共通√ 《3》
恋というのはよくわからない。
よく私が聞く恋というのは、
嬉しくて幸せで…でも、それと同じくらい辛いこともあって…。
本当に恋というのはどんな感情なんだろう?
私のこの気持ちが恋というのなら、この思いが先輩に届くといいな。
「どういうことだ…」
朝だ。窓から差し込む5月の陽気。
ポカポカ太陽の日差し。
「いや。だから、どういうことなんだ」
ベッド脇に置かれた目覚まし時計に目をやると、いつもの起床時間より1時間も早く進んでいた。
おっかしいなぁ…。
昨日はいつもより早く寝たはずなんだけど…。
俺はベッドの上で、寝ぼけた頭をフル回転させて、今の状況を理解しようとした。
昨日は確かに早く寝た。
咲と今まででたぶん一番大きな喧嘩をして、それで謝って今まで以上に二人の仲が近づいた気がした。
それが嬉しくて、布団にもぐってもなかなか寝付けなかったんだけど…。
「って、理由はそれだああああああああああああ!!!!!」
俺はそう叫ぶと、ベッドから飛び降りて制服を引っ掴むと、自分の部屋から転がるように出る。
階段で躓きそうになりながらも、起用に寝巻代わりのジャージを脱ぎながら、制服に腕を通す。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいいいいいいいいいい!!!!」
遅刻だ!完璧遅刻だ!
必要最低限の身なりを適当に整え、キッチンに置かれた食パンを一枚口に咥える。
ゆっくり飯を食べてる時間もない!
玄関のカギを閉めて、全力ダッシュで学校へと向かう。
ちなみに俺の家に両親はいない。
つまり、俺の一人暮らしというわけだ。
別に他界したとか、そんな重い理由があるわけじゃない。
ただ、両親ともに放浪癖…まぁ簡単に言えば、二人とも自由気ままなマイペース人間ということだ。
たまに気づいたら家に帰ってきていて、気づいたらどこかに消えている。
たまに電話があったり、手紙がきたりするくらいで、それ以外の連絡は一切なし。
周りからしてみれば、なんて勝手な親なんだろう。そう思われるかもしれないけど、
俺は正直親がいない方が、楽に生活できて好都合だ。
家事も身に尽くし、もしもの時はお隣さんの聖家に緊急ヘルプをすればいい。
なんだかんだで、面倒見のいい幼なじみが世話を焼いてくれるのだ。
なんという恵まれた環境に産まれたんだ俺は!
ということで、何故か毎朝一緒に通学するその幼なじみさんは、今日に限って俺を置いてさっさと登校。
今までで初めての出来事だ。
まさか本当はまだ怒ってる?
いや。咲に限ってそんなことはないな。
あいつは一回許したら、もう完全に許してくれるお人よしだ。
うん、だからその心配はないだろう。
「って、こんな解説してる暇じゃねぇんだよ!!」
これも物語の主人公の運命。
半ば俺は諦めつつ急いで学校へと走った。
†
「さて、地獄の坂道だな…」
こういう状況では、見るだけで嫌な気持ちにさせてくれる緩やかな坂道。
そして無駄に長い。
響歌先輩と初めて出会った場所。
咲と毎日通っている通学路。
宇城がかったるそうにのろのろ歩いている道。
尋ちゃんが…あれ?
この坂道で尋ちゃんを見たことってあったっけ?
無駄にでかい校門をくぐると、目の前に広がるのはこの桜坂だ。
そしてこの坂を登りきると、ようやく学校へと到着。
だから、尋ちゃんの姿を見たことがないのはおかしい。
来る時間帯が違うというのも考えられるが、俺と咲の登校時間は毎日バラバラだ。
だから、一回くらいは尋ちゃんの姿も見るはずだ。
「風よ~吹け~!」
その時、聞きなれた声が聞こえてきた。
周りを見渡しても、こんな遅刻確定の時間に人がいるはずもなく…いた。
顔の大きさに全然あっていないぶかぶかの真っ白な帽子を被る身長147センチ。
尋ちゃんだ。
「尋ちゃん?何やってんの?」
「え?あっ先輩、おはようございます!」
「うん、おはよう。で、もう遅刻の時間なんだけど…尋ちゃんは何やってるの?」
「?風よ吹けと念じていたんですよ。これが意外と難しくてですね」
当たり前じゃないですか~と笑う尋ちゃん。
…当たり前?
「そ、そっか。で、何で風に吹いてほしいの?」
「風を吹かせることができたらかっこいいじゃないですか!風使いですよ!」
興奮気味に話す尋ちゃん。
とりあえず、やっぱり尋ちゃんは変わっている。
うちの新聞部の部員たちは一癖二癖ある個性派ぞろいだけど、なるほど。
尋ちゃんも例外じゃなっかたということか。流石爆弾娘。
「じゃあ尋からも先輩に質問させてもらいますね!」
「うん、いいよ」
「こんな時間に先輩を見たのは尋初めてなんですけど、まさか先輩も遅刻常習犯への仲間入りですか?」
「なんか遅刻常習犯って素敵な響きの単語が聞こえたんだけど、仲間入りするつもりはないかな…って、仲間入りってことは、尋ちゃん遅刻の常習犯なの!?」
「はい。尋は遅刻においては、先輩よりも先輩なんで、遅刻に関する質問は尋に聞くといいですよ!」
えっへんと胸を誇らしくないことを、誇らしげにする尋ちゃん。
そして何故か褒めたくなる不思議。
「ということで先輩。今日は尋と学校さぼりましょう」
「何当たり前のような流れで、ダメなこと誘ってるの!?」
「むー。だって、どっちにしろ遅刻なら、今日はもう休んじゃいましょうよ!」
「ダメだから!それ完璧に不良だよ!?」
「不良でもいいです。先輩と一緒なら、不良にでも暴走族でも何でもなりますよ。
そして、先輩と一緒にバイクに乗ってブイブイ言わせるんです!素敵っ!」
「素敵っ!じゃないよ!とにかく、先輩としてそれは許さないからね」
「先輩って意外とお堅いんですねー。湊先輩に聞いていた話と大分違います」
あの女は後輩に何を吹きこんでんだ!
「先輩。お願いです!たぶん一生のお願いですから、今日だけは尋と一緒にいてください!」
真剣な表情でお願いしてくる尋ちゃん。
頭を下げたと同時に帽子が地面に落ちてしまった。
しかし、尋ちゃんは頭を下げたままで帽子を拾おうとはしない。
そんなに学校に行きたくない理由があるのかな?
尋ちゃんは頭を上げようとはしない。
俺は尋ちゃんの落とした帽子を拾って
「これ、宝物なんだよね?ずっと、地面の上に落ちたままにしてちゃ汚れちゃうよ。
ほら、尋ちゃんの行きたいとこつれてってあげるから、頭上げて。ね?」
尋ちゃんの願いを聞きいれてしまった。
その瞬間、尋ちゃんの顔が上がり、ぱっと笑顔に変わる。
「ほ、本当ですか!?本当にいいんですか先輩!」
「うん。だから、早く準備しないと…もし、こんなとこ先生に見つかりでもしたら…って」
そう言って周りを見回したら、いた。先生だ。
こっちのことをガン見している生活指導の鬼教師。独身の38歳。
嫌な相手に見つかってしまった。
「尋ちゃん!走るよ!」
「ふぇっ!?あ、ちょっ…先輩!?」
尋ちゃんの手をつかみ、坂を駆け下りる。
後ろから鬼教師の怒鳴り声が聞こえてくる。
ここで、もし捕まったら二人まとめてありがたいお説教。
BADエンド確定だ。
†
「はぁ…ここまで逃げれば大丈夫…かな」
やっと先生から逃げ切れた。
いい年して結構体力あるじゃなんかよ…予想外だ。
とりあえず一息つく。
「…尋ちゃん、大丈夫?」
「はふーっ…だ、大丈夫れす…はぁっ…ちょ、ちょっと疲れちゃいましたけど…っ先輩と一緒に逃げれたの…凄く楽しかった…からっ…はぁ」
笑ってはいるけど、さすがにここまで息切れしていると、大丈夫とは言えないだろ。
というツッコミはしない。
尋ちゃんなりに俺に気を遣ってくれてるんだ。
その気持ちを無駄にできない。
「そっか。じゃあ、どこかで休もうか」
「あ…せ、先輩?あの…これ、デートなんでしょうか?」
「え?」
そんなの全然考えてなかった。
確かにこれは客観的に見たら、デート中のカップルに見えるんじゃないか?
「あははっそうかもね」
冗談で言ってみた。
「はみゅっ!!!」
冗談のつもりだったが、尋ちゃんの反応は予想の斜め上のものだった。
顔を真っ赤にして、帽子で顔を隠してしまったのだ。
てっきりテンションが上がって、
「じゃあこのまま大人の階段を踏み越えちゃいましょう!」
とか言い出すかと思ったんだけど…いや、宇城じゃないんだから、そんなことは言わないか。
「先輩、あの…制服デートって尋は凄く憧れるんですけど、やっぱりこの時間帯に制服でどこかにお出かけするのは危険な気がします!」
確かにそうだ。
時間はまだ朝。昼までまだまだ時間はたっぷり残ってる。
「んー…どうする?」
「えっと…少しだけ尋の家に寄ってもいいですか?」
「うん。尋ちゃんの行きたいところに連れて行ってあげるよ」
「じゃあ、まず尋のおうちに行きましょう!」
…あれ?
よく考えたら、後輩(しかも女の子)の家に行ってもいいのか?
本人はOKしたとはいえ、さすがに男はまずいんじゃね?
†
…来てしまった。
今は尋ちゃんの部屋の座布団に座っている。
水色と白をメインにカーテンや、家具が揃えられている。
尋ちゃんにしては…と言ったら失礼だけど、落ち着いた部屋だと思った。
ちなみに家には誰もいなかった。
親は共働きで、今は仕事に出かけているらしい。
ということは、今この家には俺と尋ちゃんの二人っきり。
これは喜ぶべきことなんだろうけど、素直に喜ぶことができない。
「んー。先輩、デートといったら、やっぱりオシャレは大事ですよね。
何を着たらいいんでしょうか?先輩のお好みはどんな服ですか?
こっち?それともこっち?」
尋ちゃんは俺の前で、服をクローゼットから引っ張り出して、考え込んでいる。
相手は一つ下の後輩。関係は先輩と後輩。
普通に考えて危ない状況だろう。
「えっと…俺はどちらかというと、そっちのが好きかな」
「なるほど…。先輩は清楚なかんじが好きなんですね。勉強になります!」
「いやいや、こんなの勉強しても何の役にも立たないよ?」
「…先輩は凄く鈍感さんですね。まぁわかってたことですけど…。
尋は先輩のことだから、たくさんお勉強したいんです。学校の授業よりも、こうして先輩と一緒にいられる時間の方が尋にとっては、貴重でとても大切な時間です」
「そういうもんかな?」
「はい、そういうもんです!
で、先輩。今から尋は着替えますけど、やっぱり女の子の体に興味はあるんですか!?」
「えぇ!?」
「宇城先輩が言ってました!先輩くらいの年頃の男子は、女の子の体に興味がありまくりなんだぞーって!」
また後輩に変なこと吹きこんで!
いや、まぁ確かにそうなんだけどさ!
「ということで…ちょっと恥ずかしいですけど、先輩…」
「ぁ、あの…尋ちゃん?何で顔を赤く染めながら、こっちに迫ってきてるのでしょうか?」
思わず後ずさってしまう。
「先輩だから…ですよ。先輩だから、こんなこともできるんです」
その言葉を発した尋ちゃんは、普段のあどけない子どもっぽい尋ちゃんじゃなかった。
妙に色っぽい…。心臓の動きが早くなるのがわかった。
「先輩…」
壁に背中がぶつかる。
そんな俺の手に尋ちゃんは自分の手を重ね、もう片方の手で制服のネクタイを緩め始める。
なんか脱ぐ気満々じゃないですかこの子!?
「ちょっ…尋ちゃん!」
さすがに冗談じゃ済まされないぞこの展開!
「先輩。邪魔しちゃダメです。
尋、こういう時どうしたらいいか…ちゃんとわかってるんですよ?」
「ぃ、いや…そういうことじゃなくてだな」
「先輩、お口にチャックですよ」
そうして、細い指で唇を優しくなぞられる。
こ、これは…ッ!
いけない!早く尋ちゃんを止めないと、取り返しのつかないことになる!
「先輩…尋の胸、今凄くドキドキしてます」
「き、きぐうだね…俺もだよ」
何言ってんだ自分んんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!???
「えへへ…そう言ってもらえると嬉しいですね。
先輩、あの…尋、もう我慢できないです。…いいですか?」
「ぃ、いいっ!?」
それはいったい何の質問なんだ!?
「いや、ふ、普通に考えてみてくれ尋ちゃん!俺と君の関係は先輩後輩という健全な仲であって、そんな不純な関係になっていいかと聞かれたら」
「別に問題はないと思いますよ」
にっこりと否定される。
や、ややややばいいやばいやいやいやいあいいああああああああ!!
「それにしても…ふふっ、あはははっあはははは!」
いきなり尋ちゃんはお腹を抱えて笑いだす。
俺はというと、当然何のことかわからずポカーンだ。
「先輩っ…反応可愛すぎて、あははっもう…そんな反応反則ですよっ!」
「なっ…そんな笑うことないだろ!」
男が可愛いと言われて、黙っちゃいられない。
っていうか恥ずかしい。
「すいません。でも、ふふっ宇城先輩の言った通りでした。
先輩って本当に面白い反応をするんですね。からかっちゃってすいません」
いたずらっぽく軽く舌を出して、両手を顔の前で合わせる尋ちゃん。
…からかわれた?
「ちょっ…もしかして、さっきからのって全部俺で遊んでた!?」
「はい。すいません。でも、尋は楽しかったですよっ」
な、何ということだ。
じゃあなんか一人で本気になってた俺ってすっげー恥ずかしくない?
「うわっ恥ずかし!」
今になって恥ずかしくなり、顔を隠す。
「あははっ先輩そんな恥ずかしがらないでくださいよっ。
すっごく可愛かったんですから、逆に誇りを持つべきです!」
「誇り?」
後輩の女の子に可愛いと言われたことを、誇りに思えなんてそうやったらそんなに思えるんだ。
「はい。誇りです!たとえばですねー。
女の子に可愛いって言われるのは、男の人なのに凄いと思います!」
「逆に男だからこそ、屈辱的だよ!」
「じゃあじゃあ!後輩から可愛いと言われた男の先輩!」
「それこそもっと屈辱的じゃないか!」
「むぅ…。先輩はひねくれ者さんですねー。
素直に喜んじゃえば全ては丸く収まって、先輩も尋もはっぴーはっぴーすぺしゃるはっぴー☆
になるんですよ?二人のはぴねすです!」
ハッピーハッピースペシャルハッピー…。二人のハピネス…。
「それなんかいい!」
「でしょ!?流石先輩っ尋の気持ちをよく理解してくれてます!」
「うん!なんか二人ってとこがいいね!」
「はいっ尋の望んでる世界です!みんなはっぴー!」
二人でハイタッチをする。
何だこのほのぼのというか、独特の世界観。
これも爆弾娘のスキルか?みんなハッピー…なかなかいいことを言うと思った。
ていうか、気づいたら尋ちゃんのペースに持ってかれてる!?
「尋ちゃん。もうそろそろ出かける?」
さすがに女の子の家に、長い時間いるのはアウトだろ。
いや、もう玄関越えて部屋に入っちゃった時点でアレかもだけど…。
「あ、着替えるんなら、俺外に出とくから」
「ふっふっふー。覗いていきますか?」
「丁重にお断りさせていただきます」
にこやかに尋ちゃんの誘いを断る。
尋ちゃんの抗議の声を背中で聞きながら、部屋から出て廊下に座り込む。
「…正直、危なかったなぁ」
あんなに尋ちゃんが積極的だとは思わなかった。
いくら冗談だとしても、限度をはるかに超えていた…気がする。
それとも、今ではあれが先輩後輩の正しい付き合い方なのか?
いかん。まともに女の子と付き合ったことがなかったから、何が普通なのかわからん。
もしかしてあれか?
俺って結構考え方が昔の人?
それって現役高校生としてどうなのよ。
どうなのよ自分!
…はぁ。それにしても、尋ちゃん遅いな。
いや、時間にしても俺が部屋を出てから、10秒弱しか経ってない。
さすがにそんな高速では着替えられないよな。
ましてや女の子だし、身支度とか時間かかるだろう。
「俺は何をやってんのかねぇ」
普通に考えれば今の時間は、退屈な授業を受けているはず。
しかし今の俺はというと、後輩(かなり可愛い女の子)と遊んでる。
アレじゃね?かなりの幸せ者っていうか…かなりの不良。
「いや!そんなことは考えるな!」
そんなことを考えて遊んだって、何も楽しくはない。
だから雑念は全て捨てる!楽しむことだけを考えるんだ!
「よしっ大丈夫!」
「何が大丈夫なんですか?」
「え?うぉわっ!!!」
突然の声にびっくりして、態勢を崩しそうになる。
「ひ、尋ちゃん?何、着替えてないけど、どうしたの?」
「いえ、気が変わったんで、このまま制服デートに直行しようかと思って。
そんなことより、何が大丈夫で、何が危なかったんですか?」
「ってぇ!どこから聞いてたの!?」
危なかったって俺が言ったのって、かなり最初の方じゃなかったか!?
「えーっと、尋の体内時計が正しければ、百年くらい前ですね!」
「尋ちゃんの体内時計がかなり狂ってるっていうのはわかったよ」
「ぶっちゃけるとですね、最初っから先輩の独り言は聞いてましたよっ」
まぁ…そうなんだろうね。最悪だ。
「………………あのさ」
「あっ大丈夫です!先輩って独り言の多い人なんだなぁ。とか、先輩ってなんか一人でふさぎこむタイプの人なんだなぁ。とか、先輩ってなんかどうてーっぽい反応だなぁ。とか、先輩って」
「もうやめてっ!!!??」
あまりにも当たりすぎて…じゃなくて。
あまりにもぶっちゃけまくるから、止めるタイミングが遅れてしまった。
「っていうか、どうてーってどこで覚えたの!?」
「湊先輩です!」
あの歩く⑱禁教科書は、今度どうにかしなくてはいけないらしい。
「先輩先輩!」
「ん、どうしたの?」
宇城への拷問メニューを考えていると、尋ちゃんが袖をひっぱてきた。
「もうデートに行きませんか?時間がもったいないです!
あ…家に行きたいって言ったの尋なのに、わがままですいません。
でも、ほんとに先輩と一緒にいる時間が、減っていくのがもったいなくて…すいません」
ぺこぺこと頭を下げる尋ちゃんが、なんか微笑ましく見えて軽く頭を撫でる。
「ひ、ひゃあっ!?しぇ、しぇんぱい!?」
「あははっ尋ちゃん、ちゃんと言えてないよ」
「あうぅ…それは、いきなりでびっくりしたから…恥ずかしくて…ですね」
だんだんと声が尻すぼみになっていき、しまいには俯いて帽子で顔を隠してしまった。
妹みたいで可愛いなぁ。
妹がいたら、きっとこんなかんじなんだろう。
「よぅし!じゃあ、遊びに行こうか!」
なかなか進もうとしない尋ちゃんの手を握り、片手を上げて一歩進む。
「て、手ぇ!先輩の手!手照って下へフェ手手照って得て得てt」
最後の方はもう日本語ではなくなっていた。
†
「もう…死んじゃいそうです」
真っ赤な顔のまま机の上に突っ伏した尋ちゃんが、そう一言言葉を漏らす。
「いやいや。まだそんな年じゃないでしょ」
笑ってそう言うと、軽く顔を上げて俺を指差す爆弾娘。
「もとはといえば、先輩が恥ずかしいことをたくさんするのが悪いんです」
ジト目+赤面+ロリ=萌え。
なるほど。俺の中でこういう方程式が成り立ってしまった。
「もう尋は恥ずかしすぎて、天にも昇ってしまいそうな勢いです。
先輩はアレですか。尋に何か恨みがあるというのですか。恐ろしい!」
とか何とか言いながらも、その表情はどこか嬉しそうで、俺がずっと握っていた手を微かににぎにぎしている。
しかも、「じゃあ離す?」と言ったところ、「先輩は尋が迷子センターに届けられても、通用する見た目だと言いたいのですか!?」と言い返され、その会話以降は尋ちゃん自ら、手を握っていた気がするんだけど。
「ツンデレ?」
「なっ…べ、別に尋はそんな属性持ってないです!勘違いしないでください!」
ノリがいいって大変だなぁと思った。おわり。
「おまたせしましたー」
そんな会話を続けていると、俺ら二人分の昼食が運ばれてきた。
「あ、ありがとうございます!」
尋ちゃんがそう店員にお礼を言う。いつものにっこりだ。
その尋ちゃんの笑顔に、店員の女の人も笑って「どういたしまして」と言う。
なんというか…ほのぼのだ。
そして、俺と尋ちゃんって傍から見たら、彼氏と彼女に見えるんじゃないか?
よくよく周りを見てみる。
平日であるはずなのに、何故か客はカップルカップルカップル。
来る店間違えたか?
なんつーか、めちゃくちゃ居づらいんだけど。
「先輩先輩!」
「あ、どうした?何かこぼしたの?」
「こ、子ども扱いしちゃダメですよ!その前に何もこぼしてません!
って、そうじゃなくて、先輩のそのオムライス美味しそうですね!」
「え?オムライス?」
尋ちゃんが俺の前におかれたオムライスをガン見している。
目はきらきらと輝いているし…。
「食べる?」
「はい!食べたいです!」
素直に頭を縦に振る尋ちゃん。
で、別に俺の分をわけてあげるのは別に全然構わないんだけど…。
「尋ちゃんもオムライスだよね?」
尋ちゃんの前におかれたのは、俺とまったく一緒のオムライス。
「せ、先輩のと同じ味なのか気になるんです!」
「いや。同じ店のだから、味も同じだと思うんだけど?」
「こ、細かいことはどうでもいいんです!ぁ、あーん」
言い終わった途端に目を閉じて、小さな口をこれまた小さく開いた尋ちゃん。
「え?」
「あーん、です」
また口を開く尋ちゃん。
これはもしかしてアレですか?
あのカップルたちがよくたっているアレですか?
「あーんして」「あーん」「はい。あーん(はぁt」
頭の中でそういう光景がすぐに展開される。なるほど。
尋ちゃんはこれをデートと言ってるし、細部までデートっぽくしたいんだろう。
でもこれって、普通は女の子からするものなんじゃね?
「ぁ、あーん」
もう一度、自信なさげに尋ちゃんのあーんがくる。
細かいことは気にせず、俺は一口分のオムライスをスプーンに掬うと、ゆっくり尋ちゃんの小さな口へと運んだ。
「はい、あーん」
「あーん」
スプーンを口の中に入れる。
口から抜くときに、カツンッとスプーンが軽く歯にぶつかる音がした。
しかし、尋ちゃんは気にせずにもぐもぐと咀嚼。
「ん、っ…ふぁあ、美味しいです」
飲み込んだ尋ちゃんは幸せそうにそう呟く。
「えへへっ…先輩に食べさせてもらっちゃった♪」
照れたようにそう言いながら微笑んでいる。
「じゃあ、尋からも先輩に…はい、あーんってしてください♪」
「えぇ!?俺も!?」
びっくりだ。
予想はなんとなくできてたけど、なんかびっくりだ。
「尋ばっかり食べさせてもらうのは、悪いじゃないですか。だから、お返しですっ」
ずいっと口の前に、一口分のオムライスが乗ったスプーンを出される。
「う…っ」
「先輩?もしかして、お腹いっぱいですか?」
いや、正直めちゃくちゃぺこぺこだ。
でも、恥ずかしさの方が空腹よりも気持ち的に勝っている。
俺が躊躇しているのを、どう解釈したのか
「あっ口うつしをご希望ですか!?」
「ちがああああああああああう!!」
「むぅ…じゃあ、はい。大人しくあーんってしてください!」
さっきよりもスプーンを近づけられる。
眼前に迫ったスプーン。
ここは男として勇気を出すべきなんじゃないか?
ていうか、女の子にばっかりさせるのって、男としてどうなんだよ!
俺は意を決して、口を開きあの言葉を口にする。
「ぁ、あーん」
尋ちゃんのように目は閉じないが、声の大きさは恥ずかしさのせいで、同じように小さくなってしまう。
「はい。あーん♪」
にっこりとほほ笑んだ尋ちゃんが、優しく口の中にスプーンを入れてくれた。
「ん」
それを食べる。そしてスプーンが抜かれて咀嚼。
「お味はどうですか?先輩っ♪」
飲み込んだのと同時にそう聞かれる。
「ん、美味しい」
恥ずかしくて気のきいたコメントができなかった。
「先輩と間接キス…しちゃった。えへへ」
「え?何か言った?」
「あっ!な、何でもないです!先輩の真似で、独り言です!」
「またその話を掘り返すか!?」
「えへへ~。それより先輩、次は尋の番ですよ。あーん♪」
「ま、また食べさせるのか!?」
「当たり前じゃないですかー!はい、あーん」
「ぅ…こうなりゃヤケだ!どんどん食えー!!!」
†
目の前を歩くのは白くて大きな帽子を被った俺の後輩。
その後ろ姿はとても小さい。ランドセルがよく似合う…と思う。
その後輩は凄く可愛くて、とてもクールでビューティーな大人の女性だ。
夕日の見える海岸沿いを俺とその娘は歩いていた。
夕日のオレンジの色が、その娘の魅力を引き立て、大人の魅力がムンムンと溢れて…
「先輩。回想の中で謝っても、尋は怒ってますよ」
「う…ごめんなさい」
あの後、完全にヤケになった俺は、尋ちゃんにどんどんオムライスを与え続けた。
相手は小柄だ。その分食べる量も、俺よりはるかに少ない。
しかし、ヤケになっていた俺は、そんな当たり前なことも考えられず、与え続けた!
これでもかというくらい与え続けた!
その結果がこれだ。
「なーんて。言ってるだけで、本当は全然怒ってないですよ、先輩っ」
「え?怒ってない?」
「はい。ただ、ちょっとお腹がきついかなーってかんじです。
でも、これぐらいよくあることですし、尋は気にしてませんよ」
にぱーっと目の前の女の子は無邪気に笑う。
「あー。でも、ごめん」
「先輩は謝らなくてもいいですよん♪…よっと」
ちょっとした段差の上に乗り、両手を肩の高さまで上げて、バランスを取りながら俺の少し前を歩き続ける少女。
「ちょっと先輩の困った顔が見たくて、怒ったふりをした尋が悪いんですから、先輩は謝っちゃダメです。先輩は少し謝りすぎなとこがありますよーっ…ととっ」
少しバランスを崩しかけた。
「朝も言いましたけど、先輩って自分だけでふさぎ込みやすいタイプですよね?
それ、よくないですよー。頼ってほしいって思ってる人間…先輩の周りには、たくさんいると思いますよ。そして、尋もその一人だったりしますっ」
そう言って、くるっとこっちを振り返る尋ちゃん。
「もっと、周りを頼ってあげてください。先輩の力にならせてください」
表情は笑っているが、真剣にそう言われる。
「今のところは先輩、悩みとかなさそうですけどねー。
もう昨日とか凄かったですよ!もう、この世は終わりだぜべいべー!って顔してましたもん」
「俺そんなに酷い表情してた?」
「はい。こんなかんじでした!」
尋ちゃんは自分の頬を横に引きのばし、所謂変顔をする。
「うわっ!これは酷い…ってか、尋ちゃんの顔っはは…あはははっ!」
「あーっ笑いましたね!?これ先輩の顔の真似なんですよ!?」
「改めてそう言われるとショックかも…」
「ふふーん!どうだまいったかー!」
「まいりました!」
「やった!じゃあ、先輩罰ゲームですよ!」
「ちょっ…汚っ!?そんなの聞いてない!」
「だって言ってませんもん!それに、今決めたから尋も今まで知りませんでした!」
「なんというひねくれた考え!」
「ひねくれってのは、先輩みたいな人に使う言葉だと思います!」
「何をー!!!」
「っぷ…あははっ、今の先輩の顔…あははははっ可笑しい…っはは」
本当に面白そうに心の底から笑われる。
そんなに俺の顔っておかしいのか?
アレか。自分で思っている以上に、残念な顔してるのか俺は!?
「ふふっ…先輩って本当に一緒にいて楽しいっ!
出会えてよかった。こんな楽しい思い出できてよかったですっ」
「うん。俺も尋ちゃんとの思いでができてよかったよ」
よく考えたら、尋ちゃんと二人だけっていうのは、珍しい組み合わせだと思う。
尋ちゃんと絡むことはあっても、絶対に咲や宇城がいたからな。
主に宇城か。何故か、学年が違うのにこの二人は一緒にいるんだよな…。
お互い同学年にも友達はたくさんいるくせに。
まぁ、先輩後輩仲がいいのは良いことだし、文句は全然ないけど。
「あー。帰りたくないなぁ」
尋ちゃんがポツリと、そんなことを漏らす。
日が沈みかけている。
もうタイムリミットだ。
流石に家に帰らなければ、家族のみんなが心配するだろう。
「でも、今日はもう帰らなきゃね。家まで送っていくよ」
少し寂しそうな顔で、小さく頷き尋ちゃんは、俺の隣に並んで軽く袖を握ってきた。
†
尋ちゃんの家の前まで来る。
今日はもうここでお別れだ。
「またね。尋ちゃん」
だから、手を振って帰ろうとすると、呼びとめられた。
「せ、先輩!また、また一緒に不良デートしてほしいです!」
「うん、いいよ。でも、今度は不良デートじゃなくて、普通の休みの日にゆっくり遊ぼうね」
俺のその言葉に尋ちゃんは嬉しそうに笑うと、
「はいっ!その時はまたよろしくお願いします!」
元気よく頭を下げた。
その拍子にまた帽子が落ちる。
慌てて拾おうとする尋ちゃんより先に帽子を拾い上げる。
「ぁ、ありがとうございます!」
「どういたしまして。でさ、遊びのことだけど、条件を出してもいい?」
「はい。ホテルとかの予約なら、前もって尋がしますよ」
「いや、その心配は一生しなくてもいいと思う。
で、その条件だけど、遅刻常習犯脱出。これを達成できたらって話で」
「…尋朝弱いです。でも、先輩との約束なら頑張ります!
それで、達成できたら毎週デートですよ!?覚悟しておいてくださいね!」
毎週はきついかもなぁ。
でも、まぁ本人が努力しての結果だし…。
「うん。わかった。覚悟しとくから、頑張るんだぞ!
じゃあ、今日はありがとう。また明日の朝会おう!」
「はいっ!絶対に脱出してやりますよーっ!
では、また明日ーっ!!」
ブンブンと手を振る尋ちゃんに、同じように大きく手を振り返す。
そして、しばらく手を振りあった後に尋ちゃんが家の中に入るのを確認してから、俺もまた自分の家へと歩きだす。
明日の朝かー。
絶対に咲から今日のこと問い詰められるんだろうなぁ。
尋ちゃんに会う前に死んでなきゃいいけど…。
今日は尋ちゃんとの距離が少し縮まった気がする。
意外な一面を見ることもできたし、尋ちゃんという人間がよくわかった。
結論からすると、
「やっぱり一緒にいて飽きない子だよなぁ…爆弾娘」
爆弾娘の二つ名は、伊達ではなかったと実感した。
尋ちゃん可愛いよ尋ちゃん!むっはー!
な共通√第3話終了です!やったね藍靜!
お久しぶりです。更新かなり遅れてしまいました。
そして、今回は皆さんの待ちに待った尋ちゃんメインのお話。
今回の話で、一番喜んだのは藍靜意外の何者でもない気がします。
前回の咲メインの話とは違って、かなりのラブコメっぷりだったんじゃないでしょうか?もう昼食の件とか、共通√ってのを忘れかけてましたよ←おい
で、今回の話は他のヒロイン達が出てきてないんで、尋ちゃんファンじゃない読者様からしたら、かなり納得いかない回だと思います。
でも、そんなの知ったこっちゃありません(*´ω`*)どーん←黙
はい。じゃあ、藍靜がぶっ壊れてきたので、恒例?の不等号コーナー始めますよ!
今回のお題は、
「ヒロインの中で一番性的知識が豊富なのは誰か!?」
です。
うっわwくだんねぇwwwww
と思ったそこの貴方!まさにその通りだYO!!!ww
しかし、いちいちそんなん気にしてちゃ先に進めないんだぜYOU
ということで、早速ふとごっていきます
(不等号していきますの略。流行語大賞狙えるかもしれないw嘘だけどww)
湊>>>>>>>>>>>>>(越えられない壁)>>>尋ちゃん>>>>咲>>響歌
湊最強説浮上www
でも、湊が最強なのはこっち方面限定…だと思う。
現段階では、そうだと思う。
そして、響歌先輩は乳の大きさ以外は、全て最下位。
純情なチェリーガールなんだよ。うん。
尋ちゃんは、今回の話でわかった通り、湊からいろいろ吹きこまれてます。
咲は湊やら、他の友達やら雑誌やらテレビやらから情報を得ています。
つまり、二人ともただの耳年増。
詳しくは何も知らないお嬢さんたちです。
はい。じゃあ、不等号コーナーは終了して、次回のちょっとした予告でも…。
次回はお待ちかねの湊さんですよ!
何だかんだで、一番安定してるヒロインだと思ったり思わなかったり…。
でも、読者様からの人気は一番少ないかなぁ…と不安だったり。
サブとしてのが、彼女の魅力は輝くんじゃないかと悩んだり…。
はい。そんな微妙な立ち位置の湊さんがメインです。
いろいろやらかしてくれると思います。
では、次回も読んでくださると光栄です^^
あ、それでですね。第3話が遅れた言い訳とかを、ブログにて愚痴愚痴言ってるんで、何で遅れたんだよ!?って方は、ブログをご覧になってください。
お手数かけてすいません。
では、今回はこのへんで失礼します。ノシ