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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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宣言

「真島さん」

「あん?」


 突拍子もなく名前を呼ばれた火恋が怪訝そうに顔をしかめる。

 以前だったら視線を逸らしていただろう。けれど、今なら面と向かって言うことが出来る。勇気が体から溢れてくるのを感じる。


「今は貴方の厚意に甘えさせてもらいます。でも、これが終わったらまた貴方とは敵同士。これからはもう序列ランクなんて関係ない。私は貴方の言いなりになんてならない」

「へぇ。で?言いたいのはそれだけじゃないだろ?」


 腕を組みながら話を聞く火恋。

 クリスが言いたいことが何なのか、だいたい察しがついていた。それはきっと、自分と同じようなこと。だからあえてその意を汲み、話すよう促す。


「もちろん。私は決めた。今よりもっと強くなって、いつか貴女に勝つ!三位の座を奪ってみせる!」


 宣戦布告。

 文字で表せば物騒だが、その顔はどこか清々しく、自信に満ち溢れていた。

 その様子を見ていた来人は、思わず笑みをこぼしていた。


「上等だ。奪えるもんなら奪ってみな!それと、アタシだっていつまでも三位でいるつもりは無いけどね!」

「えっ?」


 拍子抜けた顔をさらすクリス。さっきまでの自信に満ちた顔はいずこへ。


「アタシも、いい加減下見て威張ってんのが馬鹿馬鹿しくなってきてよ」

「まさか……」

「そのまさかだ。アタシは決めた。更なる高みを目指すってな」


 高みを目指す。それはつまり――――一位と二位を倒すということ。


「さっすが姉貴!それでこそウチらの憧れ!」

「ウチらにできないことを平然とやってのける!そこにシビれる!あこがれるゥ!」

「アンタたちは黙ってな!……とはいっても、一位と二位をぶっ倒すなんてそんな簡単なことじゃねぇってことは身をもって知っているけどよ。けど、どっかのバカのせいで変に自信がついまったんだ。格下だって、格上に勝つことがあるってな」


 視線を件の馬鹿――――もとい、来人に向けながら言う。 


「馬鹿は余計だ!事実だけど!」

「旦那!カレー持ってきました!」

「でかした!」


 言われた馬鹿こと来人は一応反論する。いや、していないか。

 早速やってきたカレーを頬張り、幸せそうなアホ面を晒していた。

 クリスを変える目的で戦った結果、まさか火恋まで変えてしまうなんて思ってもいなかった。

 何はともあれ色々とうまくいったようで何よりだ。カレーもうまいし。


「ん、でもさ、一位と二位ってそんな難しいもんなのか?お前三位だろ?」


 自分は序列ランクを持たないF組から上がったばかりの状態で《天上の者オンリーテン》の第三位と戦った。

 はっきり言って単純な実力差は月と鼈より遠い。それを身をもって体験した。

 それに比べたら、三位と一位、二位の実力差はそこまで離れていないんじゃないかというのが来人との考えだ。


「難しいなんてレベルじゃないよ。はっきり言って、アンタがアタシを倒すことより難しい」

「お前が一位と二位を倒すのがか?」

「ああ。あいつ等は別格だ。アタシらと同じ土俵に立ってんのが場違いなくらいにな」

「マジかよ……どんな化け物なんだ……」


 来人は顔を引きつらせる。

 四位のクリスも、三位の火恋も、自分からしてみればとんでもない怪物だった。

 そんな怪物の一人に別格と言われる一位と二位がまったく想像がつかない。もはやそいつは、人間じゃなく、比喩ではない本当の意味で怪物なんじゃないだろうか。

 ふと、胸をドンドン叩くゴリラの姿が目に浮かんだ。自分の中では怪物はゴリラという認識でもあるのだろうか……


「二位はアンタも知ってるやつさ」

「え?俺も知ってる……?」


 ということは2年A組に絞られるはず。教室で自分の左隣に座ってた、ミステリアスな雰囲気を醸し出しているあの無口マフラー娘か?それとも窓際の席ですさまじい存在感を放っている、まさに自分の想像した怪物像に合致した大男か?

 色々考えてみたが、自分からしてみたら2年A組の生徒は誰でも強く見えてしまう。

 だが一つ思ったことがある。知っているといっても顔だけで、話なんてしたことがないから、その人がどんな人かを全く知らないことに。

 知っているの基準が、ある程度話したことがある人と仮定すると、かなり絞られる。

 クリスは四位で火恋は三位。となると、残ったのは――――


「……会長?」

「ご名答。序列ランク二位《勝利を導き出す者ザ・ヴィクトリー》。それが生徒会長サマの二つ名だ」

「あの人、そんなにすごい人だったのか……」


 圧倒的支持率を誇るカリスマ生徒会長に加えて、三位が別格というほどの実力を持った序列ランク二位。完璧超人すぎる。

 そんな完璧超人と同じクラスになってしまったなんてとても信じられない。夢でも見ているのか?いや、あんな痛い思いをしたから夢ではないだろうけど。


「そ、それで……どんな超能力を持ってんだ?」


 ごくりと生唾を吞む。

 この身で味わった、四位と三位の圧倒的な力。それを凌駕する力となると、もはや隕石でも降らせる能力なんじゃないかと期待してしまう。


強化系ステータスアップ思考強化シンキングアップ》。それが会長の能力だ」

「……え?」


 拍子抜けする。想像からある意味かけ離れすぎている。よりにもよって、強化系ステータスアップとは思わなかった。

 強化系ステータスアップ――――それはその名の通り人間の持つ潜在能力を高める能力。そう、それだけ・・・・しか出来ない能力なのだ。

 属性系エレメントのように炎や雷は出せない。超常系サイキックのように見えざる力を使うことが出来ない。いくら強化しても最後は自分の体とESPブレードを頼らなければならない。特殊な力などなく物理でいくしかない。言ってしまえばハズレ能力なのだ。

 現に、覇道学園は強化系の超能力者は一部の例外を除いて基本的に入学させない傾向にある。覇道学園の生徒の9割は属性系か超常系であり、強化系の学生は主に無頼ぶらい学園に入学させられる。

 

「来人。強化系だからといって侮るのは大間違いよ」

「んなこと言われても……いまいちパッと来ないというか……」


 クリスにくぎを刺されるが、それでもそれがどう強いというのか想像しがたい。


「だろうな。ただの《思考強化シンキングアップ》だったら大したことはないからな。けど、会長は違う。《思考強化シンキングアップ》の限界をとっくに超えちまってる」

「超えてる?」

「《勝利を導き出すものザ・ヴィクトリー》。それは二つ名であると同時に、会長の真の能力名のことを指すわ。この能力は思考強化とは違う。強化するんじゃなくて、そもそも”答えを出す”能力なの」

「???」


 頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、ポカンと口を開けたままにする来人。何が何だかサッパリだった。


「例えるならこうだ。平均60点のテストで、思考強化の能力者なら90点をとる。でも会長なら100点をとる。ノー勉だろうが100点をな。極端な話、一度もやったことのない内容のテストでも問答無用に100点を叩き出せちまう。そういう能力だ」

「なんだそりゃ!?まるで最初から答えが分かってるみたいじゃねーか」

「みたい、じゃなくてその通りなのよ。”考える”ことをせず、いきなり”答え”を導き出す。そういう能力なの」

「す、すげぇ……けど、それテストでしか役に立たないんじゃねーか?」

「……アンタ馬鹿だろ」


 呆れたような顔で火恋は毒づく。


「戦闘でも同じさ。どうすれば攻撃を躱せるのか。どうすれば攻撃を当てられるのか。そういった”疑問”に対する”答え”を瞬時に導き出す」

「”勝利”するためにはどうすればいいか。その”答え”を”導き出す”ことからついたのが彼女の二つ名よ」

「なるほど……ってことはさ、極端な話、こっちからの攻撃は全部当たらないし、あっちの攻撃は全部当たっちまうってことか?」

「まあね。もっと極端に言っちまえば、どう頑張っても必ず会長が勝つって話になるけどよ」

「いくら何でも強すぎだろ……」


 そんなのどうやって勝てばいいというんだ。絶対に無理じゃないか。火恋が別格と言った理由がよく分かる。


「でも、弱点ならあるよ」

「え?嘘だろ?」

「なに、簡単な話だ。例えば、1÷0の答えはなんだ?」

「0だろ?」

「おい……」

「来人……」

「な、何だよその目!?俺が間違ってるってのか!?」


 まるでかわいそうな子を見るような目。火恋やクリスだけでなく舎弟たちも同じような目をしていた。


「質問が悪かった。じゃあこうしよう。ここに15個の桃があったとする。その桃を0人で均等に分けようとしたら、一人当たり何個になるでしょーか?」

「はぁ?何言ってんだよ?0人じゃそもそも分けらんねーじゃんか」

「そう、それだ」

「?」

「答えの無い答えは導き出せない。要するに、”勝つ”って答えをなくしちまえばいい」

「な、なるほど」

(やっべ。全然分かんねぇ)


 顔はなんとなく分かっている風を装いながら、内心全く理解していなかった。

 もうこれ以上、難しい話についていくのは無理だった。


「とは言っても……そんなことが出来たら苦労はしねぇけどな。そんなことできんのは、せいぜい一位くらいだろうよ」

「よ、要するにアレだな?一位は滅茶苦茶強いってことだろ?」

「強いなんてもんじゃねーよ。最強だ。特に”あのメイド”が出てきたらまず勝てないね」

「そうね。”あのメイド”が出ちゃったら流石に厳しいわ」

(どんなメイドだよ……)


 メイド服を着たゴリラが胸をドンドン叩くというおぞましい姿を想像してしまった。

 というか、そもそもなぜメイドなんだ。


「って、さっきから聞いてたらアンタ何も知らないでいたのかよ?今まで何やってたんだ」

「んなこと言われてもよー。俺、こないだまでF組だったから序列ランクとかまったく興味なかったんだよ」

「なるほどねぇ。でも今はもう序列所持者ランカーなんだからシャキッとしな。特にアンタはまだ序列所持者ランカーになりたての最下位ラストランカーなんだ。このアタシに勝っておいて、いきなり序列ランク剥奪なんて、アタシが絶っっっ対に許さねぇからな!」

「あーはいはい分かったって。ほどほどに頑張――――は?剥奪?」


 序列所持者ランカーになって、テストを受けなくて済むと浮かれていたところに、試練が舞い降りる。

 どうやら神は、来人を休ませるつもりは無いらしい。

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