な笑みをみせるオズマ。
その表情を見て何か変な事を企んでいるのがすぐに分かった。
「毎日違う武器を使え」
そうセッターに命じたのだった。
ナイフ、槍、弓矢、鞭、斧、ヌンチャク、トンファー、時には酒の瓶等と武器と呼べない様な物も有った。
毎日違う武器を使って修練するのは反って効率が悪いはずだと思った。いや、そう思い込んでいた。
しかし、子供故の吸収力か、それとも才能なのか、達人とまでは言えないが教えた事の全てを次々とセッターは身に付けていった。
そんなある日のこと、オズマは言った。
「ま、ある程度は間合いを理解できたと思う。今日からは剣に戻しても構わないぞ」
そう言って、オズマはまた不適な笑みを浮かべている。
「今度は何だ?」と思っていると、次の一言でセッターの表情は大きく変わった。
「因みに、俺に間合いは必要ない!!」
「は?」
開いた口が塞がらないとはよく言ったものだ。
今までの経験が全てその一言で覆ってしまったのだ。
「見てろよ?」
そう言ってオズマは腕を頭上に持っていき、大きく振り下ろした。
すると、遠く離れた岩が綺麗に真っ二つにわれたのだった。
オズマの手には何も武器の様な物は見当たらない。
だが、ちゃんと手に何かを持っているようだった。
「俺は剣を持っている」
しかし、セッターの目には何も見えなかった。
オズマは軽く手招きをして言った。
「こっち来て触ってみろ。あっ、危ないから横からな」
半信半疑でオズマに言われた通り触れてみた。
すると、確かにそこには何かが有った。
「これは、封印術の応用で結界を剣の姿に変えた物だ」
あの仮面の天使の腕を切り落とした物の正体はコレだったのだ。
「俺が本気を出したら、そうだなぁ、、、。あの山くらいは届くんじゃないか?」
そう言って、遥か先にボンヤリ見える山を指差した。
「これを俺に教えてくれるのか?」
セッターはキラキラと尊敬の眼差しでオズマを見詰めた。
「いや、ただ見せつけたかっただけだ」
その一言でセッターの少年の清らかな眼差しが死んだ魚のような瞳に一瞬で変わり果てた。
「ま、そうガッカリするな」
オズマはポンポンと頭を軽く叩き慰めた。
「コイツは俺にしか出来ない芸当だからな。代わりにコッチを教えてやる」
すると、オズマの体から黒い炎が噴き出した。
仮面の天使との戦いで最後に使っていた技である。
セッターの表情はパアッと明るくなった。
それからというもの、セッターは朝から晩まで今まで以上に修練に励んだ。
最初はなかなか上手く出来なかったが、最近ではマッチくらいの火は出せるようになっていた。
でも、そんな平和な時間は、すぐに崩れさっていくのだった。
セッターは午前の修練を終えて、外で昼食の準備に取りかかろうとしていたその時。
少し離れた所に大きな稲妻が落ちてきた。
稲妻の落ちた方向からゆっくりとバチバチと音を立て何者かがこちらに向かって歩いてきた。
それは、まさしくあの時の仮面の天使だった。
オズマに切り落とされた腕の代わりに、機械で出来た義手をつけていた。
「ようやく、ようやく見付けましたよ」
怒りに満ちたオーラを纏い仮面の天使が眼光を鋭く光らせゆっくりと近付いてきた。
オズマは大声で仮面の天使に向かって叫んだ。
「おーい、待ってたぞ!! もう来ないんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ!!」
そんな挑発めいた言葉を口にした。
「今日はコイツが相手をするから宜しくな」
そう言ってオズマはセッターの背中を押したのだった。
「ちょっ! えっ!?」
動揺するセッター。
「ふざけるな!! そんな子供に何が出来る!! 私を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」
怒るのもごもっともな話だ。
先日、軽い一撃で意識が飛びそうになった子供を相手にするなど、赤子の手をひねるように容易い。
それを分かって突きつけてきたのだ。
「コイツはこの前とは違うぜ?」
そう言ってオズマは微笑んだ。
「良いでしょう。どのみちその子は殺さなければなりません、、、。 すぐに殺して差し上げましょう!!」
そう言って仮面の天使の義手は銃口の様な形に変わり、バチバチと音を立てセッターに向けて雷撃を放った。
爆発音の様な騒音と、砂ぼこりが舞い上がる。
「次は貴方の番ですよ~」
仮面の天使は義手をオズマへと向けた。
オズマは静かに腕を組み、どっしりと立っていた。
砂ぼこりが消え、その中の様子がうかがえる。
セッターは剣を大地に突き差し立っていた。
アースの様に電流を地中へと流していたのだ。
「何故? 何故私の攻撃が利いてないんですかーーー!?」
「利いてない訳じゃない、痛い物は痛いし、、、。でも、、、耐えられない痛みじゃない!!」
セッターはそう言いきって剣を地面から抜いて構えた。
オズマは言った。
「そっか、そうだよなぁ」
オズマが腹を抱えながら笑いだした。
「雲の上では雷なんて降らないもんなぁ」
腹立たしい程のどや顔でオズマは仮面の天使を挑発する。
「ドイツもコイツも、、、私を見下すなぁーーーっ!!」
完全に仮面の天使の堪忍袋の緒がキレた。
義手の形状が剣へと変わり、セッターに向かって飛び掛かった。
仮面の天使の猛攻撃を剣で受け止め続けるセッター。
戦いの最中、セッターはオズマの言葉を思い出した。
「いいか? まず一番大切なのは相手との間合いだ」
セッターは1歩前へと踏み出し剣を片手に持ち、もう片方の手で仮面の天使の腹部を殴りつけた。
剣は腕の長さより射程が長い時に力を発揮する。
逆に言えば、腕の長さより射程が短い時にはその力を発揮出来ないのだ。
仮面の天使は吹き飛び地に背中をつけ倒れた。
起き上がろうとした時、セッターは剣先を仮面の天使の顔に突きつけた。
「俺の勝ちだ」
そう言い放つと仮面の天使の身体は怒りで震えた。
次第に震えは収まり、今度は急に笑いだしたのだった。
「ふふふ、勝ち誇るのは早いですよ」
義手からピーピーと音が鳴り、だんだんと音が早まった。
「マズイッ!!」
オズマは血相を変え、走り近寄ってきた。
その瞬間、義手は爆発し、仮面の天使は自爆した。
辺りには煙が立ち込めた。
義手から発せられたその音は爆発の合図だったのだ。
煙が晴れると、そこには仮面の天使の姿は無く、火傷に覆われ倒れたオズマの姿があった。
オズマがセッターをギリギリの所で庇ったのだった。
「オズマッ! しっかりしろよっ! オズマッ!!」
セッターは泣きじゃくりながら必死に叫び呼び掛ける。
「お前に、言っておく事が有る、、、」
オズマはゆっくりと手をセッターへと伸ばした。
「お前は、、、 俺の敵であり、俺の友だった男、、、 魔王の息子だ、、、」
セッターは驚き、それと共にショックを受けた。
オズマが父親ではない事は知っていたが、実の父親がまさかの魔王だったことに。
「俺は、、、友との約束を果たすため、、、お前を守り、、、育てるために、、、天界を抜け出た、、、」
「もう良いよ!! これ以上喋んなよ!!」
大粒の涙を落としながらオズマの手を強く握り締める。
「最後に、、、ひとつ、、、」
「だから喋んなって!!」
すると、ボンッ! と音を立て煙りが現れた。
「ふぅ、この姿も久々だなぁ」
煙の中から変な黄色い四角い顔の鳥が姿を見せた。
「へ?」
何が起きたのかまったく分からない様子のセッター。
「あぁ、コレか? 言わば、俺のもう1つの体だな。便利だろ(笑)」
あっけらかんとした鳥オズマ。
「まったく、ギリギリまで忘れてたぜ。 こっちの姿には傷なんて無いんだった」
キョロキョロと体を確認する鳥オズマ。
「いやぁ、危うく死ぬとこだった。危ない危ない」
羽をバタつかせる鳥オズマ。
「ん? どした?」
「オ ズ マーーー」
ゴゴゴゴゴと、音を立て鬼の形相で睨み付け、セッターは鳥オズマにゴツンと強烈な一撃のゲンコツを食らわせた。
その四角い顔の上には綺麗な真ん丸とした、膨れた餅の様なたんこぶが出来ていた。
「師匠に向かって何すんじゃコノヤロー!」
「ソレはこっちの台詞じゃ、バカヤロー! 俺の涙を返しやがれ!」
そんな喧嘩をしてその日は過ぎていった。
ーーーそして、五年の月日が流れたーーー
「よし、コレで荷物は全部だな」
身長も伸び、剣の腕も上達し、立派に育った青年のセッター。
「ハンカチは持った? ティッシュは持った? それとちゃんと出掛ける前にトイレには行った?」
「母ちゃんか!!」
オズマはまだ本来の体が完治していないらしく鳥の姿のままだった。
彼が荷物をまとめていたのはこれから試験が有るからだ。
世界一のギルド『ラグナロク』の経営する、傭兵育成学校『アロンダイト』。
そこの試験を受けるため、セッターは部屋をあとにするーーー