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10 サーヤ18歳

今回最終話となりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

では宜しくお願いいたします。

In ten years



 サーヤは前方に大きなオサガメを見つけると、珊瑚の間を縫って追いかける、お気に入りのモノフィンで海水をかき分けあっという間に、オサガメに追いつくと、甲羅をもってぶら下がる。


 かなり長く生きている個体なのだろう、二メートル以上ありそうな甲羅は圧巻である。


 サーヤが甲羅にぶら下がっても、ぐいぐいとサーヤを引っ張って泳いでゆく。


 サーヤがオサガメにぶら下がって遊んでいると、いつものイルカ達が現れ、サーヤと戯れ始まる。


 さすがにイルカ達には追いつけないが、イルカの尾びれのような、マリンブルーのモノフィンをつけてイルカ達と戯れながら、珊瑚礁を泳ぎ回るサーヤの姿は印象的だ。


 速度こそイルカ達に一歩譲るものの、イルカ達に引けを取らないその泳ぎは、一度見ればその姿を忘れることはできないだろう。


 サーヤは今でも、陸を駆け回るのと同じように、水中を泳ぎ回る。


 今この島にいる人魚と言えばサーヤの事だ。


(そろそろ時間かな)


 サーヤは太陽を見て時間を図ると、水平線の端にポツンと見える島に向かって泳ぎだす。


◇◆◇◆


「父さん、そろそろ、出港準備と、挨拶の準備して、お客さん達乗り込んだわよ」


「今日は何処だったっけ」


「ケルプの森に、珊瑚のトンネル、そして水中洞窟よ」


「そうか、サーヤちゃんは?」


「イルカ達が船の周りにいるから、その辺にいる筈よ」


 ジョンが船の周りを見ると、イルカ達に交じって青い尾ひれをつけた人魚が見える。


 相変らず、人とは思えない速度で泳ぎ回っている。この泳ぎを見ると、魔法は本当に解けてしまったのか疑いたくなるジョンだった。


 ジョンがイリルと一緒に、お客に挨拶をしようといそいそと甲板に下りてゆくと、お客は全員手摺にかじりついて、イルカ達と泳ぎ回る人魚とおぼしき影を見ていた。


 イルカ達の中に不思議な影を見つけ、最初は勿論、人間だろうと思って見ていたお客たちだが、もうかなり長い事息継ぎもせず、イルカ達と水中で戯れる影を見ているうちに、半信半疑になってきたのだ。


「それでは、紹介しましょう、うちの海洋ナビゲーターの、人魚姫サーヤとお供のイルカ達です!」


 イリルが、突然お客の後ろから大声でサーヤの紹介を始める。


 お客たちは一瞬イリルの方を見たが、紹介されたのが、自分たちが今見ていた人魚ではないかと、直ぐに視線を海に戻す。


 そこには紹介に合わせて、水面からジャンプを決めた人魚が着水するところだった。


 ジョンがサーヤの為に作らせた、マーメイドスーツは性能も外見も完ぺきだった、間近で見ても、本物にしか見えないほどだ。


 サーヤはイルカ達と何度かジャンプを決めると、プカリと水面に顔を出し、お客達に大きく手を振った。


 サーヤがイルカ達と水中に消えてしまうと、お客達は一斉にイリルに振り返る。


「今の人魚さんと、一緒にダイビングできるんですか」


「今の人は本当に人魚なの?」


「どうやってジャンプしたんだ」


 イリルに次々と質問が飛んでくるが、それはいつもの事だった。


 この船は、島で一番人気のダイビング観光船マーメイド号なのだ、三機のエンジンを載せ青い人魚の旗をなびかせた島一番の高速艇だ、勿論、沈没しそうになったあの不審船だ、沈没したノーチラス号の代りに、ジョンの船となり、今では観光船マーメイド号として、ダイビング客を運んでいる。


「はい勿論一緒に泳げますよ、楽しみにしていてください、彼女の案内は凄いですよ」




◆◇◆◇




(すごい船だな・・・)


 彼はブラビス・ブラントン、人魚がダイビングスポットを案内してくれると噂のダイビング船に申し込んだのだ、やらせの人魚のうわさにしては、参加者の話が熱すぎる、ブラビスは、ダイビング好きも手伝って申し込んだのだが、今現在、船の装備の方興味を惹かれ、既にダイビングは頭の片隅に追いやられていた。


(なんなんだろう、このアーム、カメラついてる、エンジンが三つに、ウインチ、クレーン?)


 好奇心の赴くままにブラビスは船内を歩き回る。


 信じられないような装備の船の中を、嬉々として歩き回るブラビスは、船底に向かう階段を降り始める。


 勿論、そこはスタッフ以外立ち入り禁止だが、そんな事では彼の好奇心は止められない。


 スタッフオンリー表示を無視して、彼は階段を下って行く。


 イリルがお客に今日の説明をしていると、視界の端に堂々と船内に入っていくお客の影が映る。


「父さん、少し替わって」


 イリルはジョンに耳打ちすると、船内に消えたお客を追って行く。


イリルは船底に向かう階段を駆け下り、船底の入り口のドアを開けようとしているお客を見つける。


「お客様!」


 かなり頑丈そうなドアの前に立ったブラビスは後ろから声を掛けられ、引き留められたがが、もう彼にドアを開けないと言う選択はなかった。


 ブラビスは振り向きもせず、イリルの制止を無視してドアを開ける。


 そこには船底の出入り口らしい水面と、そこに腰かけ、マーメイドスーツを外しているサーヤが居た。


「お客様!そこは立ち入り禁止で・・」


 そこまで言うとイリルは部屋の中のサーヤと目が合う。


 部屋の中では、サーヤが栗毛の長い髪を素肌に貼り付け、人魚スーツから片足を出した処で固まっていた。


 最初に再起動したイリルは、お客の腕をつかみそのまま部屋に引き込むと急いでドアを閉めた。


「あなた、「ブラビスだ」そう、ブラビスさん、スタッフオンリーって書いてありましたよね!」


「書いてあったけど、それでも見たかったんだ」


 ブラビスは悪びれない。


「貴方それって、どういう事」


「だから、こんな凄い船、これもうただのダイビング船じゃないでしょ、どうしても見たかったんだ、それにこんな素敵なにも会えたし」


「貴方ね」


 イリルは頭を抱える。


「そのモノフィンも凄いな、そんなの見た事無いよ」


 ブラビスはイリルが居るのを忘れて、サーヤに駆け寄ると、スーツの尾びれのあたりから少し見えていたギミックを引っ張り出している。


「すごい」


 サーヤは思わず飛びのいている。


「凄い凄いって、あなたね」


 イリルが再度ブラビスを捕まえる。


 胸ぐらをつかんで振り回しそうな勢いだ。


「イリルさん」


 イリルは、サーヤに声を掛けられ、諦めて手を放す。


「貴方も、私があとで案内してあげるから、今は他のお客さんと一緒に行動してくれるかな、それと、ここの事は皆には内緒よ」


「人魚が偽物って事」


 イリルがこめかみをひくつかせてしゃべりだす。


「偽物じゃない、人魚は称号だ、この島の誰もが認めるサーヤだけが持っている称号だ」


 イリルの言葉に、ブラビスがサーヤに目を向ければ、そこには少し細身の体にマリンブルーのビキニをつけた女性が、水の滴る髪を躰に張り付かせてブラビスを見ていた。


「解った、悪かった、  でも後で、案内は・・・楽しみにしている、それじゃ、皆の処に戻るよ」


 ブラビスはそう言いながら後ずさると、皆の処に戻って行った。


「あんのクソガキー」


 ドアが閉まると握ったこぶしを震わせながらイリルが叫ぶ。


「イリルさん」


「解ってる、解ってる」




◆◇◆◇




「船長!乗っけてくれるか、今日は珊瑚のトンネル行くんだろ」


「ああ、構わんが、セリア医師せんせいせめて白衣は脱いだ方がよくないか、サイモン医院長せんせいに見つかるぜ」


「やっぱり拙いか」


「拙いも何も此処、委員長室の窓から見えるでしょ」


「大丈夫だ、医院長は今往診中のはずだし、休暇届は今朝出してきた」


(今朝じゃ拙いと思うんだが)


「とにかく乗っちまってください、もうすぐ出しますから」


「ありがとう、あそこは綺麗だからな、何度見ても飽きないわ」


 そう言うとセリアは、白衣の背中に自前の道具を担いで乗船してきた。


 セリアは乗船すると直ぐに、階段を下りて船底に向かう。


 船底からは、マリンブルーのビキニの上に白いパーカーを羽織ったサーヤが上がってきていた。


「セリア医師せんせい、来ると思ってました」


「あそこは、この船でしか行けないからな」


「じゃ、今日はしんがり手伝ってもらえますか」


「勿論だ、水中スクーターは余ってるか」


「いつものがあります」


 セリアはボンベをサーヤに渡すと、一緒に船底のハッチに向かう。


 珊瑚のトンネルは、船ではいけないリーフ中へ、水中スクーターを使って進んで行き、目的のダイビングスポットまで行かなくてはならないのだが、不審船の置き土産の水中スクーターが無ければ、時間的に、ダイビングスポットに着いたとたんに帰らなければならなくなってしまう。


 そして、サーヤの案内が無ければ、それも只の絶景で終わってしまう。


「で、今日は何が、いた」


「今日は、特大のオサガメがいたわ、あの子まだトンネルのあたりにいる筈よ」


「オサガメは久しぶりだな、特大ってどのくらいだ」


「二メートル超えてるわ」


「それは凄いな」



◆◇◆◇




 今、ダイビング客たちはサーヤとイルカ達に見とれていた。


 彼らが、水中に入ると、何処からともなく、イルカ達と共にサーヤが現れ、彼れの周りで戯れているのだ。


 そして、イリルの指示に従って、お客達っが水中すくたーにしがみ付くと、サーヤが先頭に立ち案内し始める。


 ブラビスは、イリルの後ろに付き、サーヤを見ていたが水中スクーターよりも、サーヤの方が速い。


 一同は、イルカ達に囲まれながらリーフを移動する。


 ブラビスの水中スクーターは直線では全開になっているにもかかわらず、サーヤには追い着かない。


サーヤはそれ程必死に泳いでいるようには見えないのだが、それどころか、余裕で流しているようにしか見えないにもかかわらず、水中スクーターよりも速いのだ。


 長い髪を水中になびかせ、モノフィンで水をかき、イルカ達と、珊瑚礁の中を進むサーヤの姿は何処までもシュールだった、すでにサーヤが人であることが信じられないくらいに。


 マーメイド号の船底で、マーメイドスーツを脱いだサーヤを見ていなければ、ブラビスもサーヤが人魚だと、信じてしまいそうな位に人間離れしていた。


 人魚と一緒に珊瑚礁の海で泳げるダイビングツアー、誰も人魚が本物だなんて信じていないのだが、ツアーから帰ってきた人に聞けば、誰一人魚が偽物だと言わない、それどころか、参加すれば解るとか、参加しなければ、良さが解らないとか真剣に話される始末だ。


 そんな理由で、参加したブラビスではあったが、今その時の自分のその選択をほめていた。


 ブラビスは、いつの間にかイリルを抜き去り、目の前のサーヤの泳ぎに見とれていた。


 色取り取りの珊瑚をバックに、水面から射す光の柱を支える白い砂の上を、イルカ達と一緒に進むサーヤに、ブラビスは魅了された。


 既にマーメイド号の船底で、マーメイドスーツを脱いだサーヤを見ていても、サーヤが人魚だと信じてしまうくらいに。


 そして、それを見ていない、ダイビング客は、人魚の存在をほとんど信じてしまっていた。


 そんな時サーヤはふと隣のイルカの背びれに手をかけると、イルカに引かれて水面に上がっていく。


 輝く水面で、ふと息継ぎをすると、再びイルカに摑まって降りてくる。


(え!息継ぎ、今まで息継ぎ無し)


 ふと全員が、それを思い出し、驚愕する。


 背に水面の光をまとって降りてくるサーヤが全員の目に焼き付いていた。


 いったいどれだけ息継ぎしていなかったんだ。


 後ろで、イリルが怒りのディスチャーをしているが、ブラビスはガン無視だ。


 視線は息継ぎから降りてくるサーヤに固定されまったくぶれる様子は無い。


 そんなお客達を率いて、人魚の案内する珊瑚のトンネルは、夢の世界だった、ダイバーたちのリクエストも次々に叶えられ、中々遇う事の出来ない海洋生物の元にもにも、次々と案内されてゆく。


 二メートルを超えるオサガメ等は圧巻で、彼方に見えたオサガメをサーヤとイルカ達が連れてきたのだが、自分達よりも大きな亀はみな初めてだった。


 シードラゴンに達磨魚、ハナヒゲウツボ、マンタ、最後にはイルカ達が連れてきた、ジンベイザメと泳ぎ、ツアーを終えたが、結局一番ツアー客の印象に残ったのは、常に自分達を案内してくれた人魚だった。


 忘れたころに時々しか息継ぎに上らないその人魚は、海を知り尽くし、水中スクーターよりも速く泳ぎ、イルカ達と戯れ、ツアーが終われば、手を振りながら島に帰る船を見送り、どこかに消えてしまう、船にすら乗らないのだ。


 勿論当の人魚は、船より少し遅れてイルカ達と帰ってくるのだが、お客達はあの距離を人が泳いで帰って来るとは思っていない、日によってはそのまま日が暮れるまでイルカ達と遊んでいたりもするので、ツアー客は海で別れた後、人魚を目にする事はない。


 そして、今回ツアー始まって以来の例外が生まれた。


 ブラビス・ブラントンは、ツアー終了時、イリルに言われた通り、ブルーマリンのバルコニー席でサーヤを待っていた。


 イリルに少しとげの残った口調で、気長に待てとは言われたが、白いパーカーが掛けられた席を前に、コーヒーをお代わりしつつ海を眺めて数時間、もう日も暮れ始まり、ブラビスが諦めて席を立とうとすると、水面から待ち人の顔が浮き上がった。


 何気に手を振られ、思わぬ登場の仕方に、頬を引き攣らせながら手を振るブラビスだったが、夕日の海をバックにモノフィンを担いで水中にから続く階段を上がってくるサーヤのシルエットには思わずつばを飲み込む。


「ブラビスさん」


「あんまり遅いから、帰ろうかと思ったよ」


「じゃ、私も帰ろう」


 そっけなく答えたブラビスだったが、間髪を入れずに踵を返すサーヤに、ブラビスは焦り、すぐさまサーヤを引き留めに掛かる。


「いや、待ってくれ、悪かった、食事でもどうだ、いや、一緒に食事をしてくれないか、頼む」


「じゃ、あなたのおごりね、ブラビスさん」


「もちろん」


 サーヤは、椅子に掛かった、白いパーカーをビキニの上に羽織ると、急いで立ち上がったブラビスが引てくれた椅子に、腰を下ろす。


 ブラビスはメニューを手に取るサーヤの向かいに戻ると、いろいろと聞こうと思っていたのだが、彼の口から出た言葉は彼の考えている言葉とは違っていた。


「サヤナさん、僕と付き合ってもらえないだろうか」


 サーヤは、いきなりのブラビスの言葉に、見ていたメニューの上からブラビスを覗き込むと、少し目を泳がせ、視線を逸らすと、ゆっくりと頷いた。


「いいわ」


 そして、ブラビスはゆっくりとメニューの裏に隠れて行くサーヤの手を取った。


◆◇◆◇



 そう、これは、とある南の小さな島の、人魚のお話。


 今でも、この島では人魚の存在について論議されているようですが、この話について結論が出ることはないでしょう。


 今でもサーヤとブラビスはこの島の海をイルカ達と泳ぎまわっています、でもここから先の話はまたの機会といたしましょう。


  でも、もしどうしてもサーヤに会ってみたいのでしたら、ダイビング船マーメイド号の『人魚と一緒に珊瑚礁の海で泳げるダイビングツアー』に申し込んでみてください、もしかすると、サーヤとイルカ達が珊瑚の海を案内してくれるかもしれません。


 それでは、皆さん、南の海のサーヤの話はここでいったん終演とさせていただきます。



  FIN





最後までお付き合いいただきありがとうございました。

拙い文章ではございますが、また今後もお付き合いいただければ幸いです。

よろしければ感想、評価等いただければ嬉しく思います。

宜しくお願いいたします。

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