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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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ケジメのつけかた

 6月15日(月)。天気は晴れ。

 6月でも天空都市《朱雀》に雨はない。

 《朱雀》の誇る世界最高クラスの精度を誇るスーパーコンピューターが天気を予報し、雨雲のない方へとこの《朱雀》そのものが動いているからだ。


「あ、あのー……」


 ホームルーム後。

 勘違いからA組へと昇格になったシンデレラボーイこと新城来人はまたしても2年A組担任の鎌苅響子に呼び出されていた。

 眼鏡の奥からこちらを睨む鋭い眼力に気圧され、内心ビクビクしている。


「フン。不本意だが……受け取れ」

「え?」


 響子から手渡されたのは、ブロンズのカード。

 自分の顔写真の隣に、デカデカと”NO.105”と記されている。


「どこの誰が推したのか知らんが……貴様に序列ランクを与えることとなった」

「え?序列ランク?ちょ、ちょーっと待ってくだせーよ。何が何だかサッパリ――」

「いいか!勘違いするなよ!お前は運がいいだけだ!!」

「ひっ!?」


 突如として鬼の形相に変貌する響子に腰を抜かす。

 響子はそのまま威圧していく。


「お前など私は認めん!運だけでここまでこれた奴など断じて認めん!来週の序列ランク入れ替え戦で身の程を知るがいい!!」


 好き放題入った後、そそくさと立ち去っていく。


「な、なんだよあの先生!俺になんの恨みがあるってんだよ!」


 響子の背中を見送りながら、口を尖らせ聞こえないほどの小声で言う。

 どうやら波乱の日々はまだまだこれからのようだ。肩を落とし、大きくため息をついた後重い足取りで教室に戻っていった。





 昼休み。

 F組に居たころはチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出して、一目散に購買に走るほど元気だっただろう。

 だが今はどうだ。机の上で頭を抱えているではないか。


「なんでだよ……どうしてあんな風に変形できるんだよ……」


 机の上にあったのは数学Ⅱの教科書。

 クリスに小突かれるせいで真面目に授業を受けざるを得ない来人だったが、その内容は想像を絶するものであった。


「やべぇよ……これじゃあ結局赤点待ったなしじゃねーか……もうすぐキマツてすとダヨ……?」

「ああ、そういえば来人はテスト受けなきゃいけないんだっけ」


 赤点という単語を聞いたクリスが声をかける。

 来人はまるで他人事のように言うクリスに不機嫌そうに皺を寄せる。


「んだよ。そのまるでテストが無いみたいな言いかた。そんなに余裕かよ!」

「無いわよ」

「え?」


 サラッと”無い”と言い放つクリスに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。


「無いって、テストがか?」

「そうよ。序列所持者ランカーはテストが免除されてるの。その代わりに序列ランク入れ替え戦があるんだけどね」

「マジかよ~!いいな~!俺も序列所持者ランカーに……あーーー!!」


 突然立ち上がり、大声を出す来人。

 さらにポケットの中をガサゴソと漁り始めた。


「どうしたのよ?突然大声出して?」

「これ!見てくれよ!」


 クリスの顔の前に、今朝響子から渡されたブロンズのカードを掲示する。

 一目で分かった。それは間違いなく、序列所持者ランカーだけが持つことを許された特別なモノ。

 

「ど、どうしてそれを!?」

「今朝渡されたんだよ!鎌苅先生に!」

「あの時に……ってことは、来人は今日から晴れて序列所持者ランカーに!?」

「つまりつまりィ?俺もテスト受ける必要ないってことだよな!!ヒャッホイ!!」


 勢いよく飛び出し、喜びを体全体で表す。


「これで~♪俺も今日から~♪序列所持者ランカーの仲間入りぃ~♪」


 むにゅっ。

 ビシッ!と、決めポーズをしたところで右手に柔らかい感触を感じる。

 それが何なのかだいたいの想像がつく。これはハーレムモノの主人公がよくやるあれだ。滝のように冷や汗を流して、首をギギギ…と鳴らしながら恐る恐る右手の方に視線を向ける。


「な……っ!!」

(あ。やばい。相手がやばい)


 顔を真っ赤にする火恋。そしてその豊満な胸をガッチリ掴んでいる右手。

 取り合えず真っ先に思ったこと。やっぱり柔らかかった。


「調子に……乗んなァーーーーッ!!」

「うあああ!?……あれ?」


 殴られる!そう思って咄嗟に顔を守ったが一向に痛みが来ない。

 恐る恐る目を開くと、寸でのところで止められた拳が映った。


「来人!大丈夫!?」

「あ、ああ。大丈夫だけど……」


 駆けつけてきたクリスに無事を知らせる。

 はっきり言って殴られる覚悟だったし、こういう時は殴られるのがセオリーと思っていただけに意外だった。


「チッ!」

「な、なに?」


 ドスドスと足音を鳴らしながら来人に迫っていき、右手をガッチリ掴む。


「……ついて来い!」

「え?えええー!?」

「ちょ、ちょっと!待ちなさい!」


 火恋の怪力に引っ張られるがままの来人と、それを追いかけるクリス。

 もしかしてこれからリンチにでもされるんじゃないかと思うだけで足が震えてくる。

 不幸中の幸いはクリスがついてきていることか――――と、考えたところでぴたりと止まる。

 もうリンチする場所についたのか!?と思って見渡すと、そこはあの時火恋達といざこざを起こした学食だった。


「ほら!さっさと座りな!」

「お、おう」


 困惑しながらも席に着く。まさか、毒殺でもするつもりか?


「四位!アンタもだ」

「え?」

「さっさと座れ!二度も言わすな!!」

「は、はあ」


 納得しない様子でクリスが向かいの席に座る。

 二人そろって毒殺するつもりか!?……と思ったが、よくよく考えたら火恋あいつはそんなことをするキャラじゃなかった。

 じゃあなんでここに連れてこられた?ますます謎が深まるばかりだ。と、思ったところにひょこっと現れる三つの顔があった。

 その顔を知っている。火恋に食って掛かった時にいた、火恋の舎弟たちの顔だった。


「旦那!昼飯なににしやすか!?ウチが持ってきますぜ!」

「姉御!ウチも同じくッス!」

「「……え?」」


 来人とクリスは二人して耳を疑う。

 今、舎弟たちは来人のことを旦那と、クリスのことを姉御と言った。

 こいつら、本当にあの時の舎弟だよな?と、目をぱちくりしてみるがやっぱりあの時の舎弟だ。


「ほら。さっさと頼みな。今日はアタシの奢りだ」


 腕を組み、さぞ当たり前のように言う火恋。

 とてもこの前まであんな険悪だったとは思えない接し方に、やっぱり毒殺を狙っているんじゃないかと勘ぐってしまう。


「……どういう風の吹き回しだ?」


 あまりの不可思議な状況で閉口するなか、最初に口を開いたのは来人だった。

 

「別に。これはアタシなりのケジメのつけ方だ」

「ケジメ?」

「アタシはアンタに負けた。負けたからには、アンタに何かしてやんなきゃアタシの気が済まない」

「で、それがなんでこれにつながんだ?」

「……こないだ、四位の昼飯をぶちまけちまったろ。だからその……詫びだよ!」


 頬を赤らめ、そっぽを向きながら言う火恋。

 あの時の不良っぷりはどこへ行ったのかと思ってしまう仕草に、思わず笑みがこぼれる。


「な、何笑ってやがんだ!」

「いやべっつに~?不器用な奴と思っただけ~」

「てめっ……!勘違いすんなよ!テメーとも四位とも馴れ合うつもりは無ぇからな!今日だけだ!明日からはまた敵同士だ!」

「へいへい。ツンデレご苦労様でーす。あ、俺カレーで!」

「ツン……!?テメェ!あまり余計なこと言ってっと、丸焦げにしてカレーの中にぶち込むぞ!!」

「や~それは勘弁願いたいね。死ぬならカレーの中じゃ無くてお前の腕の中で――――わー!わー!嘘嘘ごめん!冗談だから冗談!だからその物騒なモノしまってくださいお願いします!!」


 すごい。

 沈黙を守っているクリスが来人に抱いた感想だった。

 この前まで完全な敵同士だった。なのに今、まるで友人みたいに仲良く――――いや、もしかしたらもう来人の中では火恋が友人になっているのかもしれない。到底自分には出来ないことだった。

 でも、このまま来人にこの場を任せっきりにしてしまっていいのか?いいや、良くない。変わると決めたんだ。来人の前で誓ったんだ。

 クリスは覚悟を決める。今、自分の秘めたる思いを火恋にぶつける覚悟を。


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