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「ティア、本当に傍で護衛しなくて大丈夫? もしもの時に間に合わないかもだしーー」
「大丈夫!
いくらわたしがケルディアスの人間だからって、唐突に命を狙われる様なことにはならないもん」
「……そうとは限らんから、気は抜くな。何かあれば呼べ。すぐに向かう」
「ちょっとした用事にも呼ばせて貰うよ。それじゃあ、行って来ます!」
わたしの返答にアルは心配そうに、レオは本当に分かっているのかと言いたげに見返してくるので、わたしは早いところ退散させて貰う。
そうすれば、二人は諦めた様で見送ってくれた。
久しぶりのその感覚に、わたしは自然と足を弾ませた。
さて、学校に行くとしよう。
あの騒ぎはつい昨日のことである。
あの後、すぐに先生が来たことで、詳しい説明はお昼休みと放課後となり、事情を差し支えなく説明した後、わたしが逃げない様にレオが見張る間に、アルがわたしからお父様宛の甘えに甘えた、娘からのお願いアピールを盛大に注ぎ込んだ手紙を持って一度、国に戻った。
そうしてもぎ取った真犯人探しの期間は一週間。
勿論、周囲にはその期間は勿論、わたしが何者かはばれない様にして貰った。
真犯人だと証明するには、証拠が必要になる。が、何より確実で簡単なのは、現行犯逮捕である。
この少ない一週間の間に、相手には明確な動きをして貰わなければならないのだ。
さて、わたしが動き出したことで、相手がどう動くかは見物だな。
あの騒ぎがどう影響するかは分からないが、外部に情報がばれることも、わたしが命を狙われることもないだろう。この国にとって、ケルディアスを敵に回しても良いことはないのだ。
ケルディアス王国、別名、スキル大国。スキルの孤島。
アルメシア王国を始め、この世界にあるあらゆる国で、既にスキルは未だに根強く残っている魔力とは違い、失われ伝説になりつつある。
そんな中、広大な土地と自然に溢れた島丸ごと一国である、ケルディアス王国は血で受け継がれていくスキルを大事にしながら、近代では発展にも著しく取り組んでいる、世界一の大国であった。
まぁ、スキル大国と言っても、既に庶民や下流貴族の血には、スキルは残っていない。
聖女様、改め、アリエスの様に極稀に保持者はいるが、十五歳の魔法所持者が通うことになる、自らのスキルを扱える様になる為にある学園は、完全な上流貴族達の巣窟となっているのだ。
そして、三年後、その学園を舞台にとあるゲームがスタートする予定であった。
ぶっちゃけてしまうが、こう見えて、わたしはケルディアス王国の第一王女なのである。しかも、王位が王の実子しか跡を継げない上、お父様は亡くなったお母様一筋。
一人娘であるわたしは必然的に、唯一の王位継承権保持者なのだ。
ゲームの内容はとある出来事によって、性転換した主人公が二人の従者のサポートを借りて、学園に下流貴族として入学して三年間、スキルのコントロールや勉強、魔法などに励みながら、元に戻る方法を捜すのである。
ちなみに、元に戻る為には、心から自分を愛してくれる人の口付けが必要だ。さすが、恋愛ゲーム。
乙女ゲームであって、BLゲームであって、百合ゲームでもある。
十人を軽く越える攻略対象達に、それぞれにいくつものルートがあり、イベントもてんこ盛り。
その分、危険もたくさんあり、わたしが逃げ出す決意をするのは早かった。
いやぁ、大変だった。
スキルのせいで転移にも失敗して気が付いたら、そこは自然に囲まれたケルディアス王国では、見たこともない砂漠のど真ん中。
後に知るが、そこはアルメシア王国の北側にある砂漠で、今は慣れたがここはケルディアス王国に比べて、かなり日差しが強く夜と昼の温度変化が激しい。
あの時、偶然にも通り掛かった騎士団がいなければ、わたしは死んでいたかもしれないな。
記憶喪失のフリをして、何とかこの国の孤児院に入れて貰った後、わたしは八歳時にして秀才であることで、勧められたこの学園の庶民枠に合格して入学。
何とか昨日まで一人で生きていく気でやってきたのである。まぁ、一週間後には連れ戻されるが。
今更、逃げようとは思わない。現状、唯一の継承権を持つわたしがいなくなったお陰で、ケルディアス王国はちょっと不味いことになっているらしいからな。
具体的に言えば、お父様が使い物にならなくなり、貴族達が暴走するのを必死に、伯父様達が押さえてくれているらしい。
これがゲーム補正、と言う奴だろうか。わたしはどうやっても、ゲームからは逃れられないらしい。
一週間、お父様に待ったが聞ける間に、いろいろと心構えをしなければいけないな。
「さてッ!!」
それはさておき、まずは現状をどうにかしなければいけない。
濡れ衣を晴らすべく、今日から精一杯に頑張るとしようか。