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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第一章 勘違いで始まるエリート街道
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雷帝VS無名(前編)

 (先手必勝!!)


 最初に動いたのは来人。開始の合図よりギリギリ早くフライング気味に動いていた。

 真正面からクリスティーナに向かっていく。一方のクリスティーナは不動を崩さない。

 しかし、クリスティーナもただ黙って攻撃を通すほど甘くはなかった。

 

(なんだ?この音?)


 千鳥のさえずりのような音を感じ取る。徐々に大きくなるその音と共に、クリスティーナの体から溢れ出る青白い光を視認する。

 その光が何なのか。クリスティーナの二つ名が《雷帝ザ・ライトニング》であることを考えれば、その正体は考えるまでもなく電光だと理解する。

 時間を増すにつれ激しくなる音と光は、来人の恐怖をじわじわと駆り立てていく。

 クリスティーナ専用ESPブレード《雷切零式らいきりぜろしき》がその刀身を露わにする。雷を切ったという伝説を持つ名刀をモデルにしたその刀を頭上に掲げると、瞬く間にして刀身に電光が迸っていく。

 刀身で激しく暴れる電光が光の刃を模っていく。背筋が凍りつく音を聞いた来人は、その足を無意識のうちに止めていた。


「――――《落雷サンダーボルト》!」


 雷切零式を振り下ろすと同時、いかづちが天から降り注ぐ。鼓膜が破れるのではないかと思うほどの轟音が闘技場を揺らし、一瞬にして観客席にいた生徒達を沈黙させた。


「……」


 来人は目を見開いたままその場に立ち尽くす。目の前は真っ黒に焦げた大地が広がっていた。

 あと少しでも前に行っていたら……などという考えもなく、生きていてよかったと安堵することもない。

 ただただ、誇示される実力に閉口するしかなかった。


「す、すげぇ……」

「次元が違いすぎる……」


 あちこちからクリスティーナの実力に感嘆する声が上がっている。

 雷、風、炎、氷、水などの自然界に存在する物質や現象を操る《属性系エレメント》の能力の一種、《電撃使いボルテックマスター》の中でも別格の存在。それが《雷帝ザ・ライトニング》クリスティーナ=デ・ロッシ・リンドホルム。

 

「今のはほんの挨拶代わりよ。ここからが本番――覚悟なさい!」


 雷切零式を向けながら言い放つ。

 もうどうにでもなれ!すくむ足を引っ叩いてやる代わりに心の中で自分を奮い立たせる。

 覚悟を決目と同時に、クリスティーナの体に電光が纏われていく。


「来るぞ!《雷帝ザ・ライトニング》の十八番が!」


 期待の眼差しを向ける生徒達。一体何が来るのかと考えていた――刹那。

 さっきまで焦げた大地の向こうにいた筈のクリスティーナが眼前に姿を現す。


「い!?」


 考えるよりも早く体が勝手にしゃがんでいた。

 その直後、アランの頭上で雷切零式が水平方向に薙ぎ払われる。


(な、なんだ!?一体何が起こった!?)


 どんなカラクリがあるのか考察する暇も与えず、立て続けに攻撃が加えられる。


「どわっ!?うおおっ!?ひぃっ!?」

(速すぎだろ!?本当に人間かよ!?)


 電光石火の剣捌きに来人は翻弄される。

 クリスティーナと戦った人間が口をそろえて「あれは人間ではなく”いかづち”だ」と言ったことから、《雷人剣ライジングブレイド》と名付けられた。 

 生体電気を活性化することで身体能力を大幅に強化しているとか、自分の体を電気に変化させているとか、様々な説が出ているが詳細は不明。クリスティーナもどういう理屈で出来ているのかは分かっていないらしく、「とにかく速く」を重視したことで完成されたと本人が言っている。

 だが一つだけ確かなのは、この《雷人剣ライジングブレイド》は《身体強化ビルドアップ》に代表される《強化系ステータスアップ》の上位互換であるということだ。


(もう無理……!)


 持ち前の勘と豪運で奇跡的な神回避を見せていた来人だったが、クリスティーナの剣技はそのすべてを凌駕する。

 防戦一方という言葉すら使えないほどのほどの一方通行な攻勢。もはや逃げるサンドバック状態だった来人はすでに限界だった。


(もらった!)


 電光石火のスピードで繰り出される剣技中でも冷静に判断を下す。100パーセント回避不可能の攻撃。


「ぐっ!」

(重っ……!)


 《雷人剣ライジングブレイド》によってスピードの強化された剣は、威力も比例して跳ね上がっている。

 木刀で受けたもののその威力は想像を絶するもので、それを来人の手から離させることは容易だった。

 後方に吹き飛ばされていく木刀を見てクリスティーナは勝利を確信する。体力もESPブレードもなくなった今、この攻撃を防ぐ手立てはない。


(これで終わりよ!)


 決して手を抜くことは無く最後まで全力を尽くす。

 己の信念を込めた全力の一撃。誰もが決まったと思っただろう。しかし、その一撃は再び木刀によって・・・・・がれた・・・


(な!?)

「ぐっ――――うわっ!!」


 真正面から全力の一撃を受け止めた来人はその威力に押し負け、後方に派手に吹き飛ばされる。


(どうなっているの!?私は確かに、ESPブレードを弾き飛ばした筈なのに!?)


 飛ばされた後地面に体を打ったが、打ちどころが悪くなかったのが幸いしてすぐ立ち上がることが出来た。


(あ、危ねぇぇぇえええええ!まさか俺の超能力がこんなところで役に立つなんて……!)


 実は最後の一撃を受ける直前――来人は自身の能力を使っていた。

 念力サイコキネシス瞬間移動テレポートなどに代表される、通常の物理法則ではあり得ない超常現象を体現する《超常系サイキック》に属する能力。

 一見すると瞬間移動テレポートに類似した能力で、24時間以内に手で触れたものを場所や距離を問わず一瞬で自分の手元に持ってこれる能力。あえて言うなら《道具使いアイテムマスター》と呼べるその能力は、日常生活ではほんの少し役に立つなーと思う程度の能力だった。

 それが今、無防備な状態から手元に木刀を持ってきて自分の危機を救うなど思いもしなかった。


(でもやっぱり無理!勝てっこねーよあんなの!!)


 運よく今は無事だが、下手をすれば命を落とすんじゃないかと思わされる。単位を捨てて全力で謝った方がいいんじゃないかとさえ思えてきた。 

 戦意なんてとっくに喪失していた。出来るだけ痛い思いをしたくない。


「あ、あの――」


 謝ろうとしたその時。

 ふわりと、風がクリスティーナのスカートを浮かせた。


(お、パンチラ)


 謝ろうとしていたことを少し忘れ、スカートの中のロマンを追い求める。

 パンチラどころかパンモロまでしっかりと見てしまっているのだが、それでもパンチラが気になってしまうのは男のサガか。

 

(……って、スパッツかよ)


 来人の期待に反して顔を出したのは黒いスパッツ。中にはスパッツに興奮する男も存在するらしいが、来人はそれに該当しないため落胆していた。


(どうりであんな短いスカートなのに派手に動き回っていたってわけか……って、待てよ……?)


 スパッツがあればパンチラを気にせず戦うことが出来るかもしれない。

 だが、スパッツがなくなったらどうなるか?いくら《雷帝ザ・ライトニング》なんて物騒な二つ名を持っていても女の子であることには変わりはない。

 来人は思い出す。あの朝のいざこざでちゃっかりクリスティーナのスパッツに触れていたことを。


「くくくくく……はーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」


 まるで悪役のような高笑いに観客席にいた生徒たちから「とうとうおかしくなっちまったか」とか「もはや笑うことしかできなくなった」とか言われている。

 そんなことも気にも留めずさらに頭のおかしいセリフを来人は言う。


「この勝負!俺の勝ちだ!!」


 突然の勝利宣言。生徒たちは呆れを通り越して頭を打っておかしくなったに違いない。今すぐ病院に連れて行った方がいいと心配する声さえ上がっていた。

 

「そんなことを言って私を動揺させようとしても――――っ!?!?」


 クリスティーナはスカートの中の違和感に気付き言葉を飲み込む。

 さっきまで感じなかった、肌が空気触れている感触。明らかにあった筈のものが無くなっているような感覚に、頬を赤く染め無意識にスカートを押さえていた。


「王女サマ、これなーんだ?」

「!」


 混乱するクリスティーナに投げられる来人の言葉。

 顔を上げるとそこには、黒い布のようなものを指でくるくると回している来人の姿があった。


「なんだあれ?」

「あんなもの持ってたか?」


 生徒たちの関心が一斉にその黒い布に集まる。

 まさに来人の思惑通りだった。


「な……な…………なんで…………!?」


 わなわなと震えながら見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げていくクリスティーナ。

 そんなクリスティーナの姿を見て、来人は勝ち誇ったようにほくそ笑む。


「凡人共ぉおおおおおお!よく聞けぇえええええええ!!この黒い布これを何だと思っていやがる!?これはあの序列ランク四位の《雷帝ザ・ライトニング》サマがさっきまで穿いていた、ホッカホカのスパッツだぞおおおおおおおおおおおおおお!!」


 会場に轟く来人の声。

 自分でも気持ち悪いことを言っているのは百も承知。すべては勝利のためだった。


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