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ヤンのちデレ!  作者: しりこだま
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1/8

共通√ 《1》

ヒロインが全員ヤンデレのハーレムラブコメ小説始まりました。


まず始めにこれからの予定。

共通√→各個別√の流れのerg形式。

個別√にて、グロ描写ありの予定。

※苦手な人は回避してください。


タイトルがヤンのちデレとか言ってますけど、実際は最終的にデレのちヤンになる気がががw

そういう細かいことは気にしないでください。


誤字脱字があった場合は申し訳ありません;

この小説にただのイチャラブを求めてるんなら回れ右!

もれなく、血が流れるシーンもくっついてきますよ!


では、始まります!



「帰宅部ってモテないイメージ強いよねー」


そんな声が聞こえた気がした。

あそこで話しているクラスの女子2人組みだ。


というか、聞き捨てならん!


確かにモテるイメージはないかもしれないが、帰宅部にだって、

彼氏の1人や彼女の1人くらいいるに決まってるだろ!


そして、耳に入ってくる新しい声。

おっ、この声は帰宅部ABCの声じゃないか!

いっちょここで、帰宅部の本気を見せてやれ!


「天使ちゃんマジ天使!俺の嫁(^ω^)」

「その幻想をぶち壊す!けーおん見ようぜww」

「澪たん可愛いよー。唯ちゃんも可愛いよー。うんたん♪」


………………。

まぁ…。帰宅部ABCも、画面の中に彼女っつーか、嫁がいるみたいだし…ね。

こうなったら、俺が彼女を作って帰宅部の汚名返上してやる!





と、言っていた時期もあったなぁ。

ほんの一ヶ月前の出来事が、懐かしく感じるよ。年かな?

今俺は、新聞部という部員の少ない廃部寸前の部活に所属している。


帰宅部?何それおいしいの?

諦めろ。俺、夏川 陸(なつかわ りく)っていう男は、こういう男なんだ。


「陸くーん。次の記事の会議開くよー」


回想終了。同時に言い訳タイム終了。

先輩のぽわぽわした声が聞こえてきた。


「はーい」


入部した時に指定された自分の席に着く。

横長の机を2つくっつけて、会議の準備は終了だ。

ちなみに俺の席は入り口側の右側。

隣には、幼なじみの聖 咲(ひじり さき)。前には1つ下の後輩、瀬野崎 尋(せのざき ひろ)ちゃん。

斜め前に同じクラスの宇城 湊(うしろ みなと)。そして、真ん中に鍵山 響歌(かぎやま きょうか)先輩。


部員は俺を含めて5人しかいなく、俺が入るまでは後1人いたんだけど、

急な転校が決まり、部員が5人以下の部活は廃部。というこの学校の決まりで、

廃部になりかけたところに、咲に無理やり引っ張られてきた俺の登場というわけだ。


最初は仮入部のつもりだったけど、何故だか居心地がよくて正式な部員となった。


「はい。じゃあ、今回の見出しはどうする?」

にこやかに部長である先輩が俺達に問う。


「んー。尋はやっぱりどかーんと、インパクトのある見出しにしたいです!」


「それを見出しというんだぞ?瀬野崎」


「えー。でも、こう…インパクトのあるものの方がいいじゃないですか!」


「ぅん…。じゃあ、宇城先生による思春期男女の為の性講座というのはどうだ?

なかなかのインパクトだと思うぞ。僕もやる気が出てきた。

夏川!助手として、君も手伝え。僕と濃厚な性行為をして、それを写真に撮って全校新聞に載せる」


「普通に考えてダメだろ!っていうか、何で俺なんだ。別に宇城の相手くらい

そこらへんにいっぱいいるだろ!?」


「先輩!ちなみに尋は興味津津です!」


「そんなことはどうでもいい!」


ダメだ。何故か宇城&瀬野崎ペアは放置しておくと、どんどんカオス空間が広がっていく。


「まぁ、僕からすると、夏川の意見の方がどうでもいい。君に拒否権があると思ってるのか?

それに…僕は夏川相手だからいろんなことができるんだ。

夏川のしたいこと、僕なら何でも叶えてあげられる自信があるよ」


「ちょーっと待ったぁ!何勝手に話進めてんのよ!陸に拒否権がなくても、私が意見を出す権利はあるでしょ!?

まず、全校に貼りだす新聞なのに、そんな不健全な内容のもの出せるわけないでしょ!

せっかく廃部から回避できたのに、また先生たちから目つけられちゃうじゃない!」


「は、廃部は尋も困ります!で、でも湊先輩の内容も激しく気になります…。

先輩!尋はどうしたらいいんでしょうか!?未だかつてない人生の選択を強いられています!」


「いや、俺からするとそこまで重要な選択でもない気がするんだけど…」


「はっ…閃いたぞ!瀬野崎のロリロリ日記を書こう!」


「なっ何ですかその身の危険を感じる内容は!?」


「瀬野崎の休日の行動を全て記録したものを、見出しとして執筆するんだ。

あの新聞の隅っこにある4コマの拡大版みたいなノリで!」


「それもダメに決まってるでしょうが!もうっ、湊はもうちょっと真面目に考えるべきなのよ。

何でそんなマニアックな内容しか思いつかないの?まったく……」


この部活唯一のツッコミ役である咲がため息をつく。


「んー。なかなか考えがまとまらないね。もういっそのこと、今までの意見全部やっちゃう?」


今までこの時間の無駄ともいえる論争を、黙って聞いていた先輩が口を開く。

確かにこのまま決まらないで進むよりは、今まで出た意見をおもいきって全部やるというのも楽しいかもしれない。


「って、ダメに決まってるじゃないですか!先輩、それマジで言ってるんですか!?」


「私は本気しか言わないよ?陸くん」


この人本当に今までの話聞いてたのか!?

それさえ疑問に思えてくる。あきらかに全部アウトだろう。


「だって、陸くんと湊ちゃんの思春期の性知識っていうのは、保健の勉強にもなるしいいんじゃないかな?

尋ちゃんの1日日記は、なんか楽しそうだしねぇ。うん、採用!」


「「えぇぇぇぇええぇぇ!?」」


俺と咲の叫びがはもり、部室内に響く。


「いやいや、ダメでしょ響歌先輩!もういい!1つずつつっこんでいくわ!

まず、このバカと湊の性知識っていうのは普通にアウト!絶対にただじゃ済まないわ!

で、尋ちゃんの日記はなんか尋ちゃんの人権に関わることだからダメ!それに、もしもだけどストーカー被害にあった場合、あたしたちの責任でしょ!もう問題どころじゃないわ。前代未聞よ!

というわけで、湊が今まで出した案は全部却下!響歌先輩が許しても、あたしが阻止するわ!」


みんなでおおっと驚きの声をあげる。

咲の本気を見た気がした。基本的にめんどくさいで済ませる咲が、久しぶりにここまでつっこんだのは久しぶりに見た気がする。

このメンバーの中で、1番の常識人といったら、咲がダントツで1番に輝くだろう。


先輩は世間知らずの箱入り娘。

尋ちゃんは天然全開の爆弾娘。

湊においてはまず論外だ。


咲がいるからこの新聞部は成り立っていると言ってもおかしくはないだろう。


「じゃあどうしようか?」


また振り出しに戻ったため、先輩がぐるっと俺てちを見回す。


「僕は少し自重するとしよう。このままふざけていたら、聖のその自慢の腕でボコボコにされてしまうからな。さて、夏川。じゃあ僕たちはあっちの更衣室で、愛の営みに励むとしよう」


立ち上がろうとした湊を咲が制す。


「本当にぼこぼこにしちゃってもいいのかしら?」


「…………。聖は冗談が通じないなぁ。まさか僕が本気で、こういうことを言うわけがないだろう?

別に聖の大切な玩具を、奪う気なんてないから安心するといい。

だから、とりあえずその握りしめた拳をおろしてくれると安心できるんだけど」


咲が渋々といったかんじで拳をおろす。

咲の拳にはおしゃれのつもりかわからないが、毎日ボクシングの時に巻くような白い布が巻かれている。

喧嘩上等。と言っているようなもので、面白がって話しかけてくるナンパ野郎たちを、幾度となくその拳で撃退してきた。


その拳の餌食になるのは、他人に迷惑をかける不良だけではなく、俺にも向けられる。

俺に対して向ける理由は陸だから。なるほど…わからん。

理不尽にも程があるだろう咲さん。


「いつも思うんですけど、咲先輩のその白いのかっこいいですよねー。尋もほしいです」


「尋ちゃんだって可愛い帽子をいつもかぶってるじゃない」


可愛い帽子というのは、尋ちゃんが毎日被っている真っ白な帽子で、尋ちゃんの頭に対してかなり大きい物だが、本人からしたらかなり大切な宝物らしい。


「あぅ…みんな、次の記事の内容…」


鍵山先輩が涙目で、俺たちを見ていた。

しまった。今は雑談タイムじゃなく、会議中だった。


「す、すいません。じゃあ考えましょうか」


俺が謝ると響歌先輩は嬉しそうに頷いた。うん、可愛い。


「じゃあ私考えたんだけどね。やっぱりここは部活動紹介とかいいと思うの。

ほら、新しく1年生も入ってきたわけだし、部活動紹介で尋ちゃんの同級生のみんなが、自分にあった部活を見つけられるかもしれないでしょ?どうかな?」


「あ、いいですね。でも、今の時期だとちょっと遅くないですか?」


カレンダーに目をやると、5月14日。

少しどころかかなり遅い気がするが…。


「そうだねー。じゃあ、どうしよう…内容を考えるのも難しいなぁ」


「じゃあ響歌先輩の案を参考にして考えたんだけど、部活動じゃなくて生徒会とかならどう?

ほら、まだずいぶん先の話だけど、生徒選挙とかもあるわけだし、今のうちに生徒会の仕事を把握してもらえれば、立候補者も増えるかもしれないじゃない?」


「ふむ。それはいい考えだな。でも生徒会か…。問題があるとするなら、あの頭の固い奴らが、僕たち新聞部に手を貸してくれるかどうかだな」


「それはないけど、生徒会側からしても悪い話じゃないし、別にいいんじゃない?

まぁ絶対に大丈夫っていう根拠はないけどね。頼むだけ頼んでみればOKしてくれるかもしれないでしょ?」


「それもそうだな…」


よく見ると、あまり感情を表情に出さない湊が嫌そうな顔をしている。

マイペースで自由人な湊からしたら、自分の行動にセーブをかけてくる生徒会が嫌いなのかもしれない。

確かに湊の言うとおり、生徒会は頭の固い人達で構成された組織だ。

そして、うちの新聞部は廃部寸前のしかも問題児ばかりが集まった部活。

簡単に頷いてくれるかはわからない。


「じゃあ今回の見出しは生徒会のお仕事で決定でいいかな?」


鍵山先輩の最後の問いに、俺と咲は頷く。

しかし、向かいに座る尋ちゃんと湊からは、いつもの元気な返事が聞こえなかった。


よく見ると湊だけじゃない。尋ちゃんもいつもの笑顔は消え、暗い表情をしている。


「尋ちゃん。どうかした?」

試しに声をかけてみると、尋ちゃんの体はビクッと強張り、気がついたように俺の顔を見る。


「は、はい!どうかしましたか先輩?」


「いや、元気がないように見えたからどうしたのかなって思って」


「げ、元気ですよ!先輩は心配性さんですねぇ。それとも、尋だから心配してくれたんですか?

えへへ、それだと尋はかなりの幸せ者ですね。でも、ただの考えごとなんで、心配しなくても大丈夫ですよ!尋はいつも通り、元気な尋です!」


作り笑顔。

一目でわかった。尋ちゃんのいつもの自然な笑顔ではなく、何かを必死に隠そうという必死な笑顔。

そうまでして気づかれたくないことなら、まだ知り合って間もない俺の深入りはよろしくないだろう。


「そう?じゃあ、何かあったら言ってね。いつでも力になるからさ」


「それは、先輩としてですか?それとも、1人の男の人としてですか?」


「え?」


「なーんて、湊先輩のまねをしてみました!びっくりしました?」


「ほう。僕のモノマネとはいい性格をしているじゃないか瀬野崎。

でも、妖艶さが足りないな。もっと女の全てを使って夏川の男の部分を引きずりだすんだ」


「って、あんたはまた何変なこと後輩に教えてんの!油断も隙もあったもんじゃないわね!」


「僕は自由奔放な人間なんだ。いつ、どこで、僕が何をするかは僕しかわからないことだよ」


「湊先輩かっこいいです!」


「瀬野崎。こういう先輩を目指して、日々努力するといい」


「わかりました師匠!尋は立派なれでぃーになってみせます!」


びしっと敬礼をきめる尋ちゃん。

湊と咲が気をまわしてくれたみたいだ。よかった。

湊も何だかんだでいい先輩じゃないか。


「というか、鍵山先輩は…って、うわぁ!?」


鍵山先輩が机に突っ伏して、干物になっていた。


「いいんです。私は空気。酸素として、みんなの役に立てる存在でもなく、二酸化炭素として悪役になることもなく、ただ何のスポットも浴びない窒素のような存在なんだよ。ちっぽけな人間だよね。

ふふ…。部長として、先輩としての威厳も見せれず、ただただ空気としてこの世界を浮遊しつづける気体同然の存在なんだよ。ふふふのふ…」


なんというネガティブな発言。

ってか、この人自分が学校のマドンナだっていう自覚はないのか!?

スポットを浴びないって…かなり浴びまくってますよ。

隠れファンクラブとかも設立されてるのに気付いてないんですか!?


どれだけの男が寝る前に先輩のことを考えて、眠れない夜を過ごしていると思ってるんですか先輩!


「う…かなり鬱ってるな。夏川君の出番だ。好きなんだろう?好きな相手のあんな姿など見たくないだろう?なら、元気づけてこい。とりあえず、僕は逃げ…退散する!ではなっ」


そう言って、窓から飛び下りる宇城。


「って、ここ3階!」


慌てて下を見ると、綺麗に着地した宇城が、自分の荷物を持って校門へと駆けていく姿が見えた。


「ったく、なんなんだあいつは…って、咲!?尋ちゃん!?」


2人がいたイスは既に誰もいなく、2人の荷物も無くなっていた。

ということは、今この部室にいるのは俺と先輩の2人っきり!?


干物と化した先輩の姿を確認!

男夏川陸!勝負に出ます!


「先輩!元気出してください。先輩は十分魅力的で素敵な女性です!

ここだけの話ですけど、ファンクラブもあるくらいで、先輩は学校中から愛されている存在なんです!

だから、安心してください。先輩は空気なんかじゃないですよ。鍵山響歌っていう、俺の自慢の先輩です。

だから、元気出してください。ほら、いつものほわーんとした癒し系の笑顔を見せてくださいよ」


俺が言葉を発するたびに、先輩の背中が小動物のようにピクっと動く。

何これ可愛い。

抱きしめたい衝動しかられるが、我慢我慢。

学園のアイドルを抱きしめたりした非には、俺の命は絶命するだろう。

はい、深呼吸~。吸って吐いて。理性を保つんだ。よし、大丈夫!


「先輩、ほら元気出してください」


「陸くん」


もう一度励ましに入ったところで、先輩が俺の名前を呼んだ。


「はい」


「私のこと先輩って見てくれるの?」


「さっきも言ったじゃないですか。先輩は、俺の自慢の先輩ですよ。だから、安心してください」


「り、陸くんっ!」


いきなり何か柔らかくて、いい匂いのものが抱きついてきた。

ここで思考一時停止。


「せ、先輩!?ちょっ、え?先輩!?」


我に返り、みっともなく慌てる俺。しっかりしろよバカ!

自分にいくらそう言っても、全然落ち着けなくて、むしろさっきから心臓バクバクでいろいろとヤバいんですけど!


「陸くん!陸くんも私の大事な後輩だよ!大好きーっ」


「ふおぉぉおお!?」


ま、待て待てッ待てッ!

早まるな自分!これは成り行きだ!先輩が嬉しさのあまり、成り行きで言っちゃっただけだ!

そう、成り行きで!

大事なことだから、何回でも言うぞ!成り行き成り行き成り行きやっほおおおおおおう!!


「えへへー。陸くん、ありがとね。先輩さんは嬉しいよ」


にっこりとエンジェルスマイルで見上げてくる先輩。

俺からも抱きしめたあああいっ!!!!


「か、鍵山せんぱっ…むぐっ」


先輩にストップをかけようとしたところに、唇に柔らかいものが触れて、口をふさがれた。


「陸くん!私は陸くんのこと、名前で呼んでるのに陸くんは私のこと名字なんて、そんなのずるいよ!

ね、私のことも名前で呼んでほしいな。ダメ?」


俺の唇に人差し指を当てた状態で、上目づかいで首を傾げる先輩。

俺もうこのまま死んでもいい!

このまま先輩に抱かれたまま死んでもいい!

死因:萌え死。かっこ悪い?何とでも言えよ!はんっ!


「私のこと、名前で呼んでくれるんなら指離してあげるね」


正直離してほしくないです。

この時間が一生続いてくれたら、俺もうかなりの幸せ者です!

今ならもも太郎だっけ?あいつの気持ちがわかる気がする!

(正しくは浦島太郎)


「陸くんっ私は本気で言ってるんだよ?聞いてる?」


「は、はいっ聞いてます!」


「じゃあ、はい。響歌先輩って、咲ちゃんみたいに言って言って!」


「う…」


いざ、名前を呼ぼうとすると、緊張する。

仮にも…いや、仮じゃなくて、この人は俺の憧れの人で、俺なんかじゃどう頑張っても、この人の隣に並び立つことはできなくて…じゃあこの状況はなんだ?夢?妄想?


いや、現実だ。現実を認めろ俺!


「きょ…」


「うんうん」


名前を呼ぼうとするが、次の言葉が出てこない。

緊張のせいか、喉が渇いてきた。


「きょうっ」


「はい、そのままそのまま響歌先輩って呼んで呼んで」


にっこり笑顔。この笑顔には勝てない。


「響歌…先輩」


「陸くんっありがとう!よくできました!先輩さんが褒めてあげるね」


なでなでなで。頭を優しく撫でられる。

悪い気はしない。むしろ気持ちいい。でも、めちゃくちゃ恥ずかしいぞチクショ―!

なんか鍵山…じゃなくて、響歌先輩を元気づけようとしたのに、なんか違う方向に話が進んでるよ。

でも、にこにこ笑いながら、本当に嬉しそうに俺の頭を撫でる先輩を見ていると、俺のやったことは間違ってなくて、先輩は元気になってくれた。そんな気がした。


「じゃあもう一回読んでみようか。はい、響歌先輩って呼んでみよー♪」


「えぇええぇえぇええ!?」


「陸くんっ」


「う…響歌先輩」


「えへへー♪」


ダメだ。この人には一生かかっても勝てそうにない。

っていうか、反則すぎる。その笑い方は反則すぎます先輩!


「あ、みんな帰っちゃったんだね。ごめんね。私のせいで」


しゅんと申し訳なさそうに、頭を下げる先輩。

いや、どっちかというと、みんな逃げたんだろうね。あいつらが悪い。うん。

湊とかおもいっきり逃げるって、言いかけてたし。

あいつ明日覚えてろよ!


「んー。このままじゃ、会議もできないし、私たちも帰ろうか。時間もちょうどいいしね」


時計の針がさすのは、6時前。

窓の外からは、運動部の元気な練習の声が聞こえてくる。


「それもそうですね。帰りましょうか」


俺と響歌先輩は部室を後にし、玄関へと向かった。

途中廊下ですれ違う奴らが、こっちをジロジロ見てきたが、それもそうだよな。

俺が今一緒にいるのは、この学園のアイドル。

男女問わず人気があるあの鍵山響歌先輩なのだ。

注目を集めても仕方がない。明日学校で、ファンクラブの奴らから死刑宣告を受ける可能性があるな。

遺書を書いておこう。まぁ負けるつもりはないが。


他愛もない話をしながら、響歌先輩と夕暮れの廊下を歩く。

なんつーか、これってかなり美味しい状況なんじゃないのか?


「陸くん」


名前を呼ばれる。


「は、はいぃ!」


「明日も部活、来てくれるよね?」


俺の声が裏返ったのを、おかしそうにクスクス笑いながら、響歌先輩はそんなことを聞いてきた。

そんな当たり前な質問に対して、俺の答えは一つしかなく。


「当たり前じゃないですか。俺、新聞部の空間気に入ってるんで、毎日かかさず来るつもりですよ」


俺のその答えに、本当に嬉しそうに笑いながら、先輩はよかったと言う。

憧れの人の笑顔は、本当に可愛くてその笑顔を見ていると、さっきの状況が脳内に


「フラッシュバック!!!!!」


「っ!?えっと…ふ、ふらっしゅばっく?」


つい叫んでしまった。

響歌先輩が不思議そうにつぶやく。


「あ、い、いや。何でもないです。ちょっと叫びたかったなんて…はは」


「?」


頭の上に疑問符を浮かべながら、俺の隣をちょこちょこと歩く先輩。


「あ、じゃあここでさよならですね。先輩っ」


生徒玄関に着いたと同時に、俺は逃げるようにそう言った。

なんてヘタレな男なんだ自分!


「え?一緒に帰らないの?」


「え゛!?」


予想もしなかった先輩の言葉に、喉の奥から変な声が出る。


「いや、一緒に帰らないのかなーって。あ、もしかして用事ある?」


ちょ、ちょっと待て!本当に何なんださっきから!

響歌先輩といえば、ガードが堅いことで有名じゃないか!

そこも人気の1つなんだけど、これはガードが堅いって言えるのか!?


えぇい!そんなことを考えている暇はあるか!

あの響歌先輩と一緒に帰ろうと誘われているんだ!

一緒に変えあらないバカはどこのバカだ!バカ!


考えがまとまった俺は叫ぶ。


「いえ、是非ご一緒させてくださいッ!」





てくてくてく。

4月には桜が満開だった桜並木を、俺は今憧れの人と歩いている。

てくてくてくてくてくてくてくてく。てくてく。


何だこの美味しい状況はッ!

尋ちゃんじゃないけど、未だかつてない大問題だぞこれは!いい意味で!

うぅ…緊張で胃がきりきりしてきた。でも、これも嬉しさによる痛み。

苦痛ではない。


「陸くんと初めて会ったのも、この桜並木だったよね」


ふと、響歌先輩がそんなことを口にした。

俺と響歌先輩が初めて会った時のこと。覚えててくれたのか?

何というかそれはその…凄く嬉しいことなんじゃないのか?


「陸くんは覚えてるかな?初めて会った時のこと」


忘れるはずがない。

俺の初恋の始まりで、今もその気持ちを俺は引きずってるんだ。


「あの時の陸くんは、まだ子供っぽさが残ってたよね。あっ別に今が老けてるとかそんな意味じゃないからね!勘違いしちゃダメなんだよ!?」


「わかってますよ。確かにあの時の俺は子どもでしたね」


俺のその言葉を聞いて安心したのか、響歌先輩は落ち着きを取り戻し、また話し始める。


「うん。今はあんな無茶はしてないよね?」


「してませんよ。少なくとも、響歌先輩に助けられてから俺は変わりましたから」


「本当かなぁ?もう、心配かけさせちゃダメなんだよー」





先輩との出会い…。今でも鮮明に思い出すことができる。


まだこの学校に入学したての俺は、ちょっと思春期をエンジョイしていて、まぁその結果悪い感じのお兄さんたちに捕まっていたのだ。

金をよこせーなど、聞き取りにくい日本語かもわからないナメック語で、唾を飛ばされながら絡まれている俺を、通行人は見るだけで助けようとはしなかった。

俺もそれで構わないと思っていた。

適当に聞き流して、事が終わるのを気長に待っていた。


突き刺さる視線視線視線。正直不愉快だった。

可哀想などと思うだけで、行動には移そうとしない偽善者たちの視線。

不良たちよりも、そっちの方が俺にとっては不愉快だ。


そして、何も言わずに反抗的な俺の態度についに頭がプッツンした不良Aが、俺に掴みかかり拳を振り上げた。

俺は置く場を噛みしめる。ただ、表情には出さない。

弱いところを敵に見せたら、そこで終わりだからだ。

そして殴られることを覚悟したその時だった。


「待って!」


真っすぐと、怯えも含まない真っすぐな言葉が、俺と不良たちの間に響いた。


「こんな道のど真ん中で、何やってるの!?暴力で物を解決しようなんて考えちゃダメ!

そして、そこの君も先輩たちに対する態度を考えなきゃダメだよ!」


凛とした声だった。

こんな状況で、不良相手に正義きどってんのは、どこのどいつだ?

そう思って、声のした方に目を向ける。


それは、桜色の腰まである長い髪と、大きな黒いリボンを頭につけたかなりの美人だった。

腰に手を当て、目をまっすぐと俺たちに向けて、迷いのない表情は格好よくて。

俺はそんな状況の中、その女の人に見とれてしまっていた。


「ほら、君たちもそんな荒っぽいことしてないで、学校に行くよ」


そう言って、俺の胸倉を掴んでいる不良Aの手を、強引に引き離す。


「はい、学校に行く!悪いことばっかりしちゃ、先生たちにまた怒られちゃうよ?」


びしっと、学校の方を指差す。

不良グループは一つ返事で、その指差した方へと駆けて行った。


「凄い…」


あの不良グループに真正面から立ち向かって、学校に行けとまで説教した。

驚きのあまり、率直な意見を漏らしてしまう。


「ぅん?凄い?私凄いのかな?」


さっきまでの凛々しい表情ではなく、春の陽気のように暖かい頬笑み。


「先輩として後輩くんを守るのは、当然の義務だよ。だから、いつでも私を頼ってね。

君はもう少し周りを見て、そしてもう少し周りの人に頼ってもいいんじゃないかな?

うん。まぁ1人の先輩さんの意見として、胸の中に置いといてくれたら嬉しいかも。

じゃあ、私はもう行くね。君も早くしないと、遅刻しちゃうよー!じゃあ、またね」


ひらひらと手を振り、走り去っっていく先輩。

お礼さえ言っていなければ、名前も聞いていなかった。


暖かい人だと思った。

その頃の俺に、まともに説教してくれるのは咲くらいで、俺も咲以外の人間には心を開かなかった。

だからこそ、先輩の言葉は俺の心に響き、俺は気づいたらその先輩に憧れを抱いていた。


気づいた時にはもう遅くて、お礼さえ言っていなければ、名前も聞いていなかった。

後からわかったことだけど、名前は鍵山 響歌(かぎやま きょうか)1つ上の先輩で、うちの学校のアイドル的存在だったんだという。


そして、2年生に進級して、新聞部に入部して再び再会を果たしたというわけだ。





「本当にガキっすね」


「うん。お子様だったねー」


恥ずかしすぎる。黒歴史認定だよ。


「あ、そうだ。先輩。改めて、あの時はありがとうございました」


「え?ゃ、やだな陸くんっ。もう終わったことだよ!お礼はいらないよ!」


ぶんぶんと両手を振る先輩だが、感謝の気持ちは変わらない。


「いや、あの時の先輩の言葉のおかげで、今の俺はいるんですから。

たくさん感謝させてください」


「あうぅ…。先輩さんをあんまり困らせちゃダメなんだよー」


頬を赤く染め俯いてしまった。本当に可愛いなぁ先輩!


「あ、わ、私こっちだからまた明日学校でね!だね!」


さっきの俺のように、逃げようおする先輩。


「あ、送っていきましょうか?」


「だ、大丈夫だよ!私のが陸くんよりお姉さんなんだし、1人で帰れるよ!」


「そうですか?残念」


「ざ、残念!?陸くんは、私を家まで送りたかったの!?」


「まぁ…そうなりますね」


ぼんっと音がする程、真っ赤になって先輩は小さくうきゃー!と叫ぶ。


「ま、また明日!またね!」


「あ、はい。また明日」


2、3歩進んで、ピタッと先輩の歩みが止まる。


「お礼を言いたいのは私の方だよ。陸くん。ありがとう。

あのね、また今度…一緒に帰ってくれると嬉しいな。なんて…言ってみたんだけど、大丈夫かな?

そ、それと!次帰る時は、家まで送ってって言えるようにするね。うん、それだけ。

じゃあ、本当にまたね!」


背中を向けたまま、それだけを一気に言い終わると、先輩は恥ずかしそうに走り去って行った。


小さくなっていく先輩の背中を見ながら、俺は聞こえるように大きく叫ぶ。


「響歌先輩!こちらこそありがとうございましたあああああああ!」


そして、先輩とは逆方向に向かって、俺は歩き始めた。

明日は鍵山ファンクラブからの死刑宣告があることも忘れて。

どうも。藍靜というものです。


とりあえず、共通√第1話終了です。

いきなりですが、私はヤンデレが大好きだ。

そして下ネタが大好きだ。


作者の夢と希望を、ただ書きなぐった妄想小説に付き合っていただき、ありがとうございました^^


なんかラノベ×ergみたいなノリで書いたつもりです。


さらに余談を書くなら、藍靜のお気に入りキャラランキング

尋>>>(越えられない壁)>湊>>>>>>>>>響歌=咲です。

ロリ大好きです。ショタも好きです。

つまり、ただの変態です。


何だこの後書き?w

物語とは全然関係ないので、読まなくても大丈夫ですよーw


主人公は某nice boat...の主人公のように

あっちふらふらこっちふらふらのヘタレにはしないので、

あの主人公にイライラした人は安心してください。

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