8.姉妹ゲンカと道迷い
「うん、やはり僕の見込み通りだったよ、ラルディ。キミなら他属性も容易く使えるようになるだろう」
「当然だわ! 元から長居するつもりなんて無かったのですもの。早くここから出られて嬉しいわ! リティーハともお別れすることが出来て、清々しいわ」
「し、失礼だよ、ラルディ」
「だって、本当ですもの。お姉様に変なことをした人に、敬意なんて必要ないわ」
氷の都イミャコンで氷魔法を自分の意志で使えるようになるまで、予想よりも早く得ることが出来た。それでも、数日は経っていた。こんなにかかっているようでは、いつまでも自分の国に帰ることなんて叶わない。
「してしまったことはいつまでもラルディに残る、か。僕がそうしたかったことだから仕方ないかな。それでもレナータには申し訳ないことをしたね、ごめん」
「いいんです。わたしは妹よりも弱いですし、氷はどのみち使えないですから。わたし、魔法なんて使えなくても……」
「またそうやって! お姉様は自分のことを弱そうに見せるの禁止よ。そうやって見せた所で騎士様が助けに来ると思ったら、大間違いよ! 甘すぎるし夢を見過ぎだわ」
「そ、そんなことないもん。それに夢を見たっていいじゃない! ラルディは魔法ばかりに気を取られてるし、余裕が無いのはラルディの方じゃない!」
「ま、まぁまぁ……ほら、馬車が迎えに来ているみたいだよ。名残惜しいけど、次の都へ向かうといい」
氷術士リティーハの気遣いで、口喧嘩が始まろうとしたわたしたちは、何とか馬車に乗り込んだ。氷都イミャコンから離れ、寒地から離れて行く馬車の中ではずっと、口喧嘩が続いていた。
「はぁ……騎士の国なんかに行くんじゃなかったわ。少なくとも、そこに行くまではレナータお姉様はそこまで弱くなかったわ。少しばかり頭が弱いだけで、力や想いは弱くなかったのに。それが1人。1人目よ? 騎士なんてそこら中にたくさんいるのよ。それなのに、どうしてヒゲ騎士にそこまで惚れこめるのか理解出来ないわ!」
「ラルディがまだ子供だからよ。恋なんて今は関係ない……そう思っているのでしょうけど、知ってしまえばそうも言ってられなくなるのよ。まだまだお子様なのはラルディの方よ! あなたは馬車の中でカタい頭と考えを柔らかくして、慈愛の心を芽生えさせていたらいいじゃない!」
「ちょっと! レナータお姉様!? どこへ行くと言うの」
「ち、近道よ!」
魔法も使えないのに、お姉様は頭に血が上ったまま馬車から降りて、森深い道を1人で進んで行ってしまった。何よ、心配してあげてるのに。お姉様の方が絶対強くなれる素質があるのに、どうして恋なんかにハマってしまったのよ。
ラルディはまだ子供、子供過ぎる。そんなことを呟きながらレナータお姉様は馬車から出て、ズンズンと見知らぬ土地へ歩いて行ってしまう。わたしは正直に思っただけなのに。
頭の中でわたしのことをあれこれと考えて思いながら、とにかく進み続けたレナータ。気付けば、全然分からない道に出ていた。森はどこかで抜けていたけれど、知らない道な上にレナータ一人だけがここにいることに、不安の心が膨れ上がっていた。
わたしがいないし、魔法も使えない。こんな時、騎士様がいてくれたら、なんて思っているレナータの正面から、身なりが悪そうな人たちが向こう側から歩いて来る。
不安な心は良くないものを呼んでしまう。そういうことを爺やたちから聞かされていたわたしたち。それはどうやら本当だったらしい。レナータは、その辺りに隠れて通り過ぎるのを待つしかない。思いながら、身を屈めて草むらに隠れた。
「ん? 何かいやがる……」
「た、助けて……ラルディ、騎士様――」