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ヤンのちデレ!  作者: しりこだま
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好きだからこそ言えなくて…。

好きだからこそ素直になれない。


1人の女の子として見られたい。

そんな叶わぬ願いを胸に秘め、昔からあたしはあいつの隣にいる。


気持ちは1日進むごとに募っていき、あたしの心を更に締めつけていった。

「で、何であんたは朝からこんな状況なわけ?」


何も変わらず朝の通学路。

爽やかな5月の空の下。咲がぱきぽきと、白い布の巻かれた両手の間接を鳴らす。



「いや、話すと長くなるお話でして、できれば咲さんにもお話したくないかなぁ…なんて」


「へぇ…。あたしに言えないようなことがあったんだ?響歌先輩と…。

こいつら全員先輩のファンクラブとかいって、結局はストーカー行為してる変態たちでしょ?

じゃあ、まとめて倒しても問題ないわよね?」


俺たち2人をぐるっと囲んだ、むさくるしい集団。ざっと数えて10人はいるだろう。

そして、確かにその集団は、全員先輩のファンクラブのメンバーたちだ。

んでもって、何故か俺と咲はそのメンバーたちから囲まれている。


うん。理由はなんとなくわかる。

というか、思い当たる節があるとすれば、昨日のことだろう。


あの学園のアイドルと呼ばれる響歌先輩と、廊下を一緒に歩いていたのだ。

一緒に歩いていたのが、俺じゃなくて咲たちなら問題はなかった。

でも、俺は男だ。女じゃないのだ。


つまり、それが意味するのは抜け駆けという言葉。



「ねぇ。あたしたち、早く学校に行きたいのよ。そこ、どいてくれる?」


「じゃあ聖さんだけ行けばいいだろ!俺たちが用があるのは、その夏川だけだ」


咲の殺気で怯えるメンバーたちだが、怖い気持ちを押し殺して反抗的な態度をとる。



「ふーん。そんなこと言うんだ?あたしだけに逃げろって言ってんのよね。それ。

このあたしにこのバカを置いて、一人のこのこと逃げろって言ってるのよね?」


大事なことだから2回言ったらしい。


「そんなみっともないこと、あたしがするとでも思ってるの?あんたたちバカ?」


「だから、俺たちは聖さんには遥はないんだ!早く夏川を渡せよ!」


「渡せよ?何それ。それじゃあ、あたしがこのバカを守ってるみたいな言い方じゃない!」


犬歯をむき出しにして、咲が怒鳴る。



「もう我慢できない!もし、これで遅刻したらあんたたちのせいなんだからね!

あたしがおとなしくしてる内に、早く道をあけなさい!邪魔よ!」


「咲。俺は大丈夫だから、お前だけでも先行けよ」


時計を見るともうすぐでチャイムが鳴る。

このチャイムが鳴ったら、完全に遅刻決定だ。


「今から走ればまだ間に合うし、お前の身体能力なら問題ないだろ?」


「何それ?あんたまで、あたしに一人みじめに逃げろって言ってんの?」


ぴくっと先の眉が動く。



「っざけんじゃないわよ!あんた一人置いてったら、こいつらにあたしの大切な玩具壊されちゃうじゃない!あんたで遊んでいいのは、あたしとあたしの認めた人間だけよ!」


うがーっと吠えられる。


「で、でも…それじゃお前が遅刻…」


「だーっもううるさいうるさいうるさい!

小さい頃の約束!あたしは何があっても、あんたから離れない!忘れたの!?」


もちろん覚えている。

そう言いかけた瞬間、聞きなれた優しい声が聞こえた。



「おはよう。咲ちゃん、陸くん」


全員が我に返ったように、その声のした方に目を向ける。


「今日はたくさんお友達がいるんだね」


にっこり。いつもの笑顔で、響歌先輩がそこにいた。



ファンクラブの皆さんに目をやると、はっとしたように我に返り


「ぼ、僕たち夏川くんのお友達でーす☆」


「ひっ聖さん!今度、一緒にお茶なんかどうかな!?」


きゃるーん☆と、女の子もびっくりの笑顔で、俺と咲の肩に手を回してきた。



「ちょっやだ!触んないでよ変態!」


咲は本気で嫌そうに、その手を払いのけようとしている。


咲きの肩に腕を回しているファンクラブ会員Aは、顔面真っ青だ。

可哀想に。どうやら、死刑になるのは俺じゃなく、このAくんのようだ。


「そうなんだ。みんな仲がいいのはいいことだよー。先輩さんも嬉しいな」


天使だ。何もわかっていない天使の笑顔だ!



だんだんいずらくなってきたのか、メンバーの一人が、

「じゃあ、僕たちはそろそろ行こうか」

そう言うと、ファンクラブメンバー数十人は、そそくさと逃げて行った。



「ふんっ…朝から不愉快にさせてんじゃないわよ…」


咲きが小さく鼻を鳴らし呟く。


「それじゃあ、私も行くね。邪魔しちゃったみたいでごめんね」


そう言って、先輩も行ってしまった。



「さて、俺達も行くか。もう時間がないし」


「…言われなくてもわかってるわよ」


ツンとそう言い残して、咲はさっさと行ってしまう。

咲の冷たい態度はいつものことだが、今日の咲は一段と冷たい。


やぱり朝からむさ苦しいのに絡まれて、自分の手で倒せなかったのがくやしかったんだろうか?

どういう理由にせよ、さっきのファンクラブメンバー達からの襲撃は、俺のせいだし謝っておこう。


「咲。ごめん、あれ俺のせいなんだ」


「あれって何のこと?」


「いや、だから絡まれたことだよ。あれ俺が原因なんだ」


「…陸が何やってようと、あたしには関係ないから…謝られても困るんだけど」


むっすーと頬を膨らませ、目も合わせようとしない。

あー。こりゃ相当お怒りだ。



「じゃ、あたし行くから。じゃあねッ!」


「いったああああああ!?」


別れの言葉と同時に、強烈な一撃が俺の脚にヒットする。

どうやら蹴られたようだ。痛い…。

咲は痛みに悶絶する俺を一瞥すると、背中を向けスタスタと歩いて行ってまった。






「ほぅ…。それで、聖とは喧嘩したままなのか」


一時間目が終わった休み時間。

ニヤニヤと笑いながら、湊が話しかけてくる。

ちなみに湊の席は俺の隣だ。


「あぁ…。って、俺湊に何も言ってないぞ!?」


「夏川の顔を見ればわかる。聖と何かあったという顔をしているからな」


「お前って何でそんな無駄に鋭いとこあるんだよ」


「それは褒め言葉として、受け取っておくよ。ありがとう」


ニコニコと嫌みをお礼で返される。



「それで、仲直りはしないのか?」


「仲直りってそんな簡単に言うけどな。あいつ怒らせたら、結構大変なんだぞ?」


「それはわかっている。わかってて言ったんだ。夏川の困惑した顔が見たかったからな」



とことんひねくれた性格のお嬢さんだこと。



「ふむ。で、喧嘩の原因は?」


「そんなことまで宇城に言えるわけないだろ」


「僕に隠し事をしても意味がないぞ?夏川のことなら、髪の長さからナニの大きさまで把握している」


「何でそんな本人も知らないようなこと知ってんだよ!?」


「そりゃ夏川だからな」


「答えになってねーよ。ていうか、俺のこと何でも知ってるんなら、わざわざ俺の口から聞かなくてもいいだろ」


「…それは、夏川も聖のご機嫌斜めの理由がわかってないと…そういう解釈をとってもいいか?」


「…何で、お前はそんなひねくれたことしか言えないんだよ」


「ふむ。褒め言葉だな。まぁ、本人が理由をわかってないようじゃ、仲直りは当分先の話だな」



そう宇城が言ったところで、教科担当の先生が教室に入ってきた。





「仲直りしたか?」


「はえぇよ!まだ、授業が終わって1分も経ってないだろ!?」


「僕は心配してるんだよ。いつもの君たちの賑やかな、夫婦漫才が見られないのは、

僕の学園生活の半分を損しているということになる」


「お前は学校に来る半分の理由が、俺と咲のやり取り目的なのかよ」


「まぁそういうことだな」


どんだけ暇なんだこいつは。



「ぅん…。少し協力してやろう。このままじゃ、僕もやりにくい」


宇城がしょうがないというように、首を振る。


「さて、ではまず作戦を立てよう。敵を殺るには、まず作戦からだ」


そう言ってパラパラと、使い古されたメモ帳をめくる。

ていうか、殺るって…宇城は何をする気なんだ。

こいつの場合、冗談が冗談に聞こえないから困る。


「で、ツッコミはまだか?」


「え?」


「ツッコミだツッコミ。殺るって目的違うだろー。とか、そのメモ帳は何の意味があるんだー。とか。

あれか?聖との喧嘩のせいで、ツッコミまでもできなくなったのか?

それは物語の登場人物。しかも、主人公としてどうなんだ?このたこすけ野郎」


やる気のない目をしながら、一気にまくしたてられる。



「お前はあれか!ボケ殺しか!女殺しじゃなく、ボケ殺しか!」


「いやいや、意味わかんねーよ。んなことより、宇城にそこまでしてもらうのも悪いしいいよ。

どうせ咲のことだから、時間が経てばまた普通に話しかけてくるさ」


「…夏川は鈍感か?いや、聖の気持ちに気付いてない時点で、鈍感野郎決定だな」


「?」


「何、こっちの話だ。流石主人公。しかし、鈍感すぎるのは周りをイライラさせるだけだ」


「あ、あぁ。でも、鈍感って俺のこと?」


「この会話は中断しよう。話が一向に進まんからな。

今は、聖と夏川の仲直り大作戦~湯けむり殺人事件、有名旅館の火照った夜~について考えよう」


「長いよ!まず、殺人起きるの!?やっぱり、さっきの殺るってのは本当だったのか!?」


「ははっ冗談だ」


だから、冗談に聞こえないんだよお前のは。

でも、宇城なりに俺を元気づけてくれているというのはわかる。

何だかんだで、宇城は優しい。そしてよく気が利く。

ふざけてるふりをして、俺を元気づけてるんだ。



「ありだとう。宇城」


「礼を言うのはまだ早いぞ?」


「とりあえずだよ。とりあえず、ありがとう」


「…や、やめろ。そんな面と向かって、何回も礼を言われると…その、照れる…」



珍しく宇城が恥ずかしそうに俯く。

あ、可愛い。そう思ったのは秘密だ。


そして、さっきから気になる視線が一つ。

俺の席から見て真逆の席。咲の席だ。

そこには、殺気を周りに振りまく一人の幼なじみの姿。


「…これは早いとこ謝んないとなぁ」


理由はわかっている…つもりだ。

正直考えて、朝の一見以外に俺があいつを怒らせる原因はない。


「ちょっと、咲んとこ行ってくるわ」


「ん、ああ。頑張ってこいよ」


宇城が小さくガッツポーズをして、応援してくれた。

まぁ…。何だかんだで、それでかなり慰められてる俺がいるんだよなぁ。

悪いのは自分のはずなのに、それが凄く嬉しい。



「なぁ、咲。ちょっといいか?」


さっきまで人を殺せるんじゃないかと思うくらい、

熱い視線を送ってくれていたのに、いざ話しかけると不機嫌そうに頬を膨らませ、目を合わせようともしない幼なじみちゃん。困ったなぁ…。


「咲、あの…朝のことはごめんな」


とりあえず、聞いてるかはわからないが、頭を下げて本気で謝る。



……。

咲からの返事はない。

様子を見てみるか?でも、謝ってる途中で頭を上げるのってどうなんだ?


俺は頭を下げたままの姿勢で、咲からの返事を待つ。

クラスメートが、「何だいつものことか」と、慣れっこのみなさんで良かった。


「あんたは…何もわかっちゃいないのよ」 


「え?」


思わず頭を上げてしまう。

わかってない?俺が?



「咲が今怒ってるのは、朝に俺のせいであいつらに絡まれたからじゃないのか?」


「…あいつらは関係ない。あたしが怒ってんのはあんただけよ」


「いや、だから全面的に俺が悪いから謝罪を…」


「だから、それがわかってないって言ってんのよ!」



ガタンッ!と、咲が机に手をつきイスから勢いよく立ちあがる。

その反動でイスは後ろに倒れ、クラスのみんなからの視線が集まる。



「あんたは何もわかってない!あたしの気持ち、全然わかってないじゃない!

それなのに何で謝れるの!?気持ちもわかってないくせに、どうしてそうやって謝ることができるの!?

いっつもそう!あんたは自分で勝手に物事を決めつけて、それが本当かどうかもわからないのに、平然と謝りに来る!どうしてわからないのよ!?」


「ぉ、おいっ!聖、少し落ち着け!」


見かねた宇城が止めに入る。

そんな宇城の手を振りほどき、咲は後味悪そうな顔をすると、そのまま教室から出て行ってしまった。


我に返り、咲の背中を呼びとめる。



「咲!授業は!?」


こんな時に何授業の心配してんだ俺は!

こんな状況なのに、気の利かない自分に苛立ちを覚える。


「帰る」


そう一言告げて、咲は廊下の曲がり角を曲がってしまった。


「ッ」

「ま、待て!夏川、お前も少し落ち着くんだ!

授業がもう始まる!お前まで授業をサボる気か!?」


咲の後を追おうとした俺の腕を、宇城が必死に掴む。



「確かに聖のことも大切だが、今は授業最優先だ。そうだろう?」


どうすることもできなくて、俺は宇城の言われるがままに席に着く。

クラスのみんなも気を遣ってか、何事もなかったようにまた各自の席に戻る。


そして、先生が来て咲の席は誰もいない状況のまま授業は開始された。





放課後になり、ずっと待っていたけど結局咲は戻ってこなかった。


俺は帰りに咲の家に寄ろうと思い、部活に向かった。

もしかしたら、咲がいるんじゃないか?若干の期待を込めて。


予想通り…と言ったらアレだが、やっぱり咲はいなかった。



「あ、先輩!こんにちはです!」


一番乗りだったらしい尋ちゃんが、俺に元気な笑顔を向けてくる。


「うん、こんにちは」


「あれ?先輩元気ないですねー。どうかしましたか?」


尋ちゃんにまで心配をかけてしまった。


「尋でよければ、先輩のお力になりますよ。どーんと任せちゃってください!」


「あ…いや、尋ちゃんに頼むまでのことじゃないから、大丈夫だよ」


「むむむ…先輩嘘はダメですよ?顔に書いてます。尋ちゃん助けてーって

もしかしたらもしかしてですけど、尋じゃお役には立てませんか?」


「そ、そんなわけじゃないよ!ただ、尋ちゃんに迷惑かけたくないんだ」



あれから宇城は、喧嘩が悪化したのは自分の責任だって言って、酷く落ち込んでしまっていた。

何とか元気づけることに成功したが、まだどことなく気にしている様子があった。

尋ちゃんまで、あんなにしたくない。



「うん。尋ちゃんにはずっと笑っててほしいんだよ」


「そ、そうですか?じゃあ、尋はずっとずーっと先輩の傍で笑ってて、先輩を元気にしてあげます!」


人懐っこい笑みを浮かべ、俺の手を両手でそっと握る。



「今はお役に立てないかもしれませんが、尋も先輩のお役に立てることがあったら進んでお役に立ちたいんです。今は少々頼りないかもしれません。

でも、いつか必ず先輩が尋のこと頼ってくれるって信じてます。

だから、今はこうして先輩に元気パワーを注入しますよ~」


むむむーと小さな唸り声をあげて、尋ちゃんは何かを念じるようなしぐさをする。

宇城もそうだが、俺の周りの人たちはどうしてこんなにいい人ばっかりなんだろう。


「ありがとう、尋ちゃん。元気出てきたよ」


笑ってあげると、尋ちゃんはさっき以上に眩しい笑顔を浮かべた。





「こんにちはー」「こんちゃー」


響歌先輩と宇城が一緒に部室へと入ってくる。


「こんにちは」「こんにちはです」


俺と尋ちゃんは、同時に2人を迎える。



そしてみんなが席に着き、そこで響歌先輩が気づいたように口を開いた。



「あれ?今日は咲ちゃんは?もしかして、早退しちゃった?」


ぽかんと1人分空いた咲の席。

いつもなら咲が座っている席。

主のいないその空間が妙に寂しく思えた。



結局、咲は部活終了まで待っても来ることはなかった。





「夏川」


帰ろうとしていると、ふと宇城に呼びとめられた。


「今から聖の家に行くのだろう?それなら、僕からのアドバイスをしてやろう。

…まぁ、小さかった事を大きくしてしまった僕のアドバイスなど、アテにならないかもしれんが、聞くだけ聞いてほしい。聞きたくなかったら、聞き流してくれても構わない」


そう告げると、宇城はゆっくりと息を吸い、話し始めた。



「夏川。君が本当に聖と仲直りをしたいと思うのなら、もう少し聖の気持ちを考えてやるべきだ。

言っておくが、夏川1人が悪いというわけではない。しかし、夏川が本当に気づいていないというのなら、僕は何も言わない。後は聖がどうするかだからな。

でも、もし夏川が聖の気持ちに気付いているというんなら、君のやっていることはただの逃げでしかない。

現実を受け止めろ。聖のことを考えてやれ。以上だ。

まぁ、通りすがりAの呟き…とでも思っていてくれ。では、またな」


そう言い残して、宇城は俺に背を向けて走り去って行った。


宇城の言ったことは、一言一句逃さずに聞いた。


咲の本当の気持ちを考えてやれ、か…。

あの時、咲が急に不機嫌になったのは何が原因か。

あの時、あの瞬間、何が起きた?


俺は朝の出来事を、必死に思い出す。

そして咲の言った言葉を思い出す。



「っ…そうか!」


咲が怒っている原因。

それに気づいた俺は、咲の家へと走っていた。

咲の家は俺の家の隣。目的地は変わらない。


俺は全力で走る。走る。走る。





俺は咲の家の玄関の前にいた。

インターホンに伸びた人差し指が、ここにきて震え始める。


咲に謝らなくちゃいけない。

自分の過ちにやっと気付いたんだ。

謝って、また元の関係に戻るんだ。


そう決心してインターホンを押した。


喉を鳴らして唾を飲み込む。

咲に対してここまで緊張したことがあったか?


いや、俺の記憶が正しければなかったと思う。



「…結局は形だけの謝罪だったってわけか」



咲が怒る度に、俺は形だけの謝罪で済ませ、咲はそんな俺を許してくれていた。

俺は咲の優しさに気付いていなかった。


後悔したところでもう遅い。過ぎた時間はもう戻ってこない。


「そう。過ぎた時間は、どう頑張っても戻ってこないんだ」


その時、ガチャ。と、小さく玄関の扉が開き、咲が顔を覗かせた。



「さっきから人の家の前で、何ブツブツ独り言言ってんのよ。気持ち悪い…」


インターホンを押したのが、俺とわかった瞬間、表情を曇らせる咲。

でも、ここで怯むわけにはいかない。


「俺、また咲に謝りに来たんだ」


その言葉を聞いた瞬間、咲の表情が怒りへと変わる。



「あんた、あたしが言ったこと聞いてなかったの!?」


「聞いてた!聞いてたからこそ、今、こうして謝りに来たんだ!」


咲が息をのむのがわかった。

俺は話を続ける。


「確かに咲が言うように、俺はお前のこと何もわかっちゃいなかった。

いつもわかったつもりでいたんだ。だから、咲が怒った時も咲からしたら、形だけの謝罪しかしてなくて…。それで、今日の件もそうだ。

俺は勝手に自分で解釈して、お前の気持ちなんか全然わかってないまま謝ったんだ。

でも、考えてわかった。お前が何で怒っているのか」


咲は無言のまま、俺の話を聞いている。


「お前は」

「待ちなさいよ」


そして無言だった咲が、突然口を開き俺の言葉をさえぎる。



「あたしが怒った理由くらい…あたしに言わせなさいよ。あんたばっかり悪者になるの…あんたが許しても、あたしが許さないんだから」


そう言って、キッと俺を睨みつける。

いつもの咲だ。



「あたしは朝。どうして陸が、あいつらに囲まれなきゃいけないのか理解できなかった。

でも、どんなに気持ち悪い奴らに囲まれても、あたしは陸の隣を離れるつもりはなかった。

陸の隣は今はまだあたしの席だから。だから、何があっても動かない。そう決めてたのよ。

なのにあんたはあたしに先に行けと言った。そして、どうしてこんな状況なのか教えてもくれなかった。


結局、最終的に陸を助けたのはあたしじゃなくて、響歌先輩だった。


それにあんたは、もう忘れちゃってるみたいだけど、小さい頃の約束。

あたしはあんたの傍をずっと離れない。

それを忘れられてるのが一番辛くて悔しくて…」


ポロポロと咲の頬を数粒の涙が伝い落ちる。

産まれた頃からずっと一緒だった咲の初めて見せた涙だった。


「み、見んな!バカ!見ないでってば!」


自分が泣いていることに気付き、急いで手の甲で目をこする。



「…いや、お前は勘違いしてる」


そう言って咲の頭に手を置く。

正直、泣いてる女の子を目の前にして、抱きしめるくらいするべきなのか迷った。

でも、相手は咲だ。小さい頃からずっと一緒だった。


だからなのかわからないが、抱きしめちゃいけない。

そんな気がした。だから、頭を優しく撫でる。


「俺は咲とのあの約束を忘れてない」


「ふぇ?」


涙目で首を傾げる咲。

あまりの驚きに自分が涙目のことも忘れたらしい。



「だから、俺は咲との約束を今まで忘れたことがない」



みるみる咲の顔が赤くなっていく。


「なっ、じゃ、じゃあ何であそこで忘れてないって言わないのよ!?」


「いや、言おうとしたんだけど響歌先輩がタイミングよく来ちゃったからさ」


「意味分かんない意味分かんない!え…じゃあ何!?

あたしは勝手に勘違いして、勝手に怒って勝手にみんなに心配かけて…はぁっ!?」


「や、まぁごめんな」


「そこで謝んな!…うぅ。何よそれ。信じらんない。

じゃあ、あたしあんたのこと言えないじゃない。あんたのこと何もわかってないのに、勝手に勘違いして…何よそれぇ。バカじゃない。あたしただのバカじゃない」


真っ赤な表情のまま、下唇を軽く噛み、咲は自分を責める。



「ご、ごめん陸!謝るのはあたしの方だったみたい!」


そう言って、頭を深く下げられる。


「い、いや、頭上げろよ。咲は悪くないんだし!な?」


「ダメよ!あんたが許しても、あたし自身が許せないわ」


「じゃあこうしよう。二人で一緒にごめんなさいだ。これなら問題ないだろ?」


俺のこの提案に少し考える咲。

最初は不満そうだったが、まぁなんとか納得してくれたようだ。


「じゃあ、あたしがせーのって言うから、そしたら二人でごめんなさいね。わかった?」


すっかりいつもの調子に戻った咲がそう言う。



「せー」


「ごめんなさい」


「の…って、あんたそれフライング!反則よ!バカ!テイク2しなさいよ!

ちょっと、聞いてんの!?何で鼻歌歌いながら帰ろうとしてんのよ!?ねぇ、聞いてんの!?

待ちなさいってば!陸っ陸ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」





その日の夕方、6時過ぎ。

ある少女の怒りの声が、ここらいったいに響き渡った。


しかし、その少女の表情と気持ちは嬉しそうで。

少年と少女の関係はほんの少し近づいた。

関係は近づいたが、少女は素直になれず天の邪鬼なままだった。

共通√第2話終了です。


今回はツンツン幼なじみの咲をメインにした話でした。

第1話と比べたら、結構シリアスなかんじ?


まぁ、たまにはシリアスもほしくなりますよね。

でも湊が絡むと、シリアスな状況もアッチ系の話にもっていきやがります。

でも、それも彼女なりの良心。


KYだなんて言わずに、可愛がってやってくださいw


では、今回もどーでもいい余談コーナー!

メインヒロインたちの胸の大きさを不等号で表してみた。


響歌>>>>>湊>>(越えられない壁)>>咲>>>>尋


ぺったんぺったんつるぺったんな尋ちゃん可愛いです。

そして響歌先輩はかなりの巨乳。

湊も意外と大きいキャラです。

そして、今回メインだった咲。手に収まりがいい大きさしてます←


この小説に濡れ場はない予定なんで、この設定も無駄に終わっちゃうんですけどねぇwww


では、また次のお話で!^^


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