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ヤンのちデレ!  作者: しりこだま
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告白をされるというのは、とても嬉しいことだ。

告白をする相手は緊張し、自分の想いをその相手に伝える。

告白をされる相手は、嬉しい気持ちになり、その応えを勇気を出して相手に伝える。


つまり、告白をする方もされる方も、どちらも多少の緊張と勇気は必要とされるわけだ。

こんな俺でも、誰かに告白されるという現実があるということがわかった。


朝。珍しく目覚ましに頼らず、一人で起きることができた。

時間はいつも起きる時間より、10分ほど早い。


しかし、二度寝しようと思う。

いや、詳しく言えば夢から覚める為に寝ようと思う。

どうやら俺はまだ夢の中のようだ。しかも、思春期男子特有のアレな夢を見ているらしい。

一応布団をめくって布団確認。よし、赤い染みはどこにも見当たらないな。よかった。


っていうか、そんな記憶ないのに俺は何確認してんだ。

しかも夢の中だぞ。一種のハーレム状態を築くことさえ簡単な、自分だけの空想内だぞ。

さっきから何を考えてるんだ。この状況が俺をおかしくしてしまっているのか!

そうなのか!!いや、もうそういうことにしちゃおう!


「これは夢。夢…ごくり」


何故か俺の隣には無防備に眠りこけている幼なじみの姿があった。

格好は学校の制服。我ながらどういうシチュエーションの夢を見ているんだ。



「ん…っ」



そう悩ましげに息を漏らし、俺の方に寝返りをうつ幼なじみの咲ちゃん。

スカートが微妙なとこまで捲りあがっちゃって、健康的な生足が丸見えになっちゃっているわけでして、一応男としては幼なじみであってもそのもっと先が見たくなっちゃう衝動にかられちゃったりしちゃって、でも見えないのがいいかんじのエロスを感じさせてくれちゃったりで、もうこれいいかな?いいかな?いいよね!!


「これは夢。夢なんだから、ちょっと触るくらい…」


キャラ崩壊?二次元じゃよくあることさアハハッ(キリッ


恐る恐る手をその柔らかそうな太ももに伸ばす。

こんなところ誰かに見つかったりしたら、俺の死亡フラグがたっちゃうよ。まったく。

しかし、この状況で何もしないのは男としての死亡フラグがたっちゃうよね。



「聖に手を出すんなら、僕に手を出すのが妥当なんじゃないのかな?」



朝って静かだから、凄く声とか物音とか響くのよねー。

だから、この湊さんの声とかもよく響いちゃってー。


「おはよう、夏川」


にっこりと笑顔で凄く棒読みな挨拶をしてくれた。

その宇城の視線から逃げることもできず、俺は縛りつけられたようにその態勢のまま宇城の顔を見る。


「お は よ う、夏川」


黙りこくった俺に対して、もう一度挨拶を投げかけてくる。

しかも今度は少しドスがきいてるぞ!うわぁい☆


全然喜べねーよ!!



「お、おはよう宇城。あっはっは。今日はいい天気だね」


「あぁ、そうだな。まぁ僕としては、天気なんかよりも聖の太ももに伸ばされた夏川の手が気になるんだが…さぁ、どういうことか、説明を求めようか」


怖い怖い怖い怖い。恐怖だよ。この笑顔恐怖だよ!

しかも俺弱っ!一発で話変えられちゃったんですけど!!


「あ、ありのまま今起こったことを」


「ネタはいい」


はい、負けました。ずぱっと斬り捨てられちゃいました。

ていうか宇城…めちゃくちゃ怒ったら怖いじゃないか。いや、まぁ確かに宇城は怒らせたら怖そうな人間だけどさ。

でも、普段からめんどくさそーに毎日を生きてる奴が、急にキレたらギャップ効果とかで、かなり怖くなると思うんだよね。

で、俺は何をそんなに一生懸命説明してるのカシラ?



「ふぅ…まぁ僕は多少なりとも、この年代の男の性欲はわかったつもりでいる」


なんか凄いわかりきった顔で、腰に手を当て溜息をつく宇城さん。

こいつが言うと、妙にリアルに感じるからやめてほしい。



「しかし、聖は朝に弱いのか?健康第一だぜーひゃっはー。みたいな性格をしているのに…。やはり、人間を外見で判断するのは、確実性にかけるか」


「いや、でもやっぱり結局は、初対面の時とかって、外見くらいでしかそいつのことわかんないよな」


「あぁ。しかし、夏川のように見た目から童貞で、やっぱり童貞だったという一例もあるからな」


「人を一般常識の例えみたいな言い方すんなよ!っていうか、お前俺のこと初対面の時に童貞としか思わなかったのかよ!?」


「それ以外のことについて、僕に期待を持つのはやめてほしいな」


「何だよその突き放し方!童貞の後にその態度かよ!地味に傷つくよ!!」


「これでも、愛情表現のつもりなんだがな」


「そんな愛情表現認めたくないわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「…そして、これだけ朝っぱらから夏川が隣で叫び倒しているというのに、聖はまだ起きないのか。困った奴だな」



華麗に俺の言葉をスルーして、宇城は小さく呆れたような顔をし、こっちに近づいてくると、小さくため息をついて、咲の首筋に手を這わせた。



「んぅ…っ」


またもや咲が悩ましげな声も漏らす。

ぶっちゃけ、隣でこんな声出されると、男としては本当に悩ましいんだけど。

ここは我慢。何より、宇城という存在が恐ろしすぎて、変な行動はとれないでいる。

我ながらなんてヘタレなんだ夏川陸よ。


「さて、ひーじーりーさーきーちゃーん。あーさでーすよー」


素晴らしい棒読みで、宇城が咲を起こしにかかる。

首筋にあったはずの手は、今は制服の中に突っ込まれ、こちょこちょと指がせわしなく動かされていた。



「っていうか、これって寝起きセクハラなんじゃないか?」


「夏川はわかっていないな。これはセクハラじゃない。例えセクハラだとしても、僕が自覚なしだから大丈夫だ。問題ない」


「いやいやいやいや!自覚なしってもっとダメだろ!?」


「…くすぐっても起きないんだがこの寝ぼすけ娘は…。夏川の躾がなってないからだぞ?まったく」


「そんなことは咲の母さんに言ってやれよ」


「何を言う。夏川は聖の夫であり、育ての親だろう?」


あの、宇城さん。その当たり前だろっていう顔はやめてください。

俺が間違ってるんじゃないかと、自分に対して疑心暗鬼になるから。


「っていうか、ほんとに咲起きないな」


幼馴染としてでも、これはさすがに呆れてくるぞ。こいつ、こんなに寝起き悪かったっけ?

宇城の顔を窺うと、なるほど。難しい顔になってるな。まぁ気持ちはわかるぞ。


それにしても宇城は勇気あるなぁ。

咲を起こすってことは、死に値するようなものなのに。いや、俺がそう勝手に思ってるだけなんだけどね。

一回だけまだ寝ぼけている咲と学校まで行ったことがあったけど、その時の咲は酔っ払いそのものとしか思えないような有様だったからな。

普通に会話を振っただけで、殴られそうになったからな。あれは正直、間一髪で避けなかったら、俺は咲よまともに顔を合わせることはできなかったと思う。勿論、恐怖心的な意味で。



「こうなったら自棄(やけ)だ。もうどうにでもなれ」


宇城はかったるそうに、髪をかき上げると、にんまりと口元を釣り上げた。

あ、これはヤバい。そう思った時だった。



「聖のブラゲェェェェェェェット!!!!!!!ということで、ぽい」


宇城にしては異様にテンションを上げたかと思ったら、宇城の手からオレンジ色の柔らかそうな布切れが俺に向かって、投球された。

投げられればキャッチする。ここで人間らしい反射的な動きをしてしまった。

まずい。そう思った時にはもう遅い。俺の反射的に出した右手には、オレンジ色のまだ温もりが残る布が握られていた。


…なるほど、Bカップか。



「って、そこじゃねーだろ俺ぇぇ!!!」


こんな時でも、欲望に忠実な男の本能が悔しい。


親の仇を見るような目で宇城を見る。

しかしそこには、寝ぼけた目をこする咲の姿があった。



「あ、咲さん。起きたんですね」


宇城はまだ眠そうにしている咲に隠れるようにして、俺の様子をニヤニヤしながら見つめていた。

さっき背中に手つっこんだ時に上手く外しやがったな。

そして咲よ。何故お前はご丁寧に、紐のついていないブラ(ストラップレスブラというらしい)を身につけて入るんですかバカ野郎。


「な、なななななな…くぁWせDRFTGYふじこLP;@:」


「いやいや咲。朝から日本語で喋れよな」


あっはっはと笑う。すかさず、右手は後ろに回す。


「あ、あんた今、何持ってたの?」


くそっ…宇城め。楽しそうに笑いやがって!


「ちょっと見せなさいよ」


少し顔を赤らめて、身を乗り出して咲が俺の背中を覗きこんでくる。

見ちゃらめええええええええええええええええ!!!


必死に隠そうと、抵抗するが簡単に俺の右手は咲に捕まってしまった。

バンテージの巻かれた咲の左手に握られるのは、咲が今の今まで身に着けていたオレンジ色の下着を持った俺の右手。


なぁにこれ?死亡フラグ?



「っ~~~~~~~~~」



真っ赤になった咲が声にならない声を漏らし、俺の体は俺のベッドの上から宙へと舞った。





「それにしても、朝っぱらから殴られるとはな。正直なところ、被害者は俺だぞ?」


あの後、自分の部屋の床とおはようのキスをして、咲の連続ヒットがきまろうとしたところで、ようやく宇城が止めに入ってくれた。

感謝しかけたが、根源はこいつなのでそこで思いとどまった。


「だ、だから謝ってるじゃない。でも、別に悪気があってしたわけじゃないのよ?」


「そうだぞ。僕だって悪気があってしたわけじゃない」


「お前は絶対に100%悪気があってのことだろ!?」


何故、咲と宇城が俺の家に不法侵入していたかというと、理由は凄く簡単なことだった。


2人とも、『俺を朝、起こしに来ただけ』だったのだ。


これだけ聞くと、さっきまでのことは全部許してしまいたくなるが、予想以上のダメージを受けたため、なんとなく許したくない。



「あたしだって、湊が同じことを考えるなんて思いもしなかったのよ」


「ははっ、僕だって同じさ。聖と考えが被るとは思わなかった」


両者が両者、複雑な表情を浮かべてお互いを見る。


っていうかさ

「俺って宇城に家教えてたっけ?」


咲は幼馴染という以前に、家がお隣さん同士という立派な理由がある。

でも、宇城に至っては家の場所を教えた記憶もないし、宇城の家すら知らない。


「ん…愚問だな夏川。前にも言っただろう?僕が夏川のことで知らないことは、一つもないんだと」


「んなっ!」


咲が何故か反応していた。


「いやいや、それにしてもだ。お前家の場所まで把握してるとか、ある意味でストーカーだぞ?」


「ストーカー?何とでも言うがいいよ。夏川になら、何と言われても僕は受け入れる覚悟でいるからな」


「それでもストーカー呼ばわりは嫌なんじゃないの?」


咲が当然の疑問をぶつける。


「ん…相手が夏川なら、客観的に見たり聞いたりして酷いことも、僕にとっては最高のご褒美だ。その時だけは、僕を見てくれているという証拠だからな。そう思わないかい聖?

まぁ、夏川がそこまで酷いことをする人間でないということは、100も承知していることだけどな」


堂々と自分の考えを主張する宇城。それに対して、疑問を持った咲(俺も含めて)唖然としている。

そこまで堂々とされては、反論する気にもならない。


しかし…信頼されてるのね、俺。


なんか嬉しい気持ちになる。



「そ、そんなことはあたしもわかってるわよ。陸はそんな酷いことする人間じゃないわ」


咲がやっとのことで口を開く。


「陸とは湊や響歌先輩、尋ちゃんよりもずっと長い時間一緒にいたの。だから、そのくらいずっと前から知ってる」


「へぇ。それが聖の素直な気持ちってわけだよね?」


宇城がニヤッと意地悪な笑みを浮かべ、咲に何か言いたげに笑う。


「!?」


咲がピンと身を強張らせ、耳まで真っ赤になる。



「僕だけじゃなく、先輩や瀬野崎まで引き合いにだすってことは、それくらい夏川のことが好きなんだろ?」


「ち、違うわよ!別に…そんなんじゃなくて、別にみんなをライバル視してるとか、そんなんじゃなくて…」


わたわたと手を忙しく動かしながら、宇城の視線から逃れるように視線を迷わせる。

なんか、会話についていけないんだけど、これって俺の話してるんだよね?

さすがにそれはわかる。だが、なんか恥ずかしい気持ちになってるのは何故かしら?



「聖はもっと素直になればいいものを…」


そう言って宇城が咲に襲いかかる。


「あっ…ちょ、こらっ湊!こんなところで…っ!!」


宇城の手が咲の制服の中につっこまれ、モゾモゾと中で動かされる。

俺があんなことしたら、殴られるどころの話じゃないんだろうな。


いやいや、何を考えているんだ俺は。

さっきの咲の姿を思い出し、また妙な気分になってくる。



「ほらほら、ここがいいんだろう聖?」


「や、やめなさいって言ってるでしょ!ちょっと、ほんといい加減に…っ」


「聖を弄るのは本当に楽しいなぁ」


赤面する咲。それを襲う宇城。そして、それを見物する俺。

何なんだろう、このカオス空間は。



ここで響歌先輩みたいな、救世主が来てくれれば…。

主人公がこう考えて、フラグを立てることによって、その人が偶然にこの場に現れてくれるはず!


ということで、せんぱあああああああい!!



「あっ先輩方じゃないですか!おはようございます!」


きたああああああああああ!!爆弾娘きたあああああああああああ!!!

ちょっと違う!むしろ、今の状況で尋ちゃんはアウト!!


「おはよう瀬野崎」


「ぉ、おはよう尋ちゃん。とりあえず助けて!」


「おはよう尋ちゃん」


「やっぱり、早起きは気持ちがいいですねー!ところで、先輩方は朝から何を楽しそうにしているんですか?」


2、3日前の尋ちゃんからは、考えられない言葉が聞こえた来がしたんだけど、気のせいじゃないことが嬉しいね。

嬉しいけど、その質問には俺からは答えることができないな。


こんな時には主人公の特権!

今度こそ先輩きてください!個人的なお願いでもあるけどね!


「おはよー。みんな、朝から楽しそうだねぇ」


のほほんとした優しい話し方。そして、久しぶりにまともに聞いたこの声!



「あっ先輩さん先輩さん!聞いてくださいっ!尋も早起きができるようになったんですよ!」


「それは凄いねっ!でも、そのお話はもう30回は聞いたなぁ」


尋ちゃんの可愛い自慢に、響歌先輩が少し困った様子で返す。

そういうほのぼのしたやり取りの裏で、なんかいかがわしい事をやってる少女が2名。

もうほんと何なのこの空間。


ていうか尋ちゃん。そんなに早起きできるようになったことが嬉しかったのか。


「尋30回も話してたんですか!?それはびっくりです…でも、先輩さん。細かく言えば、38回ですよ!この微妙な数字が大切なのです!」


「38回?そんなに大切なら、ちゃんと覚えなきゃだね!38…38…38…」


尋ちゃんわざわざ数えてたんだね。

いや、数えてたんなら何故そこまで話し続けたんだ。そこが尋ちゃんの可愛いところでもあるんだけどね。

でも、それ以上にその微妙な数字を、必死に覚えようとしてる先輩可愛いんですけど。



「ところで、このカオスな空間に男一人ポツンといる感想はどうなんだ、夏川?」


いきなり話を振られて、慌てて宇城の方を見る。

その手には今日の朝に見た、オレンジ色の戦利品が握られていた。


「紐が嫌いでこの下着付けてたけど、もう一生付けない。絶対に何が何でも付けないんだから…」


涙目で宇城の手に握られている自分の下着を見つめながら、咲は静かに微妙な決意をしていた。


そんなことより、だ。



「やっぱり女4人の中に、男の俺一人っていうのは、さすがにヤバいですか?」


「はい!傍から見たら、先輩は血祭りにあげても足りないくらい恨みの対象として見られています!!」


「えぇ!?そんなに?そんなに俺って、周りから恨まれるような人間だったの!?」


「あたしは人間とも思ってないから安心して」


咲さん、あんた悪魔や。せめて、幼馴染なんだから、人間として見てください。


「まず、学園のアイドル的存在の先輩と一緒につるんでるっていう時点で、そこらへんの先輩ファンの人間からは、男女問わず恨まれているんでしょうね」


「え?私?」


自分のことが話に出てきたため、首をかしげる先輩。

まぁ確かに、先輩の熱狂的なファンは多いからなぁ。



「先輩だけじゃなく、聖だって瀬野崎だって、そこそこファンがいたりするんだ」


ということはアレですか?

もしかして俺って、うちの学校内で人気の高い女子たちと仲良くしちゃってるというわけですか?


「まぁそういうことになるな」


「心の声勝手に読むなよ!これでも、内心かなりびびってんだぞ!?」


「陸くん、大丈夫だよ。陸くんは私が守ってあげるから」


にぱー。と優強い笑顔を浮かべて、軽く両拳を握る先輩。可愛い!

可愛いけど、周りの視線が痛い!


そうだよ。何故今まで気づかなかったんだ。確かに俺の周りの女子は、かなりレベルが高い。

ずっと、一緒にいた咲でさえも、黙っていればかなりの美人さんに分類される。黙っとけばね!

先輩なんか話にならない程の人気者。尋ちゃんは、アッチの人たちに人気がある期待の新入生とかいう噂も聞いたことあるし…。

宇城だって、自分のことだから言わなかっただけで、これで結構告白とかされてた気がするぞ。


つまり俺って、普通の男なら誰もが夢見る美少女の中に男一人。簡単にいえば、美少女ハーレムのどまんなかにいる幸せ者なんじゃ…。



「急に自分の身が心配になってきたZE」


「あまりの恐怖に、口調までおかしくなってしまったみたいだな」


「まぁ、それを+に考えちゃえば、普通に幸せ者の勝ち組みたいなもんだけどね」


「先輩に何かあったら、尋がロケットランチャーでもぶっ放してあげますよ☆」


「尋ちゃんと一緒に、私も援護射撃するから安心していいからね」



おぉう。なんというハーレム。人生って素晴らしい。生きてて良かった。

でも、死亡フラグもちゃくちゃくと進んでいる気がそてならないんだど、気のせい…だよね?





「夏川くん…夏川陸くんはいるかな?」


朝の出来事から、無駄に周りを警戒していた俺を呼ぶ声が教室前方から響いた。

堂々として、どこか爽やかさを持ち合わせた男の声。


おいおい何だ何だ。早速、朝の宇城の言った言葉のフラグ回収ですかコノヤロー。



「俺が夏川だけど…」


とりあえず、呼ばれたのなら行くしかない。

俺はその俺を呼ぶ男のところまで小走りで行った。


「…君が夏川くんか。ふーん、なるほどね」


俺の姿を見るなり、つま先から頭までをゆっくりと観察する謎の男。


初めて見る顔だけど、相手は俺のことを知っているらしい。

まぁ、知っているからこそ、こうしてわざわざ俺の教室にまで来たわけなんだけども。


クラスの女子たちがキャーキャー騒いでいるのが聞こえる。

何だ、この男はそんなに有名な奴なのか?


確かにクラスの女子が騒ぐほどの容姿を、俺の前に立っている男は持っていた。


銀髪の少し長めの髪をかきわける仕草は、男の俺でも意識してしまうくらいに美しく見えた。

そして顔。顔は申し分ないくらいに整っていた。さっきから絶やさずにいる笑顔も、不思議と嫌みが全く感じられない。

軽く気崩れた制服の間からは、男にしてはやけに白い肌が覗いている。

この目の前の男を、簡単に一言で表すなら、「おぼっちゃん」その表現が一番しっくりきた。

なのに、頼りなさを感じさせないのは、この男の魅力なのかよくわからん。


で、そんな容姿の彼は俺の身長を軽く追い抜いてくれちゃっている。

男としてのプライドなのか、なんか微妙に悔しい。


ざっと見て、俺の身長が170だから、この男は180はありそうだ。


「この巨漢め…」


「何か言ったかな?」


俺の呟いた本音に、爽やかさな笑顔を浮かべ、首をかしげる謎の巨漢。

くそぅ。なんか悔しい。ほんとに悔しい!


「…で、俺に何の用なの?」


悔しさからか、失礼な態度になってしまったが、もう遅い。

俺はそのままその巨漢の返答を待った。


「いや、ちょっと個人的な用事でね。そうだな…放課後に生徒会室の隣にある空き教室…は、わかるかな?」


「…わかる、けど」


「じゃあ、放課後にその教室で待っていてもらってもいいかな?」


「放課後は部活があるから…ちょっと」


「時間は取らないつもりだから、来てくれると嬉しいんだけど」


困ったような笑顔を浮かべ、、なかなか諦めない巨漢。

あまりにも必死な様子なので、俺は頷いてしまった。


「本当にちょっとだけの約束だからな」


「あぁ、ありがとう。陸くん」


そう最後に俺の名を呟いて、巨漢は走り去って行った。

何だよ何だよ。走り方までかっこいいじゃないか。イケメンめ…。



「ちょっとちょっと陸!あんた、何であんな誘いにのったりなんかしたのよ!?」


巨漢が見えなくなってから、咲が席から立ち上がり、俺に非難の声をあげる。


「同感だな。登校中の僕たちの会話を、ちゃんと聞いていたのか?」


その隣で、宇城がうんうんと頷いていた。


「いや、ちゃんと聞いてたけど」


「なら、何であんな誘いにのっちゃったりしたのよ!?」


「お、おい。とりあえず落ち着け、な?」


噛みついてきそうな咲をなだめる。

俺のその様子に、少し不満そうにしながらも、咲はおとなしく席に着いた。



「夏川。もし、あの男が朝言っていたような男だったらどうする?君は今日を最後に、マグロ漁から一生帰ってこれなくなるかもしれないんだぞ」


「何でそんな超展開に発展してんだよ!?」


「や、例えばの話さ。でも、あの男の笑顔からは、何かそんなことを簡単にやるような、腹黒さが見えた。気のせいかもだがな」


宇城がそう言い終えたところで、クラスの女子たちが否定に入った。



「篠原くんはそんなことはしないよー」


「うんうん。むしろ、夏川くんのこと守ってくれそうなかんじだよねー」


「あ、確かに!夏川くん顔とか幼いかんじだし、篠原くんとお似合いかも!」


「ちょっとちょっとー、夏川くんにはもう咲がいるじゃん!」


「あははっ、そうだったね。でも、本当に篠原くんは、そんなことする人じゃないよー」


なんか好き勝手言われたけど、とにかくあの篠原とかいうでかい男(爽やかイケメン)は、悪い奴ではないらしい。


「なっ…あ、あたしと陸が何だって言うのよー!」


咲がその部分に反応して、顔を赤くしてその女子たちの方に行ってしまった。

残された宇城が、ポツリと呟いた。


「どんな男だったとしても、何か起こることに違いはないな」


「何でそんなことがわかるんだよ?」


「あの男のあのむかつく笑顔を見れば、簡単に予想がつく。それに、わざわざ放課後に呼び出されたのに、何も起こらない方がおかしい。そうは思わないか?夏川」


「ん、確かに…」


笑顔云々は、宇城の個人的な感想として、放課後の件は頷ける。

大した用じゃなければ、ここで済ますこともできたし、わざわざ放課後に待ち合わせまでする必要もないだろう。


「まぁとにかく、放課後になるまでは何もわからないがな。僕の方でも、少し注意してみよう」


だから安心しろと言って、宇城は自分の席に戻って行った。

咲の方に目をやると、何やらさっきの女子グループに身振り手振りを交えながら、必死に何かを伝えていた。

その度に手に巻かれたバンテージが舞う。そんな咲にも見慣れてしまった自分が怖い。

慣れってほんとに怖いよね。





放課後のチャイムが学校全体に鳴り響き、今日の1日の終わりを告げた。

そして始まる至福の部活タイム!の前に、あの篠原…だっけ?そいつの用事とやらを、済ませなければいけない。

教室ではみんな荷物をまとめたり、談笑したりと自分の好き勝手やっている。


「陸!」


そう呼ばれて、荷物を詰め込んでいた鞄から目を上げて、その声の主を見る。

そこには咲が腕を組み、無い胸を高らかに張っていた。


「どうした、咲?弁当なら残ってないぞ?」


「嘘でしょ!?って、違うわよバカ!ノリツッコミさせないでよ恥ずかしい!」


「素直につっこんでくれるのが、咲のいいとこだろ!」


「え…そう、なの?なんか微妙に照れるんだけど…これって褒められてるのよね?」


「いや、からかわれてうだけだと思うが」


少し嬉しそうにする咲に、容赦なくツッコミをいれる宇城。流石というか何というか…まったく。


「で、どうした?いきなり弁当はないぞ?」


「もうそれは聞いたわよ!せっかく、心配して来てあげたのに、バカ陸!」


どうやら心配してくれていたらしい。別に心配されるようなことでもないんだけどね。

それでも、心配されるっていうのは嬉しい。


「まぁ、僕と聖で何かあれば駆けつける。だから、安心して逝ってこい」


「親指立てながら、言うことじゃないだろおい!」


咲はいいとして、宇城を頼ってしまってもいいのか。



「まぁ、2人ともありがとう」


「響歌先輩と尋ちゃんにも応援を頼んだから、安心して逝ってきていいわよ!」


「お前を信じた俺がバカだったよ!」


っていうか、先輩と尋ちゃんまで呼んだのか。なんか大事になってませんか?

こいつら、1日中俺の護衛とか言って、俺につきっきりだったのに、いつ応援を頼んだって言うんだ…。

トイレにまでついて来ようとしてんだぞ。それは宇城に限っての話だが…。

とにかくだ。なんか無駄に大事になってしまっているわけで、もし何も無かった場合を考えると、みんなに申し訳ないというか。

いや、一番何も起きないことがいいんだけどね。まぁ、ここはみんなの優しさに甘えようかな。


「じゃあ、行ってくるよ」


「「逝ってらっしゃい!」」


本当にこいつらを信用していいのか、最後までそれを疑問に思わなくちゃいけないのか。





「生徒会室の隣の空き教室…というと、ここの事だよな?」


普段近づかない場所だから、無意識のうちに辺りをキョロキョロと見回してしまう。

なんか、ここだけ異様に空気が違うんだけど、やっぱりそれって生徒会室の存在のせい?

何だろう…他と違って妙に重いんだよね。


重い空気を感じながら、俺は空き教室の扉を開いた。


ずっと使われていなかったのか、俺が脚を踏み入れた瞬間、埃が宙に舞った。

ぐるりと室内を見回す。別にこれといって、特徴的なものはなかった。


ただ、今は使われていない予備の机や椅子が並べられているだけだ。

棚の中には、生徒会の過去の資料などがあるみたいだ。

閉め切られたカーテンを開き、室内を明るく照らす。といっても、真昼程の明るさなわけじゃない。

春の夕方のほんの少し、柔らかい明るさだ。この教室には雰囲気も相まってか、雰囲気的には、これはこれでありなかんじがする。

これから起こる事を考えると、雰囲気に浸っている余裕などないわけなんだけど。


昼休みに咲から軽い護身術的なものを習ったわけだけども、あいつどこでそんなもの教わったんだ?

まぁ、せっかく習ったものだけど、できれば話し合いとかで穏便に済ませたい。


まぁ、朝のかんじでは穏便に済ませられそうなかんじだったけど、宇城が言ってたことも気になるしなぁ。



「っていうか、まだ来ないのか、あいつ」


「うん、もう来てるよ」


突然の自分以外の声に驚き、慌てて後ろを振り向く。

そいつは入口付近に立っていた。明らかに、たった今来ただろこれ。


「あはは、驚かせちゃったかな?ごめんね」


そこには篠原が爽やか笑顔で立っていた。

くそう。何度見てもイケメンじゃねーか、悔しいなぁチクショー!


「っていうか、どこから湧いた!?」


「湧いたって…人を虫みたいな言い方、でも…そんなところも可愛いなぁ陸くんは!」


瞬間、鳥肌がたった。

ぶっちゃけ可愛い可愛いとは、小さい頃から何度も言われてきた。

その度に男なのに…と、毎回毎回落ち込んでいた。


っていうかさ…。


「あー、陸くん。生の陸くんだよ!可愛いなぁ、本当に可愛い!」


何なんだこの男。


「あの…用ないんなら、帰ってもいい?」


「ぁ、あーっ…ごめん。ごめんね。用はあるんだ、うん。ちゃんとした用だよ」


「もし下らない内容だったら、本気で怒るけど…?」


「…怒った陸くんかぁ。それもいいね!」


「帰る」


ただの変態(篠原)を通り過ぎようとした瞬間


「ま、待って!」


腕を掴まれた。なぁにこの展開?乳酸菌足りてる?(某水銀灯さんのボイスでお楽しみください)


「可愛い可愛い言うために、呼び出したっていうんなら、本気で殴り飛ばすぞ!」


「か、かわっ…いや、うん、ごめんね。本題に移るよ」


やっよか。くそ、本題聞く前に精神的苦痛が大きすぎた。

しかも、今可愛いって言いかけただろ絶対。



「じゃあ、言うね」


「うん」



ちょっとした間が空いて、篠原はゆっくりと意を決したように口を開く。

笑顔の中にも、少しだけ緊張した様子が見て取れた。


俺もその篠原の様子につられてか、少しだけ緊張してしまう。ほんと何だこの状況。

放課後の誰もいない空き教室に、男2人が向き合って…これじゃまるで



「好きです」


告…白みたい…って、


「は?」


あまりにも唐突…というか、予想が予想の斜め上で当たってしまって、間抜けな声を出してしまった。


「え…いや、ちょっと待って。それは何かの冗談か?それなら、本当にお前のこと、一生恨み続けるからな?」


「俺は本気だよ!」


「っ…」


あまりの気迫に少し圧倒されてしまった。

告白とかそういうものはよくわからないけど、これは真剣な人間な顔だと思う。

確かに笑顔は絶やしてないけど、その笑顔も引き締まってどこか必死さが伝わってくる。


それに、これがタチの悪い冗談だったら、ネタばらしとか言って数人の生徒とか、ネタばらし役の人間が出てきたりするはずさ。

とにかく、よくはわからないが、俺は今、『本気の告白』をされたらしい。



「やっぱり…引かれちゃったかな?」


少し自重気味に笑った顔が、どこか悲しげで俺は黙りこくってしまう。

告白なんて生まれて初めてのことだし、っていうか、生まれて初めての告白が同性ってことか…ははっ。

いや、確かに悲しいことだけど、人からの好意を無駄にするっていけないんじゃないのか?


頭の中でぐるぐると、告白されたという現実が渦を巻く。


引かれたと問われて、完全にいいえと言えるわけじゃない。

だって、俺は全然存在だけじゃなく、名前も知らなかった初対面の人間に、いきなり告白されて、しかもそれが同性。

ドッキリとかじゃなくて、|本気≪マジ≫告白。

実は女でしたー!なんてドッキリも、今朝のクラスの女子の話からは考えにくい。


「ということは、本当に本気ってことなんだよなぁ」


「!わかってくれるのかい!?」


篠原の緊張で強張っていた笑顔が、本当に嬉しそうな柔らかい笑顔に変わる。

笑顔一つでここまで変わるなんて人間不思議なもんだなぁ…とか今はどうでもいい!



「と、とりあえず早まるな。篠原の気持ちが本気だってわかっただけであって、その気持ちにたいする応えがYESというわけじゃない!ここは勘違いするな!」


一番重要なところを、勘違いされてしまっては困るわけですよ、はい。

それに俺は響歌先輩が…。


「…篠原には悪いけどさ。その…気持ちには応えられないっていうか…」


こういう時は、すっぱりと断言した方が相手にとってはいいのかもしれない。

でも、相手の気持ちを考えると、そんな簡単に振るなんてことはできない。

こういうところが、俺はダメなんだろうなぁ、なんて考えてみたり。優柔不断っていうのかな、こういうの。



「そっか…。そうだよね」


少し残念そうに呟く篠原を見てると、自分のこの選択は正しかったのか不安になる。

でも、ここで同情して付き合うとかの方が、もっと篠原に悪いことしてることになるんだよな。

っていうか、まず相手は男だし。まぁ、見た目は頑張れば女に見えなくも…って、俺は何を考えてるんだほんとに!

付き合う気なんてさらさらないのに、こんなことを考えてしまうとは…自分が恐ろしい。


「ごめん…」


悪いと思ったから、篠原の気持ちにたいして応えてやれなかったから、頭を深く下げて謝った。


「いいよ。だから、陸くん。顔を上げて?」


「え」


思わず顔を上げる。そこには、振られて悲しいはずなのに、いつも通りの笑顔を浮かべた篠原がいた。



「陸くんは俺のこと、気持ち悪いなんて思わずに、真剣に考えてくれたんだよね。それなら、怒る理由なんて考えられないじゃないか。それに、君のことが俺は好きなんだ。好きな人におこるなんて、俺には考えられないよ」


そう言って、篠原は俺の頭を優しく撫でてきた。


「篠…原」


「でもね、好きな人と密室で2人っきり、それなのに襲わない…なんてことも考えられないんだよね」


篠原の優しさ、一途さに触れた気がした瞬間、篠原の優しかった笑顔は黒い笑顔に変わった。


「え?」


なんか非常に嫌な予感がするのですが、気のせいですか?

いや、考えろ。今まで気のせいと願って、気のせいだったことなんてあったか?

いや、ない!断言できる!だから、今のこの俺の状況は、非常にまずい状況だ!


逃げようと篠原の手を振り払い、扉へとダッシュし開こうとした。が、


「開かない!?」


「ダメじゃないか、陸くん。人の話は最後まで聞かないと。俺みたいな狼の言うことは、特に、ね?」


冷や汗が頬を伝ったのがわかった。

背には開かない扉。眼前には暗黒の笑みを浮かべた篠原。

これは、本当に死亡フラグなんじゃないですかああああああああああああ!!!!???



「陸くん。こんな形で奪うことになっちゃってごめんね」


くいっと顎を持ち上げられる。や、ヤバい!咲に習った護身術!もうこいつには、言葉なんて通じない!

その時だった。



「陸うううううううううううう!!!!!!!」


いきなり、聞き慣れた声が聞こえたかと思ったら、いきなり背中にかなりの衝撃が走った。

そのまま、俺は扉ごと前方へ吹っ飛ばされて、ガツン!!!歯と歯がぶつかる音が、空き教室に響いた。





「助けてくれてありがとう」


痛む前歯を押さえながら、俺は咲に礼を言った。

隣には必殺仕事人と化した、響歌先輩が篠原をどこで覚えてきたのか、亀甲縛りで放置していた。



「いや、なんかあたしこそごめん。まさか、歯と歯がぶつかるような状況になってるとは思ってなかったというか…いや、ほんとごめんね」


本気で反省しているらしく、しょんぼりした様子で咲はぺこぺこ頭を下げた。


「歯と歯がぶつかる状況…というのは、つまり、そういう状況だったということで、納得してもいいのか夏川?」


「いや、無理やりだからな?俺は別にOKしたわけじゃないからな?」


「そこで同意の元での状況なら、明らかに先輩方はお友達ならぬ、おホモだちですね!」


「おホモだち?尋ちゃん、それって何なのかな?」


「ひ、響歌先輩は知らなくていい言葉ですよ!」


慌てて尋ちゃんが話し始める前に、口を塞ぎ最悪の事態を避ける。


「むー。陸くんは、また先輩さんを1人仲間外れなの?」


少し頬を膨らませて、怒ったような表情をする先輩。かわええ。

でも、なるべく先輩には綺麗な先輩のままでいてほしいわけですよ!

亀甲縛りの件は、頭から綺麗さっぱり除外しておこう。


「で、あんたはあたしらの陸に何手出ししようとしてたわけ?」


亀甲縛りで縛られた篠原を、鬼のように恐ろしい形相で、見下ろす咲。

あんな顔、俺にも向けたことないぞ!おい!これは、かなりのお怒りと見た!

俺はあまりの恐ろしさに、口を閉ざしたままにすることにした。

いや、ここで変な事言って、事態を悪化させるのも何だかね。やましい事なんて、何一つないんだけどさ。



「ははは。陸くんの可愛さに、理性が抑えきれなくなっちゃってね」


咲の内から滲み出る殺気オーラを前にしても、その爽やかな笑顔を崩すことなく、平然とする篠原。

お前勇者だよ。可愛いって言ったから嫌いだけど。


「理性が抑えきれなくなったと言ったな?それは、好きな者に対しての話なんだろう?好きな人間に対してなら、尚更理性を保たなくてはいけないんじゃないのか?」


「いや、宇城。それはお前の言えたことじゃ…」


「夏川は黙っていろ」


「陸くんは私とお話ししてようか」


そう言って、空き教室の隅っこに先輩に引っ張られる俺。え?これ喜ぶとこじゃね?



†~咲~



「で、あんた本当に何考えてんの?遊び半分で好きとかやめてくれない?」


ただでさえ、今までいなかったライバルが増えて、しかもその周りはかなりの人気者。

挙句の果てに、次のライバルは男?ふざけんじゃないわよ。冗談じゃないわ。


「だから、俺は本気で陸くんのことが好きなんだよ。聖さん…だったかな?聖さんだって、陸くんのことが好きなんだろう?なら、何でそんなに陸くんに対して暴力を振ったりするのかな?俺はそれが理解できないんだけどね」


「そ、それは…確かに暴力なんていけないことだと思うけど…でも!素直に…なれないのよ…」


暴力がいけないことだっていうのはわかってる。

そして、そんなことをしたところで、陸が振りむいてくれるはずがないってこともわかってる。

でも、少しでもあたしのことを、意識してくれたらいいなって。ただ、そう思ってるだけの行動。

その行動が逆に自分から、陸を遠ざてるってことくらい、あたしだってバカじゃない。わかってる。


「それって言い訳なんじゃないかな?聖さんこそ、本当に陸くんが好きなの?…いや、好きだからこそ、素直になれないんだよね。それって凄く辛いことだよね」


そう。このホモ野郎が言ってるとおり、あたしが言ってることはただの言い訳。

でも、だからといってそれがわかってるからといって、簡単に直せることかと問われたら、答えは「いいえ」。


こんなんじゃ、みんなに陸をとられちゃう…。

あたしは臆病な生き物だから、だから…暴力でしか、陸に愛情表現することができない天の邪鬼。


そんなこと…誰かに言われなくたってわかってる。わかってるのよ。



†~陸~



あっちで咲と篠原が何か話しているようだけど、俺にはよく聞き取れない。何話してんだ?


「はーい、陸くん!先輩さんとのお話中によそ見はめっ!」


そう言って、響歌先輩は俺の額に軽くでこピンしてくる。


「今は私と話してるんだから、私だけを見てほしいな、なんてね☆」


えへへ、と照れたように笑い先輩は、さっきでこピンした場所に手を軽く乗っけて、痛いの痛いの飛んで行けーと言った。

いや、別に痛くなかったんだけどね。ここは、先輩独特のほのぼの空間に乗っかるとしよう。

っていうか、既に先輩しか見てないんだけどね!


「はい、じゃあ次は何のお話しをしようか?」



†~湊~



「聖さんは陸くんのことが、本当に大好きで、誰にも渡したくない。そう思っているんだよね?」


「ち、違う。違わないけど…あたしは」



…聖の心が乱れ始めた。この男、何を考えているんだ。

やっぱり、僕の思っていた通り、中身はかなりのどす黒い人間か。それなら、聖との相性は最悪だ。



「おい、篠原。あんまり過ぎた真似をすれば、僕が黙ってはいないぞ」


「あはは。宇城さんは怖いなぁ。今、俺は聖さんと話してるんだよ?あ、なんなら、宇城さんも一緒にお相手してあげようか?」


「貴様の声をまともに聞いていると、虫唾が走る。だから黙れ。これ以上、聖の中に土足で踏み込むな」


「宇城さんから話しかけておいて、それは酷いんじゃないかな。会話のキャッチボールは、一方的に投げかけるだけじゃ、何にも伝わらないんだよ?」


癪に障る。でも、こいつとまともに話せるのは僕だけだ。

お互い腹の中が黒い者、相性はそう悪くはない。


聖や瀬野崎、こいつらにはまともに話させたくない相手。今、そう判断することができた。



「僕と貴様は、とことん相性が悪いみたいだな」


「あはは、残念だなぁ。同じ匂いがした気がしたのに」


「そんな上辺だけの作り笑いで、僕が騙されるとでも思っているのか?あと気持ち悪い。そんなこと言うな」


「へぇ…。やっぱり宇城さんは、他の娘たちより、少し汚れているみたいだね」


もう黙ればいいのに。目ざわりだ。夏川だけじゃない、他の部活のメンバーにも見せたくない。

僕の仲間をこいつに壊されたくはない。ただ、夏川への好意は本気のようだが…。


…だからこそ、絶対に近づけたくない存在だな。こいつは。



†~陸~



「そろそろ話しはつきましたかね?」


「んー、どうだろ?でも、まだなんじゃないかなぁ…空気的にピリピリしてるしね」


「あの中に尋ちゃん置いて来てもよかったんでしょうか?」


「尋ちゃんなら大丈夫だよー。彼女、強いから」


いや先輩。そんなニコニコした顔で言っても、尋ちゃんは先輩より年下で、こういう展開も先輩よりも経験したことないんじゃ…と、想ったところで思考を停止させた。

よくよく考えてみれば、響歌先輩は純粋すぎる!むしろ天然!

そして、比較対象の尋ちゃんは、宇城にいろいろといらん事を吹きこまれてるし…。



「確かに尋ちゃんはいろいろと強いですからねー」


この結論に決定した。

だいたい、あの3人の中で唯一綺麗な存在と言っていいほど、この先輩は世間を知らなさすぎてる。

自分はお姉さんぶってるけど、そういうことにおいては、この中では一番幼いんじゃ…。

なんて言ったら、また落ち込んじゃうんだろうなぁ。そんなとこも可愛いんだけどね。


「陸くんは、モテモテだよねー。先輩さんも少し羨ましくなっちゃうくらいに」


「いやいやいや!先輩ほどモテてる人が、何てこと言っちゃってんですか!?」


自覚がなさすぎるにも程があるだろこの人!

あなたの目の前に、あなたに憧れてる野郎がいるんですよ!?


「あー…えっとね。何て言うのかな…陸くんの場合は、本当の好きっていうか…えっと、上手く言葉にできないんだけどね。私に告白してくる人は、そりゃ本気の人も中にはいるんだろうけど、やっぱりその場だけの一時的な感情で、とっても大切な選択をミスしちゃってる人ばっかりなの。ほら、恋は盲目っていうでしょ?あんなかんじ…なのかな?」


先輩は少し悲しそうな、困ったような寂しい笑顔を浮かべて、そう言った。

確かに先輩は学園のアイドルだ。俺みたいに先輩に憧れてる人間だって、たくさんいることだろう。

でも、先輩はそんな俺達の憧れといった好意に対して、あまり良いように思ってはいないらしい。


「確かにね、誰かに好きって言ってもらえたり、想ってもらえることはとても嬉しいの。どうして、私なんかが?って思うこともたくさんなるし、私はみんなが思ってるほど、綺麗な人間っていうわけでもないし、そこまで想ってもらえるような人間じゃないんだよね。こう言ったら、私の事好きって言ってくれる人に失礼だよね…。でもね、本当の私を知らないで、好きって感情を無駄にはしてほしくないの」


そこまで言って先輩は、変な話をしてごめんと言って、話を中断した。

学園のアイドルは毎日が楽しいんだろうと、勝手に思い込んでいたけど、実際はそのアイドルという肩書きのせいで、この1人の少女は毎日悩んでいたんだ。

贅沢な悩みなのかもしれない。でも、本当の自分を誰もが見てくれないというのは、本当に悲しいことなんだと思う。


でも、俺のこの想いは本物だ。

確かに先輩の言うとおり、俺は本当の先輩をまだ知らないのかもしれない。

でもだ。本当に俺は響歌先輩のことが…。



†~尋~



何だか雲行きがとても怪しいです。尋の憧れである宇城先輩までもが、このでっかい先輩さんに悪戦苦闘してしまっています。

助けることができたなら、尋も今すぐにでも加勢したいところですが…。


「瀬野崎、変な事はかんがえるんじゃないぞ?」


このように、少しでも助けようと考えると、宇城先輩が止めに入ってしまいます。

宇城先輩は人の心が読める能力でも、桜の木にお願いしたんでしょうか?

なんて、パロディネタを言ってられるような、空気じゃないということは、尋も充分承知の上というか…こういう空気だからこそ、何だか冗談を言っていないと、やってられない気分になってきます。


尋は助けたいと思うだけで、やっぱり誰の力になることもできないちっぽけな存在なんでしょうか?

先輩たちの力になりたい。そう思うことしかできないんでしょうか?

もし、そうだとしたら、それは尋にとってとても悲しい現実です。役立たずと言われるのは、予想以上に心にくる言葉です。


…もし、尋がこの場にいる事自体が、間違いだったとしたなら、尋はどうしたらいいんでしょうか。

尋の居場所はここにもないことになってしまいます。

そんなことは、嫌だなって思う。ここまでは失いたくない。そう思った。


自分のことを認めてくれたから。こんな尋にでも、優しく接してくれたから。


だから、


「先輩さんたちを、困らせないでください!」


自分の居場所と、大切な人たちと、この空間を守るためにそう叫んだ。

目標としている宇城先輩の言ったことを無視して、尋は後咲も考えず、無我夢中で叫びます!


「先輩たちの気持ちを利用して、意地悪なことばっかり言わないでください!本当に先輩のことが…夏川陸さんのことが好きなら、どうしてみんなで仲良くしようと考えないんですか!好きなら…いや、好きだからこそ、今はみんな仲良くするべき時なんじゃないですか!?違いますか!?」


先輩たち、と言ったけど心のどこかでは、必死な自分がいた。

ここまで必死になる理由がわからない。でも、夏川先輩をとられたくない、そんな気持ちが尋の気持ちを高ぶらせます。

止めることができません。



†~陸~



尋ちゃんの叫ぶ声が聞こえた。よくはわからないけど、悲痛な叫びだったと思う。

その震える声を聞いて、俺は咲たちのところへ走った。

走ったと言っても、すぐそこだ。あっという間に咲たちのいる場所にたどり着く。


「り、陸くん!今はダメなんだよ!」


先輩が後ろから追いかけてくる。先輩にダメだと言われても、仲間が何か困っているのに、のうのうと憧れの人と話しをしているなんて、男として、こいつらの仲間としてやっちゃいけないことだと思った。

篠原が無言の俺の顔を見て、穏やかな笑顔を向けてくる。


「やぁ、陸くん。8分39秒ぶりだね。元気にしてたかな?」


「あぁ、元気だ。お前もだいぶ元気そうだな」


「あははっ、陸くんの顔を見たら、元気になることができたよ。でも、今日は陸くんには悪いけど、もう帰ろうかな。生徒たちを困らせるつもりはなかったんだけどね。自分の役職的に、生徒たちを傷つけるなんて論外だからね。だから、この話の決着は、また後日つけることにするよ。それじゃあ、またね!陸くん!」


そう言って、篠原は爽やかに手を振りながら、空き教室から出て行った。

篠原が出て行って、ちょっとした沈黙が俺達の周りだけを包む。



「し、塩…塩撒くのよ!陸の周りに塩塩塩!!!!」


咲がハッとしたように我に帰り、そう叫びだす。


「ちょうどいところに塩持ってます!食塩ですけど!」


そう言って、尋ちゃんがどこから取り出したのか、家庭用の食塩を頭上に掲げる。


「よしっ!じゃあ、まず最初に陸に撒いて!で、その次に自分たちに撒くのよ!」


「あぁ。特に夏川には念入りに撒かなければいけないな。よし、男性器には僕が丹精込めて、塩を擦り込んでやるから安心しろ!」


宇城のその言葉で、俺もみんなより少し遅れて、我に帰ることができた。


「嫌だよ!安心できねーよ!むしろ警戒するわ!お前を!」


「いや、遠慮せずとも痛くするつもりはないから、安心するがいい。なんなら、先輩と一緒にやってやってもいいだろう」


「えっ…わ、私?」


「何で先輩のチョイスなんだよ!お前絶対それ悪意あるだろ!?」


人の気持ちをもてあそびやがって…。許すまじ宇城!でも、ちょっといいかな、なんて思った自分がいることは秘密だ。


「へ、変態変態!このバカ陸!何考えてんのよ!」


「ぐぼぁっ!?」


「あーっ、先輩がみぞおちを押さえて倒れこんでしまいましたよ!?」


「ふむ。今、常人には見えない速さで、夏川のみぞおちに聖の右拳が、3発めり込んでいたな」


「おまっ…そんな冷静に見てないで、助け起こそうとはしないのかよ…げふっ」


「あぁ!だ、大丈夫っ陸くん!?」


あ、先輩の下着見えた!俺、もうこのまま死んでもいいかも。



「っ!先輩の口から、何か白いふよふよしたものが出てきてます!」


「大丈夫!こういうのは、無理やり奥に戻してやればいいのよ!」



咲がそう言った後から、俺の意識は遠くにいってしまった。

あれ、これなんていろんな意味でバッドエンド?

はい、ものすごくお久しぶりです!w

藍靜です。


皆さん、お元気でしたか?

藍靜はこの通り、ピンピンしてますよ!

ただ、高校生になったということで、なんかリアが今まで以上に忙しくなってしまいましたw

頭がパーチクリンな藍靜には、課題が大量に出された日は、もう絶望しか見えない状態になてしまいますwww



はい、という前書きはこの辺にして、5話のことを少しだけ話します。

散々、読者の皆さまを待たせておいて、この低クオリティーww

本当に申し訳ない限りです。すいません。


あと、今回、初めて…というか、本格的にキャラの視点切り替えというのをしてみたんですが、どうだったでしょうか?

キャラ1人1人を、皆さんに愛してもらえるようにと、視点切り替えを採用してみたわけなんですけど、なんかgdgdしてしまって、ぶっちゃけない方がよかったかな?とか今頃になって思ってますww


もし、その件についての感想があったら、どうぞ何でもおっしゃってくださいw

他にも、もっとこのキャラ出せーとか、叶えられる範囲でしたら、読者の皆さまの声にこたえていきたいと思います^^



はい、じゃあ次はふとごってみようのコーナーです。

今回のお題は、この小説と藍靜が毎回お世話になっている読者さんから、要望のありました「キャラクターの身長」を、お題としたいと思います!

どんどんどんぱふぱふーww


結果はこのようになりました。

篠原>>(越えられない壁)>>>陸>>>宇城>響歌>>>咲>>>>>尋

こんなかんじですねw

今回は主人公と、新キャラの篠原くんも参加させてみましたw


詳しくはこのようになってます。

篠原…182㎝

陸くん…170㎝

湊…164㎝

響歌先輩…160㎝

咲…153㎝

尋ちゃん…147㎝


このバランスの悪さwどういうことなのwww

咲は意外と小さい設定なのですw

そして、新キャラの篠原…流石でか男wwwでけぇwwww


これを参考に、皆さんの想像を膨らませていただけると、幸いです。



最後になりましたが、今回起きた地震で、亡くなられた皆さん、ご冥福をお祈りいたします。

そして、東北地方の皆さん、私のできることは募金くらいしかありませんが、少しでも力にあんれたらと思います。これからも頑張ってください^^


気が利いた事を言えなくてすいません。

でも、これが本心です。かっこいい文章ではありませんが、これで私の気持ちが東北地方の皆さまに届いたら幸いです。



では、6話もお楽しみ?にしててください!

更新は遅れてしまうかもしれませんが、自分なりに空いた時間を見つけて、ちょこちょこ書いていこうと思いますので、次回も読んでいただけたら嬉しいです!ww

では、今回はこの辺で失礼します^^


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