「温泉宿」
とにかく迷走して、どうやって文章書いてたっけ?ってなってた回。
旅行先で立ち寄った軽登山道での休憩中、真後ろで物音がした。もうその時点で十分に気味が悪いのだが、物音だけでなく枯葉を踏みしめる音までしてきた。
虫か鳥か風か、とにかく大したものではないだろうと物音がした時点で振り返らなかった自分が憎い。時間が経つほどに、恐怖感が増して仕方がない。
音を殺して他人の後ろに立つ人間や動物が、危害を加えてこないわけがない。もう振り返ってしまおうか。後ろにいるのが人間なら挨拶だけして速足で逃げればいい。動物であったとしても挨拶だけして速足で逃げればいい。枯葉を踏む音だって聞き間違いかもしれないのに、真後ろに猟奇的な殺人鬼が立っていると僕の中では確定していた。スマホの内カメラを起動させ、画面越しに後ろを覗いた。
袋を片手に持った女が立っていた。
あぁ。なんで山なんかに登ってしまったのだろう。
ちょうど昨晩、山の麓の温泉宿についた。月も見えぬほどに雲が分厚くかかり、山があることにも気が付かぬほど十分に暗かった。深夜には雷雨もあった。
昨晩の雷雨の中、布団に包まりながら、大雨で事実上周りから孤立した温泉宿で殺人が起こる、なんて奇妙なことを妄想してしまったから、今、このような思考に至っているのだと気が付いた。その事に気が付いたところで、この思考をやめられるわけでも、楽しげな事を考えられるわけでもない。
この山が美しく紅葉していると気が付いたのは、つい今朝の事だった。それは、それは綺麗な山だと思った。柄にもなく早起きをしてしまったせいで、用事が早くに終わってしまった。
爽やかで美しい幻想に浸りながら山道を歩き、休憩にと丸太に座れば、これだ。本当の意味で現実離れした景色を見せられようとしているところだ。三途の川に行くのであれば、もう一度早起きをさせてほしい。死は急なものだとは言うが、せめて通行賃の六文くらいは稼がせてほしい。
動物が来るなら傾斜側だろうなんて考えて、道路側に背を向けて草木の生い茂る斜面を向いたのはもちろん私だ。しかし、動物よりも危険な人間と山道で遭遇するとは思わないじゃないか。
・素知らぬふりをして立ち上がり、彼女に背をむけたまま歩き出す。女から「こんにちは」と声をかけられ、振り向きざまに男も流すように挨拶を返す。逃げようと速足な男についていく女。ほんの五分も歩くと足音だけを残してその女は消えた。その晩、雷雨によって本当に孤立した温泉宿で殺人が起きる。主人公は、コナンで言うところの容疑者視点。探偵ポジションは別に用意する。
・女は地縛霊的にそこら辺を彷徨っている。その女は昔、その温泉宿で死んだ人間。




