第1曲 〜意味の意味〜
〜意味の意味〜
生きていた時は信じていなかったことが今という現実かどうか分からない世界で確実に起きていた。死んだ身体と生きた魂とでも言う概念なんだろうか?兎に角、自分は浮いてる・・・
他の人はどう思うかは知らないが、現世に興味のない僕はこの生きた魂の状態で見る場所など存在しえない場所を探すようなものだった・・・
「・・・」
初めて自分の生きてきた街を上から見た…小さい時によく遊んだ公園に路地裏、ビルが建つ前は優しいおばあちゃんのいた駄菓子屋… …思い出すのは全て小さい時の記憶、唯一生きている実感も、幸せという意味も価値も感じて楽しかった日々だと思う・・・
生きることに苦痛を感じ始めて、生きることに意味を求めだしたのはいつのことだろうか?
「きっと、こうやって思い出せなくなる頃なんだろうなぁ・・・早いぞ、きっと」
考えてみることもせず、きっと早いと考えるだけで乾いた笑いが出た。
「・・・」
どうすればいいか分からない、何をすればいいか…何を考えればいいか…人間という生き物はどうも、経験のないことに関しては非常に弱いらしい。。。
「死ぬのは初めてだしな・・・死んでからなんて考えたこともないし…」
やることがなく、途方もなく広い青空の下をただ飛び回っていったいどの位の時間が経ったのだろうか…生きている時は疲れるから時間の検討は大体だがつくのだが、この生きた魂の状態では疲れを知らない・・・正直何もすることのない世界に放り出されたら、疲れないことは苦痛で仕方なかった。。。
死んで初めて知った、何もない時間の苦痛。。。辛い、知り合いがいないこと…自分という確かに小さいかも知れないが、確実にいるはずの存在を知る人がいないという現実・・・生きているときも苦痛だったが他人の存在での苦痛は知らなかった、頭の中でどこかで聞いたことのある言葉がグルグルと回り続けた。
「人は支えあって、生きているんだ。けして、一人では生きてはいけない」
死んで初めて知った・・・生きられないという意味・・・一人という本当の数。
知るのが遅すぎたかも知れない…一人のなかでは、初めて知った『人』というものは、形を成さないモノでしかなかった…辛さがどんどん増してくる・・・
弱い
脆い
意味がない
・・・辛い
心に響く言葉のなかで、もがき続けているうちに変わらない現実を変えたくなった。
「変われるならあそこかも知れない・・・」
正直見たくない場所へ足を運んでいる…足・・・ないけどさ。
死にたかったが、死んだという現実を事実として受け入れたくはない。正確には受け入れられる自信と勇気がなかった…せっかく死んだのに、生きていた時の自分の姿を見たら、生き返りたくなるかも知れない、などという釘を自分に打ちつけていた・・・こんな事を考えるくらいだから少しは生きていたかったんだろう・・・
死んでから、まだそれほど経っていないのだろうか?流石にこの場に僕の遺体が横たわっていることはなかったが、生々しい赤い水たまりが残っていた。端から徐々に固まってきたようで、真ん中の方はまだ固まりきっていなかった。警察の人達が、調べきるまではこのままなのだろう・・・血液ぐらいすぐに流すものだと思っていたから…驚いた事以上に気分が悪い…生きていたら吐いていると考えてまた、気分が悪くなる。
気分が悪くても、死んでいるんだという気持ちからの安堵感からか、死んだことによるこれ以上悪くなれないだけかは分からないが、すぐに楽になっていった。
「・・・」
しばらく考えてみたが、犯人の顔が浮かばない・・・死んでいく際に確実に見た・・・が、顔が出てこない。死というものが、記憶の形を変えたのだろうか?元々、記憶などと言うものはあやふやで簡単に書き換えられてしまうものに違わないはず・・・死ほどショッキングな事ともなれば変わらない方がおかしいのだろうか? …しかし、死ぬのは初めて・・・分からない。。。
本当に顔を見たのだろうか?
記憶出来るほどの時間見れたのだろうか?
本当に、犯人がいるのだろうか?
記憶が作り出した具現的なものではないだろうか?
本当に死んだのだろうか?
夢?
記憶の差異?
全てが嘘の塊で、希望や生きたい執着心が見せた幻・・・
記憶を信じられないのではなく、記憶に対するものが、グルグルしすぎていた。死という初めての経験からではなく、記憶に対して生きているときも曖昧に考えていたからかも知れない・・・
「・・・変わらないか。」
変わらなかった、この世にたった一人なのかと思うとかなり辛い…死の現場は変わる気がしていたが、何も変わらなかった…期待が大きいと、辛い…幾度となく生きているときに自分を縛り付けた言葉。
気づいたら、声が出ていた…誰にも聞こえない大きな声・・・一人きりの悲しみより、自分の死より、生きていた時の自分への悲しみ。。。大きな声を上げて泣き続けた、悲しみが治まるまでこのまま泣き続け、涙が枯れ、声が枯れるまで一人きりで泣き続ける・・・
泣きながらの言葉が重たくなりなりなが外へ出ていった
「…誰もいないよ、誰も・・・生きてるときに思った誰もいない世界に来てみると辛いな…誰かがいないとダメになるんだな人って、変わらない世界の中で変わらない自分、変わった世界で変わらない自分…少し違うだけだと思ってたのにな…全然違うじゃんか・・・辛すぎるよ」
この世にいるのが自分だけなら、自分だけが辛いとか、自分だけが不幸だと思っても被害妄想にならなと言うのが、押し圧せてくる辛さに歯止めをかけなかった・・・
辛い。。。
ただもう、自分にはその言葉の大きさを計ることが出来ずに、ただ大きいとしか分からなくなっていた…
自分の中にあって、中にない・・・すごい違和感と拒絶感、本当に自分自身の感情なのだろうか?・・・自分の言葉であらわされる感情が、自分の大きさを超えた。全ての感情が失せることなく混じりあい一つの『辛い』というモノに変わった
まだ僕は気付いていなかった…『辛い』という言葉は、大きいだけじゃないことを・・・