巻之壱 「業物使いの少女士官」
第6話「支局ビル宿直室の酒宴 これが素顔の戦士達!」の前日譚であり、「怨霊武者掃討作戦」の最中です。
第3話「堺電気館のスクリーンに誓え!」に登場した、淡路かおる少佐が主人公です。
随分と、現実離れした光景に見えるだろう。
この光景を目にしたのが、私達と同世代の、民間人の少女達だったのなら。
鳴り響く銃声と爆発音。
そして切り刻まれ、銃創を穿たれ、あるいは爆破されて、徹底的に破壊される敵の身体。
そのどれもこれも、戦場であれば、お定まりの音と代物だ。
そしてそれら全てが、私にとってはお馴染みの物だった。
これらの音と代物が、堺県堺市の市街地で飛び交っていたとしても、ただそれだけだったならば、それ程の非現実性と違和感はなかっただろう。
例え、自衛隊や警官隊と連携して戦っているのが、真っ白い制服を着た幼い少女達であったとしてもだ。
サイフォースと呼ばれる特殊能力に覚醒し、ナノマシンによる生体強化改造措置と軍事訓練を施された少女達。
それこそが都市防衛の要にして防人の乙女、人類防衛機構所属の特命遊撃士だ。
そして私も、そんな少女達の一員である。
人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属特命遊撃士・淡路かおる少佐。
それが今の私だ。
そもそも私達にスクランブル出動が要請された時点で、大規模な市街戦が展開される可能性は充分に考えられた。
出動した自衛隊や警官隊が、女性隊員や婦人警官ばかりなのも、下手な男性隊員よりも戦闘力や耐久力が遥かに高い事を考えれば、何もおかしくはない。
何しろ彼女達のほとんどが、特命遊撃士や特命機動隊のOG達だからだ。
例え特殊能力「サイフォース」が弱体化したとしても、人類防衛機構時代に培った高度なスキルと戦闘経験、そして生体強化ナノマシンによって戦闘用に改造された身体は健在。アーマーやヘルメットを身に付けて重火器で武装し、適切な連携行動を取れば、充分に戦える。
かつては特命遊撃士だった彼女達は、その出自から「特命警察隊員」及び「特命自衛隊員」、略して「特警隊員」及び「特自隊員」と呼ばれている。
私達にスクランブル出動要請が出されるこの状況下、サイフォースはおろか、生体強化ナノマシンによる恩恵すら受けられない男性自衛隊員や男性警官達では、相当の練度と自信がなければ、かえって足手まといになるだろう。
今頃彼らは避難民の護衛などの任務に就いているはずだ。
それで構わない、各々が出来るベストを尽くせるなら。
未知の脅威には、特命遊撃士である私達が最前線で立ち向かい、特命機動隊が私達の指揮に従う。
そんな私達を特自隊員や特警隊員達がナノマシンで強化された身体と優れた練度で支え、男性警官や男性自衛隊員は私達の銃後で出来るベストを尽くす。
そして、非力な民間人は私達の足を引っ張らないように、大人しく指定避難所に引き下がる。
人類防衛機構が都市防衛を担う国際的機関として発足してから、人智を超越した有事が発生する度に、何度となく繰り返されてきた防衛体制である。
今回に関しても、基本的にはそうだった。
既に民間人の避難は完了しているため、気を使う物があるとすれば、味方への被弾とインフラへの被害程度だろう。
本作戦の最高指揮官である支局長から私達に通達された敵対勢力への処遇は、逮捕拘束ではなく、殲滅だ。一切の躊躇のない効率的で徹底的な掃討を行えばいいので、ある意味では気楽な作戦と言えた。
私の部下である特命機動隊曹士や、部下達と連携を取ってくれている特自隊員達も、多少の負傷者こそ出したものの、順調に掃討作戦を遂行してくれている。
アサルトライフルから絶え間無く吐き出される銃弾が情け容赦なく敵を蜂の巣に変え、グレネード弾や手榴弾が敵の五体をバラバラに粉砕し、銃剣や槍が敵の急所を的確に切り刻む。
私も個人兵装である愛刀「千鳥神籬」で、数多の敵を切り捨ててきている。
私が非現実性と違和感を抱いているのは、そうして倒してきた敵の骸だ。
これが、迷彩服を着込んだテロリストやカルト教団員だったなら、別に私も何も思わなかった。
そうした手合いは、正式な特命遊撃士となった中学1年生の頃から、何度となく斬り殺してきた敵だからだ。
世界征服を企む悪の秘密結社が送り込んだサイボーグ怪人や未確認生物UMAでも、ここまで違和感を覚えなかっただろう。
今回の敵は一応、人の形をしていた。
衣服も着用していた。
おかしいのは衣服の種類だ。
私が先程袈裟懸けに斬った相手は、緋色の鎧を着た武者だった。
特自隊員と派手な撃ち合いを演じ、最終的にグレネード弾で片付けられた敵は、火縄銃を装備した鉄砲隊だった。
そして今、私の足元に転がっている生首達はというと、揃いも揃って漆塗りの黒い陣笠を被っている。
安土桃山時代の武者と足軽の集団。
これが今回、堺県第2支局所属の私達が相対した敵対勢力だった。