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メリソス・プリンセッサ~双子王女の恋愛譚~  作者: ハルカ カズラ
旅する双子王女
6/29

6.氷の都イミャコン


「そんじゃまぁ、俺はここまでだ。ラルディ王女、レナータ王女。元気でな」


「騎士様、屈んでください」

「し、仕方ないわね。ハヴェル! わたくしたちの前で屈みなさい!」


「ん? 何をす……ぬあっ!? キ、キスか」


 ヒゲに口付けだなんて嫌だったけれど、お姉様の気持ちを無下には出来ないわ。わたしもやるしかないわ。


「騎士様……どうか、お忘れにならないで下さいね。わたし、レナータは貴方様をお待ちしています」


「ハヴェル。魔女のしるしを忘れずに生きていくことね。では、もういいわ。どこにでもお行きなさい」


「へ? 魔女だぁ? 全く、訳が分からねえな。まぁいいや。じゃあな、嬢ちゃんたち」


 わたしたちからの口付けを両頬に受けたハヴェルは、振り向くことなく馬を駆けて離れていく。長いようで短かったわ。騎士も案外悪くないのね。


「ねえ、ラルディ。わたしたちっていつから魔女に?」


「魔法を覚えたら魔女のようなものじゃない。今はまだただの小娘だけれど、一つでも属性を使えたら魔女の仲間入りよ。お姉様はきっとすごい魔女になれるわ」


「そんなのになれなくていいの。わたし、恋だけ出来ればいいわ。魔女じゃなくて、普通に王女でいいの」


 完全にヒゲ騎士にやられてしまったわ。最初に出会った騎士がもっと、嫌な奴だったらこんなことにはならなかったはずだもの。魔女なんてもちろんなれないけれど、あのヒゲ騎士にわたしたちを印象付けるための出まかせだったわ。魔法の一つでも見せれば信じるかもしれないけどね。


「もうすぐね、お姉様」


「頑張るのはラルディでしょ。わたし氷は覚えられないもん」


「もしかしたら将来あのヒゲ騎士と一緒になれたら、お姉様も氷属性を使えるようになるかもしれないのよ? 知識だけは頂けるのだし、覚えて損は無いわ! 一緒に覚えましょ?」


「ラルディがそう言うなら、覚えてみる……」


 イミャコン――


「着いたわ! 確か迎えが来ているはずだけど……」


「ラ、ラルディ……た、助けて。あ、足が痺れて動けない」


「な!? 何をしているの、お姉様」


「わ、分からないの。街に入った途端にまるで、足が凍ったみたいに動けないわ……」


 極度の人見知りが発動でもしたのかしら? いえ、それにしてはおかしいわ。確かにお姉様の足が冷たいし、氷? こんな悪趣味なことをするだなんて、どこの誰よ?


「おやおや、どうやらそのお嬢さんには適正がないみたいだね。キミは氷属性は使えないね」


「あなたは、どこのどなた様かしら? 無礼にも程があるわ! お姉様への術を解きなさい。そうじゃないと、わたくしがあなたを凍えさせてあげるわ」


「君がラルディ王女だね? 凍てつきの風に怖れを抱かないなんて、さすがに素質十分なだけのことはある」


 いけ好かない男が出て来たと思ったら、この男が迎えの術士なのかしら。ヒゲ騎士がいい男だったと思えるくらいに、嫌な感じの匂いがプンプンするわ。


「キミが氷属性を得る王女で間違いなさそうだ。失礼をしたね、僕はリティーハ。氷の術士だよ。王女ラルディ、ようこそ」


「その前に、お姉様を暖めなさいよ!」


「すでに解いているよ。お姉さん想いの妹なんだねキミは。さすが双子といったところか」


「はぅ……ラルディ、わたしにはやっぱり無理だったみたい。ごめんね」


「弱気になってはダメよ! そこのリティーハ! あなた、わたくしのお姉様をまた、傷つけるようなことをしたら覚悟はよろしくて?」


「ははっ、気に入ったよ。ついておいで。キミならすぐにでも使えるようになりそうだ」


「ラルディー……わたしも行っていいの?」


「当たり前よ。早く覚えて、ここをすぐにでも出てやるんだから!」


 氷の国の支配下だからって、こうも嫌な感じを受けるとは思わなかったわ。どんな奴であれ、レナータお姉様に何かする奴は許すわけにはいかないわ。ここをとっとと出て、騎士を追いかけたいくらいよ!

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