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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第一章 勘違いで始まるエリート街道
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雷帝VS無名(後編)

 来人の言葉は、観客席の男子生徒達を大いに盛り上がらせた。


「おおおおおおおおおおおおおお!!マジかよアイツ!!すげえええええ!!」

「いい仕事しやがるぜ……」

「あのクリスティーナ様のスパッツだと!?ええいうらやまけしからん!そいつをこっちに渡せ!!」


 などと来人を称賛する声も多数ある。


「でもどうやって盗ったんだよ?あの攻撃中に取れるわけないだろ?」

「あらかじめ用意していたんじゃないのか?」


 と、ハッタリであるというものもいる。

 しかし、ハッタリ疑惑はクリスティーナの言動によってあっさりと晴らされることとなる。


「こ……この卑怯者ッ!戦いの最中になんて破廉恥な……ッ!」

「ははははははは!何とでも言いやがれ!すべては単位のため!俺は勝つためには手段を選ばないんだよォーーーーッ!!」

「くぅぅ……!」


 恥じらいで顔を真っ赤にしながらスカートを押さえるその姿を見て、男子諸君は確信する。あ、これは穿いていないわ。と。


「マジだったあああああああああ!!」

「てことはあのクリスティーナ様のパンツが拝める可能性があるということだよな!?」

「生きてて良かったっ……!感謝っ……!あのF組の生徒に圧倒的感謝っ……!」


 ただの一女子生徒のパンチラにここまで期待するのは不気味だろう。だが、それがクリスティーナとなれば話は別だった。

 そもそも覇道学園の制服はスカート丈がやたら短いので闘技場で戦うとしたらかなりの確率でパンチラが見れる。

 ゆえに女子生徒はパンチラなど気にせずに戦うか、パンチラを封じるためにスパッツなどを着用するなどしている。

 クリスティーナは無論後者に当たる。入学当初からスパッツ着用ゆえにクリスティーナのパンツを見たものは現時点では来人以外誰もいないほどレアなのだ。

 しかもクリスティーナといえば絶世の美少女と言われるほどの人気で、彼女のファンクラブが存在しているほど。

 そんなクリスティーナのパンチラを期待するなという方が難しかった。


「クリスティーナ様のパンツは間違いなく純白だな!」

「何を言う!高貴な黒に決まっているだろ!」

「イチゴパンツでギャップ萌えってのも……ありだと思いまぁす!」

「しましま以外あり得ない」

「何も穿いていない可能性も!」


 男たちは一致団結し、クリスティーナのパンツ談義について熱く語り合っていた。


「サイテー」

「どうして男って下半身に忠実なんだろ」

「雷に打たれて死ね」


 一方で女子は男子に養豚場の豚を見るような冷ややかな視線を送り、侮蔑を込めたキッツイ言葉を浴びせていた。


(単位剥奪なんて冗談で言ったつもりなんだが……まさかこんなに面白い展開になるとはな。ふふ、これはもしかすると……)


 すべての元凶ともいえる霧生晴夏が、予想もしていなかったこの状況に口角を少し上げていた。


「さあどうする?さっきみたいに動き回ってたらパンツが見えちまうぜぇ?それとも盛大なファンサービスでもしちまうかぁ!?」


 ケラケラと小馬鹿にするように言う。

 予想通りだった。下着姿を見たときのあの混乱っぷりから、こうなることは予想できていた。

 スパッツを失ったくらいで顔を真っ赤にしてプルプル震えている。ちょっと可愛い……じゃなくて可哀想だがこれも勝利のためなのだと来人は自分に言い聞かせる。


「くっくっくっ。どうした?スパッツが無くちゃもう戦えねーか?」

「冗談じゃないわ!そんなものがなくたって私は――――」

「おーい野郎共!聞いたか!?《雷帝ザ・ライトニング》サマはまだ戦うってよ!!せっかくの機会だ、スパッツなしの《雷帝ザ・ライトニング》サマの戦いっぷりをとくとその目に刻んでおけよーーーー!」

「んなああっ!?」


 来人の口撃は止まらない。何とかスパッツのことを割り切ろうとするクリスティーナの覚悟を揺らがしていく。


(単純な力比べで勝てないから話術ということか。まるで小悪党だな。この調子だともうリンドホルムは《雷人剣ライジングブレイド》は使えないだろうな。だが、それを封じたところでまだまだ出来ることは山ほどある。さあどうする、新城来人――――)


 晴夏の推察通り、もうクリスティーナは《雷人剣ライジングブレイド》を使おうとは思えなくなっていた。

 しかし投了サレンダーするという考えもない。必ず勝つ。そしてスパッツを奪い返す。


「やはりあなたのような破廉恥な不良は野放しにはできない!絶対に、絶対に絶対に絶対絶対絶対!!私が成敗してやるんだからぁあぁぁぁああああ!!」


 オーバーヒートするんじゃないかと思うほど真っ赤になり、少し涙目になりながら体中から電気を漏らしていた。


「はははは!や、やれるもんならやってみろってんだ!!」


 少しビビりながらも来人はビッグマウスを貫く。

 さあ、第二ステージの始まりだ。


「食らいなさい!!」


 大方の予想通り、《雷人剣ライジングブレイド》による近接戦から単純な電撃による遠距離戦にシフトしてきた。

 単純な電撃とは言ってもクリスティーナの電撃はただの《電撃使いボルテックマスター》とは比較にならないほどの威力。一発KOもありうる。最後まで気は抜けない。

 

「当たるかよ!!」


 一発、二発、三発と絶え間なく電撃を浴びせていく。

 だが地面を焦がすだけで来人にはかすりもしない。勝ちを急ぐあまりに攻撃が単調になっているのだが、クリスティーナはそれを自覚していない。

 

「このっ!!」


 電撃がより一層激しくなる。とはいえ単調なことには変わらず、あっさり回避されてしまう。

 しかしいくら避け続けることが出来たとしても来人の身体能力では近づくことが出来ない。このままではスタミナが尽きて真っ黒焦げにされるのが目に見えている。

 クリスティーナは今、冷静さを失っている。それを利用することにした。


「ッは……どうした《雷帝ザ・ライトニング》さんよォ!そんなへなちょこな攻撃じゃ俺には当たらねーぜ!!」

「く……!」


 息切れしそうになるのを何とかこらえて、無理やり余裕の表情を作って挑発する。

 

「そこまで言うなら――――いいわ。一撃で終わらせてあげる!」

(かかった!)


 来人はニヤリと笑みを浮かべる。

 このまま電撃を撃ち続けていれば勝っていたことにクリスティーナは気付いていない。やはり、完全に冷静さを失っていた。

 これからどうするか、それを考えようとしたその時だった。

 千鳥のさえずる音。決闘の開幕に聞いたあの音と同じだ。


(またアレ・・か――!!)


 挨拶代わりといって最初に放った大技――《落雷サンダーボルト》。

 素人目に見ても、最初に使った時はあれでも手加減をしていたと分かる。間違いなく次は本気だ。目がそう言っている。もう逃げ場などなかった。


「……上等だ」


 唾を飲み込み、冷や汗をかきながら震えた声で全力の強がりを言ってみせる。

 もう後戻りは出来ない。死ぬかもしれない。けど、ビビッて立ち止まっていたらそこでお終いだ。

 勝てる可能性はある。ラッキーパンチを必ず起こしてみせる。


(さあ一世一代のギャンブルの時間だ。俺は俺の勝利に賭けるぜ……!)


 《落雷サンダーボルト》を撃つためには”溜めチャージ”の時間がいることは最初の一撃で理解している。

 その隙に少し距離を詰めることは出来るが、速さを上げる能力などない平均的な男子高校生程度の身体能力しか持たない来人ではこの距離では途中で黒焦げになることは確実だった。

 だが、ある現象が起これば一概にそうとは言えなかった。その現象に賭けた来人は、再び真正面から向かっていく。


(また正面から――でももう遅い!)


 雷切零式を天に掲げる。青白い電光が刀身で暴れ出し、光の刃を模っていく。

 

(風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け風吹け!!)


 他の事は一切考えていない。ただ”風吹け”と願いながら直進する。

 しかし一向に風は吹かない。そうしているうちに《落雷サンダーボルト》の準備も整っていく。


「これで終わりよ!《落雷サンダーボルト》!」


 技名を言い放ち、その剣が振り下ろされようとしていた。

 

「風吹けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 技名を打ち消すような来人の叫び声。

 それまで穏やかな風が漂っていた闘技場に、まるで来人の叫びに答えるように風神が会場を通り過ぎていった。


「ひゃああ!?」


 風神の起こしたいたずらな風がクリスティーナのスカートをめくれ上がらせる。片手では抑えられないほどの風は、剣を持っていた右手を使わざるを得ない状況にクリスティーナを追い込んでいた。


「おおおおおおお!!」


 まさかの突風に男子生徒たちが歓声を上げる。しかしクリスティーナのスカートの中を望むその歓声は、すぐに別の意味に変わることとなった。


「ドラァァァァアアアアアアアアアアアア!!」

(しまっ――――)


 クリスティーナが気付いた時にはもう遅かった。

 両手でスカートを押さえ、《落雷サンダーボルト》も不発になり、無防備を曝け出すクリスティーナの脳天に容赦なく木刀が振り下ろされる。


(そん、な)


 無防備なうえに、来人の全身全霊を込めた一撃。それはクリスティーナの意識を奪うには十分すぎるものだった。

 

(私が……負……け……)


 膝から崩れ落ち、地面に伏す。

 静寂に包まれる闘技場の中心で最後まで立っていたのは、最底辺であるF組の生徒だった。


「ふっ。決まったな」


 晴夏の顔から自然と笑みがこぼれる。

 審判の判決が下され、決闘が終わりを告げようとしていた。


「そこまで!勝者――――新城来人!!」


 今までで一番大きな歓声が沸き上がる。

 それは勝者への賛辞であると同時に、歴史的瞬間に立ち会えたことによる喜びでもあった。



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