2.騎士の国へ
氷の都に行くことにしたわたしと、姉のレナータで馬車に乗り込み、故郷の国から出発をした。王女が国を留守にしていいのかなんて声が近隣から聞こえてきそうだったけれど、生憎と故郷の王国は深い森の奥に位置する霧の国からの霧で所在を隠してもらっている。
他国を知らない王国。王女が双子で生まれて来たのだから、誰も文句を言う人なんていない。そういう意味じゃ平和過ぎる国。
「ねえラルディ。わたしたちがいなくなったら国は誰が面倒を見るんだっけ?」
「はぁ……お姉様って何も考えていないのね。沢山いるじゃない、爺やが」
「あ、そっか。でもそれで守れるの? 攻められたりしたら……」
「普段は見えない国に誰が来るって言うの? そんな国の存在を知っているとしたら各地に派遣されてくる騎士くらいなものよ」
「それ!」
「どれ?」
「だから、ラルディの言う騎士様! 騎士に守ってもらえばいいのよ。そうでしょ?」
「何を言うかと思えば野蛮な騎士に助けを求めるって言うの? ごめんだわ!」
わたしが爺やたちから聞いている話は世界に存在する騎士とは武器を使い、己を守る為の盾ですら、攻撃に使う野蛮で攻撃的な連中だと聞かされていた。そんな輩に頼むくらいなら、とっとと魔法属性を習得して自分で身を守りたい。
「え~? 騎士様がいいのに。まだ何の属性も使えないただの人間なのよ? どうやって身を守ればいいの?」
「それは……」
レナータお姉様の言う通りかもしれない。わたしたちはまだ何も出来ない小娘同然。13の歳になったばかり。そんな小娘が外世界の変な連中相手に何か出来るとは思えない。頼るしかないのだろうか。
「ねえねえ、ここから騎士の国はさほど遠くないわ。行ってみましょ?」
「騎士の国? でも王になんて会いたくないわ。別に国として行くわけじゃ無いのよ?」
「会わなくていいわ! 騎士様に直に声をかけて、氷の都まで守ってもらえばいいのよ! わたし、頭いい!」
「んー……いいわ。騎士を適当に選んで報酬を払えばきっと、守ってくれるでしょ」
そんなこんなで、霧の国から遠くも無い騎士の国に向かってもらう事にしたわたしたち。そこで暇そうな騎士に頼んで、そのまま氷の都まで守ってもらう。そうじゃないと、何も出来ないのは事実だから。
御者は爺やたちから言われた通りに馬車を進ませているだけなのに、進路変更を言われて戸惑っていた。でも御者も守れないのは本当のことだし、渋々と馬車の進路を騎士の国へ向かわせるみたいだった。
「ところで、ラルディに聞きたいことがあるんだけど、いーい?」
「え、なに?」
「好きなタイプはどんな子なの?」
「わたしは凛々しい人がいい。表面で見せるよりも、内面から出してる人! 顔だけじゃ分からないもの。見た目よりも中身ね。レナータお姉様は?」
「私は守ってあげたくなる男の子がいいわ。もちろん、今の私じゃ守れないけど。でも、困ってたら助けてあげたいな。そんな男の子が、逆にわたしを助けてくれるようなことがあればもうやばいわ。好きが止まらなくなるかもしれないの」
「き、危険ね。お姉様は助けてから、助けられるような理想を持っているってことで合ってるかしら?」
「そうよ! ふふっ可愛い感じの男の子がいいなぁ」
そんな理想を語っていたわたしたちに、御者から間もなく騎士の国に着くことを知らされる。
「へぇ~大きい国なのね。馬車の行き交いも頻繁なのね。なんて国なの?」
騎士の国はジュルツと言う名前らしい。外世界に今まで出たことの無かったわたしたちは、国の名前を気にしたことも無ければ覚える必要の無かったことだけれど、また騎士を頼ることになりそうだから覚えておくことにした。
「ねえ、ラルディ。すごく可愛い子がいた! 私達と同じくらいの。でもすぐに騎士らしき人と馬車に乗って行ってしまったわ。友達になりたかったなぁ」
「それが目的じゃないのよ? それに目的はあくまでも魔法の修得なの! 友達作りじゃないのよ?」
「ねえねえラルディ、すごい綺麗な子の後ろを可愛い男の子が追いかけているわ! 姉弟なのかしらね」
「ふぅん? この国で何か忙しい日なのかしら。そういう時に来てしまったのね、きっと」
わたしたちは王女だけれど、国の何かで訪れているわけじゃ無いから、そこの国で何かが起きてるといったことは分からない。今訪れている、ジュルツは色々と忙しい時だったということなのだろう。
「ねえねえねえ、ラルディ!」
「あーうるさい! 今度は何よ?」
「あそこにいる騎士なんかいいんじゃない? 騎士っぽくないけど、馬に乗る準備をしているわ」
レナータお姉様の言う方を見ると、確かに騎士らしくない風貌の方が出立の準備をしているようだった。彼はきっと内面の男の人。そんな感じがした。馬車から飛び降りて、真っ直ぐに彼の所へ向かった。
「え、ちょっと!? ラルディ、待って!」
「あの方はどこかに行こうとしているわ。チャンスよ! ついでに守ってもらいましょ!」
国王に会わずに騎士の誰かを、なんて考えていたけどそんな甘くないのは知っていた。だから、これから出立しようとしている騎士がいるのであれば、そのまま頼んで付いて来てもらえれば問題ない。だからこれはチャンスなのよ。そう思ったら、わたしはあの騎士に向かって走り出していた。