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6 SOS ノーチラス

 サーヤは何も考えず水面に上がろうともがきワイヤーを引っ張る。


 ワイヤーは引かれるたびに少しづつ締まり緩む事はない、サーヤが水面に顔を出した時には尾びれからは血が流れだし、赤く濁った海水がサーヤを包み始めていた。


 水面にやっと顔を出したサーヤはすぐさまノーチラス号を探して、波で見え隠れする水平線を見回す。


 何とか人影が確認できる距離にいるノーチラス号を波間に確認すると、海底の岩に固定されたワイヤーに引かれ、水面にうねる波にのまれながらも、サーヤは大きく手を振りながら声を張り上げる。


「たす・・」


「たすけ・・」


「たすけてー!!」


「たすけてー!!」


 サーヤの声が届いたのか、いきなり漁を中断し、双眼鏡を片手に船上を走り回り、双眼鏡でこちらを覗くジョンが見える。


 それを見て少しほっとしたサーヤは血のにじむ手を下すと、先程のイルカの方を振り返る。


 幸いイルカは水面に花を出し静かに浮かんでいた。


 視線を波間に見え隠れするノーチラス号に戻すと、船の周りに跳ね回るイルカ達が目に留まる。


 サーヤは先程のイルカの様に、血の流れる尾びれが痛まぬよう力を抜いて、静かに水面を漂う。



◇◆◇◆◇◆◇



 ジョンが、諦めて、網を上げ始めると、船の周りをイルカ達が回り始めた、飛沫を上げながらジャンプし、船を回る。


「どうしたんだ、何か今日はイルカ凄いなー」


 ジョンがイルカの行動に驚いていると、首を傾げながらイリルが言う。


「父さん、なんか、イルカもすごいんだけど、たすけてー って聞こえない」


「え・・」


 ジョンが耳をすますと、確かに聞こえた、船も何もいないケルプの森の方から。


 ジョンは双眼鏡をひっつかむとキャビンの上に駆け登り双眼鏡をのぞく。


 そこには必死に赤い手をふりながら叫ぶ人魚の姿が映っていた。


「イリル、ブイが付いてるから大丈夫だ、網放せ」


「え、今引き上げ始めたばかりよ!」


「何かまずそうだ、救けに行こう」


「やっぱり人魚の声だった」


「ああ、怪我してるみたいだ」


 イリルは網を外して海に放り出す。


 その時イリルの目にノーチラスの号の後方から、追い払った船が迫ってくるのが目に入る。


「父さん、OKよ、でも後ろから、さっきの船が来るわ!」

 

 ジョンはイリルの合図とともに、イルカ達を追って船を走らせる。


 あいつ等の仕業なのか、ジョンは考えるより先に、後方の船の進路をふさぐように船を寄せた。



◇◆◇◆◇◆◇



「船長、またあの船です」


「またか、離れるぞ、船を出す、全速前進」


「なんなんだあの船は、私たちの後付けてるのか、ここの所毎回じゃないか」


 こぼ船には、ちょっとマッドな科学者と、報酬をはずんでもらえれば、少しくらい危ない橋は平気で渡る船長とその部下が乗り込んでいた。


 勿論今回も、船長はぐっと弾んでもらった報酬で科学者に雇われていた、成功すれば、大きな報酬の上乗せも約束されていた。


 いるかいないかも分からない人魚の捕獲、船長自身は本当に居るとは思っていなかったが、実際に目にしてしまえば、目の前の大きな上乗せ報酬は魅力的だった、ケチな密猟の手伝いなどしている場合ではない。


 船長は人魚の行動範囲を調査し、捕獲用の罠を考案し、装備を用意し、万端の準備をし、人魚の捕獲に乗り出す。


 まして人魚ならば捕獲しても違法でも何でもない、それどころか、一躍有名人だろう、おかげで乗組員の士気は高かった。


そんな彼らの船は、この所人魚の旗を掲げた変な漁船に調査を邪魔されていた、まあ、船長にしてみれば密漁の片棒担いでいた時からなので、非常に分が悪いだ、おかげでその都度逃げるしかない状況なのが、頭の痛い処だった。


 そして今日も、わなを仕掛け終えるなり、現れて船を寄せてくるのだ。


「罠と、センサーと、カメラ、全部仕掛けてきたか」


「はい船長、リーフと、ケルプに結構しかけましたよ、もうあと十か所分も残ってませんよ」


「良し、これだけ仕掛ければどこかに引っ掛かるだろ」


「船長、せっかく掛かっても、死んでしまったりはしないだろうね」


「それは大丈夫だ、怪我はするだろうが、すぐに行けば死んだりはしない」


 船は全速で、漁船を振り切ると、漁船が諦めたのを、確認し船を止める。


「よし、てめーら、カメラと、センサーから目を離すなよ」


 船内には幾つもの大きなモニターが設置され、その一つ一つが幾つもに区切られ、仕掛けられた水中カメラの映像を映し出していた。


「もしかかったら、急いでくれよ、できるだけ無傷で捕獲したい」


「判ってまさ博士、ここからなら、五分とかからずに着きますから」


「ああ、頼むぞ、あれの価値は計り知れん、あれを研究すれば、どんなものが出てくるか想像もつかん」


 それから半時もしないうちに、センサーの警告音が鳴り響く。


 オペレーターがすぐにその映像を画面いっぱいに映し出す。


 映し出された画面には、罠に掛かり、罠とケルプに絡まったイルカが映し出されていた。


「イルカです・・」


「驚かせやがる、もう掛かったかと思っちまったぜ」


「ほんとになー」


 博士が残念そうにイルカの掛かったモニターを眺めていると、モニターの中のイルカに小さな手が差し伸べられる。


 それは人魚の手、モニターの中にはまだ幼い顔の人魚が必死にイルカの罠を外そうとしている姿が映し出された。


「来たぞ、あの近くにほかの罠は!」


「はい、二か所あります」


「直ぐモニターに映せ」


 直ぐに両側のモニターに近くの罠が大写しにされる。


「どのくらい離れてるんだ」


「手前は十メートル、横は二十メートル位です」


 モニターの中の人魚はワイヤーを切ろうと素手でイルカの尾に巻き付いたワイヤーを引っ張っている。


 ほどなく、人魚の手はワイヤーで切れ、血が流れだす。


 人魚はゆっくりとイルカを放すと、画面下方に消えていった。


 「「「ああ・・・」」」


 諦めきれず、一同人魚の消えたモニターを眺めていると、再び人魚が戻ってくる、人魚は話しかけるようにイルカを撫でると、カメラのわきをすり抜けていった。


 それは手前の罠の方向、全員が音も立てずに隣のモニターを凝視する。


 それは僅か数秒、画面に入る瞬間が解らぬほどの速さで現れた人魚は、瞬間移動でのしたかのように画面中央の罠に掛かっていた。


「船を出せ、全速前進、出るだけ出せ、ダイバー!スタンバれ」


 船長の檄が飛ぶ!


 船は何かに蹴飛ばされたように、後方に飛沫を上げ水面を滑り出す。


 普段は一つしか使っていないが、この船にはエンジンが三つある、三つのエンジンをすべて回し、三つのスクリュウーが船を押し出す。


 前方にはいつもの人魚の旗を掲げた船が同じ方向に向かっていた。


 間違いなく同じ場所に向かっている。そう思った船長は再び檄を飛ばす。


「絶対にあの船より先に着け!」


 船は全速力のまま、水面を跳ねるような速度で、ジョンの船を追い越そうとするが、ジョンの船は追い越されまいと、前方をふさぐように進路を変更する。


 あまりの急な進路変更によけきれずに船は大きく揺れ、接触し側面が擦れ合う。


「船長、拙いです、船体に亀裂が入ったかも」


「直ぐに調べろ」


 直ぐに船員が駆け回るが、船は無事な様だった。


「船体に亀裂は入ったようですが、今のところ、浸水はしていません」


「なら構わん、速度を落としてこのまま進め」


「向こうの船は?」


「破損はしたようですが、まだ追ってきます」


「なら構わん、行け」


 ジョンの船、ノーチラス号の船体には亀裂が入り、僅かずつ浸水し始めていた。



◇◆◇◆◇◆◇




「キャー」


「父さん、ぶつかるー」


 イリルは悲鳴を上げながら手すりにしがみつく。


 船は大きく揺れ、側面から波が押し寄せ、イリルを攫って行こうとする。


 ずぶ濡れになったイリルは、ジョンに目をやると、ジョンもイリルを確認していた。


 お互い無事を確認すると、ジョンは船底に走り、イリルは急いで舵にしがみつく。


 船底には大きな亀裂が入り、海水が流れ込んでいた。


 ジョンがすぐさま備え付けのポンプで排水するが、浸水の方がわずかに早そうだった。


 ジョンはすぐに沈むことはないと、見切りをつけると、急いで甲板に飛び出し、イリルと操舵を変わると、エンジンも焼けんばかりに吹かし込む。


 早く来いとばかりに、イルカ達が船首を飛びまらるが、差は開くばかりだった。


「イリル、SOSだ、早く」


 ずぶ濡れのイリルは、かじかんだ手を震わせながら無線機をとると叫んだ。


「こちらノーチラス号、不審船と接触、誰か助けて、船が沈みそう、人魚も捕まりそう、場所は南のケルプの森、誰でもいいから、早く助けて ・ こちらノーチラス号、誰か助けて、不審船と接触船が沈みそう、場所は南の、ケルプの森、誰でもいいから、早く助けて」


「上出来、沈む前に、ゴムボート用意しとけ」


「父さん、本当に沈むの!」


「多分もう少しすると沈むぞ」


「えー  」


 イリルは無線機のマイクを放すと、あたふたとゴムボートを引っ張り出し、その中にオールとレスキューバックをを投げ込んだ。




◇◆◇◆◇◆◇




 余りに近い船の衝突音にサーヤが顔を上げると、二艘の船が衝突し、ノーチラス号が弾き飛ばされていた。


 サーヤはあまりの光景に慄然としていたが、再び進路を戻しサーヤに向かってくるノーチラス号が目に入ると焦りだす。


 ノーチラス号は沈まなかったが、怪しい船が先にこちらに着いてしまう。


 多分わずか数分だろう、しかし、その数分がどうにも不味い、船はもうそこまで来ている。


 逃げ出そうにも尾びれに食い込んだワイヤーは外れず、もがけばさらに尾びれに食い込んでいく、絶望に打ちひしがれそうになってるうちにも、船はは進み、サーヤを引き上げようとサーヤのすぐわきに寄せてくる。


 ノーチラス号に目を向ければ、喫水線が下がり、今にも沈みそうになってた。


 船の上には、必死に舵を取るジョンと、甲板のゴムボートにしがみついているイリルの姿が見える。


 サーヤは目に涙をためながら水中に潜ると、触れるくらいにまで寄ってきた船の横っ腹を殴りつけた。


 それは魔法を伴い周囲の水に圧力をかけると、サーヤの怒りのままに、周囲船の横っ腹にたたきつけられる。


 そんな圧力を叩きつけられた船は大きな悲鳴を上げてきしみ、船体に入った亀裂からは浸水が始まった。


 サーヤはそのまま海底に向けて潜り始めたが、突然体が硬直し、そこで意識は途切れてしまった。



◇◆◇◆◇◆◇



《こちらノーチラス号、誰か助けて、不審船と接触、船が沈みそう、人魚も捕まりそう、場所は南のケルプの森、誰でもいいから、早く助けて ・ こちらノーチラス号、誰か助けて、船が沈みそう、不審船と接触、船が沈みそう、場所は南の、ケルプの森、誰でもいいから、早く助けて、場所は南の、ケルプの森よ》


「おい、今とんでもない事聞こえなかったか?」


「ああ、ノーチラスって、ジョンの船だよな」


「今のは、イリルちゃんか」


「ええい、進路変更だ、もっと南に行くぞここからならすぐだ」



◇◆◇◆◇◆◇



「おい、大変だぞ、ジョンの船が沈みそうだってよ、早く網引き上げちまえ、助けに行くぞ」


「本当か、もう少しだすぐに引き上がるから待ってろ」


「急げ」


「で場所は」


「南のケルプだ」


「遠いな、ここからじゃ間に合わんぞ」


「解ってる、だから沿岸警備隊と、皆に連絡しろ、あそこから泳いじゃ帰れんぞ」


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