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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第一章 勘違いで始まるエリート街道
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弱肉強食

(嘘だろおおおおおおおお!?俺が、俺がA組ィ!?)


 ドアの前で立ち尽くす来人。

 昨日までF組のバカ共とバカやっていたのに、今日から突然エリートの中のエリートしか集まらないA組仲間入りと言われても、すんなり受け入れることなど出来なかった。


「ほら!そんなところに立ってたらみんなの迷惑でしょ!」

「そ、そんなこと言われても……」

「さっさと入る!」

「お、おい!?マジで!?マジでここでいいの!?」


 クリスが来人の背中を押して、来人をA組の教室へと誘う。

 とうとう未知の領域へと足を踏み込んでしまった。

 教室に入ってすぐに感じる、異様な空気。

 F組のような和気藹々とした様子など一切見せず、まるで隣にいる奴らは全員敵と思っているんじゃないかと思うほどピリピリと張り詰めた空気。

 多分教室を間違えたんだ。きっとそうに違いない。そう自分に言い聞かせて、この教室から逃げ出そうとした時だった。


「いでっ!?」


 何者かに派手に蹴り飛ばされる感覚。

 後ろを振り向くと目に入ってきたのは、見えそうで見えない丈の短いスカートと、今朝見た雪奈のものと比べても遜色のない双丘。その上で、燃え盛るような真っ赤な長髪の少女が来人のことを鋭い目つきで見下ろしていた。


「そんなとこに突っ立ってんじゃねーよ。邪魔だろーが」


 とても女子とは思えない発言。

 言うだけ言った後、ズカズカと教室の中に入っていく。 


「な……なんだよアイツ!!人のこと蹴っ飛ばしやがって!」

「……真島ましま火恋かれん序列ランク三位の《炎皇イフリート》とは彼女のことよ」

「ら、序列ランク三位!?ってことはクリスよりも……」

「ええ。強いわ。彼女は、私よりも……」


 悔しそうに拳を握りしめるクリス。

 来人はそんなクリスの心境も知らず、序列ランク三位に食って掛からなくて良かったと安堵していた。


「ふふふ。待っていたぞ。新城来人」


 立ち上がった傍から声をかけられる。その声は、来人も何度か聞いたことのある声。だが、決して知り合いではない人のもの。


「か……会長!?」


 生徒会長、久道くどう神奈かんな。中等部の頃から圧倒的カリスマ性を発揮し、高等部に上がるや否や一年生にして生徒会長に抜擢され、二年生となった今でも高い支持率を維持しているすごいお人。

 栗色のポニーテールや威厳を感じさせる口調は全校集などで何度か目で見、耳で聞いたことがあるので誰だかはすぐに分かった。

 しかしいざ目の前にすると思っていたより小柄で、胸も慎ましやかなので少し拍子抜けする。でも遠くで見ていた時はとても同じ高校生とは思えないほど凛々しいその顔は、いざ目の前にするとちょっぴり童顔で可愛らしいと感じてしまう。


「先日の決闘は実に素晴らしかったよ。我々の予想の斜め上を行く、思わず笑ってしまうほど愉快な戦法は実に天晴れ!エンターテイメントという点で考えても見事だった!」

「そ、そうっすか」


 同い年の筈だがついつい遜ってしまう。

 褒められているのだろうけど素直に喜べない。はっきり言って来人自身としてはかなり見苦しい卑怯な戦法だったと自覚しているからだ。


「ふむ。ところで新城。君はどうして自分がここに来ることになったのか知っているか?」

「い、いや。知らないっす」

(おいおいおいおい!A組になることはマジだったのかよ!!)


 さりげなくA組に移籍することが確定してしまい、どんどん汗が噴き出てくる。


「実は、クリスティーナからの推薦があってな」

(お前が犯人か!!)


 グルンと首を勢いよく回し、クリスのことを目が充血するほど見開いて睨み付ける。


「来人。あなたには力がある。あなたと直接戦った私が言うんだから間違いないわ!きっとあなたならA組でもやっていける!ううん、A組でこそ貴方の真価が発揮できる!」

(ねーよ!俺にあんのは日常生活でちっと役に立つ程度の超能力だけだっつーの!)

「と、まあこんな感じに熱弁されてしまってな。彼女の思いを無下には出来なくなってしまったというわけだ」

(会長!無下にしていいです!!この子勘違いしているだけですから!)


 いくら心の中で訴えても伝わるわけもない。

 勘違いがここまで広がっているなんて思いもしなかった。


「それで昨日、何とか先生方に取り入って――――特例という形で、君のA組入りが決定したのだ」

(おいクソ教師ども!何が特例だ!いくら何でも無茶苦茶すぎるだろーが!)


 生徒と教師の双方から絶対的な信頼を得ている神奈だからこそ為せたことだった。

 遡って言えば、その神奈を突き動かしたクリスの熱意あってのことということになる。

 クリスからすれば善意でやったことだが、来人からすればたまったものではない。


「あ、あの会長さん。俺、勘違いされてるだけで、本当は全っっっっっ然大したことないんすけど。だってまぐれ勝ちしちゃっただけっすから。だから俺をA組に入れちゃうなんてマジで止めといた方がいいと思いまーす!」

「ハッハッハッハッハッ!そんな謙遜する必要はないぞ新城。お前は自分が思っているより実力を持っている」

「いや!謙遜なんて――――」

「確かに昨日までF組で今日からいきなりA組と言われて緊張するのも無理はない。かといって教室の隅で縮こまっていても舐められるだけだ。そうならないためにも、もっと胸を張って堂々としていろッ!新城来人ッ!」

「お、押忍ッ!」


 神奈の気迫に気圧されて、抗議することを忘れて背筋をピンと伸ばす。


「うむ!いい返事だ!さあ着いてこい新城!お前の席はこっちだ!」


 言われるがまま神奈の後に続いていく来人。

 どうやらこの勘違いはそう簡単に晴らせるようなものではないらしい。生徒会長まで勘違いしているとは恐れ入った。

 来人はこれから始まる地獄の学園生活を想像して、肩を落とした。



 ホームルーム後。

 来人は2年A組の担任である鎌苅かまかり響子きょうこに呼び出されていた。

 ピッチリとスーツを着こなし、眼鏡の奥から鋭く来人を睨みつけている。


(な、なんかやらかしたっけ俺?まだ来たばっかりだよな?)


 思い当たる節が何もない。今日は遅刻もしなかったし誰かの下着姿を見た覚えもない。


「貴様。どうして呼び出されたか分かるか?」

「いや、まったく」


 スパッと言ってやる。

 分からないものは分からない。ここで妙な理由づけなどしても仕方ない。


「ほう。何も分からないと?」


 眼鏡をギラリと光らせながら来人を威圧するかのように低く言い放つ。

 威圧感に圧され唾を飲む来人。響子は続けていく。


「貴様は本来ここに来る資格のない人間だ。本来ならF、E、D、C、Bと段階を踏んでようやく我がA組に入ることが出来る。だが貴様は、特例という形でその段階を踏まずいきなりF組からA組へと飛んできた」

「は、はぁ……」

「特例扱いを受けたからにはそれ相応の成果を上げてもらう。A組ここは弱肉強食の世界。弱き者には権利などなく、強き者だけが主張を許される。もし、成果を上げられないというのなら――――」


 一呼吸置き、極道のような険しい表情。

 あまりの迫力に驚いた来人は、無意識のうちに後ずさりしていた。


「私の権力をすべて以って貴様を中等部まで叩き落してやる!!そうなりたくなければ、成果を残せ!」

「は、はいいい!」

「フン!くれぐれも肝に銘じておけ!」


 響子が去った後、来人は一人でまた頭を抱え込む。

 粒ぞろいの化け物たちに三位も四位もいるこの教室で成果を残せだなんて、無理ゲーにもほどがある。これだったらまだ夏休みの宿題を最終日にまとめて全部終わらす方が簡単だ。もっと言えば筆記のテストで100点をとる方がよっぽど楽かもしれない。

 決闘に勝ったら勝ち組どころか人生ベリーハードモードの開幕。

 来人はここでようやく、勝たなければ良かったと自分の悪運を恨んだ。


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