↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第一章 勘違いで始まるエリート街道
PR
7/39

押しかけ王女

「はぁぁぁぁ……疲れたぁぁぁぁ……」


 夕暮れ時になってようやく帰路につけた来人。

 大きなため息をつき、背中を丸めて人気のない歩道を歩いていた。

 決闘こそ命がけですごく精神も体力もすり減らしたが、本当に大変だったのはその後だった。

 闘技場を出た途端に来人に群がる生徒達。その生徒達からひたすら質問攻めをされ、いちいち答えることも煩わしいので人混みをかき分け逃げ出したのだが、学園内には来人を見つけるために躍起になっている生徒達で溢れかえっており、学園から出るに出れない状況に。

 夕暮れになってようやく人が少なくなっていき、隙をついて全力で逃げ出してようやくここまでこれたのだ。


(散々な一日だったぜ……)


 覇道学園から少し離れた場所にある、ボロでもない高級でもない、特に何も言うことのない何の変哲もないアパート。

 その309号室が来人の住居だった。


「あれ?あれれれ?」


 鍵をカチャカチャと回すが、空回して金属音だけが空しく響く。


(おいおいマジかよ!今朝閉め忘れたってのか!?空き巣に入られてないといいけど……)


 恐る恐る玄関のドアを開ける。

 誰もいない筈なのに電気がついており、来人の不安を煽っていく。

 もしかしたら空き巣には入れられたのかもしれない。いや、今まさに空き巣がそこにいるのかもしれない。

 木刀を握りしめ、忍び足で奥へと進んでいく。


「~~~~♪」

(マジかよ……!本当に誰かいるじゃねーか!)


 呑気に鼻歌を歌っている何者かの声が台所から聞こえる。

 その正体を確かめるべく、物陰から台所の方を覗いてみると――――

 

「……」


 そこにあったのは、驚愕の光景。

 決闘で来人がある意味でコテンパンにした、あの《雷帝(ザ・ライトニング)》クリスティーナがエプロンを着て料理の真っ最中だった。

 青ざめた後、忍者のように音を一切立てず一瞬にして玄関まで戻ってくると、そっとドアを開けて静かに部屋の外に出ていった。


(部屋、間違えたーーーーーー!!)


 頭を抱えてうずくまる。どうして一国の王女様がこんな平凡なアパートに住んでいるのか、どうして住んでいるなら自分はそのことを知らなかったのかとか様々な思考を巡らせる。


(つーかどうして間違えた!?疲れすぎてどうにかしちまったってのか!?いや、待てよ――)


 改めて部屋の標識を見る。

 309。間違いなく自分の部屋だった。

 今度はドアを乱暴に開け、ズカズカと足音を立てながら堂々と奥に進んでいく。


「おい!!」

「あ、やっと帰ってきた。おかえりなさい」

「おかえりなさいじゃねーよ!なんでアンタがここにいるんだ!?」

「なんでって、私は今日からここに住むことになったから」

「はああああああ!?何でドヤ顔して言っちゃってんの!?ここは俺の部屋―――あ、あれ?」


 ふと部屋を見渡す。今朝までゴミが散らかっていた筈の部屋はもうどこにもなく、まるでこの部屋に初めて来た時と同じような状態、むしろそれ以上に綺麗になっている。

 それだけではない。今朝まで来人が寝息を立ててスヤスヤ眠っていたベッドの面影はなく、代わりにこの部屋の雰囲気にそぐわない物凄く高そうな二段ベッドが置いてあった。


「……お、おい。まさかとは思うけどよ、ここに住むって、別に俺を追い出すわけじゃなくって……」

「そうよ。今日からこの部屋はあなたと私の部屋だから。よろしくね」


 万人が天使のような微笑みといっても、今の来人には悪魔の微笑みにしか見えていなかった。 


◆


 テーブルの上に並べられていく料理を目で追っていく。

 普段ならよだれが垂れそうになるほど美味そうに見えるそれも、実は毒が盛っているんじゃないかと勘ぐってしまう。


「……あの、王女サマ」

「クリスティーナよ。名前があるんだからそっちで呼んで。いや、クリスティーナじゃ長いかな。クリスでいいわ。昔からの私の愛称。今は王女じゃなくて覇道学園の一生徒だから、遠慮はいらないわよ」


 来人の向こう側に座ったクリスティーナ――改め、クリスが屈託のない笑顔を向けながら言う。

 そんな純真な心を持つクリスを見て、来人は実は裏があるんじゃないかと思ってしまうほど警戒していた。


「じゃあ、クリス。一つ聞きたいんだけどさ……」

「どうして私がここに来たか、でしょ?」


 心の中を見透かされたような発言に、思わず背中が縮こまってしまう。

 そりゃ、クリスは贔屓目に見なくとも可愛いと思うし、同じ屋根の下で暮らすなんて勝ち組すぎると思う。

 けどそれはクリスがただの学生だったらの話で、クリスは王女だし《天上の者(オンリー・テン)》と呼ばれるエリート中のエリートである。どう考えても来人とは釣り合わない雲の上の存在。そんな人が突然押しかけてくるんだから裏があると思っても仕方ない。

 そもそも来人は決闘でクリスを(運がよかったとはいえ)負かしている上に、決闘中にスパッツを奪ったり、その決闘の前に下着姿をばっちり覗いている上に痴女などと言っており、恨みを買われていると思ってしまうのも無理もない。

 とにかく今の来人は、クリスが報復しにここに来たのではないかと思っていたのだ。


「来人。霧生先生から話は聞いたわ。あなたがどうしてこうなってしまったのかを」

「は?」


 どうしてこうなったのかって?何を言っているんだこの子は?困惑する来人にクリスはさらに混乱させる言葉を浴びせていく。


「辛かったわよね。誰にも見てもらえないのは。その気持ち、私にも分かるわ」

(え!?何!?何なの急に!?)

「私も同じだった。どれだけ努力をしても、お父様やお母様が見ているのはお兄様だけだった。私のことなんてちっとも見てくれやしない。私のことを認めてくれはしない。けど、私は諦めはしない。だから《朱雀(ここ)》にきた」

(なんだよこれ!?急にシリアスなムードになってるんですけど!?)


 話に耳を傾けながらも突然訪れたシリアスなムードに戸惑う。そんな来人の心境も知らずにクリスは真剣な表情で語っていく。


「《黄竜祭(こうりゅうさい)》で、私は《朱雀》代表として、《青龍》代表のお兄様を必ず倒す。そして、私のことを認めさせる。そのためならどんな困難だって乗り越えてみせる!」

(コーリューサイ?セーリュー?何言ってんだ?)


 黄龍祭や青龍といえば超能力を持っていない一般人でも知っていることだが、そのことにまったく関心を持っていなかった来人はそのことなど全く知らず、言葉の意味が理解できず話についていけなくなっていた。


「努力は裏切らない。きっといつか、認めてもらえる日がくるって、私はそう信じてるから」

(よく分からんが……それが俺の質問とどうつながるんだ?なんかものすごい勘違いしてるよねこの子!)


 何やら事情があることはよく分かったが、これでは質問の答えになっていない。そんな来人の心中を察してか、クリスは続けざまに語る。


「あ、ご、ごめんなさい。自分語りなんかしちゃって……えと、要するに!私が言いたいのは、あなたにも諦めてほしくないってことなの!」

(諦めるって、俺が何を諦めるってんだ?)


 進級のことかと思ったが、それに関しては諦めるつもりもないし、そもそも留年しないために全力で戦ったのだ。だから何かを諦めるなんてことは身に覚えがまったくない。


「確かに誰からも見てもらえないのは辛いかもしれない。けど、そこで諦めてしまってはダメ!なにも変わらないのよ!」

(なんか急に暑苦しくなってるよ!マジであのニコチンババアに何を聞いたんだよ!?)


 熱が入り、とうとう椅子から立ち上がるクリスティーナ。


「私はあなたの実力を認める。そして、あなたの力になる!貴方はもう一人じゃないわ。私がついてるから!」

(顔近っ!)


 がっちりとアランの手を握りしめ、キスでもしてしまうんじゃないかと思うほど顔を近づけ、目をキラキラと輝かせる。


「だから、これから私と一緒に頑張りましょ!」

「お、おう」


 さっきまで抱いていた疑念はどこかへ飛んでいき、クリスの女神のような笑顔にドキッとしてしまう。


(少し変わったやつだけど、思っていたより悪い奴じゃないみたいだな。なんか物凄い勘違いしているみたいだけど)


 その後、もはや毒が盛っていると疑っていたことも忘れて夕飯にありつく。

 クリスティーナの腕は確かで、行ったこともないが高級料亭の味を堪能したような気分にさせられ、勘違いされたままでもいいなと思ってしまうほどだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。