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メリソス・プリンセッサ~双子王女の恋愛譚~  作者: ハルカ カズラ
恋の果てに
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21.約束の別れ


 やはりとは思っていたけれど、イグナーツはジュルツの騎士だった。彼に記憶が無くても、相手に深い思い入れがあれば、引き留めてしまうのは仕方がないかもしれない。


「ハヴェル様、お、おやめください。何故お味方同士で戦われるのですか?」


「王女さんには分からねえかも知れねえが、そこのイグナーツ。そいつはずっと共に過ごしてきた仲間だったんだ。一緒に過ごしていた奴が、派遣された戦地で行方不明になった。だがいま、俺の目の前にいやがるんだ! 本物なら、言葉で聞くよりも剣に聞く方が分かりやすいんだ」


「で、でも……」


「すまねえな、騎士のわがままを見守っていてくれや」


「――っ!?」


 ヒゲ騎士は申し訳無さそうな顔で、お姉様の頭を撫でた。その行為に驚くお姉様。緊張と気持ちが溢れてしまったのか、顔を紅潮させたまま、その場から動くことも出来ないお姉様。


 わたしとイグナーツ、そしてお姉様とハヴェル。傍にいる騎士はかつての仲間。わたしたち姉妹は、ちょっとした距離が出来てしまった。イグナーツはわたしを守りながら、ハヴェルを見据えているしハヴェルの傍にいるお姉様はそこから動けずにいる。


「騎士団長と騎士たちはふたりを見守るだけなのかしら?」


「イグナーツの王女よ。騎士は多勢に無勢などと卑怯なことはせぬ。この戦いに卑怯なことがあってもならん。故に、我らは見守るのみだ」


「ふぅん……」


 イグナーツは記憶が無いながらも、わたしを守るために剣を手にしてハヴェルに向き合っている。わたしの騎士として、役目を果たそうとしている。それがすごく切なく感じた。何も覚えていない人なのに。


「僕はイグナーツ。ラルディ王女の騎士だ。かつての僕を、あなたは知っているかもしれない。でも、それに関係なく僕は王女を守る為に、あなたと戦う!」


「そうかよ。俺のことも、アス坊のことも覚えてねえんだな……なら、やはり剣に聞くしかねえな」


 会話のやり取りの直後に、彼らは剣を交えた。髭騎士は、実力を真ん中くらいと言っていたけれど、決して弱いようには見えなかった。一方のイグナーツも、記憶が失われているとはいえ、実力は備わっている騎士のように思えた。


「すごい……イグナーツ、強いのね」


「あやつは、かつて最年少で絶大な強さを誇る騎士だった。だからこそ、小国を救うための戦地へ派遣に赴かせたのだが……心が優しすぎたのが良くなかったのだ。命こそ失わなかったが、心を失わせた。それについては、我の不徳の致すところでもあった」


 強すぎても心が追いつかなかった。そういうことなのかしらね。


「くっ、相変わらずの腕前だ……ったくよぉ。俺の実力じゃ、防御も崩せねえか。だが、せめて何かを思い出してもらうために、俺は俺なりに歯向かわせてもらうぜ」


「……そういうわけにはいきません」


 刹那のごとく、勢い任せに突っ込んできたハヴェルの剣を、イグナーツはいとも簡単に叩き落とした。実力差のあったふたり。攻撃意思の無かったイグナーツの剣先は、剣を持たないハヴェルに向けられている。


「お前に人は傷つけられねえはずだ。そうだろ?」


「王女様に害を与えうる者であれば、そうとも限らない。あなたがこのまま退いてくれるのであれば、剣を収めます」


「何かのきっかけになると思ったが、そう上手くはいかねえか」


 良かった。彼たちの様子を見る限りでは、何事も無く済みそうね。お姉様も落ち着いたかしら。


「や、やめて!! ハヴェル様を傷つけないで!」


 何を言っているの? もう彼らの戦は収まりそうだったのに、剣を向けられた髭騎士しか見えていないって言うの? まずいわ、非常にまずいことが起きそうな気がする。


「レナータ様? いえ、彼に怪我なんてさせるつもりは……」


「駄目……駄目ーー!!」


「うぉっ!? な、なんだこりゃあ? 水か!?」


 髭騎士が危ない目に遭ってしまう。そのことしか見えていないレナータは、明らかにイグナーツを覆い隠せるほどの水塊を作り出している。


「ちょ、ちょっと! お姉様、落ち着きなさいってば! イグナーツよ? 敵じゃないのよ?」


「おいおい、こりゃあやべえぞ。イグナーツの奴、溺れちまうんじゃねえかくらいの塊じゃねえかよ。魔法なんて言葉のアヤかと思ってたが、マジだったのかよ」


 当のイグナーツは覚悟を決めているのか、避けようとも防ごうともしていない。これはもう、姉を止めるしかなさそうだった。


「仕方ないわね……そこの髭騎士! お姉様のこと、お願いね」


「ん? 何のことだ? ぬあっ!?」


「ぬ! 皆の者、後ろに退け!」


イエロパレー(氷の壁)をイグナーツの前に張ったわ。悪いけれど、髭騎士とお姉様の元には行けなくしたの。騎士団長さん、そういうことだからこのままレイリィアル国に向かって下さらない? もちろん、わたくしたちに構わずに」


「そなたは氷を支配している王女であったようだな。よかろう、ハヴェルにはそなたの姉王女を護衛する任務に就き、送り届ける役目を任すとしよう。そなたとイグナーツについても、今は深く追求せぬ。いずれ、どこかで会うこともあろう。その時まで、そなたに我が騎士を預けておく。それでよろしいか?」


「さすが騎士団長様ね。会えるかどうかなんて約束出来ないけれど、髭騎士がお姉様を守るというのなら信じて差し上げますわ。イグナーツのことは、わたくしが責任もって預かりますわ! わたくしの騎士ですもの」


「ラ、ラルディ?」


「イグナーツ。あなたは心配しなくてもいいの。それにレナータお姉様と離ればなれになったとしても、わたくしたちは必ず、元いた場所で再会を果たすことが決まっているわ。それまでは、お互いに別行動をすることになるけれど、わたくしにはあなたが。お姉様には髭騎士が途中まででもいるのですもの。心配ないわ」


「うん、分かったよ。僕はラルディの騎士。キミを信じるよ」


 これは会えなくなる別れじゃないのよ。わたしたちは姉妹。永遠の別れなんてあり得ないのだから。

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